偽物の教主様
『豆腐メンタルが、高野豆腐ぐらいにはなったんじゃない?』
『黙ってよ。恥知らず合金メンタル。今からその余裕顔、血で染め上げてやるから』
「なんというかですね、その……教主様には悪いのですが、ネチネチした戦いでしたね」
東堂家の前で会った、青桐アナはそう言った。会ってみると、かなり背が高いことがわかる。スーツをしっかりと着込んでいる彼は、俺に丁寧に自己紹介してくれた。
そんな青桐アナは、当然、俺の名前を知っていたようで、俺がどうして東堂家にいるのかも、知っていたようだった。
「要は、脅しに来ました。彼女を返してほしければ、私が指定する場所に来てください」
「東堂さんは……」
「まだ生きていますよ。ですが、貴方が来なければ、死んでしまいます」
とても、アナウンサーとは思えない発言だった。青桐アナは、俺に地図を渡した。
「明日、午後3時にここで会いましょう」
それは、とある埠頭にある公園の地図だった。埠頭、という言葉で嫌な予感がすると共に、気になることがあった。
「そんな明るい時間帯に会うんですか?」
「夜中だと、お兄様の目が怖いですからね……当然、ご家族や警察に相談するのはナシです。女神の力を使うのもナシ。使ったら、東堂光希さんの命はありません」
「わかりました」
「佳太さんっ」
焦った顔のメイネ。
「こんな人たちの言うこと、聞く必要ありません。私がなんとかしますから」
「規格外の力がある人の“なんとか”は怖いものですね。しかし、貴方はその力を十分に扱うことができているのですか?」
「どういう意味ですか?」
「いえ、扱いきれなかったからこその、前の世界では? 貴方がコントロールできるのは、空を飛ぶことだけだと、教主様から聞き及んでおります」
「……」
どうやら、それは図星だったらしい。メイネが忌々しそうに青桐アナを睨んだ。
「それ以外は、どうしても災害に発展するのだとか。そもそも、前の世界が滅んだのはーー」
「明日、午後3時ですよね。必ず行くから、東堂さんにもそう伝えておいてくださいね」
俺は、青桐アナの言葉を遮った。何か決定的な言葉が飛び出してきそうな気がしたから。メイネが、俺の服をぎゅっと握っていたからだ。
「それ、どういうつもり」
光希は、不機嫌全開な声を出した。先ほどから、手首を縛る縄を引きちぎろうとしてみるが、能力者の作った縄らしく、とても頑丈にできている。
そんな光希を観察している二階堂鏡子は、わざとらしく、光希の前を行ったり来たり。
「良いでしょ?」
「なに、教主様は、普通の女子高生に戻りたいってわけ?」
「あたり〜」
ベージュのブレザーを翻して、二階堂鏡子はくすりと笑う。それが、鬱陶しくてたまらない。
「早く明日にならないかなぁ。それがあんたの命日よ、東堂光希」
「それはどうかしら?」
「本当に、強いフリが上手くなったじゃない。あの時泣いてたのが嘘みたい」
「泣いてたのはお互い様でしょ」
「……!」
二階堂鏡子が目を見開いた。光希は、したり顔。
「こういうのを、本末転倒って言うのよ? 貴方が望んだものは、私のものになってる。いい気味ね?」
「あんた、それだけのために、あの人を」
「そうよ。だって、白永佳太を好きだったのは、私じゃなくて、前の世界の私だもの。弔いと、謝罪の意味もあるけど、貴方への嫌がらせの意味もある。ねえ、ニッカ」
「その名前で呼ぶな」
ぞくり。
鬼のような形相をした二階堂鏡子が、光希の前髪を掴んだ。
「あの人以外に、その名前で呼ばれたくない」
飴色をした瞳に、光などなかった。光希は、口の端を釣り上げた。
「それじゃあ、こう呼んであげる。いつまで信者を騙す気なのかしらーー偽物の教主の分際で」




