世界が変わる前から世界に見放されていた。
「究極、この世に選ばれた者などいない」
白永墨斗は、燈たちが迷っている間に、そんな演説を打ってきた。電車が真上を走っても、よく通る声で。
燈たちに、というよりも、まるで、たくさんの人たちに演説してるようだった。
「選ばれたとは何だ? 誰に選ばれた? 仮に選んだ奴がいたとして、それは、自分よりも偉いのか? そんな存在は、神しかいないだろう。だが、神はいなかった。だから俺たちは、自分が神になろうと思った」
今度は、選ぶ側に回ろうと思った。
白永墨斗の言葉には、何もかもが足りなかった。燈たちに全てを明かす気はさらさらないかのようだった。しかし、その言葉は、少しだけ。
「君たちも、そう思わないかい?」
少しだけ、燈の胸を打った。
そんな、燈の気持ちをわかったかのように、白永墨斗は一つ頷いて。
「箱根燈。下の名前で呼ばれるのが嫌なのは、虐待を受けていたからだよね。君には姉がいて、その姉と分けるために、わざわざ名前を呼ばれて。自分はコンビニスイーツひとつもらえないのに、優秀な姉はいくらでもおやつを貰える。だから、佳ちゃんの“おもてなし”に感動してしまったわけだ」
「だから、なんだっていうのよ」
“神待つ者たち”は、世間のはぐれ者だ。燈や、相棒のフード男は、世界が変わる前から世界に見放されていた。
「人の不幸を口にして、何がしたいわけ? 不幸を理由に人を傷つけるなとか、お説教したいわけ?」
白永佳太に手を貸したが、燈の本質は変わっていない。あの時は、たまたま手を貸しただけだ。
白永墨斗は、首を横に振った。
「いいや? これは、“事実確認”だ。君たちが、俺と同じであるかのね」
「……同じ、ですか?」
フード男が口を開く。
「貴方は違うでしょう。私が羨む容姿も、燈さんが羨む家庭も持っている」
名前さえも呼ばれるのを嫌がるフード男は、暗い声でそう言った。
“神待つ者たち”は、世間のはぐれ者で、できそこない達の溜まり場だ。
容姿が整っていて、あのお人好しがいる白永家という温かい家庭を持っているこの男が、燈たちと同じはずがない。
選ばれた者などいないというのは、持っている者の言葉だ。無理解故の言葉だ。
「おいで」
燈が召喚した植物は、あっという間に粉微塵にされた。せっかく手に入れた“特別”は、あっという間になくなってしまった。
「最後まで話を聞いてほしいって言っただろ? 俺は、君たちと同じだ。まったくもって、ろくでもない両親の元で育てられた。だから、こんなに歪んでしまった」
「は?」
白永墨斗と、白永佳太の両親には会ったことがないが、そんなこと、とても信じられない。
だが現状、白永墨斗は、歪んでしまっている。
「だから、今は、歪みを矯正する作業をしているんだ。言うなれば治療だね。君たちも、自分の“不幸”を矯正したくなったら、ここに来るといい」
白永墨斗が残していったのは、住所の書かれた名刺だった。1人に1枚ずつ。2人が各々の判断をできるように。
燈は、名刺をくしゃくしゃにしようと思って、やめた。膝を抱えて、地面に座り込む。
燈たちのような人間にとって、選ばれない人間にとって、手を差し伸べてくる人間は貴重だ。手を差し伸べてくるのは、“選ばれた”という意味だから。
ーー実際、選ばれたのはコイツなんだけど。
燈はおまけだ。家と同じ。




