プロローグ (前編)
2021年8月5日9時54分12秒
突如耳をつんざくような音が世界にこだました。
僕は咄嗟に耳を覆った。だが音によるダメージは大きく、その場に倒れた。
数分してから僕は起き上がった。床には先ほど飲んでいたアイスレモンティーが入っていたであろうティーカップの破片が散乱していた。
「うぅ……今の……音は?」
僕は意識朦朧としながら立ち上がった。すると、不意に外から嫌な気を感じた。
僕のこういう時の感覚はよく当たる。解決屋としての仕事で、今まで幾度となくこれに救われたことがあったからだ。
様子を伺いながら僕は部屋の窓側まで向かい、窓を開けた。……外を見た僕は、自分の目を疑った。1分や2分そこらまで明るかった外は……黒一色に染まっていた。
「え、何……これ?」
僕はそれが影だと分かるまで幾ばくも掛からなかった。なぜなら、空気が張り裂ける音と共に影が濃くなっていたからだ。
時が止まったかのようにゆっくりとされど早く、空を見上げた僕は……驚愕した。
「な……なんだあれは!?」
まるで太陽が落ちてきたかのような真っ赤な物体が目に入った。
それが近づくにつれ、日本を覆う程の隕石だと分かった。
「ま、まずい。これは……」
僕は関係各所に連絡を入れようと携帯に手を伸ばした……時だった。隕石の軌道が日本より大幅にずれ、海に落下した。
「はぁ〜、良かった」
安堵の気持ちを口にした僕は、あのままだと隕石が日本を直撃して、甚大な被害が起きただろうということを思い返して、冷や汗を流した。
冷や汗を流してから数分後、もの凄い地響きがあたりに響き渡った。
地響きから考えて地震が起きるのではないかと思っていたが、地震は来ず、被害は立て続けに起きた音によるものだけに留まった。
そんなことを考えている時、机の上に置いていた携帯の着信音が鳴った。
「はぁ〜、嫌だな……」
このタイミングで携帯が鳴るということはあの人しかいないよ……そう思うと、どっと疲れが出始めた。
「ちっ、やっぱりね。はぁ……出るか」
携帯の液晶画面を見て愚痴を呟いた。
『はい、司です』
『今日は出るのが早いな』
『………切りますよ?』
『いや待った、待った、待った。冗談だって』
毎度毎度、冗談ばっかりいう兵藤総理には本当疲れるよ。
『はぁ〜、依頼の電話なんですから内容は手短にお願いします』
『分かった、分かった、分かった。あいも変わらず冗談の通じない野郎だな』
『本当、切りますよ』
僕は堪忍袋の尾が切れそうになった。
『依頼内容はだな。先程、太平洋に落下した隕石へ向かい調査を依頼したいというものだ。できるか?』
『落下した位置って、太平洋だったんですね?』
『ああ、その通りだ。今、現場までの船を手配した』
冗談ばっかり言うくせに、仕事は早いんだよな。
『わかりました。金額はいつもの通りでお願いします』
『ああ、わかった』
『健闘を祈るぜ』
あ〜、最後までうざかった。
兵藤総理が手配した船に揺られて現場まで向かった。
「うぅぅ………」
この船……いや、海? 波が激しくて船酔いが………
そんな惨状も束の間、波が急にぴたりと止み、辺りが静寂に包まれた。
「な、なんだ?」
僕は辺りを見渡した。……すると、先程まで海だった場所に陸地が現れた。
「マジか、これは今まで以上の大仕事になりそうだな」
船がやっとこさ着岸出来そうな場所に着いた。
「船長さん、僕がもし5分しても戻らなかった場合、兵藤総理に電話して下さい」
「おう、わかった。おめえさんも気をつけて行きなよ」
「ああ、分かってるって」
「よっこいしょ、ここがあの隕石か?」
見た感じ陸地? なところに上陸した。
「ここが、島の中心部だよな? ん? ありゃ、なんだ?」
陸地? に上陸した僕は辺りを散策しながら、島の中心部まで突き進んだ。
すると、中心部にポツンと石碑が建っていた。
「えらいけったいな物がある」
僕には面妖な物に触れないという考えがある。だがしかし調査のためと思い、やむ無く、石碑に手をかざした。
そうすると、『こんにちは、初めまして。私の名前はマーヤと言います。あなたのデータを登録しますか? YES or NO』とそれが話しかけてきた。
僕はびっくりして手を離そうとした。だが調査を続行するため、YESを選択した。
『データ登録完了しました。あなたを島の統括者に登録しますか? YES or YES』
島の? 分からない、分からない………NOを選択しようとした。だが、YESしかない。仕方がなくYESを選択した。
『島の名前と管轄を登録してください』
「島の名前ね。う〜ん……何にしようか。隕石島、ゴンザレス島、笹塚島、違うな〜。………!! そうだ!! 有明島にしよう」
「島の管轄は………日本で良いかな」
頭を捻りながら色々な名前を考えた。そんな中でしっくりくる名前をこの時見つけた。
名前では悩んだが、管轄はすんなりと答えが出た。
そして、登録画面に有明島と記入をし、OKを押した。
『島の名前を有明島、管轄は日本にします。ようこそ有明島へ。また、島の統括者おめでとうございます。島の統括を開始しますか? YES or NO』
僕はその返事を返そうとした。だが、急にめまいがして、その場で気を失ってしまった。
『島の統括者からの返答が無いため、自動モードに移行します。………気に入りました』
僕は気を失いかけた時に何か得体の知れないものが聞こえた気がした。
僕はその時、また面倒事に巻き込まれたと思った……
………10年後
『起きてください。マスター』
知らない声が聞こえる……誰だ君は。
『今はまだ、知らなくていいです。あと、島の管轄を日本にしたこと……日本の偉い人に伝えましたよ………さあ早く起きてください。私の統括者様』
き、君は、もしかして……
「僕は……気を失っていたのか」
「ここは、病院か?」
そんなことを意識が混濁する中、呟いた時、病室の扉が開いた。
「司くん?」
「西園寺さん?」
「司くん!!」
扉の向こう側には、いつも何かとお世話になっている秘書の西園寺さんが立っていた。
っていうか、僕に猛スピードで迫ってきて、僕を抱きしめてきた。
「痛いよ、西園寺さん。ちょっと離してよ」
彼女は僕が想像する以上の力で抱きしめてきた。
「やっと、やっと、起きてくださいましたね。司くん!!」
「今度は絶対、何があっても離しません!! あんな思いをするのであれば、私は、私は!!」
「まあまあ、落ち着こ、西園寺さん」
何があったかは知らないけど、今は彼女を退かすことが最優先だ。
まあ、何があったかは検討はつくけど。
だから、僕は彼女の頭を撫でた。
「う〜っ」
彼女の顔が真っ赤に染まり、頭から湯気が出ていた。
「もう大丈夫? 西園寺さん」
「はい!? すみません……取り乱してしまって…」
「いやいいよ。まあ、あんな取り乱した西園寺さんが見れて僕的には、お得って感じかな〜」
話し終えた後、彼女を見るとぷくっと両頬を膨らませて涙目の彼女が目の前で震えていた。
「司くんは、いけずです!!」
「まあまあ、良いじゃん。それより、なんで僕、病院で寝てるの? ってか、西園寺さん身長伸びた!?」
僕はその場の話をはぐらかしながら、今までの状況を西園寺さんに聞いた。
「はぁ〜、全く。相変わらずですよね。司くんのそういうところ、直した方がいいですよ」
「うん? なんのことだい?」
僕はおちゃらけてみた。
「……はぁ〜、もういいです」
「それで、今までの状況を聞きたいということですが、心の準備はよろしいですか?」
心の準備とはなんぞや?
「なんだい? 改まって、たかが数時間気を失っていただけでしょ?」
「司くん、あなたはあの日から10年眠っていたのですよ」
「…………!? え!? 僕……10年も眠っていたのか?」
「ええ、そうです」
10年か…………だいぶ眠っていたな。
「あの日から10年か…………島は、そうだ島、有明島はどうなっているんだ!?」
「その話は私から追々話しますので、今は総理をお呼び致します」
追々か、まあ気長に聞こう。
「え? なんで兵藤総理?」
「今はゆっくり……したいんだけど?」
本当、兵藤総理には無茶な依頼ばっかりされた記憶しかないんだけど……
憂鬱だよ、全く。
「まあまあそう言わず、兵藤総理も大層、司くんを心配なされていましたよ?」
「本当に?」
「はい」
「そうか、そうだといいなぁ」
あの兵藤総理がね〜、まあ多分ないと思うけどな。
数分後、扉が勢い良く開いた。
「お、元気そうじゃん」
「これが元気そうに見えるのであれば、兵藤総理の目は節穴ですよ」
やっぱり、嘘だったよ。
「そういうところが元気だっつてんだろ」
「それで、起き抜けの僕になんのご用ですか?」
「ああ、そうだ、そうだ、忘れるところだったぜ。お前さんと会って話すと話が右往左往していけねえぜ」
「で、ご要件は? 無いのであればそちらの扉から出て行って下さい。僕、休みたいので」
イライラするよ、兵藤総理。
「急かすな、急かすな、相変わらず俺が総理大臣だっていうのに、口調は変わらずだよな」
「その件に関しては兵藤総理の方からフランクで良いと言われたと記憶していますが?」
全く、兵藤総理のペースは疲れるよ。
「まあ、その通りだけどよ……あっ、いけね。また話が右往左往しちまったぜ。う〜ん、何だったかな? ……おっ、そうだ」
兵藤総理がニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。
「お前さんにプレゼントがあるんだよ」
「プレゼント?」
嫌な予感しかしない。
「お前さんが眠ってからの10年、俺が統括者の代わりをしてやったんだよ。……まあ、だけどよ。俺は島国の管理は一つで良いと思うんだ。……っていうことでだ。統括者の全てをお前さんに返納しようと思う。どうだ? 嬉しいか?」
「…………はあ〜!?」
何言ってんだ? こいつ。
「良いリアクションをありがとよ。詳細に関しては、西園寺から聞きな。んじゃまたな〜」
兵藤総理は要件だけ伝えて、颯爽と部屋から出て行った。
「マジかよ………」
聞かなきゃ良かった。
あの後、事の顛末を西園寺さんから聞いた。
「勘弁してほしいぜ。全く」
まさか、10年も眠るとは……
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