狙われた 総理大臣 (後編)
「いてて、司くんいきなりどうしたでござるか?」
司くんに突き飛ばされた拙者は不満を言いながら起き上がった。
「……………」
起き上がった拙者は、目の前の光景に言葉を無くした。
なぜなら………拙者の目の前に拙者を突き飛ばした司くんがおびただしい量の血の上に仰向けの状態で倒れていたからだ。
「司くん……」
拙者は司くんに近づこうとした。だが、動きを止めた。
司くんがこの依頼を受けた時にもしものことがあってもまずは兵藤総理の安全を第一に考えて行動することと拙者に約束したからだ。
拙者は躊躇した。しかし、約束した手前、約束を破ることはできない。
拙者は司くんを助けたい思いを心に押しころし、兵藤殿のところまで向かった。
「兵藤殿、大丈夫でござるか?」
兵藤殿は総理専用車に寄り掛かって座っていた。
「ああ、僕は大丈夫だ。それより、司くんは……」
「司…くん…は、大丈夫で…ござ…る。まず…は兵藤…殿を安全…な場所に…避難さ…せる…でござる」
司くんのことを言われて拙者は泣き出しそうになった。
されど、依頼された仕事は全うしないといけない拙者は何とか涙を抑え、兵藤殿に避難を促した。
「兵藤殿、ここなら大丈夫だと思うでござるが、念のために翡翠を置いていくでござる」
『翡翠、来るでござる』
「お呼びでしょうか、飛鳥様」
「今からそなたを兵藤殿の身辺警護に就かせるでござる。もし、兵藤殿を害そうとする者がいれば……構わず斬るでござる」
「御意」
「ありがとう、飛鳥。僕は大丈夫だから司くんを助けに行ってくれ」
拙者は兵藤殿を無事に千草ホール内まで避難させた。
そして、忍者頭の翡翠に跡を任せ、拙者は司くんのところまで向かった。
「司…くん、大丈夫で…ござるか……」
「………」
拙者は狙撃を警戒しながら、司くんのすぐ側まで近づき、声を掛けた。
だが、司くんからの返事は無かった……
「司くん!!」
拙者は狙撃の警戒などお構いなしに司くんに近づき、耳元で呼び掛けた。
「あ…す…か…」
すると……司くんは微かにだが、声を発した。拙者は喜びのあまり泣き出しそうになった。
だが、司くんの容体が芳しくないことを見て拙者は泣き出しそうになったところを我慢した。
「司くん、直ぐに早乙女さんを呼んで、治療に当たらせるでござるから、しばしの辛抱でござるよ」
司くんは声には出さなかったが、微かに頷いた。
拙者はその瞬間を見逃さず、直ぐに早乙女さんに遠隔を繋いだ。
『何? さっきやっとオペが終わって。今、休憩中なんだけど?』
『早乙女さん、緊急でござる。直ぐに千草ホール裏までドクターヘリで来て欲しいでござる』
『何? 緊急? 私、休みたいんだけど……』
『司くんが狙撃されたのでござるよ!!』
『………』
『5分後にそっちに着くから、司くんをその場から動かさないでね』
『わかったでござる!!』
『五月蝿い』
遠隔を繋いだが……早乙女さんはお気楽モードだった。
話がまとまらず、平行線のままだった。見かねた拙者は、司くんの現状を詳しく話した。
すると、私の休憩が〜なんて言いながらも安城了承してくれた。
その後、ちょっちあったが……
「よし、あとは千草ホールの防衛レベルを上げるでござる」
『翡翠、来るでござる』
「お呼びでしょうか、飛鳥様」
「うむ。兵藤殿の身辺警護はどのような感じでござるか?」
「今のところ……大丈夫だと思います」
「今のところは、でござるか…… では、軍事局陸軍課局長として職権をもって命ずるでござる。翡翠、調査局調査課の忍びをすぐさま兵藤総理の身辺警護に就かせるでござる」
「御意」
守りが薄いことを気がかりに思い、拙者は翡翠を呼び寄せた。
やっぱり……いつも思うけど、サブスキルの遠隔は使いやすいな。
あっ、消えた。………翡翠、音立てずに現れたり消えたりしすぎじゃない? 忍者だけどさ、なんかこう……
次は遠隔で軍事局陸軍課か……このスキル疲れるんだよな。
『はい、こちら軍事局陸軍課の平沢でございます』
『平沢でござるか、飛鳥でござる』
『軍事局陸軍課局長!! ど、どう致しましたでしょうか?』
『まあ、落ち着くでござる平沢』
落ち着きが肝心だよ、平沢さん。
『すみません。取り乱してしまって……』
『うむ。落ち着いたでござるな。早速だが、軍事局陸軍課局長として職権をもって命ずるでござる。有明島内外特別広域救助部隊は、今から2時間以内に千草ホール裏に集合と司令を出すでござる。繰り返す。有明島内外特別広域救助部隊は、今から2時間以内に千草ホール裏に集合と司令を出すでござる』
『しょ、承知いたしました』
『以上でござる。直ちに行動するでござる平沢!!』
『承知いたしました!!』
あっ、ドクターヘリ来た。
嫌々ながらも、司くんのことになると……時間前に来るんだよね。早乙女さん。もう、ツンデレなんだから……
まっ、これ言うと……すぐムキになるからやめておこう。
「司くんはどこかしら?」
「こっちでござる。早乙女さん」
「これは………酷いわね。この傷だと、一刻を争うわ」
早乙女さんのほうから一筋の雫が落ちた。
「そうでござろう……直ぐにでもここでオペをしてほしいでござるよ」
「……無理ね。此処には司くんをオペできる設備が整っていないわ。それよりもヘリに収容して有明島でオペした方がいいと思うわ」
「吉良坂、早く担架」
「はい、こちらっす」
「ありがとう。一刻を争うから早くヘリに収容して有明島に向かうわよ」
「了解っす」
「早乙女さん、司くんの命託すでござるよ」
「ええ、わかったわ。ゆきりんのこともあるし、完璧にオペするわ」
颯爽と降り立った早乙女さん、直ぐさま現状の把握に取り掛かった。
そして、ほんの数分で司くんをヘリに収容し、飛び立った。
ヘリが飛び立ってから2時間後、千草ホール裏に有明島内外特別広域救助部隊の超大型飛行船とヘリが着陸した。
飛行船からは数々の軍事局・保安局・消防局・医療局の車両と各局の部隊が降りてきた。
「時間ぴったりでござるな」
「恐悦至極でございます」
「よし、今から各局の部隊ごとに点呼を取るでござる」
「はっ!!」
「問題は無かったでござるか?」
「問題はありません」
え、本当に?
「うむ。では、有明島内外特別広域救助部隊の保安局部隊は、大ちゃんの情報を元に狙撃手の捜索及び確保を行うでござる。軍事局部隊は、千草ホール内外に部隊を展開し、防衛を最高水準まで上げるでござる。消防局部隊並びに医療局部隊は千草ホール内外にて、各部隊のバックアップをお願いするでござる」
「はっ!!」
「最後に、有明島内外特別広域救助部隊の軍事局部隊及び保安局部隊は武器の使用を許可するでござる。………皆、無事に戻ってくるでござるよ」
「はっ!!」
良く訓練されているね。普通だったら、少しぐらい遅れてくる者がちらほらいるのに。
まっ、そこは……有明島だから………ね。
命は大事に、これ大切なことだから。
「田辺隊員、軍事局部隊の展開は終わったでござるか?」
「はい、終わりました」
「脅威となるものは無かったでござるか?」
「はい、ありませんでした」
「そうでござるか。少し安心でござるな」
「あとは……大ちゃん、着弾点から狙撃ポイントの割り出し終わったでござるか?」
大ちゃんは………ね〜。
「いやまだだ。ちょいと待ってな」
「早くするでござる」
「いててて! 飛鳥、背中を蹴っても早くはならないよ」
「御託はいいから早くするでござる。それにもし、犯人に逃げられたらどうするでござるよ」
「ハア〜ン、犯人に逃げられると思ってんだ飛鳥」
「何でござるか大ちゃん。その言い方ちょっとムカっとするでござる。それより早く」
「いてててて! そんな蹴らんでもするって。……よっしゃ、着弾点から狙撃ポイントの割り出し終わったで、飛鳥」
本当、時間掛かったな………
「うむ、やっと終わったでござるか。……こ、これは、凄いでござるな」
「どうしたんだ、飛鳥?」
「これを見るでござる、大ちゃん」
「これは、犯人が狙撃したポイントから着弾点までの距離か。……嘘だろ? 犯人はサンツリータワーの屋上辺りから千草ホール玄関前までの距離約10kmを狙撃って、おいマジか、これ」
「松平、測定器に異常はあるか?」
「何も異常ありません」
え? 摩訶不思議だよね?
「マジらしいな、飛鳥」
「でござるな、大ちゃん」
「それより大ちゃん、さっき犯人がどうしたこうした言ってなかったでござるか?」
「ああ、そうだった。そうだった。今回の事件の犯人についてどう思う? 飛鳥」
「犯人についてでござるか? 計画的な犯行だと思うでござるが、些か個人的、数人ないしは単独犯だと思うでござろう」
「まあ、飛鳥もそう思うよな。それで今回の犯人について俺は独自に調べたんだよ。すると、犯人は組織には所属しているが、今回の犯行は独断で行なったため、始末されると恐れていることがわかったんだ」
へ〜、そんなことが……
「つまり、仕事を独断で行なったために殺されるから犯人は自殺を選ぶっていうことでござるか?」
「その通り」
「……ということは、今回の犯人も自ずと自殺を選ぶてことでござるよね?」
「う〜ん、どうだろうね。今回は大丈夫な気がするけど」
「そんな悠長なこと言ってる場合でござるか。早く犯人をサンツリータワーから見つけるでござる」
「へいへい、ええっと今回はドローンにするか。操縦はあれだな。よし行くか」
早く行きなさいよ、大ちゃん。
「サンツリータワーまで結構遠いな、おい」
「つべこべいわず早くするでござる」
「へ〜い、おっ! やっとサンツリータワーだ」
「着いたでござるか。それで犯人は見つけたでござるか?」
「ちょっち待ってね、飛鳥。今、サーモグラフィー画面に切り替えるから」
「これと、これと、これでよしっと、屋上辺りに犯人見つけたぜ、飛鳥」
「ありがとう、大ちゃん」
「いいってことよ」
「よし、有明島内外特別広域救助部隊の保安局部隊はサンツリータワーの屋上辺りに急行し、速やかに狙撃手の捜索及び確保を行うでござる」
「了解」
スキルを顕現していないのに、これだけの高弾道スナイプをする人がいるなんて………是非、欲しい人材だな。
でも……犯罪者だからね。実に………惜しいな。
え? 犯行を独断で行なったために始末されるって一体どう言うことだ?
ドローンにサーモグラフィー便利な世の中になったな。
「「そこを動くな!!」」
「あらら、もうバレちゃたのか」
『こちら梶谷捜査官だ。犯人と思しき者が一服しているところを確保した』
『了解。細心の注意を払ってボディーチェック及び口内に隠し持っている毒物の除去をお願いします』
『ああ、わかった』
「川端捜査官、細心の注意を払ってボディーチェック及び口内に隠し持っている毒物の除去してくれ」
「了解」
「少し身体と口内を触りますよ」
全然、抵抗してこないね。
「………」
「抵抗しないのですね? 犯人さん」
「いや〜、このままアジトに帰っても俺、独断で行なったから……始末されるんだよね」
「そうなんですね。お気の毒です、犯人さん」
「あんた面白いね。名前なんて言うの?」
「川端と言います」
「そうか、川端さんか。いい名前だね。俺の名前は反政府運動家の鈴木英樹って言うんだ」
「そうですか。お名前ありがとうございます」
川端捜査官はにこやかに答えた。
「こらっ、川端捜査官仕事をしなさい」
「は〜い。……梶谷捜査官、反政府運動家の鈴木英樹さんのボディーチェック及び口内に隠し持っている毒物の除去、終わりました」
「そうか、ありがとう川端捜査官」
「いえいえ」
川端捜査官は嬉しそうにはにかんだ。
「今から軍事局陸軍課局長に、犯人の反政府運動家の鈴木英樹を確保したことを遠隔するから、犯人を取り押さえといてね」
「了解」
『軍事局陸軍課局長ですか、反政府運動家の鈴木英樹を確保しました』
『自殺の阻止はできたでござるか?』
『ええ、自殺を阻止して今は大人しく川端捜査官に取り押さえられていますよ』
『うむ、よくやったでごさる』
まさか……反政府組織とはね。
川端捜査官と梶谷捜査官の名コンビのおかげで事件は無事に解決した。
まあ、2人の恋模様は別の時にいずれね。
兵藤総理暗殺未遂事件は、犯人の反政府運動家の鈴木英樹の逮捕で事件は幕を閉じたのだった。
後日談として、司くんは心臓近くにある銃弾の摘出や血液が足りないなどの問題が多々あったが、なんとか一命を取り留めたのであった。
司くんが撃たれました……えっと?
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