失意の査察官 残した言葉の謎 (中編)
なんやかんやしている間に朱莉っちの別荘前まで着いた。
「着きましたなの」
「ここまでありがとうございました。ミズキさん」
「なの〜」
これって……口癖だよね。
なんか、デジャブるね……
「それで、ミズキさんは降りないのですか?」
「私は〜車に乗って待機してるなの」
僕たちは車を降りてドアを閉めた。車を降りた眼前には大きな別荘が聳え立っていた。
「それにしても、大きな別荘ですね。どれくらいの大きさなのですか?」
「確か……500坪だとお父様から聞いております」
「そっ、そんなに大きいのですか? これは……迷子になりそうですね。ということで朱莉っち、案内頼めますか?」
「はい、ではこちらです」
僕たちは朱莉っちの案内で別荘の敷地内にある庭園を抜けて白塗りの玄関扉まで来た。
すると、扉が自動で開き、長いエントランスが見えた。そこには、右側にメイド、左側に執事がずらりと並んでいた。そして、こちらに一斉に挨拶してきたのであった。
「「「おかえりなさいませ、お嬢様」」」
「ただいま、拓斗・日和・祐樹・和希……」
朱莉っちはメイドや執事に一人ずつ挨拶を返していった。すると、眼鏡をかけた高齢のメイドがこちらに向かってきて朱莉っちに間髪を入れずに言い放った。
「いつもいっていますが、いちメイドや執事にそのような言葉は不要です」
「え~、だってみんな私のかけがえのない家族だもん」
「だもんじゃありません。お嬢様、それでは周りの者に示しが尽きません」
「え~、だって」
「だってじゃありません」
エントランスに着いてからかれこれ10分ぐらいはこの言い合いしているんだが、朱莉っち、僕たちのこと忘れてないかな……
「あら? あなたは飛鳥さんですね。いつもお嬢様がお世話になっております。そちらの方はどちら様でしょうか?」
やっと気づいてもらえた。長かった……
「あの僕は……」
「おお、待っとたぞ。解決屋の司くん」
別荘に響き渡るぐらいのドでかい声がエントランスに響き渡った。
「さ、佐藤警部、相変わらず声大きいですね」
「いや~、すまねえ、すまねえ」
「いつもすまねえね。司くん」
「いやいや、桐ケ谷刑事が謝らなくても大丈夫ですよ」
「あの警察の方ですか?」
いや違うよ?
「いや、僕は……」
「彼は解決屋の司くんだ(だよ)」
「え? 解決屋?」
「あの、2人とも僕のセリフ取らないで……」
「すまねえ、司くん」
「いや~、すまねえ、すまねえ。ガハハハッ」
「痛いです、佐藤警部。背中を叩かないでください」
本当痛いって。マジで!!
「いや~、すまねえ、すまねえ。それで司くん、事件を解きに来たんだらず?」
「ええ、まあ。事件の話を聞くだけに留めておきたかったんですがね。まあ、いつものあれが原因で事件を解く羽目になったんですよ。はぁ~、ほんまに勘弁してほしいですよ」
「司くんの体質はいつもいつもえらいな(だね)」
「佐藤警部、桐ケ谷刑事、他人事みたいにいわないでくださいよ」
「いや、すまねえ。司くん」
「う~ん、他人事だからね。それより、現場に行くか? 行くんだら案内するが」
はぁ~、桐ケ谷刑事はちゃんと謝ってるのに、佐藤警部は相変わらずですね。僕がこの体質のせいで大変なのにね~。まあ今はいいか。それより現場に案内してもらおうかな。
「では、ぜひ」
「お待ちください。部外者を中に入れることはできません」
「部外者って、おい」
「彼は解決屋の司くんと先程、伝えましたが」
「解決屋の司くんとは、何をされる方なのかはっきりと申して頂かないと、ここをお通しすることはできません」
中々に仕事熱心なメイドですね。……しかし、言葉の裏に何か隠していますね。まあ、今は置いておくとするか。
「ええっと、僕は解決屋の司というもので、主に人の困り事を解決することを生業にしている者です」
「そ、そうですか……」
「では、なぜこちらにお越しになったのでしょうか?」
「ええ、それについては朱莉っちが慎二さんの事故は事件だと依頼させたもので、こちらに来た感じです」
「お嬢様が?」
何やら不穏な空気が漂ってきたよ……
「ええ」
「お嬢様、一体どういうことですか? 慎二様は不運な事故でお亡くなりになったのですよ。それを事件だなんて。それをまた警察の方やあまつさえ解決屋などという者に依頼されるなど、奥様がお知りになったらなんと申されるか」
解決屋などという者って、おい。
「桐原、口を慎みなさい。それに、お母様はこの話に関係ないでしょ。司くんに依頼したのも私が慎二さんの事故死に疑問を抱いているからであって……私の独断だからここは通させてもらうから」
また言い合いになってしまった。それより気になるのは、飛鳥が車から降りてからひと言も話していないことだ。後でさりげなく飛鳥に聞いてみるか、それに今はこの場を切り抜けないと……
「いや、しかしお嬢様」
「くどい。司くん行こ」
「いいのか、この場を後にして」
「いいのよ。桐原は昔からあんな感じだから」
「そうなのか? いや、しかし……」
何か……引っかかるんだよな。
「どうかしたの? 私の話したことに何か疑問でもあった?」
「いや、気のせいかな」
「なにそれ、可笑しな司くん。それより、現場に行きましょ」
「ああ、そうだな」
僕たちはエントランスを抜けて廊下まで出た。しかし、出たはいいが廊下が二手に分かれていた。一体どっちが現場だ? 僕は悩んだ。すると、後ろから僕たちを飛ぶ声が聞こえてきた。
「お〜い、待ってくれ。司くん」
「わしらをあの場に置いて先々行かんでくれ」
「いや、すみません。朱莉っちと話していたら先々行ってしまいました」
警部たちもあの場を切り抜けたようだ。良かった。よし、佐藤警部に現場まで案内してもらおう。
「それで佐藤警部、現場はどちらですか?」
「ああ、こっちじゃん」
佐藤警部は右側の廊下を指さして案内をし出した。すると、茶色い扉が見えた。古い扉だ。桐ケ谷刑事は徐に扉を開けた。
「ここが……現場ですか」
「そうだ。車の残骸や遺体なんかも全て警察が押収して綺麗になってるがね。帰りに警察署に寄っていくか?」
「ええ、まあ。まずは現場を見たいので小1時間だけこの現場を貸して頂けますか? 佐藤警部」
「わかっとるよ。いつも通りに現場を貸せばいいのだな」
「はい」
「相変わらず、いい返事をしよる。まあ、それでいつも事件を解いているから、期待しとるよ。解決屋の司くん」
「茶化さないでください、佐藤警部。まあ、気長にしますよ。小1時間後にまた現場に来てください」
………小1時間後
「1時間経ったから来てみたが、何かわかったかね司くん」
「ええ、まあ……」
「何だい歯切れの悪い返事をして、どうしたんだ。司くん?」
「佐藤警部、桐ヶ谷刑事、事件関係者全員をガレージに今すぐに集めてください!!」
「今すぐかい? 何をそんなに慌ててるんだ」
「何をそんなに慌ててるんだ。司くん」
「今すぐじゃないといけないのです。だって……」
空気を切り裂くような女性の悲鳴が別荘内を駆け巡った。
「くそっ、遅かったか」
「何がどうなっているんだ。司くん」
「話は後です。後藤家当主の後藤勝さんの書斎に行きますよ」
僕たちは急いでガレージを出て、廊下を走り抜け、書斎まで移動した。
「お、お父様、どうして……」
すると、そこには……胸元に果物ナイフが刺さった状態で床に仰向けになって倒れている後藤家当主の後藤勝さんを抱きしめながら泣き崩れている朱莉っちが眼前にあった。
「お嬢様、危のうございます」
「離して、桐原、お父様が、お父様が!!」
「ダメです。お嬢様」
「でも!!」
僕たちは桐原さんが朱莉っちをなだめている光景を見て、落ち着きを取り戻し、現場の保全に着手し始めた。
「今から現場を保全するので、朱莉さん、桐原さん現場から出て頂けるか?」
「桐ヶ谷、現場の保全を最優先にしてくれ」
「わかりました。佐藤警部」
「僕も現場を見ていいですか?」
「ああ、いいよ。なんなら小1時間だけこの現場を貸さずか? 解決屋の司くん」
「ええ、そうして頂けるとありがたいです」
朱莉っちと桐原さんが現場から出て、そんな話をしているときに、ふと僕の携帯が鳴りだした。
「失礼、電話のようです。………はぁ〜、兵藤総理か……」
『おっと? 今日は出るのに時間が掛かったね』
『うるさいですよ、兵藤総理』
『お前さんも相変わらずよな』
『だからうるさいですって、兵藤総理』
真剣な話なため、一拍間を持たせて、話を切り出した。
『それで……この場面で電話がくるということは、古都慎二さんは政府関係者ですか?』
『ああ。そうだ……今からその話を話すから、司くんの推理に役立ててくれたら嬉しく思うよ』
『わかりました。順序立ててお聞かせください』
『ああ。慎二とは……』
『ありがとうございました。兵藤総理』
『では、またな』
『はい、また』
兵藤総理との話を終えた僕は電話を切った。
「司くん、今の電話誰からだい?」
「兵藤総理と聞こえたんだけど、気のせいだよね?」
「佐藤警部、桐ヶ谷刑事、そのことはまたおいおい話します。それよりも今はこの事件を……」
なるほど……あれがこの事件の鍵だったわけか。そうすると、ふむ。……これでこの事件のピースが全て埋まったわけだ。
「お、その顔は何かわかった顔だな司くん」
「ええ、まあ」
「佐藤警部、桐ヶ谷刑事、事件関係者全員をリビングに集めてください。事件の謎を解き明かします」
佐藤警部と桐ヶ谷刑事は長野県出身です。
そのため、所々長野弁で話しています。
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