次はない。わかってるよね?
「ーーってことがあってさ」
翌日。俺は、高校の屋上で、昨日あったことを二人に話した。といっても、東堂さんはともかく、二階堂は勝手についてきたんだけど。
「佳太君、マイナス1億点」
「なぜ!?」
東堂さんが、据わった目で、ぼそりと呟いた。俺は、最近なりを潜めていた、加点減点方式が復活したことに驚いた。
「あー」
二階堂が、納得したような声を出している。どういう意味だと問い詰めようとすると、
「それで? おにーさんには確認してみたの?」
「できるわけないだろ」
俺は、戸積由季の学生証を、ぴらぴらと振った。なんやかんやでこれを持って帰ってきてしまったが、兄貴の目に触れると面倒なことになりそうなので、俺が持っているのだ。
学部は同じだ。もしかしたら、噂くらいは知っているかもしれないが、兄貴には、戸積と関わらせたくない。
兄貴はおっとりしているが、俺のことになると、ちょっとだけ過保護になるから、戸積に接触する可能性が高いのだ。
「なぁんだ、つまんないな」
好き勝手言ってくれる二階堂の手には、いつのまにか、学生証があった。俺は、目を瞬いた。無い。確かに、手に持っていたはずの学生証が。
悪戯っぽい笑みを浮かべて、二階堂はそれを自然と、制服のポケットにしまう。
「返せ!」
「やーだ」
無言で飛び出した東堂さんの拳をひらりと躱しながら。二階堂は、俺のことを見た。
「これを貰う代わりに、君のお悩み、解決したげるよ」
「は? 悩み?」
「佳太君聞いちゃだめ。悪魔の囁きよ」
東堂さんが地面に手をついて、東堂の顎を狙う。さっきから殺意がすごい。手をついている地面が、めり、と音を立てた気がする。
「燈たち、君の家に来ること、断ったでしょ」
「東堂さん、ステイ」
「むぅ」
頬を膨らませて、東堂さんは俺のそばに降り立った。静かに音もなく。
「そのまま手綱持っててね佳太君。さて、本題だけど。燈たちのこと、こっちでもう一度引き取ってあげてもいいよ?」
「……」
それは、願ってもいないことだった。
なぜだか箱根さんたちは、俺の家に来ることを拒否する。それはもう、首がちぎれるんじゃないかというくらいに。
おかげで箱根さんたちは、今も屋根のない場所での生活を続けている。能力のおかげで薪には困らないらしいが……そうではないだろう。いつまた、戸積が襲ってくるのかわからないし。
二階堂が、明るい色の髪をかき分けた。
「こっちも、二人のことは気にしてたし。べつに、あの日のこと、怒ってるわけじゃないし?」
「……佳太君、これ、悪い話じゃないと思う」
隣で冷え冷えと殺気を放っていた東堂さんが、案外落ち着いた声で言った。
「たしかに、この女は身勝手で最悪だけど、佳太君のご機嫌をとることには全力だから」
「珍しく良いこと言うじゃん東堂光希。そうだよ、私は佳太君には笑っていてほしいから、燈たちをどうこうしようって気はないよ」
「本当だな? 本当に、そうなんだな」
「疑り深い目、新鮮だね。神に誓って、私は、燈たちを守るよ」
君に嫌われたくないもの、と冗談めかして言う。
「じゃ、決まりだね」
「やっほー燈、シャクノ君。元気だった?」
ひらひらと手を振る二階堂。俺の後ろに隠れていた二人は、おずおずと、前に出る。
「鏡子様、その……」
「私たちは、ええと」
「次はない。わかってるよね?」
爽やかに言い放たれた言葉に、燈と、フード男(シャクノ?)の背筋がぴんと伸びる。
支配者みたいな言い草だが、その方が、俺はずっと、二階堂鏡子を信用できた。
「あのね、白永佳太」
二階堂のもとに歩き始める箱根さんは、ぴたりと立ち止まって、振り返った。
「あ、ありがとね」
「……それにしても」
何もしてないのにお礼を言われてしまった。俺がやったことと言ったら、人質になったことだけなのに。
「ニセモノとか、模倣とか、なんなんだ……?」
布団に潜りながら、俺は寝返りを打った。
「まるで」
“教主”が、二人いるみたいな言い方じゃないか。




