⑤流れゆく水流、スフラ様復活へ
いよいよ5話目に突入です。今回は、スフラ様の復活へ向かいます。
しかし、ハルキに最大のピンチが訪れる!?
1.いきなり大ピンチ!
今日から騎士学校の夏休み。1ヶ月くらい続くから、女神様の復活により力を入れられる。だから私は、休みの日にも関わらず、早起きをした。
「うーん、よく寝た。」
横を見ると、ハルキはやはりまだ寝ていた。時計を見ると、まだ6時。さすがに蛇子たちも起きていないのか、1階からも音がしない。
「早すぎたかな…。そうだ!」
私は、あることを心に決めた。あることというのは…。
数日前…
今日は騎士学校があるため、女神様の復活が出来ない。ミユキや蛇子は騎士族じゃないから、一緒に学校に行けないし、ハルキは天族の天使だから、外に出て誰かに見られたら大変。だから、学校には1人で行くしかない。かといって、学校に友達がいるわけでもない。退屈な学校生活だった。
6時間目は、剣の実技試験がある。それに備え私は、昼休憩は剣の練習をしていた。
「あいつ、真面目すぎるよな。」
「ほっとこうぜ。」
どうでもいいことに気を配る私に、話しかける人はいなかった。その上騎士族は私以外、全員男。そのせいもあってか、まだ誰とも話せていない。
すると。
「あの、チアキさん。」
(えっ?)
誰かの声だ。しかも女の子。振り向くと、そこにはクラスメイトのミケがいた。
「何、ミケさん…。」
ミケ。騎士族ではないが、旅人で、騎士のような強い人になりたい、という思いで、夏休み前の7月の間だけ、学校に来ている。眼鏡をかけてるし、いつも本を読んでるから、話しかけにくいというか、友達いない系女子の私が、話したらいけない気がしていた。
そんなミケが、私に話しかけるなんて…。
「剣の練習してるの?」
「う、うん。」
「すごいね。」
「あ、ありがとう…。」
「もしよかったら、一緒に練習する?」
「いいけど…。」
私たちは、一緒に練習をした。
「そういえば、どうしてチアキさんは、他の人に話しかけようとしないの?」
「それは…なんとなく、勇気が出ないっていうか…。」
「友達は?」
「いない。」
(家にはいるけど。)
「じゃあ…私と友達にならない?」
「……えっ!?」
(なんでなんで?今初めて話したのに!こんな私と!?友達!?)
でも、嬉しかった。だから、言った。
「私で良ければ…。」
というわけで、今からミケに会いにいこうかな、と思ったの。
(私が出てる間にハルキたちが起きたら、心配されるかな…。)
と思った私は、メモを残しておいた。
「友達に会いに行ってます。9時までに戻るね。」
と、書いた。
家を出たとき、私はあることに気づいた。ミケは旅人。どこにいるのか、分からないのだ。
「そうだった、どうしよう…。」
私が困った。で、ふいに横を見た。
(説明しよう!チアキの家の隣は空き地で、公園のように広いのだ!)
「ナレーション、うるさいよ。」
そして、気づいた。空き地に、テントが建っていたのだ。
「もしかして…。」
すると、その時。
「チアキ、おはよう。」
ハルキが家から出てきた。
「お、おはよう、ハルキ。あの、どうして出てきたの?」
「いやぁ、外にチアキがいたから、何かあったのかな〜、と思って。」
(あれ?メモ見てないの?)
すると、最悪の事態が…。
(あっ、テントからミケが出てきた。ヤバい!)
このままでは、天族の存在がバレてしまう。ハルキは…気づいていない!
「あの〜ハルキ。ちょっと家に戻ってくれない?」
「えっ、なんで?」
私はもう一度、ミケの方を見た。幸い、こちらを見ていない上、自身の茶色くて短い髪を整えている。
(よかった。見られてない。)
「あっ、そうだ!蛇子たち起こそ!早く朝ごはん作ってもらおっ!」
(説明しよう!蛇子たちは、もう起きているのだ!)
「ナレーション!声大きい!」
「あっ、チアキ。」
(げっ。)
案の定、ミケが私に気づいた。しかも、こちらに向かってくる。
「ハルキ!早く戻ってっ!」
「えっ?…分かった。」
ハルキが家に入り、ドアを閉めた瞬間、ミケが私の家の前に来た。間一髪とは、まさにこのことだ。
「ミケ。そこにテント建ててたんだ。でももう8月だし、学校には来ないんじゃあ…。」
「うん。でも、せっかく友達ができたから、パスポートを更新して、もう少しだけここに住めることにしたの。」
「友達って、私のこと?」
「もちろん。…ところで、話は変わるんだけど。」
「なに?」
「ハルキって、誰?」
(ドキッ。)
ミケには聞かれていたのだ。
(あれっ?ていうかこれ、ナレーションのせいじゃない?)
「ねえ、教えてよ。」
「それは…。」
すると、最悪の事態(その2)が…。
「チアキ、朝食ができましたよ。」
蛇子が、私を呼びに来たのだ。
「チアキ、あの人は?」
ミケが言った。私が戸惑う中、蛇子は言った。
「私は黒池蛇子です。チアキと一緒に暮らさせてもらっています。」
「あっ、そうなんですか。あの、黒池さん。」
「なんですか?」
「ハルキ、という人、知りませんか?」
(蛇子なら、内緒にするよね。)
「あぁ、ハルキなら今、朝食を食べてますよ。チアキ、案内してあげて。」
「えーっ!」
蛇子はそう言い、家の中に戻った。私は蛇子を信じ、ミケを案内した。
「こ、こっちだよ…。」
そして、おそるおそるリビングに入った。
(あぁ、どうか、神様…。)
やはり、ハルキがいた。しかし、上から布をかぶり、翼が見えなくなっていた。
(えっ?)
蛇子に目をやると、こちらを見て親指をたててGOODマークをした。おそらく、蛇子が布をかぶせ、翼を見えなくしたのだろう。ハルキもそれを理解してか、落とさないように慎重に行動している。
(あー、よかった。)
「あなたが、ハルキ?」
「うん。君は?」
「私はミケ。旅をしているの。よろしくね。」
「よろしく。」
ミケは手を出し、ハルキと握手した。…と思ったら。
ミケは手をサッと動かし、布を落とした。
「あっ!」
ハルキは、急いでその場を離れようとしたが、遅かった。
白く輝く美しい翼を、ミケに見られてしまった。
「やっと見つけたわ。」
2.大騒ぎ
ミケは、黄色い瞳をギラリと光らせた。
「ミケ?どういうこと?」
「私はね、ずっと探してたのよ。白い翼を持つ、オレンジの髪の男を!」
そう言いミケは、するどく尖った爪を5cmくらいに伸ばし、ハルキに襲いかかった。
「ミケ、やめて!」
しかし、その声は届かず、ミケはハルキをひっかいた。しかし。
「ギャッ。」
ミケは、手をおさえてよろめいた。
「なに、こいつの体?鋼のように硬い。私の爪でひっかけない物があるなんて…。」
(ハルキの体の頑丈さが効いたんだ。)
「ミケ!もうやめて!」
「うるさい!」
今度は、ハルキの左腕を掴み、強く握った。
「これなら…。」
ハルキは、さすがに痛そうな素振りを見せた。
(どうしよう。ハルキを助けたい。)
私は、剣を抜こうとした。
(でも、せっかくできた友達を、傷つけたくない。)
剣を抜こうとする手を止めてしまう。
(どうすれば…。)
すると、その時。
「『アイスビーム』!」
どこからか水色のビームがきて、ミケに直撃。凍りついた。
「ミユキ!」
やはり、ミユキだった。
「ハルキ、大丈夫?チアキ、蛇子、何があったの?」
「実は…。」
私は、事情を説明した。ミユキは言った。
「なるほど。じゃあ、倒すべきだね。」
「いや、でも!友達なの!」
「魔族の一味かもしれないのよ!ハルキが危ないわ!」
「……。」
私は、何も言えなかった。
「じゃあ、『アイスク…」
「待って!」
ハルキが言った。
「ミケは悪くないんだ!」
「ハルキまで!今、攻撃されてたでしょう!?」
「ミケは、呪われているんだ!」
「えっ?」
ハルキは続けた。
「ミケが僕を掴んだとき、すごく辛そうだった。それに、なんだか怪しいオーラが見えたんだ…。」
私は、目を凝らしてミケを見た。でも、オーラなんて見えない。
「僕なら、なんとか出来るかも。」
「ほんと!?」
と、ミケの氷が砕け、こっちに走ってきた。
「一か八かだ。」
ハルキは、ミケに左手を向けた。
「逃げもしないとは。諦めたか。」
ミケは、また爪を伸ばした。すると。
ハルキが、ミケの頭を掴んだ。
「な、なによ!」
ハルキは、目を閉じ、何も言わなくなった。
「は、離してよ!離してってば!」
ミケは、両手でハルキの手を離そうとした。でも、びくともしない。
「このばか力は何!?…うっ!」
「ミケ?」
ミケが、苦しそうにうめきだした。
「うーっ、うっ…。」
「ミケ、しっかり!」
そして、ハルキの左手の☆印が一瞬だけ光り…。
「ギャーッ!」
「ミケ!」
ミケから、赤い、でも黒いオーラが飛び出した。
「!?何?」
蛇子が超能力を使うときもオーラは出るが、色も雰囲気も、全然違う。
そのオーラは、またミケを包みこもうとした。しかし、ハルキが言った。
「関係ない人を巻き込むな!闇に帰れ!」
その途端、オーラは、地面の下に消えていった。
ミケは気を失い、その場に倒れこんだ。
「ミケ!大丈夫?しっかりして!」
「チアキ、落ち着いてください。あくまで気絶しているだけです。ケガも無さそうですね。」
「よかった…。」
私は、ホッと胸をなでおろした。
「それにしても、なんだったんだろう?」
「たぶん、魔族の呪いだ。」
「呪い?」
「うん。魔族だけが使える能力で、強い魔族ほど、より強力な呪いを使えるんだ。呪いにかかったら、全ては奴らの思うつぼだ。場合によっては、行動も、思考も操られる。最悪の場合、意識を失い、そのすきにさらったり、乗り移ったり、もっと呪いをかけて、魔族の仲間にしたり…。」
「そんな…。じゃあ、ミケは!?」
「たぶん、そんなに強い呪いじゃないね。僕を襲うときも辛い表情だったから、心は操られてなかった。それに、僕の翼を見るまで、なんともなかったじゃないか。」
「そうなんだ。本当によかった。」
「ミケは、私が見とくね。」
ミユキが言った。
「うん、ありがとう。」
「私がミケを見てる間に、女神様の復活に行ったらどう?」
「それいいね!」
「でも、1人で大丈夫?」
ハルキが、心配そうに言った。
「大丈夫!今までずっと1人で生きてきたから慣れてるし、私には魔法があるし!」
「そっか、ならよかった。」
「で、今日は誰を復活させるのですか?」
「今日は暑いし…スフラ様にしよっかな。」
「その根拠は?」
「ファイナ様だけで放置してたら、ますます暑くなっちゃうよ。スフラ様の水で、少し涼しくしないと。」
「分かりました。では、地図を貸してください。水の女神様ですから、水の島に着地したらいいのですね。」
「そう。」
「では、いつものやつをしますよ。準備はいいですか?」
「もっちろん!」
そして、蛇子が私たちを浮かせ、空に運んで行った。
3.水の島、ほぼ海
数分が経過し、私たちは水の島についた。私は、とにかく驚いた。
「これっ、ほぼ海じゃん!」
砂浜もあるが、あとは全部海。島の縁ギリギリまで、海が広がっている。
「ちょうど暑かったんだよね。泳いでもいい?」
「いいよ。あ、この海は特別で、濡れても海から出ればすぐに乾くんだ。だから、服が濡れる心配をしなくていいんだよ。」
「そうなんだ。じゃあ、もういい?」
「うん。」
私は、海に飛び込んだ。海中はとてもきれいで、熱帯魚がたくさん。青色に透き通る海は、どこまでも続いているように見える。
(すごい。この景色、いつまでも見ていられる。)
でも、息が苦しくなって、水面に戻る。
「プハーッ。」
私は、ハルキと蛇子にも、今見た景色を見てほしいと思った。
「ハルキー、蛇子ー!すっごいきれいだよー!見てみてよー!」
「分かりましたー!」
蛇子が、こちらに向かって泳いでやってきた。勢いよく飛び込む派ではないようだ。
「あれ、ハルキは?」
「さあ?まあ、すぐ来ますよ。」
ハルキは、私たちを見て、ただニコニコと笑っていた。でも、一切海に入ろうとしない。
「そっか…。」
(ハルキにも見せたかったな。)
「では、見てきますね。」
「待って、私も!」
「いいですよ。」
私たちは、息を大きく吸い込み、同時に潜った。何度見ても飽きないこの景色。…よりもすごいものがあった。
蛇子が、体を上手く回転させ、ものすごい速さで泳いでいたのだ。
(速っ!魚抜かしてるし!)
驚きで息を吐いてしまい、また苦しくなって、水面に戻る。
数分後…
「いやー、きれいでした。」
ようやく蛇子が戻ってきた。
「蛇子、すごいね!どうやって、あんなに速く泳いだの?どうやったら、あんなに長く潜っていられるの?」
「それはですねー…」
「はぁ、いいなあ。僕も見てみたいよ。」
僕は、砂浜に1人、座っていた。2人が楽しそうで、思わず海に入りそうになる。
でも、僕は泳げないから、見に行けない。
(なんか、言い出しにくいな…。)
「よう、堕天使。」
「えっ?」
誰かの声が聞こえた。僕より低い声。誰の声か、すぐに分かった。
「カメリア!」
僕は、後ろを見た。やはり、カメリアだった。
(まずい、チアキたちは海の中。僕は2人に比べたら無力だ。戦ったら、間違いなく負ける…。)
「そんなに怯えるなよ。今は戦う気は無い。」
「それは本当か?」
「あぁ、もちろん。そんなことより、なぜお前は1人なのだ?」
「お前に教える筋合いはない。」
「まあまあ。話くらい聞いてやるよ。」
(そうだ。ここで話しているうちに、チアキたちが海から出るだろう。そこまで時間を稼げば、カメリアを倒せるかもしれない。)
そう思い、カメリアに説明した。
2分くらいかけて話し続けた。なのに、チアキたちが上がってこない!
(なんで…。)
「そうか。要するに、おいてかれたってことだな。」
「ま、まあそうかな。」
幸い、カメリアは全く攻撃をしかけてこなかった。
(時間稼ぎは出来てるかな…。)
と、カメリアは言った。
「ふっ、ダサッ。」
「なんだって!?ひどいじゃないか!」
「事実を言っただけさ。いつまでもグズグズしてないで、さっさと行ったらどうだ?」
「それが無理だから、ここにいるんだよ!」
「なら、こうするしかないってことか。」
カメリアは、目にも見えない速さで僕を掴み、遠くに投げ飛ばした。ちょうど海の真ん中あたりだ。
「お、おい!何するんだよ!」
下に落ちていくに連れ、海が近づいてくる。
カメリアは、飛んでこちらに来て、言った。
「俺に感謝することだな。このまま海に落ちて、沈んだら、スフラ様の神殿があるはずさ。そこまで生きてられるか、分かんねえけどな。」
「えっ!?なんでそれを…」
そこまで言い、僕は海に落ちた。せめて気づいてもらおうと、必死で手足を動かす。
「まあ、そう慌てるんじゃねえ。」
(慌てずにいられる状況に見える!?)
どんなに手足を動かしても、どんどん海に沈んでいく。なんとか水面に伸ばした手は、無慈悲にも空を掴んだ。
全身が海の中に沈み、もはやどうすることも出来ない。助けを求めて思わず口を開くも、出ていく泡と入ってくる水で、声がかき消される。恐怖で目も開けない。
(もうだめか…。)
とうとう限界が来て、最後の息を吐いてしまった。
「ったく、お前って奴は…。」
カメリアが僕のふところを蹴り、さらに海の底に追いやった。それがトドメとなり、僕は気を失った。
4.海の底で
「うっ、ゴホッ、ゲホッ…。」
僕は、よろけながらも立ち上がった。
(よかった、生きてる!チアキたちが助けてくれたのかな?)
と思った直後、僕は異変を感じた。全身が水に触れている感覚。
「何だ?」
前に進もうにも、何かにおさえられ、いつもの速さで走れない。そして、上を見上げて分かった。
太陽が揺らめいていたのだ。
「ということはここは…。」
冷静に辺りを見れば、魚が何匹か泳いでいる。
(海の中!?何で!?)
確かに、僕はさっき海に沈んだ。でも、そのままなら、目は覚まさないまずだ。
(っていうか、めちゃくちゃ独り言を喋ってしまった!ヤバい!)
(説明しよう!この辺りは酸素濃度が高い!つまり、水の中なのに息が出来るのだ!)
「ナレーション!そんなこと言ってないで、僕を助けて!…って、今なんて?」
(説明しよう!この辺りは酸素濃度が高い!つまり、水の中なのに息が出来るのだ!と言ったのだ!)
「それ、本当?」
(説明しよう!ハルキは今、めっちゃ喋っている!それが証拠だ!)
「あっ、確かに…。」
僕は、一旦落ち着くため、深呼吸をした。ナレーションの言うとおり、全く苦しくない。
「そういえば、チアキと蛇子は?」
(説明しよう!チアキたちは海の景色を堪能しているのだ!)
「景色か…。」
僕は、改めて周りを見渡した。優雅に泳ぐたくさんの熱帯魚。水面から差し込む光が、より美しさを際立てている。
「海の中って、こんなにきれいなのか…。」
(説明しよう!この辺りが酸素濃度が高いのには、理由がある!)
「えっ?教えて!」
(説明しよう!スフラ様の神殿の近くは、酸素濃度が高い!おそらく、スフラ様自身が、より快適に過ごすためである!つまり、ここは神殿の近くなのだ!)
ここで、僕は思い出した。カメリアが、スフラ様の住んでいる神殿の場所を知っていたこと。そして、それを教えると同時に、「俺に感謝することだな。」とも言っていたこと。
「ナレーション、ここって深い?それとも、浅い方?」
(説明しよう!ここは、だいたい水深30mくらいだ!つまり、チアキたちのいるところに比べたら深い方なのだ!)
「30mか…。かなり深いな…。」
そして、僕はハッとした。確か、気を失う直前、カメリアに強く蹴られた。その勢いで、ここまで沈んできたのだろう。何もしなければ、途中で息絶えているはず。なら…。
(カメリアが助けてくれた?)
「う、うそ…。」
僕が考えていると、誰かの声が聞こえた。僕が振り返ると、そこにはスフラ様が立っていた。しかし、ファイナ様と同様、少女のような姿になっている。
スフラ様は言った。
「ま、まさか、ハルキ君なの…?」
「スフラ様!そうです、ハルキです!」
スフラ様は、僕に向かって泳いできて、抱きついた。
「よかった、無事でよかったよ…。」
気が弱いスフラ様がこんなことをするなんて、僕が無事で相当嬉しかったのだろう。
「スフラ様こそ、無事で何よりです。」
肩より長い髪は、青色に輝いている。あまりに嬉しかったのか、青色の瞳からは涙がこぼれていた。ヒレのようなレースのついた水色のワンピースからは、残念ながらレースが消えていた。
「あの、ハルキ君、どうやって、ここまで来たの?ハルキ君って確か、泳げないんじゃあ…。それに、よほどの人じゃないと、こんなところまで来れないはず。」
「あぁ、それは…。」
僕は、事情を全て説明した。
「そういうことなの…。つまり、敵であるはずの人に救われたのね。」
「カメリアが蹴ってなければ、僕はここに来ていなかったかもしれないんです。なんとかお礼を言いたいんです。」
「じゃあ、そのカメリアって人、私も探しておくよ。特徴を教えて。」
「あ、ありがとうございます!えーっと、特徴は…。」
僕はその間、あの時のことを思い出していた。
(そういえば、前もこんなことあったな…。)
あれは確か、僕がまだ4歳の時だ。外でツバキとかくれんぼをしていた。僕が鬼だった。
「もーいいかい?」
「もーいいよ!」
(絶対見つけるぞ!)
僕は、いろんな場所を探した。建物の影、木の上…。でも、なかなか見つからない。
「どこに隠れたんだろう?」
そこで僕は、ずっと僕の上を飛んでいるという、ありえない仮説を思いついた。
「ツバキは…上かな?」
やはり、見当たらない。
「うーん、どこだろう…。」
僕は、上を向いたまま歩いていた。もう、空にいるとしか考えられなかったのだ。ツバキは飛ぶのが大好きだから。
今思えば、それが間違いだったのだろう。
「あっ…。」
下を見ていなかったせいか、僕は泉に落ちた。僕はその時初めて、深い水辺に足を踏み入れてしまったのだ。
だんだん体が沈んでいくのを感じ、必死で足を動かし、手を振った。
「誰か!助けて!」
しかし、誰も近くを通らなかった。
終わったんだ。何もかも。
僕の体は完全に沈みきり、気づいてくれる人もいなかった。
でも、誰かが僕の手を掴んでくれた。
「もう少しだ、頑張れ!」
気を失いかけていたため、その言葉が現実だったのかは、未だに分からない。
気がつけば僕は、地面に横たわっていた。
「あれ…?」
「あっ、目が覚めた!よかった〜。」
ツバキが目の前にいたため、助けてくれたのはツバキだと悟った。
「ツバキ、ありがとう!」
「えっ、何が?」
どうやら、ツバキではないらしい。結局、誰が助けてくれたのだろうか…。
昔のことを思い出している間に、僕はカメリアの特徴を言い尽くしていた。
「そんな真っ黒な人、会ったこともない…。」
「そうでしたか…。」
「ご、ごめんなさい、お役に立てなくて…。」
「いえ、いいんです。不思議な人なので、知らなくても仕方ないと思います。それに、まだこの辺りにいると思うんです。」
「どうして?」
「カメリアは、僕を狙っているからです。」
「そうなんだ…。じゃあ、今襲いかかってくるかもしれないの?」
「はい。」
「それって危ないよ。とりあえず、神殿に入って。魔族は入ってこれないから。」
「ありがとうございます。」
「あ、ちょっと待って。私、先にいってるね。ちょっと時間を置いてから来て。」
「えっ?あ、はい。」
スフラ様は、慌ただしい様子で神殿に入っていった。
(どうしたんだろう。部屋の片付けかな?いや、それはないか。)
1分ほど時間を置き、そろそろ神殿に入ることにした。
(水があるせいで、いつものように走れないや。)
だから、のろのろと神殿に向かっていた。と、その時!
「『死神の斬撃』!」
「えっ?」
僕は、とっさに左によけた。その直後、さっきまで立っていた場所に斬撃が飛んできた。そして、そばにあった岩を粉々にした。
「よけたか。」
「カメリアか!どこにいるんだ!」
「お前の後ろさ。」
振り向くと、カメリアが立っていた。
(いつの間に…。)
「どうやら、無事にここまでこれたようだな。神力があるからか?」
「どういうことだ?」
「水の神殿までよくこれたなってことさ。それくらい自分で理解しな。」
(あっ、カメリアにお礼言わなきゃ。)
「カメリア!」
「な、なんだよいきなり。」
「さっき、僕を蹴ったのは、少しでも速く水の神殿につくようにしたかったからだよね!」
「い、いや、それは…。」
「おかげで助かったよ、ありがとう!」
(よかった、言えた!)
カメリアは、慌てた様子で言った。
「だ、黙れ!お前を助けるなんて、バカバカしい。あれはその、トドメを指したかっただけさ!たまたま、力加減を間違えたのさ!助けたところで、メリットが無い!だから、お礼なんて言うな!俺はお前の敵なんだぞ!」
(めっちゃ喋ってる…。もしかして、図星だった?本当に僕のため?)
「き、今日のところはここまでにしてやる!水の中じゃあ、戦いにくいからな!」
「カメリア…。照れなくてもいいんだよ?」
「照れてねえよ!ほっといてくれ!」
そう言い、かなり急いでどこかへ去っていった。
「カメリアって、完全な悪者じゃないのかな。良心もあるみたい。あっ、そろそろ神殿に入ろっと。」
僕が神殿に入ると、スフラ様が椅子に座っていた。
「スフラ様、ごめんなさい。遅くなりました。」
「いや、大丈夫。さっき片付いたから。」
「あ、そうですか。」
(本当に片付けだった…。)
5.スフラ復活
「ハルキ君、せっかく来てくれたのに、こんな狭い神殿でごめんね…。」
「いえ、そんなことないです。海の中の神殿だなんて、新鮮でいいと思います。」
「…そういえば、なんで遅くなったの?」
「実は、カメリアに会いまして。」
「えっ!?お礼、言えた?」
「はい。ただ、カメリアは認めようとしなくて。『照れてねえよ!』て言ってたんですけど、絶対照れてると思うんですよ。」
「きっと恥ずかしいのよ。そういうのに慣れてないとか。」
「そういう人もいますよね。」
ここで僕は、本来の目的を思い出した。
(そうだ、スフラ様を復活させに来たんだった!)
「スフラ様は子供の姿より、今までの姿の方がいいですか?」
「なに、いきなり…。まあ、そうだけど…。」
「なら、僕が元に戻してさしあげましょうか?」
「えっ、本当!?」
スフラ様はそう言った。しかし、表情を曇らせた。
「スフラ様、どうしました?」
「…ここで私が復活しても、他の女神は元に戻らないよね?私だけが復活しても、恨まれたりしないかな…。」
「スフラ様、心配なさらずに。」
「でも、私のせいだし…。」
「えっ?何がですか?」
「…実は、魔族が攻撃を仕掛けてきたとき、女神会議の真っ最中だったの。その時、すごい爆発が起きて、みんな慌てて外に出て…そこで、会ってしまったの。」
「誰にですか?」
「…エンマ。」
つぶやいた瞬間、スフラ様は体を震わせた。
「私が、私が何も出来なくて、弱いせいで、みんなエンマの呪いにかかってしまったの。私がもうちょっと強ければ、エンマの呪いを防げたかもしれないのに…。」
「スフラ様…。」
スフラ様は、ガックリと肩を落とした。僕は、ふいに思った。
(僕も同じだった…。)
自分のせいでツバキが囚われたこと。他の人を誰一人として助けられず、自分だけが助かったこと。その事実に押しつぶされそうで、僕も同じ感情を抱いていた。
でも、ミユキの一言に救われた。
「スフラ様、そんなこと考えないでください。」
「でも…。」
「スフラ様は弱くなんかないです。自信を持ってください!」
「…私は、強くなんか。」
「他の女神様のご心配をされているのですよね。自分のことよりも、ずっと強く。スフラ様は、とても優しい方です。優しさは、何よりも強いんです!」
「ハルキ君…。ありがとう。」
スフラ様は、立ち上がった。
「ハルキ君のおかげで、モヤモヤが吹っ切れたよ。本当にありがとう!」
僕は、復活の石を取り出し、スフラ様の額に当てた。
「では、スフラ様、祈りの言葉を。」
「うん。…復活の石よ。その力で、私を元にお戻しください。水のように流れゆく感性を、どうかお授けください。太古の王ハレン様、私は今、ここに祈ります。」
その途端、スフラ様をきれいな水が包み込んだ。その水が消えた時、大人に戻ったスフラ様が立っていた。長かった青い髪は1つ結びになっている。ヒレのようなレースも戻り、雫のような形の青い宝石のついたネックレスをつけていた。
「ハルキ君、ありがとう!あっ、そうだ。」
「なんですか?」
「これ、ハルキ君にあげる。」
スフラ様は、ネックレスと同じ形の宝石を手渡した。
「助けてくれたお礼。」
「あっ、ありがとうございます。」
「じゃあ、元に戻ったことを、ヒカリ様に報告しにいってくるね。」
「分かりました。」
「ハルキ君、本当にありがとうね。じゃあ、またね!」
そう言いスフラ様は、魚よりも速く泳いでいった。
「よし、スフラ様の復活完了!この調子で頑張るぞ!よし、じゃあ、僕も戻るか。」
僕は、神殿から出た。時に気づいた。
(あれ?どうやって戻ろう?ここって海の底じゃん…。)
僕は、何か登れそうな物を探した。しかし、特に無かった。
「どうしよう…。」
(説明しよう!一度水の神殿に入った人は、スフラのように速く泳げるようになるのだ!これは、泳げない人がここに来てしまい、帰れなくて困った時のための機能である!)
「えっ、本当?」
(説明しよう!この私、ナレーションの言うことは、絶対に正しいのだ!自慢ではない!)
「へぇ〜。」
僕はナレーションを信じ、泳ごうとしてみた。すると、手足がスッと動き、速く泳げたのだ。
「すごい!ナレーション、本当じゃん!」
(説明しよう!先ほども言った通り、私の言うことは…)
「これで戻れるや。よかった。」
僕は、水面に向かって泳いでいった。
(説明しよう!私は、話をちゃんと聞いてほしいタイプなのだ!)←切実
皆さん、今回のお話はどうでしたか?
カメリアの意外な面が分かりましたね。完全に悪に染まっていないカメリアに、親近感を抱いた人もいますか?それにしても、ハルキは毎回、ピンチの連続ですね。
次回は電気の女神、サンダラン様を復活へ!そして、ミケの正体が!?