こういうところは、相容れないと思った。
「鑑定不能になる人は、たまぁにいるんですよ。ですから、安心してくださいね」
升宮さんは、俺の目を見て言ってくれた。
「とはいっても、たまぁに、ですから、鑑定不能な人間がいることは、伏せているんです。差別や偏見の被害者になってしまうかもしれないので。なので、警察庁には鑑定不能。学校側には、適当な能力を報告することになりますね」
「よ、良かったぁ」
俺は胸を撫で下ろした。なんだ、無能力者って、俺だけじゃないんだ!
「そんなわけないでしょ。無能力なのは、佳太君だけだよ」
すっかり定位置になってしまった屋上で、二階堂が呆れたように言ってくる。
「異能には、二つの種類がある。前の世界に関係していない異能と、前の世界に関係している異能。佳太君の前に鑑定不能だった14人は、後者だっただけだよ」
「よくわからない」
「まあ、そうだよね。だったら、佳太君にもわかるように説明してあげる。燈や、そこの暴力女が前者で、“ブック”を持ってるフード男が後者。あのフード男は、その人間が前の世界においていつ死んだのかを知ることができるの」
「なるほど。俺の他の14人は、フードの人みたいに、前の世界があることを知ってるんだな?」
ていうか、二階堂もフード男って認識なんだ。
「そういうこと。青桐の言っていた“選別”はこのことだよ。まあ、青桐自身、前の世界の知識はないから、笑っちゃうけどね」
少し馬鹿にするように、二階堂は言って、伏し目になる。
「……だから、中田原総理が、どっちを授かるかはわからなかった。だけど、私は賭けに勝った」
「中田原総理に、前の世界の知識はない」
「そういうこと。だから、一旦退場してもらったの。前の世界の知識がないと、いくら政治的手腕があっても、この先は渡っていけないから。それこそ、私みたいなワルモノに、すぐ暗殺されちゃうかもしれないしね?」
二階堂は茶目っ気たっぷりに笑い。
「殺されてくれた与党議員も、ちゃんと変身の能力を授かってくれてよかったって思ってる」
こういうところは、相容れないと思った。
中田原総理を逃すのは良いが、こうやって、平気で、人の命を使い捨てるところが。
「きらい、って思ってるでしょ?」
「……」
胸の内を当てられて、俺は押し黙った。
「この先、“神待つ者たち”は、たくさんの死体を作る。すべて必要な死だよ。佳太君が思い浮かべているように、総理の姿をした人形を使って死体を偽装したとして。本物の死体を知った青桐たちが、あのときの死体は偽物だったんじゃないかって思うのは、良くないことじゃない? だから、死体は本物である必要があったんだよ」
「たくさんの死体を、作らなければいい」
「そのために、貴方は死んだ」
二階堂の声は、冷たかった。
「たくさんの人を守るために、貴方一人を犠牲にした。そんなの、絶対に許さない」
声と同じで、冷たい瞳が、俺の向こうにいる人間を見透かしている。
「今度こそ、絶対に守ってみせる。そのために、私たちは、この世界を作ったんだから」
「私たち?」
「喋りすぎちゃったね。休み時間も終わるし、教室に戻ろうか」
悲痛な顔をしていた二階堂は、俺のそばから離れて、屋上のドアへと歩いていく。
「お前は、何がしたいんだ?」
「言ったでしょ。私は、楽しい思い出を作りたいんだよ」
「ううん、白永墨斗、白永墨斗……」
「いつまで探してんのよ。あんたの“ブック”には載ってないってわかってるのに」
「そんな筈、ないんですよ。二階堂様ですら、私の“ブック”には載っていたんですよ? あの恐ろしい教主様を差し置いて、載ってないなんてことありえません。きっと何か、裏がある筈」
白永墨斗によって破られそうになった(一度は破られたが修復可能である)ブックのページを繰って、フード男は、血眼になってそのページを探す。これまで出会ってきた分の人間の情報が、ブックには載っている。
高架下。がたんごとんと、ようやく本調子を取り戻してきた電車が過ぎるたびに、フード男と燈は耳を塞いだ。
「ていうか、なんでこんなところで、それやるのよ」
「うるさい方が、会話が聞かれないでしょう」
「へえ、誰に?」
ブックの後ろから手が生えてきた。と思ったら、デジャヴ。あっという間に取り上げられてしまう。
「んげぇっ」
燈が心底嫌そうな顔をし、ブックをしげしげと見ていた白永墨斗は、フード男にそれを放って返す。
「だめだ。やっぱり、持ち主じゃないと読めないみたいだね」
「あんた、一体……」
慄く燈が召喚した植物を踏み潰して、白永墨斗は王子様よろしく、二人に手を差し伸べた。
「前の世界の記憶を持っているものは希少でね。そっちの彼を、スカウトしにきたんだ」




