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タナベ・バトラーズ

【タナベ・バトラーズ】散歩へのお誘い

作者: 四季

 海のような色の髪を持つネイベリルは、アグマリアを代表する機械部品メーカーの社長の娘。その生まれゆえに、アグマリア統治者である青年ラベスの妻となった。


 ネイベリルは窓の外を眺めるのが好きだ。

 だから、用事がない時間は大抵、自分の部屋で窓の外を眺めている。


 アグマリアは周辺国と比べて先進的的な要素を持つ国であり、街も機械化されている部分が多い。が、ラベスとネイベリルが過ごす屋敷には、植物を植えた庭がある。これは、ネイベリルが庭園が好きだと知ったラベスが用意したものである。


 ある昼下がり、ネイベリルの自室の扉を誰かがノックした。


「いらっしゃいますか? ネイベリル様」


 ノックに続いて聞こえてくるのは女性の声。その声の主をネイベリルは知っている。というのも、声の主はネイベリルがよく知る人物——侍女長なのである。


「……はい」


 ネイベリルは消え入りそうな声で返事をした。

 死にかけの虫のような弱々しい声。しかし弱っているというわけではない。ネイベリルは声が小さいのだ、昔から。


「ラベス様がお会いしたいと」

「……どうぞ」


 侍女長が扉を開ける。

 その背後には、長めの金髪をきちんと一つに束ねている青年ラベスの姿。


「いきなりすみません、ネイベリルさん」


 侍女長が何か言うより早く、ラベスが口を開いた。


「いえ……」


 ネイベリルは持っていたティーカップをソーサーの上にそっと置く。

 かちん、と、微かな音が空気を揺らす。


「庭を散歩でもしませんか?」

「あの……すみません。結構です……」

「どうしても嫌ですか?」

「嫌、では……ないですけれど……。その、放っておいてください……」


 ラベスは包み込むような視線をネイベリルに向けている。しかしネイベリルはラベスを見ようとはしない。ネイベリルは何か発する時ですら目を伏せたまま。ラベスに視線を向けることを心が拒んでいるかのよう。


「分かりました。では、今日はこれで失礼します。残念ですが……。ネイベリルさん、都合が良い時があれば言ってくださいね。いつでも伺いますので」


 ラベスは一礼し、入口の方へと歩き出す。


 彼が部屋から出ていく瞬間——ネイベリルはようやくラベスの方を見た。


「あ、あのっ……!」


 驚いて振り返るラベス。


 その時ネイベリルは椅子から立ち上がっていた。両手を胸の前に集め、恐る恐る目を開いて、何か言いたそうに数回口をぱくぱくさせる。


 それから十秒ほど間があって。


「本当に、嫌っているわけでは……ないですから……っ!」


 ネイベリルは珍しく聞き取れるような声で告げた。

 そんな彼女を見て、ラベスは静かに微笑むのだった。



◆終わり◆

挿絵(By みてみん)

↑ラベス


挿絵(By みてみん)

↑ネイベリル


挿絵(By みてみん)

↑侍女長 (マチルダ)

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― 新着の感想 ―
[良い点]  最後の一言がなくても、もしかしたらラベスはネイベリルの気持ちをわかっていたのかもしれませんが。  言葉にすること。言葉で聞くこと。  あるとないでは大きな違いだと思います。  きちん…
[良い点] (夫婦だけど)恋とトキメキの予感……! ネイベリルさんの為に庭園を用意するラベスさんに愛を感じました。 近い内に二人で仲良くお散歩出来ると良いですね。 可愛いお話をありがとうございました…
[良い点] 拝読しました。 ラベスは大人な感じですね。 ネイベリルは引っ込み思案なタイプなのでしょうか。 でも、最後に頑張って言ったセリフはとてもいいですね♪ 今後2人がどうなっていくのか、続きが…
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