東堂光希の走馬灯
「あぁ、私、死ぬんだ……」
気付けば、映画館にいた。シネコンというほどでもない、古びた小さな町の映画館。お客さんは、私一人と……。
「待ってたわ」
私に似たなにか。私の隣に座った彼女は、私よりも優しそうな笑顔を浮かべた。
「はじめまして、私」
「はじめまして」
私が驚かなかったのは、こんな特殊な状況だからなのかもしれない。スクリーンでは、私の人生の振り返りが行われていた。いわゆる、走馬灯というものだ。私の長いはずの人生は、早送りで進められてゆく。やがて、スクリーンは、私の知らない世界を映し出した。
「なに、これ」
「これが、前の世界で起こったこと」
スクリーンをじっと見る私は、私と目を合わせようとしなかった。
そのスクリーンでは、白永君が死んでいた。
「佳太君は、役立たずの私を庇って死んじゃうの」
「どうして私なんかを? 私と白永君には、なんの接点もないじゃない」
「彼が、とっても善い人間だからよ」
しばらく、映画館には沈黙が落ちた。走馬灯は容赦なく流れていく。世界が真っ赤に染まる。桃色の髪の女の子が泣いている。
「私は、前の世界の、最後の最後まで生きていた。だから、世界が正真正銘、滅亡したことを知っている」
世界の滅亡。規模の大きな話だ。
「でも、そんなことは、どうでもいいの」
前の世界の私は、私の両手を取った。祈るように、縋るように。
「お願い、私。佳太君を助けて……死なせないで」
「……わかった」
きっとそのために、前の世界の私は、ううん、私はここに来たのだろう。
「ありがとう」
私は消えていって、私と同化した。
要は、佳太くんを、私を助けるようなお人好しにしなければいいのよね。
点滴も、人工呼吸器も煩わしい。私はベッドから抜け出て、一刻も早く、佳太くんに会いに行こうとした。
だけど、慌てた様子のお医者さん達が駆けつけてきて、私をここにとどまらせようとした。なんでも、私は通り魔に体を滅多刺しにされて、生きてるのが不思議なくらい、らしい。
「よっぽど私に怒りを抱いていたんでしょうか?」
「何を普通に喋っているんだ、ベッドに戻りなさい!」
「私はどこも悪くありません。頭も正常です。知能検査も、問題なかったでしょう?」
「君が天才ということは、よぉーくわかった。だが、あと1日、あと1日待ちなさい」
疲れた様子の主治医は、電子カルテと睨めっこしながら、私を退院させない理由を探していたようだった。けれど、諦めたように溜め息を吐いた。
「君のような患者は初めてだよ……12箇所も刺されたのに、そのことごとくが完治している。傷跡すらないなんて」
「恐縮です」
「褒めてないよ」
なんてやりとりをしながら、私は走馬灯を思い出していた。私は正真正銘、目の前の主治医の初めてになるのだろう。
ーー三日後に、世界は変わる。
人々は超能力に目覚め、銃弾なんかじゃ死ななくなる。
「あ、でも」
そんな世界になったら、お医者さんは廃業しちゃうなぁ。
退院して、1番最初にしたことは、佳太くんへの告白だった。
私は、今まで自分の容姿に無頓着だったけれど、あの映画館で会った私のことを考えてみると、結構良いことがわかった。
だから、
「白永佳太くん、ずっと好きでした。私と付き合ってください……!」
朝の時間、友達と喋っていた佳太くんは、目を大きく開いて驚いた顔になった。今まで関心がなかったけど、佳太くんの表情はわかりやすい。今は真っ赤になっている。
すかさず近づいて、耳元で囁く。
「付き合わなければ殺す」
佳太くんは、真っ青になって頷いた。
こうして私は、佳太くんの彼女になった。成仏という言葉がふと、頭に浮かんだ。
そう、私は佳太くんを悪に導かなければならない。
走馬灯を見てわかった。佳太くんは、お人好しすぎて死んでしまいそうな場面がたくさんあった。だから私がそばにいて、佳太くんを悪い人間にしないといけない。
私のことなんて考えないような、そんな人間にーー
「お前が、東堂さんを襲ったのか?」




