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世界2周目、君はモブ。  作者: 有在ありおり
第1章
13/44

“神待つ者たち”

「それで」


少女は冷めた声で言った。


「東堂光希は殺せなかったのね。ああ、別に、殺さなきゃいけないということはないけれど」


あの子達が暴走しただけだし、と言って、窓の方を見る。この車にはスモークガラスが使われているから、外の景色など見えない。ということは、意図的に青桐から視線を逸らしていることになる。


「あの女、性格、変わってたんだって?」

「ええ。私は教主様と違い、元の性格がどのようなものなのか存じ上げていませんが。かなり強気な性格だったと」

「泣き虫が、成長したじゃない」


笑った気配がした。残念、普通のガラスだったら少女の表情がわかったというのに。


外の混沌など意にも介さぬように、車は進む。この車の運転手は、青桐同様、少女が直々にスカウトした人物である。


やがて、車は、とある建物の前で立ち止まった。中央に塔が立っており、両翼が議事場になっているそこは、日本の政治の総本山である。


青桐と少女は、「御武運を」と敬礼する運転手を残し、易々と、中央玄関から建物の中へと入った。


「ごきげんよう、中田原(なかたはら)総理」


ごま塩頭の首相は、組織の人間に囲まれながら、額に脂汗を流していた。が、少女を見るなり、皮肉げな笑みを浮かべる。


「まさか、テロ組織のリーダーが、こんなに可愛らしい少女だとは、思いもよらなかったよ」

「ありがとうございます。ですが、テロ組織とは心外ですね。この世界でまだ、“テロ”という概念があるとお思いですか?」


少女もまた、侮蔑的な笑みを浮かべた。


「世界は再構築されるんですよ、総理。あなた方が積み上げてきた、“秩序ある人間社会の中での実績”は、無に帰すんです」

「世界が、人が、そんなに簡単に変わるわけがない。異能とやらを手に入れた世界でも、政治は必要だ。私のノウハウはこの世界でも通ずる」

「ええ、その通りです。政治は必要です。ですが、貴方のノウハウは不要です」


少女が合図をする。


「今の時代に必要なのは」


手渡されたそれの照準を、迷いなく総理に合わせる。乾いた音がした。


「誰もをひれ伏せさせる能力」


中田原総理だったものが、床に崩れ落ちた。


「青桐、中継」

「承知しました」


青桐は、いつもの癖でピンマイクを取り出して、しまった。そうだ。もう、これは必要ないんだった。




青桐雅晴(まさはる)の異能は、“伝達力”である。


他の放送局が停波をしている中で、青桐だけがテレビに映ることができるのは、この能力のおかげに他ならない。


ただし、特定の周波数でしか機能しないので、昨夜の電波ジャックは、組織の他の人間に手伝ってもらった。青桐同様、異能の力を持つ人間に。


中継を終え、青桐は息を吐いた。


アナウンサー人生で、こんなにも近くで死体を見たことはなかった。


吐き気を催すかと思えば、そうでもない。これは、必要なことである。それよりも気になるのは。


「硝煙の匂いとは言いますが、あまり匂いはしませんね」

()()()()()()()()


中田原総理の遺体をこんこんと足で小突き、少女は言った。


「この総理の能力は何だったんだろう」

「さあ……使おうという素振りすら見せませんでしたね。ハズレだったんでしょうか」 

「だとしたら、可哀想なことをしたなぁ」


そんなことを言う少女は、組織の人間に遺体を片付けるように指示し、


「衆議院と、参議院、どっちが良いと思う?」

「衆議院が良いかと」

「じゃあ、そっちにしよう」




「翻訳の能力者が欲しいよね。どうせ国連もNATOも解散するんだけど」


議長席に座り、少女は「中継」と言った。今日はよく使われる日である。


これまた組織の人間の能力で、全国のお茶の間のテレビに映っていることを確認してから、少女は。


「そういうわけで、これから日本国民の皆様におかれましては、我々“神待つ者たち”に従っていただくことになります」


二階堂(にかいどう)鏡子(きょうこ)は、よそ行きの笑みを浮かべて宣言した。

これにて、一章おしまいです。引き続き、お付き合いいただけたら嬉しいです。

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