恋人よりも
瞬間、見えたのは、羽を焦がしたメイネと、たぶん、俺の姿。
俺は、何かをメイネに言って、メイネは、ふるふると首を横に振った。それにも構わず、俺の姿をした人物は、メイネを抱きしめた。光の柱が上がる。黒く焦げていたメイネの羽が、真っ白に“治って”いく。
『神が無理なら、天使になれば良いよ』
それだけが聞こえた。
「……はっ!?」
なんだか、短い夢を見ていた気がする。
「佳太さんっ」
メイネの声が聞こえて、体に衝撃が走る。強く抱きしめられてふらつくが、東堂さんが俺を抱き止めてくれた。
「な、何があったの……」
箱根さんの呟きが聞こえた。箱根さんは、ぺたんと床に座っていた。
「眩しかったですねぇ」
フード男が、フードを引き下げながら言う。眩しかった?
「佳太君の力は、本来強かったから余計にね。さすが、佳太君」
「褒めてくれたところ悪いんだけど……俺もわかんないんだけど。説明してくれる? 東堂さん」
「うーん、どうしよっかなー」
東堂さんは顎に人差し指を当てながらそう言った。
「とりあえず、言えることは、佳太君は、そこの天使に貸してた力を返してもらったってことかな。それで、天使が正気に戻った」
「? じゃ、じゃあ、俺も何か異能力とか使えたり?」
「それは無理」
ご丁寧に、両手でばってんを作られる。俺は消沈した。
「脱・無能力者とは行かないかぁ……」
「天使だけじゃ、ピースが足りないからね。佳太君の力を完全に取り戻すためには、佳太君を“そうあるべく”した人物に会わないと」
そう言って、東堂さんはメイネを見た。
「1人は、二階堂鏡子。もう1人は、貴方にはわかってるんでしょ」
「それが、ですね……」
メイネは、ちょっと困ったような顔をしていた。
「たしかにわかってたはずなんですけど……忘れちゃったみたいです」
てへっ、とメイネは舌を出した。東堂さんが、無言で天地先生のところに歩いて行って、ぼこすか殴る。駒子さんはニコニコそれを見守っている。
「と、東堂さん」
「せっかく、佳太君を“巻き込む”覚悟をしたのに、貴方のせいで、貴方のせいで……っ」
それから、
「こうなったら、もう一度二階堂鏡子に会いに行こっか?」
その目は、マジだった。声のトーンも低かった。
「せ、せっかく助かったんだから、そのままにしておこうよ。ね?」
「佳太君がそう言うなら……」
むぅ、と不満そうな顔で、東堂さんはそう言った。とにもかくにも、東堂さんも、メイネも無事で良かった。こんな無力な俺でも、少しは役に立ったのかもしれない。
「できれば」
「ん?」
「いや、何でもないよ」
力ってやつが、戻ってれば、俺1人だけで助けることもできたのかも。
……誰かを巻き込まずにすんだのかも。
こつ、こつ。
だんだんと、地下の暗闇に溶け込むように。2つの影が、階段を降りていた。
「東堂光希は、貴方に近しい考えを持っているかもしれませんね。恋人という関係を持つことで、“女神の制御装置”を監視するとは」
「まったく忌々しいことにね」
こつこつこつ。1人の足音は、苛立ちを示している。
「で、ですが、貴方の方が一枚上手です。二階堂鏡子に我々の名前を名乗られるのは腹立たしいですが……偽装することで、前回を知っている者の隠れ蓑にもなり、白永佳太に怪しまれない位置にいる。東堂光希と同じくらい、近しい位置にいる……」
「おままごともなかなか楽しいよ。俺は、今の位置を気に入ってるし。でも、東堂光希と同じくらいというのは、聞き捨てならないなぁ」
地下という理由だけではない。その人物によって、ひんやりとした空気が、周囲に漂っていた。
「恋人よりも」
扉に手をかける。酒瓶が、ぎっしりと棚に並んでいる。
「血のつながった兄の方が、よっぽど近しいに決まってるだろう?」
これで2章はおしまい。お読みいただき、ありがとうございます!




