それを思い出させてくれたのが、貴方なんですよ。
しゃす!!3章っす!
「おかえり、佳ちゃん。遅かったね」
東堂さんと、メイネを取り戻した夜。出迎えてくれた兄貴の変わらない笑顔に、俺はホッとした。
前の世界の俺は、どうしてメイネを天使にしたんだろう。どうして自分の力を、メイネに分け与えたんだろう。考えることはたくさんあるけど、平凡な高校生の俺がしたいことは、ただ一つ。
「眠い……」
夕食を先に食べていて欲しいと、家族には電話しておいた。電話口の母さんは、「早く帰って来なさいね」と言って、夕食を取っておいてくれたんだけど。
「ちょっと、寝ていい? メイネは夕食食べてて……」
「メイネさん、佳ちゃんは、無事に力を取り戻せた?」
「……」
にこにこ笑みを浮かべる墨斗に、メイネは、カレーを食べる手を止めた。
「どうしてそれを?」
天地すばるによって、記憶を断片的に無くしてしまったメイネには、墨斗の記憶がない。それなのに、墨斗は、佳太の力のことを知っている。
訝しみながら言うと、「実は」と、墨斗がわけを話してくれた。
「俺も、前の世界の記憶を持っているんだ。と、言っても、佳ちゃんに関連することだけなんだけど……佳ちゃんが、東堂さんを庇って死んでしまうことは知っている」
「だから、燈さん達に、東堂さんは殺して良いと言ったんですね?」
「こう言うのはどうかと思うけど、東堂さんのせいで佳ちゃんが死んだと言ってもいいからね」
メイネは、またカレーを食べ始めた。
「その東堂さんは、佳太さんを救おうとしていたみたいですけど」
「うん。彼女には、悪いことをしてしまったね」
「彼女と認めるので?」
「その彼女じゃない」
思いの外はっきりと言った墨斗に、メイネは「ブラコンですね」と肩をすくめた。
「無事に力を取り戻せたかといえば、全然です。これからといったところでしょうね。でも、良いんですか?」
「なにが?」
「佳太さんが力を取り戻せば、前世の二の舞です」
「ああ、そうだね。そこは、俺も悩んでいるところなんだ」
悩んでいるところ?
メイネが首を傾げると、「守るために力は必要かってことだよ」と墨斗が教えてくれる。
「一番いいのは戦わないことだけど、世の中、そんなに良い人ばかりで出来ていないからね。武力が必要なこともある」
「そのあたりは安心してください。私が、佳太さんを守りますから!」
「きみが?」
「ええ。事情があって細部は忘れてしまいましたが、私には、前世で助けられた恩があります! かならず、佳太さんを守ってみせますよ!」
墨斗は、目を見開いてメイネを見ていたが、
「そうか、それは頼もしいな。佳ちゃんのことを頼むよ、メイネさん」
「はいっ。ところで、墨斗さんは前世の記憶があるんですよね? だったら、“神待つ者たち”のことはご存知ですか?」
「ああ。知ってるよ」
「そ、それだったら、“神待つ者たち”の教主のことは?」
「ああ、知ってる。二階堂鏡子だろう?」
白永墨斗の記憶には、何か、行き違いが生じている。
「“神待つ者たち”の教主は、女性ではなくて、男性だったはず……」
佳太の寝顔を見ながら、メイネはそっと、彼の髪に手を伸ばした。
「んぐぅ」
ごろん、と寝返りをうつ佳太。それがおかしくて、メイネはふふっと笑う。
「私も、寝ましょうかっ」
メイネは元人間だ。女神や……天使といっても、地球上の誰よりも早く、異能に目覚めたにすぎない。
だから、唐揚げを食べることもできるし、カレーを食べることもできる。食べることや、眠ることは、人間だった時からしてきたことだ。
けれど、それはいつしか、できなくなって。
「それを思い出させてくれたのが、貴方なんですよ。佳太さん」
俺は起きた。なぜかといえば、隣でくうくうと寝息が聞こえていたからだ。
「メイネっ、起きろ、なんで俺の布団で寝てるんだ!?」
ていうか、カレー!
俺は布団から飛び出て、台所に走った。腹からすごい音が鳴っている。そういえば、昨日は、カレーを食べずに寝たんだった!
「母さん、俺のカレー……?」
「くぅ、美味しい、ここまで来た甲斐があったものだ。御母堂、議員食堂で腕を振るってみませんか?」
「あらあら」
台所に来た俺の目に映ったのは、見知らぬ女の子がカレーを平らげる光景だった。




