忽然と姿を消した 5人の女性 (後編)
「ここが、静岡共同墓地ですか」
僕たちは柳瀬刑事の運転で静岡共同墓地まで来た。
「ああ、そうだ。共同墓地っていつ来ても殺風景だて思わねえか? 司くん」
「まあ、墓地ですからね」
「……って、柳瀬刑事。共同墓地によく来るのですか?」
意外だ。誰のだろう?
「ま、まあな」
「失礼でなければ、何方のお墓参りですか?」
気になりますね……
「な、なんで、そんなこと聞くだ?」
「いつも柳瀬刑事には事件でお世話になっているので、そのお礼とどんな方なのかということを知るためですよ」
「絶対後者だら」
なんでバレたし!?
「ちっ、バレましたか」
「バレバレだっつうの」
「それで、誰の墓参り何ですか? 柳瀬刑事」
「……元上司の墓参りだよ」
元上司? 刑事課のかな?
「元上司ですか? 柳瀬刑事の今の上司の前ですか?」
「ああ、そうだ」
「殉職されたのですか?」
「いや、タバコの吸いすぎによるクモ膜下出血だ」
あらま、大変だ。
「そ、それはお気の毒に……」
「ま、まあな。ひたすら僕がタバコを止めろ止めろといっても止めんかったでな」
それはまた……
「……それよりもだ。ずっと西園寺さんと飛鳥さんが司くんの袖を掴んで震えてるのだが、どうしたんでゃー?」
「西園寺さんと飛鳥は、幽霊とかお化けとかダメなんですよ」
大丈夫ですよ、西園寺さん……飛鳥。と僕は2人の頭を撫でた。
「幽霊とお化けって一緒じゃねえか。って、絶対人選ミスだよな。これ」
そうですか? 可愛いと思うのだけどな。
「……不覚」
「これだけは、ダメです……」
「いや、不覚とかダメって言ってるし」
「大丈夫ですよ、2人とも。今回は幽霊とかお化けとかは出ませんから気を取り戻してください」
「で……ござる」
「そ、そうですか……良かった」
本当かどうか飛鳥は周りをキョロキョロ見出して、安全だと分かると深呼吸を数回してからやっと落ち着いたようだ。
西園寺さんは僕の話を聞いて落ち着いたのか、肩の力を少し抜いて姿勢を正した。
「だいぶマシになったでござる」
「私も大丈夫ですよ」
「それは良かった。では、行きますよ」
「おっ、居ましたね」
僕たちが静岡共同墓地に入った時、奥まったところにポツンとある墓石に手を合わせている人がいた。
僕たちはその人の元に行き、声を掛けた。
「どうもこんにちは。加藤さん」
「……どうも」
加藤さんは急に声を掛けられたからなのか、びくついてこちらを見た。
すると何を思ったのか、僕たちを見た加藤さんはそそくさと帰り支度をし始めた。
「あれ? もう墓参りは終わりですか?」
「ええ、そうですけど」
「誰の墓参り何ですか?」
僕はわざと加藤さんに誰の墓参りか聞いた。
「答えにゃーとおえんのですか?」
「いえ、参考までにと思って聞いたまでです」
「そうですか、もう行っていいですか?」
僕は、加藤さんが今にもここを去ろうとしたので鎌をかけてみた。
「加藤さん、貴方綺麗な指輪をしていますね」
加藤さんは少しビクッとしたが、顔色を変えずに応えた。
「え、あっ綺麗だら。これが何か」
「いえいえ、綺麗だな〜っと思っただけです。それは、どちらの方からプレゼントされたものなんですか?」
怪しい……まあ、誰のものか分かっているが。
「これは、自分で買ったものです」
「そう、ですか。………加藤さん。貴方……今、嘘をつきましたね?」
僕は加藤さんが嘘を付いたことを突きつけた。
「いや、嘘なんて……」
「ではなぜ、ピンクとオレンジの指輪を自分で買ったと言ったのですか?」
僕は冷や汗をかいている加藤さんに迫った。
「そ、それは……」
「加藤さん。いや……佐原武さん。もう楽になりましょう。誘拐した女性たちはどこにいるんですか?」
僕は加藤さんに貴方がイジメによって自殺した佐原郁美さんの兄である佐原武さんだという真実を告げた。
「ど、どうして僕の名前を……」
佐原武さんは驚愕した顔でこちらを見た。
「最初におや? と思ったのは、貴方の事情聴取資料と共に入っていた1枚の写真を見たときです」
僕は順序立てて事件の真相を話し出した。
「僕はこの写真何処かで見たな。と思いました。……そこで、数々の資料をまた読み返してみました」
「すると、ある資料の写真と貴方の指輪の写真が合致したんですよ」
「ある資料?」
「………イジメによって自殺した佐原郁美さんの資料です」
「そういう、ことですか……」
佐原武さんは何かを納得したような顔をした後、黙りこくってしまった。
「僕はすぐに販売元に連絡して、本当かどうか確認しました」
「すると、案の定。自殺した佐原郁美さんと佐原武さんの名前の頭文字を彫ったイニシャルが合致しました」
僕は淡々と真実を佐原武さんに告げた。
「佐原武さん……貴方は自殺と見せかけて、名前と容姿を変え、今まで生きてきたんですよね」
「……」
佐原武さんは何も話さずに黙秘を続けていた。
「でも、どうやって死体の偽造と名前・顔を変えたんでゃー?」
柳瀬刑事のいってることは正しい。本当にどうやって生きてたんだろね。まあ、悪いことを考える人の周りには自ずとそういう人が集まるから……そういうことなんだろうけど。
「それは、協力者に頼んだのでしょう」
「協力者? それは一体?」
「佐原武さん。そろそろ、白を切り通すのを止めにしませんか?」
「こんなことをしても、貴方の妹さんは喜びませんよ!!」
「くそっ!!」
佐原武さんは苦虫を噛み潰したような顔をして、口火を切った。
「全部、話してくれますね」
「………ああ」
佐原武さんは何かを諦めたような顔をして、答えた。
「僕は……本当にどうしようもにゃークズだ。溺愛してた郁美に、いじめの兆候は確かにあった。だが……郁美が何気にゃー笑顔で応えてくれるで、気のせいだと……思っちゃったんだ」
「今でも思うよ……あの時もっと早く……僕が郁美のイジメの兆候に……気付いてせゃーいれば……郁美は死なずに済んだんだってね」
佐原武さんは悔しそうな顔をして時折、瞳に涙を滲ませ、震える声でぽつりぽつりと話をし出した。
「僕は、あの日のことを今でも鮮明に覚えている。郁美はいつもと変わらず笑顔で家を出て行った。でも……それが郁美の最後だとは誰も思わにゃーっけ。…………昼過ぎた頃、職場に警察から電話が掛かってきた。僕は、胸騒ぎがした。まちぎゃーであってくれと願いながらもその電話に出た。そうしたら………案の定、郁美が飛び降り自殺をしたという内容の電話だった。最初は何かのまちぎゃーだて思い、でもいてもたってもいられずに警察署まで向かった。そうすると……遺体霊安室に案内された。部屋には……朝とは似ても似つかない変わり果てた郁美の遺体あった。僕は郁美の遺体を目の当たりにして、その場に崩れ落ちた。……その時、僕はこの世に生きる気力を失った。僕は……警察署からの帰り道、近くの河原で自殺をしようとした。だけど……死ぬことが出来にゃーっけ。僕は溺愛していた郁美がいにゃーこの世で死ぬこともできず、どうしたらいいのか悩んだ」
佐原武さんは当時のことを思い出して、泣いていた。
「そんな時、赤木達也と出会った。赤木は自殺するんだったら郁美さんをイジメた奴を始末しにゃーの? と聞いてきた。僕は自殺もできにゃーのに人を殺すことなんてできにゃーて言った。だが、赤木は何とかすると言って僕を連れて行った」
やはり、協力者がいましたね。
「……それから年月が経ち、僕は名前と顔を変えて新たな人生を歩んでいた。後から赤木にどうやって死を偽装したのか聞いたら、20代のホームレスを拐って焼死体にし、偽装したって言ってたよ」
そうやって死を偽装したんですね。
「まあでも、名前と顔を変えたところで僕は人を殺すことなんてできにゃーという信念は変わらにゃーっけ。この時は、まだ……警察を信じてた。ちゃんと……イジメによる自殺に加担した犯人を……逮捕することを……」
「だけど、警察は……イジメによる自殺に加担した犯人は逮捕しにゃーっけ!! 犯人がのうのうと生きてる姿を見た時………僕は愕然としたよ!! その時からかな、僕の中で何かが狂ったのは……」
佐原武さんはうつむきながら話をしていたが、不意に声を荒げ、鬼の形相でこちらを睨んで言い放った。
「佐原武さん貴方の犯行の動機は、イジメによって自殺した妹の復讐と妹の死を止められなかった自分への戒めが今回の犯行の動機ですね」
「ああ、そうさ!!」
「僕が溺愛していた妹の命を奪った奴が今ものうのうと生きてるのが許せにゃーっけ。それだで自分で制裁を下した」
先程まで時折、涙を流しながら話をしていた佐原武さんはそこにはおらず、決意をしたような瞳がこちらをじっと見ていた。
「ここからは推測ですが、あなたはまず闇サイトで犯行の仲間を募集し、妹を自殺に追い込んだ女性たち5人を1人ずつ、いい話があると誘い出し、睡眠導入剤入りの飲み物を飲ませた。そして、女性を眠らせた後、絞殺し、その遺体を山に遺棄した」
「違いますか? 佐原武さん」
僕はありのままに推理を佐原武さんに告げた。
「ほんと、間近で見てきたような口振りだな」
「それで、どうなんですか?」
「ああ、その通りだ」
佐原武さんは悪怯れることなく、答えた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ司くん。司くんの推理が正しけりゃあ被害者は全員、既に亡くなってると聞こえるのだが……」
柳瀬刑事は慌てた感じで僕に聞いてきた。
「はい。残念ながら、被害者の女性たちは既に亡くなっています」
「そ、そんな……」
被害者を救えると思っていた柳瀬刑事は、悔しそうな顔をした。
「司くんは、いつ女性たちが亡くなってると気づいたんでゃー?」
「最初からですよ」
「最初から!?」
悔しそうな顔をしながら柳瀬刑事は僕に聞いてきた。
「はい。この事件を聞いた時から犯人は、必ず女性たちを殺害すると思っていました」
「じゃあ、止められたということきゃー」
「はい。ですが、手段が無かった……」
手段がないと言った時に、また柳瀬刑事は顔を歪ませた。
「佐原武さん、共犯者はどこですか?」
「共犯者は……僕がこの手で殺したよ」
「!?」
共犯者を殺したという言葉に僕と柳瀬刑事は驚きを隠せなかった。
「どういうことですか? 佐原武さん」
「あいつ、誘拐してきた女性たちがここから逃してくれたら、お金を幾らでもあげるでお願い!! と誘惑してきたのにまんまと乗り上がって……」
「だから、殺したのですか?」
「まあ、な」
「…………ここまでのようだな」
佐原武さんは徐に拳銃を懐から取り出し、自分の頭に向けた。
「何をするんですか!! 佐原武さん!!」
「動くんじゃにゃー!!」
「犯行を……暴かれて、僕はもう生きておえん……」
その言葉に、僕はキレた。
「佐原武さん、貴方が死んで一体何が残るんですか!? 妹さんが喜ぶんですか!!」
「ううっ……」
その言葉を聞いた佐原武さんは、涙を流しながら拳銃を地面に落とした。
その瞬間、柳瀬刑事が佐原武さんの身柄を無事に確保した。
これにより、静岡連続女性誘拐殺人事件は犯人逮捕で幕を閉じた。
だが、被害を受けた女性及び共犯者は残念ながら全員、帰らぬものになってしまった。
イジメは絶対にしてはいけません。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い!! 続きが読みたい!! と思っていただけたら、ブックマーク、評価、感想をよろしくお願い致します。