白永さんちに、お宅訪問?
「え、ここって……」
箱根さんと、フード男が案内してくれた場所に来て、俺は驚いた。
「私たち……“神待つ者たち”の新拠点よ」
「普通の家に見えるけど」
「空間系の能力者がいるから、中は相当広いわよ。便利よね」
「そ、そうですね」
同意しながら、俺は動揺していた。現役総理大臣を銃殺し、日本を恐慌に陥れた組織の本拠地にしては、こじんまりとしている。そういう感想は、驚きの前では小さなものだ。なにせ、ここは。
『私の記憶では、確か、ここだった気がするんですけど』
メイネが、俺の家と間違えた場所だったからだ。あの時は空き地だった。今は、家が建っている。だけど、周りの景色は、あの夜に見たものに間違いない。
「えっと、つまり、俺達が来た後に、この家は建ったってことか?」
それにしても、この家、どっかで見たことあるような。
「なにぶつぶつ言ってんのよ。さ、入るわよ」
「気をつけてくださいね。本拠地だけあって、罠もたくさんありますから」
人を殺す罠だと、違和感を抱きながら思った。
「この床は踏んじゃダメ。落とし穴に落ちてジ・エンドだから」
「この扉も開けたら、瞬間的に毒ガスが吹き出す仕組みです」
箱根さんとフード男は、すたすたと歩きながら、罠の説明をしてくれた。
「……」
「どうしたのよ」
「いや、あの、ここ見覚えありません?」
「はぁ? 私たちの拠点なんだから、見覚えあるに決まってるじゃない」
「できてすぐですけどね〜」
「じゃなくて、あの玄関も、廊下の長さも、リビングの位置も」
今登っている階段の位置も。
「俺の家と、そっくり同じ作りなんです……」
「……そういえば、あんたの家、こんな感じだったわね」
「確かに。言われてみれば、そうですねぇ」
気のせいだとは思う。けど、不思議な既視感が、すっと俺を襲っていた。
「もうすぐ、兄貴の部屋だ……」
階段を登り切る。だけど、その先に、扉は1つしかなかった。兄貴の部屋にあたる部分は、そっくりなくなっていた。
「なんで……」
俺の部屋の扉しか、存在していなかったのだ。
箱根さんが、扉のドアレバーに手をかける。
「開けるわよ。私の後ろに隠れてなさい」
2人して、箱根さんの後ろに隠れる。箱根さんが、「おいで」と小さく呟いて扉を開けーー
ぼとぼとぼとっ!
箱根さんの目の前に、植物が降り注いだ。違う、箱根さんが、盾のような形になるように召喚した植物が、一瞬にして、粉々に千切れたのである。
「燈は、そっちに着くのね」
打ちっぱなしのコンクリートの床に立っていたのは、優しげな笑みを浮かべた二階堂鏡子。と、
「東堂さんっ!!」
ぐったりした様子の東堂さんが、床に寝かされていた。
「東堂さんに、何したんですか」
「ムカつくことを言ったから、シメただけ。でも安心して。この女はそうそう簡単に死なないから」
何を安心しろというのだろう。俺は、周囲に視線を走らせた。
だだっ広い部屋。本拠地にいるのは、どうやら二階堂鏡子だけらしい。俺たちを見る者は他にいない。
「箱根さん」
「何?」
俺は、考えていることを箱根さんに話した。二階堂鏡子は、待ってくれている。それは、余裕の表れだ。
「何を話してるのかなぁ? 大体わかるけど」
「さあ、なんでしょうね」
「おいで」
箱根さんが呟き、足下から数本の植物が勢いよく這い出る。そのまま、二階堂鏡子に迫り……
「単調……っ?」
複雑にからまり、先程の盾のような形へ。二階堂鏡子を覆う植物の盾は、一瞬にして破壊される。
だが、俺にはそれで十分だった。破壊された植物の雨。それを隠れ蓑にして二階堂鏡子に迫っていた俺は、横から二階堂鏡子を押し倒して……
「2人を返せ」
初めて、人の首に包丁を突き付けた。




