前世がちょっとはみ出てる
大人の男と小学生。
どっちが速いかなんて、歴然としている。
「はぁっ、はっ、おいでっ」
走ってる間に、“異能”を使って、植物を召喚する。だけど、私が召喚した植物たちは、白永墨斗がそうしたように、粉々に踏み潰されてしまう。
「なんなのよっ、あんたっ」
「なにって、ホンモノだけど?」
私を追う男は、よくわからないことを言った。私と、男の間は、ぐんぐん縮まっていく。
私は、周りを見回した。人っ子一人いない場所だ。それで良い。
ーーこの男がどうして私を狙うかはわからないけどっ、私の“異能”が生かせるのは、人がいないところ!! それから、たぶん、
「もう追いかけっこはおしまいにしようぜお嬢ちゃん。なに、殺しゃしないからさ、大人しく、お兄さんについてくれば良いんだよ?」
「私からしたらあんたなんてお兄さんじゃなくておじさんよ! なに若作りしてんのよ!」
「このガキっ、華の大学生に向かって……! あーもう、教主様のことなんて知らねえぶん殴ってやる」
ーー教主様、ってことは、この男は、鏡子様の差し金? でも、こんなやつ見たことない。
私たちが抜けてから、新加入したのかもしれない。
ーー鏡子様、怒ってるだろうな。
白永佳太に加担して、鏡子様に反逆したことを。せっかく拾ってもらったのに、恩を仇で返したようなものだ。
「でも、捕まるわけには行かないのよ! おいでッ!!」
何か、大きな戦いがあったのだろう焼け跡。地面に手をついて、私は植物を召喚する。
アスファルトでやった時とは比べ物にならない量の植物が、男を襲う。男は、余裕そうに口笛を吹いた。
「へぇ、物量」
私はその結果を見ない。私だって、“神待つ者たち”の一員だったんだ。実力の差がわからないほど、馬鹿じゃない。
これは、時間稼ぎだ。
ーー何のための?
心の声が、そうやって囁いた。
ーー朝、起きたら、あいつはいなかった。多分私を見捨てて、白永墨斗のところに行ったんだ。
私はまた、見捨てられたんだ。こうやって逃げていて、何になるんだろう。
『燈さん』
私を呼ぶ声は、もう聞けないのに。
「あっ」
足がもつれて、派手に転ぶ。逃げなきゃ、でも立ち上がる気が湧かない。立ち上がって何になるの。
「よーやく、ぶん殴られる気になったかい?」
拳を握った男が、大股で近付いてくる。鳥籠みたいに男を覆っていた植物は、やっぱり、細切れにされて地面に落ちていた。この男は、強い。
「大丈夫、俺は殴ることに関しては能力を使えねえ。腹に一発入れて、連れてくだけだからさ」
男が拳を振りかぶる。私は目を瞑って。
「ーー燈さんから離れて」
声を、聞いた。
「うわっ、やばっ、どうしよう」
私から離れた男の顔色は、見るからに悪かった。
私は、目に涙を溜めながら、男と同じように、声の聞こえた方を見た。
「あんた、どうして……」
その続きは、「どうして戻ってきたの」だったけれど。なるほど、これは。
「どうしてそんなことしてるの?」
「諸事情がありまして」
「助けてくださーい!」
包丁を突きつけられている白永佳太の演技は、ちょっと下手だった。
「佳太さんの馬鹿ぁ、前世がちょっとはみ出てるぅ」
メイネは、恨みごとを言いながら、空からその成り行きを見守っていた。
家に入ってきて、佳太を人質に取ったフード男は、誰に対しての人質かという質問には答えずに、一言。
『燈さんを、助けてください』
と、言ったのだ。それが、今世でもじゅうぶんお人好しな佳太に火をつけた。フード男に包丁をつきつけられたまま、こうして、箱根燈のところまでやってきてしまったのだ。
「それにしても、あの人、誰なんでしょう」
メイネは、手で双眼鏡を作って棒立ちになっている男を見下ろした。
「“物理攻撃の無効化”。強力な能力者には違いありませんが……あんな人、前の世界にいたかなぁ?」




