アリアの決意とミネルの予定外の出来事
魔法祭から数ヶ月──私は高等部2年生になった。
あれから色々あったが、一番大きく変わった事は、私の警護をしてくれていたララさん達が仕事を辞めた事だ。
きっかけはもちろん、魔法祭の時に起きた一連の出来事。
魔法祭の時、私を警護している最中にもかかわらずララさん達は緊急招集でいなくなった。
『アリアさんのご家族にも連絡し、了承をいただいているとの事です』
ララさんはそう説明してくれていたが、実のところ、お父様達には何の連絡も入っていなかった。
後に確認したら、ララさん達も命令を受けた上司から『了承を得ている』と説明されただけだったらしい。
お父様は直接その上司に確認したそうだけど、招集命令は出したが『了承を得ている』とは言っていない、と否定されてしまった。
きっと指示をした上司はジメス上院議長の配下なのだろう。
……悔しいけど、“言った”、“言わない”では、ただの水掛け論になってしまう。
それに、お父様達が今まで証拠を見つけられていない事からも分かるように、実際に手を汚しているのはきっと、ジメス上院議長ではない。
仮に証拠が見つかったとしても、そこからジメス上院議長につながるとは思えない、とお父様も言っていた。
ララさん達は、上からの指示に従わざるを得ない立場だ。
緊急招集が掛かった日も、すぐに私と別れた場所まで戻ってくれたらしい。
ところが、その場から私がいなくなっていたものだから、かなり焦ったようだ。
試合会場に行き、オーン達にも尋ねたけど、ジュリアに脅されていたオーン達は歯切れが悪く誰も何も答えない。
おかしいと思い、私が捕まっている間中、必死に探してくれたみたいだけど……この広い学校で見つけるのは難しい。
それでも諦めずに走り回ってくれていた事を後になってから聞いた。
ララさん達が悪いわけじゃない。
責任を感じる必要なんてなかったのに……。
──だからこそ、私はある1つの決意をした。
……と、その前にエレの入学!
今日は入学式が終わり次第、他の新入生と一緒に寮へ行ってしまう為、会うのが難しい。
会うとしたら、明日かな?
うん。初登校の日に待ち伏せして、エレをビックリさせよう!
“エンタ・ヴェリーノ”では2年目以降、クラスという概念が無くなる。
必修科目の他、自分が興味がある科目を自由に選べるようになるのだ。
考え方としては前の世界でいう“大学”に近いのかもしれない。
私は自分が使う《水の魔法》の知識と実技、どちらも選択した。
あとは経済と経営、歴史を中心に学ぶ事にした。もちろん、他の科目も受講する予定。
それに1年生の時と変わらず、剣術や武術の実技なども受講する。
歴史を選んだ理由は、サール国王と話した事がきっかけだ。
あれから、より深く自国の事、他国の事を知りたいと思うようになった。
実はサール国王と会った後、エレからある提案を受けた。
「本当にアリアが魔法を封じ込める事ができるのか、僕で試してみよう」
えっ!
「それは止めておいた方がいいよ。 仮に封じ込めたとして、戻せる自信がないから」
必死で断る私にエレが目を潤ませた。
「アリアは狙われてるんだよ? カウイさんの従兄弟が現れた時に《聖の魔法》を使い、魔法を封じ込める事ができたら……僕は安心なんだけど」
なんて、優しい弟!!
……って、理由はそれだけじゃないか。
私が監禁されてからというもの、幼なじみ達もだけど、以前より心配性というか……過保護になった気がする。
とはいえ、もし私が逆の立場だったら……と考えると、きっと同じように心配するから同じかぁ。
「でも! でもね……」
……というやり取りを数回繰り返し、結局エレの気迫と“お願い”に負けた。
仕方なく、こっそりと2人で《聖の魔法》を試したけど……結果的に、魔法を封じ込める事はできなかった。
もしかすると、ジュリアの時のように“本当に封じたい”と思わないと使えないのかもしれない。
どうしてもエレが相手だと、『失敗したらどうしよう』という不安が消えないからなぁ。
でもエレが言う通り、危険が迫った時の為に練習はしておきたい。
ジュリアか、ジュリア並みに嫌な人がいれば、躊躇なく試せるんだけど、な。
それに《聖の魔法》については、もっと詳しく知りたい。
なので、今度サール国王に会いに行って、本を読ませてもらうと思っている。
……ん、待てよ?
オーンに聞くという方法もあるのかな?
2年生に上がる前に、幼なじみ達には《聖の魔法》の話をした。
私の家に集まってもらい、現状分かる範囲まで話し終えたところで、オーンがそっと口を開いた。
「アリアが話した本は、小さい頃に読んだ記憶がある。まさか読んでもらった物語の魔法が使えるとは……さすがに結びつかなかった」
オーンが少し驚いた表情をしている。
「やっと魔法が弾かれた謎が解けた。どうりで何も情報が出てこないわけだ」
「本の内容って、覚えてる?」
オーンが顎に手を当て悩んでいる。
「んー、正直、物語には興味がなかったから……今度きちんと読んでみるよ」
と言ってたから……もしかしたら、もう読んでいるかもしれない。
迂闊には話せない内容だから、聞くタイミングが難しいけど。
それと、もう1つ……いや、2つか。
経済と経営を選んだ理由にはメロウさんが関係している。
魔法祭が終わった数日後、メロウさんと2人だけで話す機会があった。
「魔法祭は残念な結果になってしまったが、企画している時は楽しかったですー」
メロウさんが楽しそうに話している。
良かった。いつもの明るいメロウさんだ。
いつも楽しそうに話すから、私まで楽しくなってくる。
「魔法祭の時のようなイベントや大会を手掛けるのが好きなのです。卒業後は、そう言った事ができないのが残念でなりません」
「……そうなんですか?」
聞いた後、すぐに気がつく。
町で行うお祭りのようなイベントは、ボランティアだって聞いた事がある。
そうか。この世界ではイベントを手掛ける仕事ってないんだ。
……そういった事を仕事にする人がいないのかぁ。
人を呼び込めれば、お金になりそうな気がするけど。
「イベントや大会を手掛ける仕事を自分で作るのはどうですか? 0から1にするのは大変ですが、メロウさんには合ってそうな仕事ですし……」
私の言葉にメロウさんの目が丸くなる。
はっ!
将来に関わるような大切な事を、気軽に言ってしまった。
「ええと……1つの選択肢として言ってみただけで……」
気まずそうにフォローする私に向かって、メロウさんが笑ってみせる。
いつものふざけた笑い方とは、少しだけ違うように感じた。
「アリアのお陰で、ようやく自分のやりたい事が見つかりました!」
えっ!
「これから、また楽しくなってきますねー」
えっ! ……まさか、私の何気なく言った事を仕事にしちゃうの!?
焦っている私にメロウさんが明るく声を掛ける。
「自分で決めた事なので、アリアは何も思う必要はありませんよー!」
私の負担にならないよう言ってくれるのはありがたいけど……。
こちらの心配を余所に、メロウさんが目をキラキラと輝かせながら話し続ける。
「楽しい日々が終わるのかと思っていましたが、そんな事はなかったですねー」
……そういえば、以前メロウさんは『就きたいと思える職がなくてですね』と話していた。
陽気なメロウさんは周りには見せていなかっただけで、実は悩んでいたのかな?
「アリアが良ければ、卒業後にきますかー?」
「えっ! まだ作っていないのに勧誘ですか?」
メロウさんらしくて、思わず笑ってしまう。
「まぁ、卒業後に誘いにきます! その時はエウロさんも一緒にどうぞー」
笑顔でメロウさんは去って行った。
なぜ、エウロ? と思ったけど、テスタコーポ大会で私たちを知ったからかな?
本気なのか冗談なのか、全く分からなかった。
だけど、将来自分で何かを始めるのも面白そうだなと思い、経済と経営を中心に学ぶ事にした。
幼なじみ達も自分が使う魔法の科目は選択すると話していた。
1年生の時とは違い、受講する科目や時間帯が被らないと、みんなと会えなくなるなぁ。
少し寂しさを感じながら受講する科目を受けに教室に向かっていると、ルナが歩いているのが見える。
会えなくなるなぁ……と思った矢先に会うなんて。
私って、運がいい!
「ルナ!」
声を掛けると、即座にルナが振り向いた。
少し嬉しそうに、こちらへと近づいてくる。
ルナってキレイだけど、仕草や動作が可愛いな。
セレスは「私の方がキレイに決まってるわ」って言うし、マイヤもマイヤで「私の方が可愛いと思うけどな」って言うから……誰もこの気持ちを分かってくれないんだよなぁ。
他の人が褒められると対抗心が湧くのかな?
「ルナもこれから授業?」
「うん」
受ける科目は違ったけど、教室が近いという事もあり、途中まで一緒に歩く。
「そういえば……リーセさんが“エンタ・ヴェリーノ”に来たのは驚いたよ。ルナは知ってたんだよね?」
ルナが嬉しそうに笑った。
「アリアを驚かそうと思って言わなかった」
ちょっと得意げに話すルナが……可愛すぎる!
「アリア、本気を出した私と兄さまは最強だからね」
「そうだね。2人がタッグを組めば強いよね!」
「……うん、ちょっと違う」
違う??
「でも、いいや」
ルナが楽しそうだ。
普段は、あまりリーセさんに会えないから嬉しいのかな?
その後もリーセさんの話で盛り上がってしまったけど、聞きたい事があったんだ。
「この前、リーセさんが“エンタ・ヴェリーノ”の記録を取りに来たって話してたけど……」
「うん。数年に1度、“エンタ・ヴェリーノ”の記録を取りにいく事があるみたい。その間に起こった出来事や、在籍してる先生や生徒の記録を取ったりするんだって」
へぇー、そうなんだ。
「1年くらいの異動が多いけど、今回は長いんだって話してた」
どちらかというとリーセさんみたいに国の情報を管理するような職業に就いてる人が、学校に異動になった事に驚いたというか、不思議に思ってたんだけど……。
ルナの話を聞いてると、普通の事なのかな?
それからすぐにルナとは別れ、私は歴史を学ぶ教室に入った。
空いている席に座り、授業が始まるのを待つ。
そういえば、私が考えている事をいつ相談しようかなぁ。
「アリアも歴史を選んでたんだな」
突然話し掛けられ、慌てて声のした方を見る。
すると、いつの間にかミネルが私の隣へと座っていた。
「ミネル!」
「声が大きい」
「ご、ごめん。ミネルに会いたいと思ってたタイミングで会えたから驚いてしまって」
ミネルと見つめ合い、数秒の沈黙が流れる。
「はぁ~」というため息が聞こえたかと思うと、机に両肘をついたミネルが俯くように頭をかがめた。
「わざとだとしたら……マイヤを超えるぞ」
わざと? マイヤ??
意味が分からず首を傾げていると、ミネルがゆっくりと顔を上げた。
「で、どうしたんだ?」
「ええと……人がいるところでは話しづらい内容なんだよね」
私の真剣な表情を見たミネルが口を開いた。
「お昼なら大丈夫だが……前にみんなで集まったレストランの個室で話すか?」
「うん、ありがとう」
お昼にレストランで会う約束をし、何事もなかったように授業を受ける。
終わった後はそのままミネルと別れ、次の教室へと向かった。
──そして、昼休み
事前に予約したレストランの個室へと向かう。
私が席に着いてすぐにミネルも部屋へ入ってきた。
「急にごめんね」
「構わないが……まずは注文するか」
私の正面の席に座ったミネルがメニューを広げ、注文をする。
あまり待つ事もなく料理が運ばれてきたので、食事をしながら話す事にした。
「あのね……」
一息つき、本題へと入る。
「ジュリアさんの父親……ジメス上院議長を離職させたいけど、いい方法はないかな?」
私の発言に、水を飲んでいたミネルが「こほこほ」とむせた。
「だ、大丈夫? ミネル?」
咳が落ち着いたタイミングでミネルが呆れたように私を見た。
「……親たちが躍起になっても証拠が見つからないジメス上院議長を、『お昼でも食べに行かない?』くらいのテンションで言ったな」
「はは、そうかな」
私としては悩んで話したつもりだったけど、軽く聞こえてしまったようだ。
魔法祭で起きた一連の事件や、ララさん達の緊急招集。
それだけじゃない。
ジュリアが私を監禁した時に手伝った人たちはみんな退学になった。
だけど、誰一人としてジュリアから指示されたとは言わなかった。
私たちは試合で起きた事を公にはしていない。
それでも大会関係者の人たちは当時の状況を知っている為、学校の生徒達も噂話レベルで起きた事を知っている。
すでに周知の事実だというのに誰も何も言わないなんて……どんな脅され方をしているのだろう。
それに学校の生徒たちもジュリア、正確にはジュリアの親が怖いのか、みんな試合の裏であった事は公の場では話していない。
だからこそ、強く、強く思った!
上の人ほど、裁くのが難しいのはおかしい!
その元凶がジメス上院議長なら、逃げれないくらいの証拠を見つけて離職させる!!
ジュリアにもきちんと自分の行った罪を償ってもらう!!!
それにジュリアと試合をした際、私に言った言葉。
『魔法を唱えなくても魔法での攻撃、防御が自由自在にできる。転生者の特権ね』
その言葉を信じるとしたら、私は転生者の特権で《聖の魔法》を使えるのかもしれない。
さらに、もう1つ。
魔法を唱えなくても魔法を使える事は『お父様だけが知っている』ともジュリアは話していた。
ジュリアの性格を考えると、他の人に自慢げに話しててもおかしくない。
それなのに自分の父親しか知らない。
もしかすると、ジメス上院議長に口止めされていたのではないだろうか?
そうだとしたら、過去にジュリアの魔法を利用した事があるのでは?
……と、考え出したらキリがなかった。
それに少なくともジメス上院議長は、今ジュリアが魔法を使えない事を知っているはずだ。
なぜ、使えないか……。
もしジュリアから使えない理由を聞いていたら、サール国王の助言は手遅れになる。
最悪、私が魔法を封じ込めれる事は、知られていると思っていた方がいいだろうな。
「他の……セレス達は何て話していた?」
ミネルの言葉で、はっと我に返る。
「……セレス?」
「なんだ、まだ話してないのか?」
ああ、そっか。
既にセレス達に相談していると思ったから聞いたのか。
「うん。前にミネルが『真っ先に僕に話して、巻き込め』って言ってくれた事があったから。まだミネル以外には相談してないよ」
お言葉に甘えて巻き込もうかと思って相談したんだけど、ダメだったかな?
「ミネルに相談して意見を聞いた後、みんなにも話そうと思ってたよ」
そう素直に伝えれば、ミネルが口に手を当て、何か考えるように目を伏せた。
……んー、顔を隠しているから『よし! やろうぜ!』(ミネルのキャラじゃないけど)と思ってくれてるのか、呆れてるのか……全く読めない!
「アリアのそういう所を好きになったんだろうな……僕は」
…………本日、私とミネルの間に2度目の沈黙が流れる。
沈黙している間、脳内でリプレイが走る。
『アリアのそういう所を好きになったんだろうな……』??
しかも、『僕は』って言った!?
へっ!!!
僕って、ミネルの事だよね? ミネルって、私がす、好きなの!?
さらにそういう所って、どういう所!?
混乱しながらも、ぱっとミネルに目を向ける。
ん? ミネルが……固まって……る?
うん、一旦落ち着こう。
ミネルから視線をそらすように下を向き、はぁ~っと大きく息を吐く。
吐き終わったタイミングで顔を上げると、再びミネルの方へ視線を動かす。
口に手を当てたまま、ミネルがぼそりと呟いた。
「いや、違う」
ん? 違う??
勘違いってこと???
ますます状況が呑み込めなくなり、頭が混乱してくる。
ミネルはというと、口元にあった手を下ろした後、真っ直ぐに私を見つめてきた。
「……いや、合っている。僕はアリアが好きだ」
ミネルがはっきりと私に告げる。
「ずっと一緒にいたい唯一の女性だと思っている」
どうしよう……頭がついていかない……。
ジメス上院議長の相談をしていたはずが、気づけばミネルに告白をされている。
「……こんな所でいう予定じゃなかった。話を戻すぞ、アリア!」
気持ちを切り替えるかのようにミネルが言う。
えっ、いや。戻していいの?
私が戸惑っていると、ミネルが改めて口を開いた。
「魔法祭での試合、アリアを1日好きにしていい権利があったな?」
呆然としたまま、こくりと頷く。
「週末、予定はあるか?」
ポカンとしたまま、首を横に振る。
「権利を使う。週末、2人だけで出掛けるぞ!」
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次話、3/21(日)18:00 更新になります。




