狙われた 総理大臣 (前編)
あの事件の後、本当に毎日忙しい日々を過ごした。
「あ〜、やっと事件の仕事が終わったー」
「お疲れ様です、司部長。お茶に致しますか?」
「ああ、そうだな。アイスレモンティーを頼むよソフィア」
ここは有明島の管理ブロックにある解決屋事務所。
今、事務所にいるのは僕・ソフィア・飛鳥・西園寺さん、後数人のメンバーを合わして7人だ。
他のメンバーは個々の依頼を遂行するためにこの場にはいない。
僕が知らぬ間に勝手に島内に解決屋の事務所を作り、さらに人員を確保してやがった。
僕はそれに対してまあ怒っているが、今は仕事の疲れを癒すためにアイスレモンティーを飲みながら、読書に没頭しよう。
ソフィアの入れたアイスレモンティーは本当に心が癒されるぐらい美味しい。
「ソフィア、アイスレモンティーまだかな?」
「はい、もうすぐできますよ」
「待ち遠しいな、早くできないかな。ソフィアの入れたアイスレモンティーはとても美味しいんだ」
「まあ、お褒めいただきありがとうございます」
「……む〜、私の方が美味しいのに〜」
「では、どちらが美味しくできるか勝負しますか? 西園寺さん」
「臨むところ、です!!」
「では……負けた方はこちらの激辛シュークリームを食べて頂きます」
え、激辛シュークリームって……
いや……西園寺さん、ソフィア何もそこまで向きにならんでも良くないか?
え? 朴念仁? 鈍感? 何言ってるのかな?
そのジト目は何かな? 飛鳥・西園寺さん・ソフィア。
女心は………よく分からない。
「はい、お待たせいたしました。ソフィア特製ブレンドアイスレモンティーでございます」
西園寺さんとの戦いはソフィアの勝利で幕を閉じた。
西園寺さんが、こちらを恨めしそうに見るのは………置いておこう。
「お、来た来た。ん? これは何かな?」
「そちらのクッキーは私が手作りしたものでございます。アイスレモンティーと会えばと思い、お作りいたしました。お口に合えばいいのですが……」
「いやいや、ソフィアの料理はどんなものでも美味しいから大丈夫だよ」
「そ、そんな褒めても何も出ませんよ?」
ソフィア、照れてる。本当、こういう時は可愛いな。
「それじゃあ、ソフィア特製ブレンドアイスレモンティーと手作りクッキーを楽しみながら、読書でもするかな」
僕がソフィア特製ブレンドアイスレモンティーに手を掛けようとした瞬間、僕の携帯が鳴った。
僕はため息を吐きながら、手を掛けたティーカップから手を離し、携帯を取り、画面を見た。
兵藤総理と書いてあった。僕のせっかくのひと時の時間が……と思っていたのは内緒である。
『今日は、出るのがちょうどいいな』
『ちょうどいいってなんですか? 兵藤総理』
『まあ、あれだ。分かるだろう?」
『………はぁ〜、もういいです。それより本題に入って頂けますか? 兵藤総理』
まったくいつもいつもウザいたっらありゃしないよ、兵藤総理。
『ああ、そうだな。ここから話すことは極秘事項だから他には話すではないぞ』
『ええ、そこは大丈夫です。仕事ですので』
『うむ。今日の朝のことだが、郵便受けに脅迫状が届いてな。はっはっは。今、写メを司くんの携帯にメールを送信している。届いたかな? 司くん』
『兵藤総理、笑い事じゃありませんよ。お、メール来ましたよ。何々……兵藤総理これは……』
『読んでくれたか、司くん。僕が依頼しようとすることがわかるかい?』
『……身辺警護の依頼でしょうか?』
身辺警護の依頼と言葉を発した瞬間、事務所内に緊迫した空気が流れた。
『ああ、そうだ』
『……』
『大丈夫かい、司くん。この依頼、遂行してくれるかい?』
『直ぐには返事ができそうにはない依頼ですね。この依頼はいつからいつまでですか?』
『今日の18時から当日のミーティングを総理大臣官邸内にある公邸の会議室でするからそこに来てくれ。あと、警備の者には解決屋の司くんが僕の身辺警護のために来るから通すように伝えておく。あ、忘れていた。期間は8月12日〜8月16日の5日間だ』
僕はこの依頼を受けるべきか否か考え出した。
だって、今の時間が15時を過ぎた頃だったからだ。
事務所内のメンバーも僕がどんな結論を出すのか固唾を飲んで見守っていた。
そして、僕はこの依頼を受けることにした。
『兵藤総理、その依頼お受けいたしましょう』
『おお、受けてくれるか。ありがとうよ』
『では、警護の依頼は中規模解決費に当たりますので、60万円警護の依頼達成後、僕の口座にお支払下さい。口座情報は追って手紙でお送りします。最後に、警護の依頼が遂行できなかった場合は頂きません』
『おお、わかった。じゃあ、またな』
『はい、また』
兵藤総理との話を終えた僕は電話を切った。
「司部長、身辺警護大丈夫でしょうか?」
ソフィアの心配する声を皮切りにメンバーみんなが心配する目をこちらに向けてきた。
「大丈夫だと思いますよ」
僕は自分の中で何か引っかかることがあることを他のメンバーに悟られないように何のことはない依頼だと思い皆にそう伝えた。
そして、僕は警護の依頼遂行のために準備をしに自分の部屋に足を運ぼうとした。
すると、メンバーの飛鳥が服の裾を引っ張ってきた。
「どうしたんですか? 飛鳥」
「拙者も着いて行きたいでござるが、よろしいでござるか?」
「え? 身辺警護の依頼にですか?」
「でござる」
「う〜ん、大丈夫かな?」
「ってか飛鳥、軍事局の方はいいのか?」
「いいでごさるよ。もしものことがあったとしてもサブスキルの遠隔操作で、どこにいたって指揮ができるでござるから」
ああ、そうか。サブスキルでできるんだったな。
「それに………大半のことは軍師殿に任しているでござるから大丈夫でござろう」
「いや、それはちょっとな〜。それに軍師の田端くんから僕に対してだな、作戦を全て俺に任して単身で敵陣に乗り込むのはやめてほしいって言われてるのだが……」
「田端〜、ちくりやがったでござるな……」
でもこの依頼、人数制限はされてないから大丈夫なのか。
それに、飛鳥がいると何かと助かるし、連れて行くか。
「わかりました。飛鳥を連れて行きます」
「ありがとうでござる」
「でも、この依頼は何かと大変だと思いますので、いつも以上にしっかりとした準備をしてくださいね?」
「でござる」
飛鳥にそう言い、自分の部屋に行った。準備を終えて戻ってきた僕は飛鳥に準備はできたかと聞いた。
「飛鳥、準備は出来ましたか? 急ぎますよ」
「準備万端、いつでも行けるでござる」
「そうですか。では、行きますよ」
僕はそう飛鳥に言い、玄関の扉に手を掛けた。
すると今度は、ソフィアが服の裾を引っ張ってきた。
「ええっと………ソフィア?」
「これ、もしものために上着の左ポケットに入れてください」
ソフィアは涙で顔を濡らしながら、懐中時計を僕に渡してきた。
僕はソフィアから懐中時計を受け取り、上着の左ポケットに入れた。
すると、ソフィアは何を思ったのか僕に抱きついてこう言ってきた。
「絶対無事に帰ってきてくださいね」
その言葉に対して僕は平常心を保ちながら、ソフィアに言った。
「僕は必ず無事に戻ってきます。だって、ソフィアのアイスレモンティーまた飲みたいですから」
そうしたら、ソフィアは嬉しそうに僕に抱きつく力を強めてきた。
だが……依頼の時間が迫っていること、復活した西園寺さんがこちらに飛び掛かってきそうなところを、飛鳥が何とか止めているところを知ったソフィアは名残惜しそうに僕から離れて最後に言ってきた。
「いってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
僕はその言葉に対し、ソフィアに返事を返して、総理大臣官邸内にある公邸に向かった。
「やっと着いたね」
「でござる」
僕と飛鳥は総理大臣官邸前に当日のミーティング時間の30分前に着いた。
まあでも、有明ランドゲート駅から東京駅までの直通新幹線に乗って、さらに丸ノ内線に乗り換えて、国会議事堂前駅で降りて、最後は徒歩って……ちょっと、遠くない?
所要時間はざっと見て、直通新幹線2時間18分・在来線12分ぐらいかな。
まあ、今はそんなことは横に置いといて、僕は警備の者に声を掛けた。
「すみません。兵藤総理に身辺警護を依頼された解決屋の司という者ですが、門を開けて頂けないでしょうか?」
「ああ、君が解決屋の司くんか。兵藤総理から聞いているよ。門を開けるから少し下がってくれないか?」
「わかりました」
僕はそう言いながら少し門から離れると、大型電動門扉が自動で横に大きな音を立てて開いた。
「ありがとうございます。公邸まではどう行ったらいいですか?」
「ああそれならこの道をまっすぐ進んだ先にあるあの建物がそうだ」
警備の人に聞くと、親切に教えてくれた。
「ありがとうございます」
「でござる」
2人で警備の人にそう言い、僕らは公邸に向かった。
……なんとか3分前に公邸に着いた。公邸に居た警備の人に会議室はどこか聞くと、会議室まで案内され、更に会議室に入れてくれた。
「おっ、やっと来たか。まあ、座りなさい。今、当日のミーティングを始めたところだから」
「すみません。遅れてしまって」
「すまぬでござる、兵藤殿」
「かまへん、かまへん。誰だって遅れることなんてあることや。それに、ここ来るの初めてやったんやろ。せやったらしゃあないよ」
兵藤総理は許してくれた。てか、東京出身と聞いていたが、関西弁凄いな。
当日のミーティングは何の問題もなく、無事に終えた。
まあ、僕と飛鳥が身辺警護をすることに対して反発は少しはあったが……
兵藤総理の身辺警護、1日目は特に異常は無かった。
2日目も同じく。襲撃は無いかと思われた3日目、事件は起きた。
兵藤総理が乗る総理専用車に僕と飛鳥は搭乗した。
目的地の千草ホール玄関前に着いて、兵藤総理が総理専用車から出た時だった。不意にサンツリータワーの屋上辺りがキラリと光った。
飛鳥は気づいていると思い、飛鳥の方を見た。だが飛鳥は気づいていなかった。
「危ない!!」
咄嗟に僕は兵藤総理を身辺警護していた飛鳥を声を荒げて突き飛ばし、兵藤総理を庇う形で前に立った。
風を切り裂くようなもの凄い音が鳴った瞬間、僕は狙撃された。
狙撃された反動で地面に仰向けに倒れ、その衝撃でソフィアから受け取った懐中時計が砕け、千草ホール玄関前に広がったおびただしい量の血の上に散乱した。
「………ご、めん。……みん……な」
僕は意識が朦朧とする中でその言葉を心の中で思い、意識を失った。
西園寺さん、可愛いですね。
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