わかるわよね? タイミング
「めが、じゃねえ佳太君!? どうして人質になってるのかな!?」
効果は抜群だった。フード男に人質にされている俺を見て、男は見るからに動揺していた。
ちょうど、兄貴と同じくらいの年だろうか。茶髪で、ピアスとかしてる普通の大学生って感じだ。
だけど、この人は、箱根さんに危害を加えようとしていた。
「……喋ったのか?」
「まさか。喋ったら、交渉にならないでしょう」
「そりゃあそうか。喋ったら、ぜーんぶお仕舞いになるもんな」
男と、フード男しかわからない会話。フード男の手は震えている。
「おい、佳太君。君、わざと捕まってるな?」
「……」
何と答えていいか、俺はわからなかった。男は、がしがしと髪を掻いて。空を、指差した。
「女神がいるから、君は人質になりようがない。だから、それは君の意志だ」
俺は、目を見開いてしまった。メイネを、認識している。
「あんた、二階堂の手下か?」
「はぁ? あんなニセモノと一緒にしないでくれるかな!? あんな、模倣するしか能が無い女と一緒くたにされるなんて、不快がすぎる」
男の顔は、凄絶に歪んでいた。ということは、第三勢力?
「おい、包丁男。お前、馬鹿なのか? お前一人がこっちに来れば、ぜーんぶ穏便に収まったってのによぉ。ここまで騒ぎを大きくして、そこまでして、こんなガキを助けたいのか? あ、もしかして、ロリコ」
「あ」
首に回っていた腕がなくなって、俺は声を上げた。フード男が、男に殴りかかっていた。
「燈さんを、馬鹿にするな。逆に聞きますけど、あんな下手な勧誘でよくも私を誘えると思いましたね? まだ、鏡子様の方がお上手でしたよ」
「はぁ!? お前、教主様ディスってんじゃねえぞ! あ、しまった」
殴り合いするフード男と、男……名前がわからないから、柄の悪い方にしとこう。
「教主様……?」
やっぱり、二階堂のことじゃないか。
そう思うけど、一緒くたにされるなんて、とか、ニセモノとか言っていたから、つまり?
「ああ、そういうこと」
悪い笑みを浮かべた箱根さんが、俺の隣で呟いた。
「どういうこと?」
「それは、アンタには教えない」
「えぇ」
勝手に納得した箱根さんは、「おいで」と言って、フード男の前に、植物を生やす。
「あっ、てめっ!?」
「要は、あんたに異能で攻撃しなきゃいいんでしょ? ……わかるわよね? タイミング」
「ええ、ありがとうございます。燈さん」
柄の悪い男が攻撃するたびに、二人の間には植物の壁ができて。タイミングを掴めない男の拳が空ぶるのに対して、フード男の拳は、正確に男の顔を捉えていた。
箱根さんと、フード男の息はぴったりだった。
「教えてもらいましょうか。貴方の名前を」
柄の悪い男の腕を捻りながら、フード男が低い声で言う。
「貴方の異能は規格外です。あちらの世界でも、最後まで生き残ったに違いない」
「お前の“ブック”で俺の名前を調べる気だな? だが残念だったな、俺の名前を調べたところで、前の世界では呆気なく死んでんだよ!」
成り行きを見守っていた箱根さんが、俺に向かって、「しー」と唇に人差し指をあてて。
そろそろと、地面から細長い植物を生やした。
「じゃあ名乗ればいいじゃ無いですか」
「個人情報渡す奴がどこにいんだよばーか! ちょ、くすぐった、あ!?」
「はい、個人情報ゲットー。大学生って言ってたわよね?」
男の尻ポケット。そこにあった財布を持ちながら、箱根さんはにやりと笑った。うん、さっきの泣きそうな顔よりも、その方が良い。
箱根さんは、躊躇いもなく、柄の悪い男の財布を物色していく。
「あった、学生証!」
嬉しそうに言った箱根さんは、俺にも、それを見せてくれた。そして俺は、固まった。
柄の悪い男の名前は、戸積 由季というらしい。いや、それは良い。
問題は。
「これ、兄貴が通ってる大学だ……」




