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世界2周目、君はモブ。  作者: 有在ありおり
第3章
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下手な方が割り切れた

異能が宿ったその日、三枝一也(かずや)は困惑した。


三枝に宿った異能は、出会った人間の、前世の“死に方”がわかるというもの。


まだ皆が“女神”の声を聞く前のことである。三枝は、自分の頭がおかしくなったのだと思った。


『課長?』


まだ、異能力対策課が生まれる前。きょとんとしている部下は、拷問の果てに死んでいた。椅子に縛りつけられて、虚ろな目で血を流した部下の映像と、丸椅子に座り、口元に笑みを浮かべる部下がだぶって見えて、三枝は吐き気を覚えた。


『課長? どうされたんですか? 大丈夫ですか?』

『升宮……お前は、生きてるんだよな?』

『い、生きてますけど……』


とまあ、これは、ショックを与えたが、三枝は「そんなことあるわけない」と思うことができた。なぜなら、ここは日本だからだ。いや、日本だからといって安心できるわけではないが、警察庁の人間を拷問できる人間は限られているし、その彼らとも、それなりに距離は保っている。


『うん、そうだ、そうに違いない』

『どうしたんですか、課長』

『いや、なんでもないよ』 




困惑が絶望に変わったのは、異能が自分だけのものではなくなった時だ。


世界が自分と同じになる安堵と共に、馬鹿げたものと片づけていた“死に方”が、現実味を帯びてきた。


異能によって、人々を隔てる壁は、いとも簡単に崩れ落ちた。“殺される”ことは、容易くなってしまった。ありもしない前世は、肌で感じられるほどに間近に迫っていた。


出来の悪い自分を、いつも慕ってくれていた、出来の良い弟が、凶弾に斃れる瞬間も。


これは前世であって、今世のことではない。そうやって心の声が囁くのに、胸騒ぎは治らなかった。


『兄さんは、どんな異能を手に入れたんだ?』


電話越し、当たり障りのない能力を返した。本当は、電話なんてつながってほしくなかった。“確認”なんてしたくなかった。


それでも、訊ねざるを得なかった。安心したいと思った。バツが悪そうな演技で、『お前はどうなんだ?』と言った。すると。


『俺は、“変身”の異能だよ。誰にでも変身できるんだ』

『…………そうか』


嬉しそうに言った弟は、たしか、幼い頃にテレビに出てくるヒーローに憧れていた。だから、弟としては嬉しかったのだろう。


『変身できる国会議員って、すごいと思わない?』


はしゃぐ弟の声は、どこか遠くに聞こえた。三枝は、確信を持ってしまった。弟の“死に方”が、フラッシュバックする。弟は、今世も。


電話をしながら、ぐっと、拳を握った。


『なあ、一寿(かずとし)

『なに? 兄さん』

『死ぬなよ』

『兄さんこそ。あっ、どさくさ紛れに、話したいことがあるんだけど良いかな? 父さんや母さんに言う前に……』

『俺とお前の仲だろ。良いよ。じゃあ、今度の日曜日……』




その日曜日は、永遠に来なかった。


営業もしてない荒れ果てたファミレスで1人、三枝はタバコをふかしていた。まだ、警察庁の組織が再編成をしている頃だ。仕事があればよかったのに、三枝の頭の中は、弟のことばかり考えていた。


『こんにちは』


背の高い、若い男だった。穏やかそうな顔つきをしているが、こういうのが一番厄介だ。


『弟さんは死にましたよ』

『しってる』


ここに来ないからには、そうなんだろう。


『誰に殺されたか、知りたくありませんか?』

『知りたくない』


復讐なんて面倒なことをするのは御免だった。違う、弟の誇れる兄でいたかった。敵討ちなんてのは、昔話で十分だ。


『弟さんを殺したのは、二階堂鏡子です。テレビでやってましたよね、“神待つ者たち”。弟さんは、総理の代わりに殺された』

『立派な死に方じゃねえか』


国益を考えたら。そう続けようとして、やめた。


『で、お前は何をしにきた?』

『勧誘を。このままでは、“神待つ者たち”は、日本を滅ぼしてしまいます。復讐でなくても良い。弟さんの遺志を継ぐために、俺たちの仲間になりませんか?』


三枝は、口の端を持ち上げた。


『お前、勧誘ド下手だな』


だが、不思議なことに、そのド下手な勧誘こそ、三枝が求めていたものだったのだ。


たとえばこれが、100%善意だとわかる勧誘なら、三枝は断っていただろう。だが、この男の勧誘の仕方は、巻き込んでも、死なせても良いと思えるやり方だった。


『ちょうどいいや、俺の復讐に、お前を利用させてもらうぜ』

『はい。俺たちも、貴方を利用しますから、よろしくお願いします。三枝さん』

『ああ。よろしく頼む、えーと?』

『白永墨斗といいます。貴方と同じ、弟を大切に思う、1人の兄ですよ』

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