なかったから、作った。
「だから言ったろうが。東堂さんは無事だって」
呆れたような西村は、学校に帰ってきた俺にそう言った。
「俺が家に行った時、東堂さんは元気に家の外の植物をちぎってる最中だったよ。“これ全部ちぎり終わったら学校行くから”って言ってた」
「そ、そうなのか」
「まあ彼氏としては? 彼女のことを心配なのはわかるけどさ? このこの」
西村が肘で突いてくる。ニヤニヤ笑って、「で?」と聞いてきた。
「で? って?」
「とぼけんなよ。東堂さんとどこまで行ったか、も聞きたいんだけどさ、その子、なに?」
西村は、俺の隣に立つ(浮遊している)メイネの方に顔を向けた。
「お前が登校してきた時からいたけどさ、やっぱりその子、お前の異能で出てるのか? ていうか、お前の異能ってなに?」
「この子は俺の異能じゃないよ。っていうか、俺の異能はなんなのか、俺が聞きたいくらいなんだけど」
「お前異能もらってないの?」
「うん」
「え、お前、異能ないの?」
「うん」
答えると、西村が、ばっと俺の肩に手をかけてきた。ひそひそ声。
「“声”聞いてないのか?」
「え、うん」
それに合わせて小さく返事をすると、西村は素早く教室中に視線を巡らせた。九条先生がいなくなったクラスは、がやがやと騒がしい。
「まずいな」
「何が?」
「異能がないの、お前だけだぞ。クラスの連中は、皆“声”を聞いて、異能を貰ったって言ってる。ほら、街で皆、自分の異能を使ってるだろ? あれも、自分の異能が何かわかってる上での行動だと思う」
「まじで?」
そう言いながらも、俺はどこか納得していた。たしかに。強盗は自分の能力を高らかに喋ってたし、警察官も同様。俺を転ばそうとした落書きも、能力を自覚した上でなければやろうと思わない。
「朝は流したけどさ、お前、異能がないのはややこしいことになるぞ」
「そう言われても、無いものは無いんだけど」
「だからさ、その子を“異能”ってことにしちゃえよ」
西村が指さしたのは、メイネだった。
「そうすれば、お前が“皆と違う”ってことはバレないからさ。街があんなんなんだ。異能が無いってバレたら、お前は絶好のカモだぞ」
絶好のカモ。
そうかもしれない。あの時は、絶縁性の異能を持つ警察官がいてくれたおかげで助かったけど、もし彼がいなかったらどうなっていたことか。ゾッとする。
「能力はそうだな。“女の子を具現化できる能力”でどうだ?」
「人をどんな変態に仕立て上げてんだお前は」
「じゃあ女の子の前に“理想の”をつけて」
「余計ひどくなってるだろうが……でも、メイネを俺の能力ってことにするのは良いかもしれないな」
そうすれば、メイネと一緒にいても不思議はないし。
メイネの方を見ると、うんうんと頷いていた。
「よし、決まりだな」
選別は、もう始まっている。
「それで、その兄ってやつがすっごい怖くて! “東堂光希を殺すのは良いけど佳ちゃんは殺さないでね”って言ってくるのよ! あれはブラコンよ! すっごいブラコン!!」
「私のブックも破られそうになりましたし……誰なんですかあの人、すごい怖い」
青桐の勤めるテレビ局に来て、ぎゃんぎゃん喚く赤髪の少女とフード男。時折頷きながら、労りの言葉をかける青桐。
「それにしても、白永家は大物揃いですね。女神の加護を受けた弟さんに、能力が未知数のお兄さんですか」
「ブラコンのね」
付け足す赤髪の少女。よっぽど印象に残ったらしい。
「どちらかを人質にというのは無理でしょうか?」
「無理ね」
「無理です」
即答が返ってきて、青桐は苦笑を浮かべた。こっぴどく折られて帰ってきたものである。
「それならば、こうしましょう」
「何か策があるの?」
「はい。名付けて、“お友達作戦”です」




