確かに私は悪役だけど、普通の女の子でもあるからね。
「よ、よーし、じゃあ二階堂の席は」
「先生」
「な、なんでしょうか」
「私、白永君の隣が良いです」
「て、いっても、席がないですけど」
二階堂鏡子の言葉に、九条先生はびくびくしつつ反論した。二階堂は、くすりと笑う。
「ありますよ。ねえ、君?」
ばんっ!
つかつかと歩いてきた二階堂は、俺の隣の席の西村の机を叩いた。西村は、反動で異能を発揮したようで、椅子から少し浮いた。
「ここ、空いてるよね?」
「ひゃ、ひゃい……」
ついでに涙も浮いていた。西村が浮かすことができるのは、肉体だけではないらしい。
「怖かった、まじでめちゃくちゃ怖かった」
微妙に五七五調になって、別の席に移動した西村は、休み時間、俺の近くに来た。隣の席の二階堂は、そんな西村の声など聞こえないかのように、「次は数学だね」と俺に話しかけてくる。話しかけてくるな。
「お前、どういうつもりだ」
「あれ、私との関係、話しちゃって良いの?」
悪戯っぽく笑う二階堂に、俺は口を噤んだ。確かに、国会議事堂であれだけのことをやって、今や日本の支配者である彼女と知り合いだとは思われたくない。だが、
「お前が、白永君の隣が良いですって言ったんだろうが」
わざわざ知り合いということを示唆しやがって。
「お前、ね。君って呼んでくれない? もしくは、鏡子」
「そんなに親しくないだろ、俺たちは」
「むぅ」
二階堂は、頬を膨らませた。
「こっちの佳太君は、ガードが固いなぁ」とか、なんとか言っている。前の世界の俺、ちょろすぎだろ。と、思っていたら、俺と二階堂の間に壁ができた。さらりと黒髪が揺れる。
「本当に、いったいどういうつもり? これ以上、佳太君に関わらないでくれない?」
たいへん不機嫌そうな声でそう言ったのは、東堂さんである。
「悪役は悪役らしく、お高いところで引きこもってて」
「確かに私は悪役だけど、普通の女の子でもあるからね。学生生活だって、楽しむ権利があるはずよ」
「どの口が……!」
「と、東堂さん落ち着いて」
「光希」
「え」
「光希って、呼んで」
拗ねたような東堂さんは可愛い。東堂さんと二階堂のやりとりは、いつのまにか教室中の注目の的になっていたらしく、ざわめきが聞こえた。
ーーまずい。
たぶん、何かがまずい。西村を見ると、真顔になっている。それはそうだ、あのクールビューティ東堂光希が、「光希って呼んで」とか言っているのだから。
「ああ、もうっ!」
俺は、二人の手を引いた。
「悪い西村、俺、次の授業休むわっ」
「授業サボっちゃったね。いーけないんだ」
「誰のせいだと思ってるんだよ」
妙に楽しそうな二階堂は、屋上から見える景色を見下ろしながら、隣に立っている俺の頬をつついた。
「佳太君、どうしてその女の隣に立ってるの?」
現在、二階堂、俺、東堂さんの順で並んでいるのだが、その理由はなんてことはない。この二人、さっきから、制服のポケットに手を入れており、何かする気満々だからだ。
「メイネ、止めてくれ」
ついてきたメイネを見ると、ふよふよと浮きながら、何かを考えているようだった。
「別に、良いんじゃないですか?」
「へ?」
「この学校にいる限り、そちらの二階堂さんは、悪さをしないでしょうし。わざわざ監視されにきてくれたようなものです」
「またお前を攫うかもしれないんだぞ」
「こんな回りくどい手を使わなくても、私は女神をさらえるよ」
馬鹿にしたように笑う二階堂。でも、その笑顔は楽しそうで。俺は、彼女のことがよくわからなかった。
二階堂の髪を、5月の風がさらっていく。
「ところで、佳太君」
「何だよ」
「中田原総理は、ちゃんと君のところに辿り着けた?」




