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マイヤの後悔と悩み

マイヤ視点の話になります



---------------------------------------


「マイヤさん。ひと目見た時から、私の相手は貴方しかいないと思っています。私の婚約者になって頂けませんか?」


初対面の男性が少し緊張した面持ちで私を見つめる。

そっと微笑みかけると、丁寧に頭を下げた。


「お気持ちはありがたく存じます。ただ……申し訳ありませんが、貴方のお気持ちには応えられません」


男性が私に質問をする。


「なぜですか?」


……なぜ?


好きじゃないからに決まってるでしょう!?

今日初めて会った人に「私も好きでした」って、言うと思ってる方がおかしいわよ!

そのくらい察しなさいよ!!



……咄嗟にそう思った自分に驚いてしまう。

少し前の私もこの男性と同じだった。

初対面の人を家柄や見た目だけで判断して、私には見合わないって思ってたのに。


その後も男性は諦める事なく、何度も何度も食い下がられた。

丁重にお断りして、最後は何とか了承してもらえたけど……今日の人は本当にしつこかったな。



それにしても、婚約者かぁ……その前に好きな人よね。


今は好きな人よりもアリアちゃんといる時間を大切にしたい。

婚約者を作ってしまうと、アリアちゃんに会う時間が減るかもしれないし……。



……って、この考え方は危険よ!!

こ、これじゃあ、ちょっと前の「みんなに婚約者が出来たら寂しいかも」とか言ってた、“全く恋愛脳になっていない”アリアちゃんと同じじゃない!!


あまりの衝撃に、頭を悩ませながら教室へと戻る。



魔法祭から、もう3週間が経過したというのに、未だにジュリアさんは登校していない。

みんなも気がついてると思うけど、高熱なんて絶っ対に嘘!!


自分は悪いと思っていないジュリアさんタイプは反省なんてしないし、基本的に図太いもの。

気に病むどころか、アリアちゃんに対して理不尽な仕返しぐらいやりかねない。


それなのに登校していないのは……どうしてかな?


親が止めている??

親と言えば、ジメス上院議長の証拠は未だに見つかっていないみたいだし。

お父様が疲れ切った顔で話してた。



何か変わった事があると言えば、学校の生徒たちかな?

魔法祭を機に、他の生徒たちのアリアちゃんへの評価は大きく変わった。


魔法を使えなかったアリアちゃんが、試合中に突然、魔法に目覚めるという奇跡。

そして、そのままジュリアさんに逆転勝利するという……見ている人がハラハラドキドキするような試合展開。


今のアリアちゃんは、一躍、時の人になっている。

この間も、アリアちゃんがのん気に話していた。


「知らない人から、声を掛けてもらう事が多くなったんだよねぇ」


きっと……もうアリアちゃんを罵倒したり、嫌味を言う人なんていない。



この学校は少し前の私のように、見た目や家柄だけで他人を判断する人が多い。


中等部の時、自主的に学校作りを手伝った生徒たちについては分からないけれど。

『一般の方々と関わる事によって、影響を受けたり、変わったりした人が多いんじゃないかな』と、オーンくんも話していたし。

今回もその時みたいに……アリアちゃんをきっかけに良い方向に変わっていくのかもしれないな。



アリアちゃんはいつも、 自分の力で周りを納得させる。

さらには、その影響によって、色々な人が良い方へと変わっていく。


アリアちゃんって、すごいなぁ。今なら、素直にそう思える。

……私は本当に何も見えていなかったんだな。


アリアちゃんが私の手を取ってくれた瞬間から、もやがかかっていた私の視界は急速に明るくなった。

私は……変われているのかな?


アリアちゃんと親しくなればなるほど、後悔が大きくなる。

アリアちゃんと仲良くなればなるほど、自分が過去にしてしまった行為が頭をよぎる。


なんで、あんな馬鹿な事をしてしまったのだろうって。



それに……悩みもある。

アリアちゃん以外の人には“いい顔”もできるし、相手が言ってほしそうな言葉も大体予想がつく。


だけど、だけど。

一番優しくしたいアリアちゃんにだけ、なぜか素直になれない。

どうしてだろう。私って、わりと器用なタイプの人間だと思ってるんだけど、な。



……はっ! 今、嫌な事に気がついちゃった。

こ、こんな私じゃ、アリアちゃんに愛想をつかされてしまうかも!


ど、どうしよう。

変わりたいけど、何から行動していいか分からない。



何かいい方法を考えないと……そ、そうだ!

セレスちゃんとルナちゃんにアドバイスをもらおう!!


うん、それがいい。

セレスちゃんには、ずっと聞きたかった事もあるし。



まずは……セレスちゃんから。

自分の教室へは戻らず、すぐにセレスちゃんの教室へ行く。


「よかったら、今日一緒にお昼を食べない?」


初めてセレスちゃんをランチに誘っちゃった。

当たり前だけど、セレスちゃん驚いてたな。


……誘ってはみたけど、今まできちんと2人で話をした事はない。

急に緊張してきちゃった。




──昼休み


約束していたカフェテリアへと向かう。

店内へ入り、きょろきょろと周りを見渡す。


セレスちゃんは……まだ来ていないみたい。

先に席に座って待ってようっと。


さらに緊張してきちゃった。

一人深呼吸をしていると、少し遅れて現れたセレスちゃんが私に声を掛けた。


「お待たせしたわね」

「ううん、急にごめんね」


私の向かいにセレスちゃんが座る。

どう伝えようか悩んでいると、注文後にセレスちゃんから話を切り出してくれた。


「で、ご用件は?」

「……セレスちゃんに、ずっと聞きたい事があって……。それと、アドバイスをもらいたくて」

「何かしら?」


少しでも緊張をほぐす為、再び深呼吸をする。


「……私がアリアちゃんに嫉妬して嫌がらせしていた事を伝えた時、セレスちゃんはもっと怒ると思ってた」


セレスちゃんは表情を変える事なく、黙って話を聞いている。


「アリアちゃん自身が許しても……許されない事をしたから。なぜ怒りを我慢できたの?」


私からの質問に、セレスちゃんが「なるほどね」と呟いた。


「あの時……マイヤの話を聞いて、もっと言いたい事もあったし殴りそうにもなったわ。だけど──」


会話の途中、2人分のランチが運ばれてくる。


「それをアリアの前でしてしまったら、あの子が悲しむでしょう? それに『逆の立場だったら、どうだったかしら?』って考えてしまったの」


逆の立場?


「私ほどのレベルになると、そこまで考えてしまうのよ」


……ここは突っ込むべき所なのかな?

たまにセレスちゃんって、よく分からないのよね。


困惑している中、セレスちゃんの話は続く。


「私がアリアと仲良くなったきっかけは、貴方やルナの愚痴を誰かに聞いてほしくて。話相手として、たまたまアリアに会いに行っただけなのよ」


えっ?


「もし私ではなくマイヤが小さい頃にアリアと仲良くなっていて、私が今までアリアと仲良くなっていなかったら……と考えたのよ」


……セレスちゃん。


「まあ、私は常に完璧なので、マイヤみたいにはならないでしょうけど」


……セレスちゃん??


「それでも……明らかに私とは違う家柄の方たちや、ましてや一般の方たちとなんて、仲良くなろうとすら思わなかったでしょうね」


紅茶を一口飲んだセレスちゃんが、懐かしそうに「ふふっ」と笑った。

両手を軽く握り締めると、意を決して、セレスちゃんに今までの自分を伝える。


「私ね、セレスちゃんがこうしたら怒るだろうって思いながら……発言したり、お菓子を作ったりしてたの」


セレスちゃんは特に怒った様子もなく、私をジッと見つめてくる。


「あら? 貴方が人によく見られたくてお菓子を作ってた、という私の考えは当たってたのね。その愚痴をアリアに言いに行ったんだもの。天才ね、私は」


満足そうに告げると、セレスちゃんが微かに頬を緩めた。


「気に病む必要はないわ。貴方の事は大嫌いだったもの」

「大嫌い……だった?」


過去形になっている事について確認すると、セレスちゃんが明るく答えてくれる。


「喜びなさい。今は嫌いにまで昇格したわよ」

「……セレスちゃんて、正直ね」


私の言葉にセレスちゃんが不満そうな表情を見せた。


「そうかしら? なんかアリアのバカ正直さが移ったようで嫌だわ」


嫌だわと言いつつも、少しだけ嬉しそう。

セレスちゃんみたくなりた……くはないけど、私もアリアちゃんとこういう関係になっていけるかな?


「それにしても……ふふ、安心したわ」

「安心?」

「貴方が簡単に後悔を消す事ができない、不器用な人間で」


私が不器用?

何の事だろうと首を傾げていると、食事を食べ終えたセレスちゃんがナプキンで口を拭い、私に尋ねてくる。


「それで? アドバイスの方は?」


そ、そうだった!


「私……アリアちゃんに、このままじゃ愛想をつかされてしまうと思って!」


言われるまで忘れていた事に焦ってしまい、思わず声に力がこもってしまう。

……あれ? セレスちゃんの顔が歪んでいる?


「……まずは話を聞きましょう。なぜ、そういう考えに至ったのかしら?」

「だ、誰よりもアリアちゃんに優しくしたいのに……アリアちゃんにだけ、なぜか素直に……優しくできないの!」


セレスちゃんの顔がさらに歪んだ。


「好きな人の前では素直になれないなんて。貴方……拗らせてるわね」


歪んでいたセレスちゃんの顔が、今度は呆れたような表情へと変わっていく。


「貴方、精神年齢が中等部……10歳くらいかしら? 急に子供に戻ったわね」


子供に戻った……?


「アリアにだけ甘えている──甘えられるのでしょう? ……その後、お母様とはどうなの?」


セレスちゃんの言葉に、ふと夏季休暇中の出来事を思い出す。



私は夏季休暇中、アリアちゃんのお家にお世話になっていた。


お母様がアリアちゃんの家に来て、アリアちゃんと話をした日。

初めてお父様とお母様が私について話し合ったと……後にお父様から聞いた。


『ケイア(マイヤの母)と初めてマイヤについて話したんだ。人に言われて初めてきちんと娘の事を話するなんて……つくづく駄目な父親だったと反省したよ』


お父様が申し訳なさそうに私に説明をしてくれた。


以前、アリアちゃんに『お互いの気持ちを手紙で言い合えたから、少しずつだけど分かりあえてる』と伝えた事があった。

手紙をやり取りする事で、ゆっくりではあるけれど、お母様と気持ちを通わせる事ができるようになった気がする。


ただ、それ以上にお母様へ影響を与えたのはお父様なのかもしれない。


『ケイアのする事にずっと“そうだね”としか言ってこなかった。それは話し合いじゃなかった』と、お父様は言っていた。

お父様とお母様はきちんと向き合って話をするようになった。

そして、今もお父様は私とお母様の間に入ってくれている。



「良い方向に変わってはいるけど……ただ話す時は、まだ少し緊張するかな」


そこでハッと気がついた。

お父様にもお母様にも上手に甘えられない私は、アリアちゃんにだけ甘えてしまっているんだ。

セレスちゃんの言う通りだ。


「大丈夫よ」


私が黙って考え込んでいると、セレスちゃんが口を開いた。


「アリアは鈍いし、抜けてる所が大いにあるけれど、マイヤが甘えている事くらい気がついてると思うわよ?」


驚いていると、セレスちゃんが「そろそろ出ましょう」と声を掛けてきた。

お昼休みも終わりに近づき、2人並んで教室へと向かう。


「私の優しさから(敵に)アドバイスを送ってしまったけれど、アリアの唯一無二の大親友は私だけですから! それだけは忘れないように」


キリっとした目で、セレスちゃんが念を押すように告げる。

その言葉に、くすっと笑みがこぼれてしまった。


それぞれの教室へと戻る為、 セレスちゃんと途中で別れる。

どこかスッキリとした気持ちのまま、自分の席へと腰を下ろした。


……あれ? でも結局、私はどうすればいいんだっけ??

ええと、あれ? どうやったら、優しくできるのか聞いてなかった!



ルナちゃん……。

そう! ルナちゃんに聞いてみよう。


放課後、席を立つとすぐにルナちゃんのクラスへと向かう。

ルナちゃんは……いた!!


教室から出てきたルナちゃんに急いで声を掛ける。


「ルナちゃん!」


振り向いたルナちゃんが私を見た。


「これから少し時間ある? 聞きたい事があって」


……この沈黙は何?

無表情すぎて、何を考えているか分からない。


「アリアは来るの?」


ああ、アリアちゃん。


「ううん、来ないの。ルナちゃんと2人で話したくて」

「なら、行かない」


そ、即答!?


「用件はそれだけなら……じゃあ」


えっ? えっ? えー!!

本当に帰って行こうとするルナちゃんをまたしても引き止める。


「じゃ、じゃあ、寮に帰るまでの間だけでも。い、一緒に帰らない?」


……無表情すぎて、やっぱり何を考えているか分からない。

だけど、黙って頷いてくれた。



帰り道、セレスちゃんに伝えた話をルナちゃんにも話してみる。


「アリアちゃんにだけ、なぜか優しくできないの。本当は誰よりも優しくしたいのに……それで素直に優しくなれる方法を教えてほしくて」


ルナちゃんが私をチラッと見た。


「分からない」


分からない……ルナちゃんなら、そう言ってもおかしくない。

焦りすぎて、アドバイスを聞く相手を間違えていた事に今更だけど気がついちゃった。


私、なんでルナちゃんにアドバイスを求めてしまったのかな?

動揺のあまり、冷静さに欠けてたみたい。


「それに私、マイヤを許してないから」



…………ルナちゃん。

それは、そうだよね。


私もアリアちゃんが別館の人たちに嫌味を言われた時、怒りがふつふつと湧いてきた。

アリアちゃんは気にしていないみたいだけど、私は許していないもの。

それと同じだよね。


「マイヤだけ夏季休暇中、ずーっとアリアと一緒に過ごしたこと。まだ許してないから」


……えっ? そこ!?


「そ、そこ?」


思わず声に出ちゃった。


「私だって、一緒に過ごしたかった。さらにアリアはマイヤを選んだし」


私を選んだ……? あっ、アリアちゃんに言う事を聞いてもらう権利の事かな?


「私の方がアリアに褒められてるし」


普段は無表情なルナちゃんだけど、少し悔しそうに見える。


「前に『もし家族だったら、私はどういう存在?』って聞いたら『妹かな』って言ってたし。マイヤなら、きっと従姉妹の従姉妹の従姉妹くらいだし」


……ものすごくショックだったのね。

従姉妹の従姉妹の従姉妹って……それは、もはや他人よ。


「本当の義妹になる日も近い」


ルナちゃんが手をぐっと握り、無表情のまま頷いている。


本当の義妹? って……えっ? リーセさん!?

それはチェックしていなかった! ……そうなの??


あれ? でも……そんな事になっていたら、オーンくん達が黙っていないはず。

きっとルナちゃんがそう思ってるだけね。



そのまま寮に着き、ルナちゃんはスタスタと自分の部屋へ帰って行った。


マイペース過ぎるわ! ルナちゃん!!

結局、ルナちゃんの決意表明を聞いただけで、少しもアドバイスを得られなかった。



従姉妹の従姉妹の従姉妹か……。今度、私もアリアちゃんに聞いてみよう。




それから数日ほど経ったある日、呆れた顔をしたセレスちゃんが私に声を掛けてきた。


「アリアとマイヤの話をしたら『マイヤのちょっと照れて素直じゃない所が可愛いんだよね~』とのん気に話していて、ただ何も考えていないだけだったわ!」


セレスちゃんは怒っているような、いないような……何とも言えない表情をしている。


私はといえば、その話を聞いて自然と顔がにやけてしまった。

そう思ってたんだ、アリアちゃん。


「本当にあの子は! 私がちゃんと見ていないと……」


得意気な顔をしながら、セレスちゃんがブツブツと文句を言っている。

セレスちゃん……表情とセリフが全然合っていない。


一通り文句を言い終わった後、セレスちゃんが私を見た。


「まぁ、どちらにしても気にする必要はなさそうよ」


私の為に聞いてくれた? のかな?


「ありがとう、セレスちゃん」


セレスちゃんに向かって、にっこりと笑う。


「うふふ。それなら……セレスちゃん、ルナちゃんよりも仲良くなる日は近いかな?」

「……いい性格しているじゃない」


セレスちゃんの顔が引きつっている。


「うふ。いい性格……褒め言葉として受け取っておくね」


これも私だから。

自分の事も理解した上で変わっていかなきゃ。



……それまで、もう少しだけ、もうちょっとだけ、アリアちゃんの優しさに甘えさせてもらってもいいかな。

そっちの方が、アリアちゃんはほっとけないと思うし、ね。



お読みいただき、ありがとうございます。

次話、3/2(火)になります。


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