東堂さんちに、お宅訪問。
「白永、よく来たな。偉いぞ」
教壇に立つ九条先生は、ニコニコしながらそう言った。この異常事態だというのに、なんだか妙に落ち着いている。
「そりゃお前、自分の生徒が通り魔に刺されて生死の境を彷徨っていたと思ったら、超回復して登校してきた不思議体験があるんだ。突然日本国民みんな超能力に目覚めたとしても、へえそうなんだ、くらいだろ」
そのことを西村に聞いてみた答えがコレ。どうやら、九条先生は、東堂さんの一件で耐性がついてしまったらしい。
「ていうか、東堂さん!」
「白永、うるさいぞー」
がたっと席を立った俺に、九条先生が注意する。
「東堂さんなら無事だよ。さっき、家に行って安否確認してきた」
携帯やスマホも使えないので、空中浮遊ができる西村が、一軒一軒、安否確認して回ったらしい。俺の家に来たのもそれの一環だとか。
「決してお前のことが心配だったからじゃないんだからなっ」
「何そのツンデレ」
「西村はいの一番に白永の家の場所を聞いてきたぞ」
「先生!?」
西村が慌てたように言って、「無事でよかった」と諦めたように言う。
「お前んちは、真っ二つになってなかったり、黒焦げになってなくて良かったよ。変な植物に絡みつかれてなかったりな」
「変な、植物……?」
「ここだけの話」
九条先生が、職員会議に行ってしまった後、西村がこそっと言う。
「東堂さん本人は無事だったんだけど、東堂さんの家は、なんかこう、ツタ? みたいなものに絡みつかれてて、結構大変そうだったよ」
そう言われて、俺の脳裏には、昨日の夜のことがまざまざと蘇った。
「悪い、西村。俺、早退するわ」
「えっ、ちょっと待て。なんで急に。東堂さんは無事だったって、ていうか、お前の隣に立ってる女の子のことを俺は聞きたいーー」
今思えば、東堂さんの言動は、変だった。
『ついてったら殺す』
あの時は、背筋が凍っただけだったけど。
『あんたが東堂光希を襲ったから、私が後始末しなきゃいけなくなったんだから!!』
後始末。それが、東堂さんをあの植物で殺すことだとしたら?
『通り魔なんか、撃退してやるんだから』
どうして自分が通り魔に襲われたのか、東堂さんがわかっていたんだとしたら?
嫌な予感が膨らんだ。
「メイネ、近道を教えてくれ」
「わかりました!」
治安の悪い街の中を、俺は駆けた。このことは、ソシャゲのデータとは別だ。俺はメイネの不思議な力を使って、東堂さんの家にたどり着いた。
「はあっ、はあっ……」
肩で息をする。見上げた東堂さんの家は、間違いない、あの赤髪の女の子が使っていた植物に覆われていた。太いもの、細いもの、さまざまな蔦が、家に巻きついている。
「とうど、さんは、こうなることを、知ってたんだ……」
だから、俺に家を教えなかった。俺を巻き込まないために。
「東堂さん、東堂さんっ!!」
西村は無事だと言っていた。だけど、東堂さんはまだ登校してきていない。また、赤髪の女の子が襲ってきたのかもしれない!
「東堂さんっ!」
「なに?」
声とともに、誰かが、家の窓から降ってきた。
「あっ、佳太くん」
ぶちぃっ、と植物を引きちぎりながら、東堂さんはなんともなさそうな笑みを浮かべた。
「朝起きたら、こうなっていたんだ。何でかはわからない」
家の壁にからみついている植物を引きちぎり、蹴りちぎり。東堂さんは、そうやって説明してくれた。
「や、やっぱり、あの赤い髪の女の子のせいだったりするのかな。東堂さん、ひっ!?」
「残党、残ってたから」
俺の背後の植物に蹴りを入れた東堂さんは、にっこり笑った。
「それより、赤い髪の女の子? どういうことか説明してもらえるかな、メイネ・クライス」
「あ、あはは〜、お久しぶりですね、東堂光希……ひゃん」
それまでなぜか隠れていたメイネは、涙目になりながら、俺の陰からひょっこり現れたのであった。




