忽然と姿を消した 5人の女性 (前編)
僕の周りがあの事件をきっかけに劇的に変わった。
何が変わったかと言うと……
「はぁ〜、トイレに行くだけだから……離してくれないかな。西園寺さん、如月さん、飛鳥、ソフィア」
「「「「ダメです(でござる) !!」」」」
この通り、僕があの事件で怪我をしてしまったことをきっかけに西園寺さん、如月さん、飛鳥、ソフィアは僕が動こうとすると、一緒に行くと言って離してくれないのだ。
困ったものだ。傷はあの事件から1週間は療養して治ったと言うのに……
そんな時だった。事務所の扉をノックする音が聞こえた。
「どちら様ですか?」
「ああ、しぞーか県警の柳瀬だ。事件の依頼できた」
「西園寺さん、如月さん、飛鳥、ソフィア、事件の依頼だ」
僕が「事件の依頼だ」っと皆に言うとさっきまで騒がしかった空気が静まり返った。
「どうぞ、お入りください。柳瀬刑事」
「おっ! そうか。じゃあ中に入らせてもらうよ」
僕が入っていいと言うと、熊のようにでかい柳瀬刑事がのそのそ入って来た。
「柳瀬刑事、また身長伸びました?」
「いや、伸びてにゃー。それよりも司くん出世したね。あの時の坊主がまさか事務所なんて持つまで成長するとはね。なんかおじさん泣けてきちゃうね」
「いや、まだあんた若いだろ」
「それに、事務所は自分で開いたんじゃなくて勝手に開かれたものですよ」
「勝手に?」
「ええ、そうです。僕にも色々あったんですよ」
「色々ね。まあ人生まだまだ長いでね」
柳瀬刑事はニヤニヤしながらそう言ってきた。
「それよりも、事件の依頼の話をしましょうか」
「おお、そうだな」
「ソフィア、熱いお茶を2つお願い」
「かしこまりました。司部長」
「ソフィアさん、私も手伝います」
「そうですか………では、一緒にしましょう」
いや、なんで毎回毎回ソフィアと言い合いしてるのかな? 西園寺さん……
「私(拙者)は何をすれば……」
「如月さんと飛鳥はソファーに座っといてもらえるかな」
「でござる」
「分かった」
「えっと、なんで横に座るのかな。2人とも」
「「司部長、お茶持ってきました……」」
「「雪さん、飛鳥さんずるい……です」」
西園寺さんとソフィアはお茶を机に置いた後、横の2人を見て、何故かぷくっと頬を膨らまして不機嫌になった。
「ソフィア、今日は何日だ?」
「む〜、8月26日です!!」
「何、膨れてるんですか? ソフィア」
「……鈍感」
「……鈍ちん」
え? 僕、何か悪いことした?
「2人共、なんだって?」
「ぷいっ」
「知らないです」
「これは、司くんが悪いでござる」
「そうですよねー」
「ちょっと五月蝿いんだけど。って何、ニヤニヤしてるんですか? 柳瀬刑事」
またも柳瀬刑事はニヤついていた。
「いや何、若いな〜って思っただけだよ」
「おじさんくさいですよ。柳瀬刑事」
「おじさんくさくにゃーわ!!」
柳瀬刑事は「おじさん」という言葉に反応して、直ぐに怒鳴ってきた。
余程「おじさん」という言葉が嫌いなのだろう。
「はいはい、そういうことにしときますよ」
「それで今回はどんな事件の依頼なんですか?」
僕は話を変えるために事件の話に入った。
「ああそれについてだが、8月17日〜8月19日の3日間で、しぞーか県内5ヶ所で女性が立て続けに誘拐された事件があるんだ」
「誘拐事件ですか?」
「おお、そうだ」
「つまり、犯人が捕まっていないから僕のところに来た。ということですよね? 柳瀬刑事」
僕は熱いお茶をふうふうと冷ましながら飲む柳瀬刑事に問いかけた。
「熱ちっ、当たりだ」
「どうだ。この事件解いてくれねえか? 熱ちっいな、このお茶」
柳瀬刑事、飲むのか喋るのかどっちかにしてくださいよ。
……話に締まりがなくなりますから。
「わかりました。この事件解いてみましょう」
「おお、やってくれるか」
僕はいつも通りに事件を受けることにした。
「あっ、でもこの事件の依頼は中規模解決費に当たりますので、60万円事件解決後いつもの口座に支払っくださいね。柳瀬刑事」
「おお、そこら辺は抜かりなくいつも通りに行うよ」
ちゃんとお金は頂く。生活するためと部員の給料に必要だから。
「あと、事件がもし解決できなかった場合は頂きませんので」
「ん? そんなことがあるのきゃー? 解決屋の君に至って……」
「相変わらず、大袈裟ですね。柳瀬刑事」
相も変わらず、柳瀬刑事は大袈裟だ。
「それで、事件の内容を知りたいのですが、教えて頂けませんか? 柳瀬刑事」
「わかった。まず、しぞーか県警が掴んでる情報を話すぞ」
「ありがとうございます」
「事件の内容はだな。彼女たちは仕事が終わったあと、用事があるでって言って足早に帰ったが最後、安否が不明ってことだ」
「足早にですか……気になりますね」
足早に…… うん。最初から謎ですね。
「僕もそこが気になったんだけどよ。中々これがわからねえんだよ」
「まあ、それは置いといてだ。今の段階で分かっていることを話すぞ」
「わかりました」
置いとくんだ……
「犯行日は8月17日〜8月19日の3日間、皆一様に仕事からの帰り際を狙われている。被害を受けた女性の情報を順にすると、片岸峰子、職業はしぞーか県立女子学園の教師、年齢は57歳。新山陽菜、職業は株式会社月輪広告社のOL、年齢は45歳。新山彩、職業は白木生命保険相互会社のOL、年齢は28歳。山口咲、職業は全都市航空株式会社のOL、年齢は29歳。葉山綾乃、職業は株式会社月輪新聞社のOL、年齢は25歳。あとは、そうだな。被害者の安否は不明、身代金の要求はなし、最初の事件だけ目撃者が3人いたってことだけだ」
有名な会社の女性ばかりですね。これは身代金目当てかも……でも、要求はないんだよね? うーん、謎だ。
怨恨かな? そうなると、被害者の安否が……
「そんで分かってにゃーことは、犯人が単数か複数かどうやって攫ったかなどだ。まあ、車だってことは分かってるんだがな」
犯行が3日間で被害者が5人。これは、複数犯ですね。
でも、最初の事件だけ目撃者が3人いたってところが引っかかりますね。
「この女性たちの共通点は何かありましたか?」
「ああ、それについてだが、彼女たちは同じ中学校に通ってた生徒、保護者、教師だったよ」
「同じ中学校の同期ですか?」
これは……まさかですよね?
「ああ、そうだ」
「可笑しいですね。同じ中学校の同期が同じ事件で誘拐されるなんて」
「僕もそれが不思議でな。調べてみたら……案の定、彼女たちが通ってた中学校でその時期にイジメによる自殺事件が起きてることがわかった」
やはり、イジメか……
「イジメによる自殺事件ですか?」
「ああ、そうだ。そんでもってこの被害者たちはその時のイジメに加担したかも知れにゃー生徒・保護者・担任だってこともわかった」
「イジメに加担したかも知れない生徒・保護者・担任ですか」
怨恨で、まず間違いないな。
「そうだ。僕もこの事件を受けて、犯人はイジメによって自殺した子どもの家族だと踏んだんだがな。当てが外れたんだわ」
え? 違うの? また、最初から資料に目を通さないといけないな。
「違うんですか?」
「ああ、ちぎゃー。その自殺がショックで母親は今も昏睡状態で病院に入院してたわ」
「父親の方は?」
「自殺した子どもの親はシングルマザーだったよ」
「シングルマザーですか」
離婚かな? 世知辛い世の中だよね。
「ああ」
「兄妹は?」
「兄が居るが……妹の死から少し経った頃、近くの河原で焼死体が発見されたそうだ」
「自殺ですか?」
「ああ、そうだ」
「これは、行き詰まりましたね」
ほんと……行き詰まったわ。
「そうら。それだで困ってるだ」
「柳瀬刑事、もう一度事件の資料を見せて頂きませんか?」
「いいよ。犯人が分かれば、こっちとしては万々歳なんだがな」
僕は柳瀬刑事から資料を受け取り、何か見落としているものはないか隈なく数々の資料を見返した。
そして……僕がある資料をめくった時、ある写真に目が行った。
「ふ〜ん、そう言うことか。だとしたら犯人はあの人だな」
僕はこの事件の内容を聞いた時、なぜ、最初の犯行だけ目撃者が3人いたのかって言う点がずっと引っかかっていた。でも、その謎が今やっと解けた。だが……そうなるとこの事件、悲しいことになるな。
「柳瀬刑事、犯人のところに行きますよ」
「えっ!? こんな短時間で犯人が分かったのきゃー?」
「はい」
「やっぱ、司くんは凄いな」
「煽ててないで、早く行きますよ。柳瀬刑事」
このままだと被害者が……
「司くん、今回は私も必ずご一緒しますよ」
「司くん、私も一緒に行っていいかな?」
「私も司部長とご一緒したいのですがよろしいですか?」
「拙者も行きたいのでござるが……よろしいでごさろうか、司殿?」
「えっ? なんで4人共着いてこようとしてるの?」
「心配だからです(でござる)!!」
またか、またなのか、勘弁して欲しい。
「大丈夫だって」
「「「「でも!!」」」」
「……はぁ〜、そんなに心配なら………西園寺さんと飛鳥、一緒に来てくれるか?」
これで良いよな? 良いと言ってくれ。
「でござる」
「はい!!」
「これでいいか? ソフィア、如月さん」
「酷い……」
「む〜……ずるい」
「何だよ。ていうか柳瀬刑事、何笑ってるんですか!!」
はぁ〜、柳瀬刑事またもニヤニヤしてる。
「いや〜、ついね」
「はぁ〜、どっと疲れた」
本当に……疲れた。
「よし、柳瀬刑事、西園寺さん、飛鳥、犯人のところまで行きますよ」
「司殿、司殿、どこに行くでござるか?」
「えっと、どこへ行くんですか?」
「僕も目的地聞いてにゃーっけんだけど?」
「ああ、言い忘れていました。今から静岡共同墓地に行きます」
あ! 行き先を言うの忘れてた。
「「静岡共同墓地!?」」
「しぞーか共同墓地!?」
「何、驚いているんですか? 西園寺さん、飛鳥」
「それに柳瀬刑事、驚いてる暇なんてないですよ。早く、ここまでどうやって来たか教えて下さい」
「ここまできゃー?」
「ええ」
「徒歩だが」
いや、違います。そっちじゃなくて、柳瀬刑事〜。
「いや、違いますよ。静岡県からここまでどうやって来たかです」
「ああ、車と電車と徒歩だ」
「車ですか。自家用車ですか?」
「そうだ」
「でしたら、徒歩と電車と車で静岡共同墓地まで行きましょう。もちろん車の運転は柳瀬刑事で」
「ああ、わかった」
柳瀬刑事にそう言ってから、僕たちは静岡共同墓地に向かうのであった。
柳瀬刑事は静岡県出身です。
そのため、所々静岡弁で話しています。
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