人のために死ぬなんて、正気じゃないもの。
「佳太くん、減点」
高校からの帰り道、久しぶりに登校してきた東堂さんは、昨日の話を聞くなり、そう言った。
「それはそうだよな、東堂さんは、あのフード男に刺されたわけだし……」
「そうじゃなくて、関わるなって言ったのに、関わっちゃったことを減点してるの。まったく、女神がいながら、番犬の役割もできないの?」
「少し気になる事がありまして。そんなに佳太さんが心配なら、白永家に来たらどうですか? 墨斗さんも歓迎してくれると思いますよ?」
「墨斗? 誰それ」
俺の後ろで、言い合いする東堂さんとメイネ。
「俺の兄貴です。2つ上の……」
「佳太くんのお兄さん?」
「ええ、佳太さんの、お兄さんです」
「そんなに復唱する?」
そういえば、メイネは兄貴のことを褒めていたな。タイプなのかもしれない。
「ふぅん、ちょっと興味ある、かも」
いやいやちょっと待て、これってピンチじゃね? 仮にも彼女である東堂さんが、俺より断然イケメンな兄貴に興味を持っている。
「と、東堂さん、兄貴に会ったらダメだ。俺なんて、すぐにポイ捨てされる未来が見える」
「自己評価低いね、佳太くん。これは減点かなぁ。心配しなくても、私、佳太くんにしか興味ないから。あ、でも、お兄さんには会ってみたいかも?」
東堂さんは、いたずらっぽい笑みを浮かべた。俺は涙目だけど。
「でも、それは別の機会で良いや。佳太くん、私がお兄さんに靡かない為には、加点を重ねる事が必要だよ。“良いことをしない”、関わらない”。この2つを守ってね。絶対、絶対だからね」
「わかった。俺なんて無、げほん、あれだから、そんな無茶なことはしないよ。インターフォンが鳴っても居留守を貫く!」
「その調子その調子」
ぱちぱちと、東堂さんが拍手する。
「でもさ、東堂さん」
「光希って呼んでくれなくなったね。亭主関白っぽくてよかったんだけど?」
「ぐふっ!? 茶化さないでくれ。東堂さんは、どうして俺の彼女になってくれたの?」
「それはね、近くにいて、見極める為だよ」
「見極める為?」
「そう」
東堂さんが、俺の前に躍り出た。
「貴方が、前の白永佳太と違うことを見極める為」
真っ黒な瞳が、俺を覗き込む。
「前の貴方は、どうしようもない自己犠牲の塊だった。だって、私、貴方とは一回しか会っていないんだよ?」
「それって」
「そう。貴方は、初対面の女の子を庇って死んだの。私が貴方の名前を知ったのは、貴方が死んだ後だった」
前世(?)の俺、めちゃくちゃお人好しじゃん。
「家族とか、友達とか、恋人とか? あの世界では、助けられる範囲の人達だけを助けるのが当たり前だった。だけど貴方は違った。見ず知らずの、他人を助けた」
「俺、超すごいじゃん」
同じ人間とは思えない。そんな様子の俺を見て、東堂さんはくすりと笑った。
「今とは大違いだね」
「それって、良いこと? 悪いこと?」
「勿論、良いことだよ」
ふわりと。東堂さんが、俺の体を抱きしめる。人が疎らな通学路。俺は、気が気でなかった。
「人のために死ぬなんて、正気じゃないもの」
「それにしても、素晴らしいですね。前の世界の知識というものは」
「なにが?」
たった1日で、日本を混乱に陥れてしまった二階堂鏡子は、鏡の前でなにやらファッションショーをしていた。といっても、下着姿になるわけでもなく、自分の体に服を当てて、あれこれ考えているだけである。
だから青桐も、ここに控えているわけで。
「失礼な言い方ですがお許しください。貴方のような女性を、このような大規模な集団をまとめ上げ、日本の頂点に立たせてしまう知識が、素晴らしいと言っているんです」
「ああ、そういうこと。まあね、能力さえあれば、古い価値観なんてすぐにひっくり返るし……それにこれ、2度目だし」
「ああ、そうでしたね。貴方は、“神待つ者たち”の教主であらせられましたね」
二階堂鏡子にとって、“女神”のこと以外は、均された道を歩むことに他ならないのだろう。
「……そう、だから、効率良いやり方をわかっているというわけ。ずっと見てきたからね」




