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アリア VS ジュリア 転生者対決

最終試合を目前に私はなんとも言えない気持ちでいた。


カウイに抱きしめられた時、心配から衝動的に抱きしめたのだろうと思った。

ただ、私の中に1つの疑問が浮かんできた。


──いくら心配しているといっても、カウイは簡単に異性を抱きしめる人だろうか?

それと同時に、以前カウイが話していた言葉を思い出した。


『──アリアの事が好きだからだよ』


そっか。

あの時、私に言ってくれた言葉は、幼なじみの好きではない。

恋愛感情としての好きだったんだ……と気がついた。


よくよく思い返してみると、手を繋いだり、カウイの口から“デート”と言う言葉が出たり……と、気がつく要素はたくさんあった。


なぜ言われた時、すぐに気がつく事ができなかったのかなぁ。

もしかして私……恋愛に対して臆病になってる?

……なんでだろう? もう少しで何かが分かりそうな気はするんだけど。


体を動かしつつ考えていると、不安そうな表情でマイヤが近づいてきた。


「アリアちゃん……気をつけてね」


マイヤが素直だ。

それくらい心配してくれてるって事だよね。


「うん、ありがとう。マイヤに心配掛けないよう気をつけるよ」

「……心配とかじゃなくて。アリアちゃんが怪我をしたら、治す私が大変だから」


……素直時間、わずか1分。短かったな。


私が戻ってきてすぐに涙を堪えながら、手や足のケガを治してくれたマイヤ。

その時にジュリアから脅された話も聞いた。

私のせい……いや、私の為に悔しい思いもしたんだろうな。


絶対に敵は打つからね!!


……さっきセレスに『敵は打ったわよ』って言われたから、ついつい移ってしまった。

その言葉を聞いた時、『あれ? 私、死んだんだっけ?』て思ってしまったよ。



多分、ジュリアと2人きりで話せる機会は、この試合が最後だろうと思ってる。

そのくらい皆には心配を掛けてしまったから。


──だからこそ、私も“転生者”だとジュリアに伝える。


ジュリアは、どういう反応をするだろう。

ついでに私が眠らされる前、ジュリアが自分に酔いしれて語っていた言葉を知りたい(覚えてないから)。


「第7試合──最終試合が始まります。そろそろ、試合の舞台に上がっていただけますか?」

「は、はい、ありがとうございます」


試合関係者の方が呼びに来てくれたので、ついつい返事をしたけど……あ、あれ?

私……《水の魔法》のルールを聞いてないんじゃない!?


「アリアどうしたの? 表情が固いわよ?」


はっと我に返ると、セレスが不安気な顔をしている。

あっ。いつの間にかみんなも私の近くまで来てくれてたんだ。


「驚かないで聞いてほしい。……私、《水の魔法》の独自ルールを聞いていない!」

「な、なんですってー! 3試合もしていたのよ。聞く暇はあったでしょう!?」


はい、その通りです。

試合に夢中になりすぎて、忘れてました。


みんなも私の言葉に驚いている。

そんな中、冷静なミネルが口を開いた。


「アリアは魔法を使えないから、ひとまず問題はない」


──はっ!

全くもってその通り。ルール違反をしようと思ってもできない!!(しないけど)


「更に言うなら、あちらがルール違反をしそうな行動に出たら、悪いが止めさせてもらうぞ」

「そうだね。アリアは不本意かもしれないけど、“試合は最後まで続けられないかもしれない”という事を頭の片隅に入れておいて」


ミネルとオーンが真剣な表情をしている。

そうだよね。その可能性は十二分にありえる。


「分かったよ。“もしも”の時はよろしくね」


そんな中、エウロが私の前まで来て、頭にぽんと手を置いた。


「《水の魔法》のルールは、俺が聞いてくるよ。俺たちがアリアの代わりにルールを把握しておく。だから、アリアは後悔のないようにな」


そう言って、エウロが少し心配そうな表情で笑った。

『無茶するな』って言わずに『後悔のないように』って言ってくれたエウロの気遣いが嬉しいな。


みんなから激励の言葉をもらい、ますますやる気が湧いてきた!

「行ってくるねー」と手を振り、試合の舞台へと歩き出した。



遠くにいるジュリアも、舞台に向かって歩いてくるのが見える。


うーん。怒ってますねぇ。

……って、逆ギレもいいとこ。怒っているのは私の方だから!


先に舞台に上がり待っていると、ジュリアが私を睨みつけてくる。

それから、ゆっくり舞台に上がってきた。


「貴女、どうやって戻ってきたの?」


……そのセリフを言うという事は、まだソフィーさんが助けてくれた事は知らないんだ。


「教えない。教える義理もないし。もっと言うなら、第一声は謝罪じゃないとおかしいから!」


ジュリアが鼻で笑う。


「はっ。私が謝罪? あり得ないわ」


あり得ない……なんだろう。

ジュリアって──


「自分は何をしても許される存在だと思ってない?」

「ええ。当たり前じゃない」


いやいや、即答!

そして当たり前じゃないから!


「貴方には分からないと思うけど、私は何をしても許されるの」

 

それって──


「それは……転生者だから?」


私が聞くと、ジュリアの眉間がピクッと動いた。


「第7試合を開始しますが……よろしいですか?」


審判員が探るように私たちに声を掛けた。


「あっ、はい」

「……大丈夫です」


私とジュリアが審判員に返事をする。

私達の返事を聞いた審判員が、今度は実況席のメロウさんに目配せした。


「ついに最終試合でーす! “アリア”VS “ジュリア”の試合を開始します!!」


メロウさんの声が会場に響き渡った。

観客席は盛り上がっていて、あちこちから声援が聞こえる。



試合が始まったと同時にジュリアが私に質問した。


「……なぜ“転生者”という言葉を?」


魔法が使えない私は、即座に腰にある剣を抜く。

その姿を見たジュリアも急いで剣を抜いた。


「私が転生者だから」


“childhood friends”の存在を知っているジュリアも多分、転生者だろう。

ただ、万が一の可能性も考えて『私“も”転生者』という言い方は避けてみた。


ん? ジュリアが固まってる。これはチャンス!?

剣を振り下ろし、攻撃を仕掛ける。


私の剣を受け止めたジュリアが、驚愕きょうがくしたように口を開いた。


「貴方、“アリア”よね?」

「はい、アリアですが……」


ジュリアが私から少し離れ、距離をとった。


「貴方、“アリア”に転生したの!?」


私がこくんと頷くと、ジュリアが突如、大声で笑い出した。


「んんー!? これはどうしたー? ジュリア選手の動きが止まり……大笑いしているー!? 何があったのでしょう!?」


不思議そうな声でメロウさんが実況を続けている。


「よりによって、4人のヒロインの中で“アリア”に転生……可哀想に」


ジュリアが心底同情するかのような目で私を見ている。


イラっとはするけど……この失礼極まりない反応は、予想通りと言えば予想通り。

私の聞きたいことは──


「貴方も転生者なんでしょう?」


少しだけ間をおいた後、ジュリアがゆっくりと答える。


「……そうよ」


やっぱり! だから“ヒロイン”という言葉を使ったんだ。


剣を交えながら、ずっと気になっていた事を尋ねていく。

ジュリアも私が“転生者”と聞いたからだろうか?

私と会話をする気になったのか、魔法を使わずに剣で試合をしている。


「“childhood friends”に“ジュリア”はいなかったと思うけど……隠しキャラか何か?」


私の質問にジュリアの目が丸くなった。

あれ? そんなに変な質問をした??


「貴方……“childhood friends2”の存在を知らないの?」


…………へっ?

あのゲーム“2”があるの!?


そういえば、ジュリアは『10歳から人が変わったように別人になった』ってお父様からの手紙に書いてあった。

それを考えると、私が転生したのが7歳……その3年後にジュリアが転生。

だから、私は“childhood friends2”の存在──ジュリアを知らなかったんだ。


なるほど。少し分かってきた。

ジュリアは“childhood friends2”のヒロインなんだ。

……って、ここは“1”の世界のはずなのに、“2”のキャラも一緒にいるって事??


そんな事あるんだ。

まぁ、私も転生しているし、その時点で『そんな事あるんだ』だから……そんな事もある……のか?


「私は(多分)“childhood friends2”が発売される前に転生したから」

「そうなの。どちらにしても可哀想ね。“アリア”を好きになってくれる確率は低い上、イベントをクリアしたとしても1人しか好きになってくれないものね」


……へぇ~、初耳です。

“アリア”って、そうなんだ。


私の表情を見たジュリアが探るような口ぶりで聞いてきた。


「……貴方、まさか“childhood friends”の内容を知らないの?」


あっ、バレた。こんな時まで、顔に出ていたか。

まぁ、いっか。隠す事でもないしね。


「4人のヒロインの基本的な情報と“アリア”が結ばれにくいという最低限の事しか知らない」

「はっ。そんなんじゃ、たった1人の人も好きにはなってくれないわね」


鼻につく顔をしながら、嘲るようにジュリアが笑っている。


「別に……イベントを気にせず、楽しく生きる事にしてるから」

「ふふ、負け惜しみね。まぁ、”アリア”なら、そうなっても仕方がないわね。それに比べて……私たち、幼なじみを見て何も思わない?」


私たちって……ああ! 別館の人たち!?


「んー。ああ、性格は良くないよね。あと、仲も良くないんでしょ?」

「違うわよ! そこじゃないわよ!!」


ジュリアの振り下ろす剣に、さっきよりも力が入ってきた。

どうやら、怒らせたらしい。


「ふん、教えてあげるわ。私たちには、“アリア”のポジションがいないのよ」


“アリア”のポジション??


「ふふ、“アリア”を選ぶ人があまりにも少なくて不評だったらしいわよ。だから、“2”はヒロインがみんな秀でているのよ!」


勝ち誇った表情をして、ジュリアが話を続けている。


「……良かったわ」


ん? 良かった?


「“転生者”と聞いて、この世界のヒロインは私以外にもいると思ってしまったけど、どう考えても貴方は違うわね」


ど、どういう意味!?


「……この世界のヒロインって?」


思った事をそのまま聞いてみる。


「あら? 気がつかない? 私のお父様は最高権力者。そして、私はこの美しさと誰にも負けないくらい強い魔力を持っているの。ふふ、私が言った事、思った事が叶わなかった事はないの。この先もきっとそう。ここは私の“思い通りの世界”なのよ!」



……ああ、なるほど。

今までの不快な言動や行動の数々は、この考えからきているのか。


「でも……学校を作るイベントはできなかったんでしょ? 思い通りにならなかったんじゃない?」


イベントだって知らずにやってしまったけど。

私の挑発を聞いたジュリアが、ものすごい形相に変わった。


「そうよ! 今まで何でも思い通りだった。……“2”の初めてのイベントを潰した“アリア”! 貴方だけは、絶対に許さないわ!!」


めちゃくちゃ理不尽な理由で怒っているような気がするのは私だけだろうか。

さらに“2”の初めてのイベントって言った?


「あれ? 婚約者を決めるイベントは?」


あっ、普通に声に出ちゃった。


「”2”は婚約者にはならないわ」


へっ? そうなの??

ジュリアがふっと笑った。


「……いいわ。貴方とはこの試合が“最後”だもの。教えてあげるわ」


この試合が“最後”って? 2人で話すのが“最後”という意味……だよね!?


「“2”は、高等部から恋愛が始まるの。まずは学校を作るイベントから始まり、そこでユーテルが更生して私を好きになる」

「その……前にも言ってたけど、更生って何!?」


剣を重ねつつ、質問する。


「“2”はね、“1”とは違って攻略対象には一癖も二癖もあるの」


一癖も二癖? 別館の男性陣を思い出してみる。


カウイと対戦したヌワさんは試合になると性格が豹変……二重人格者?

性別とは反対の恰好をして、リイさんの口調で話す、イリさん。

ユーテルさんは、自分大好きで複数の女性と交際している。


……ふむ。キャラ強めではあるな?

でも、エウロと対戦したジェントルマン“ライリー”さんは? 何もなかったような??


「……ライリーさんは?」

「ライリー? ああ、ライリーは重度のマザコンよ」


へぇ~、そうなんだ。


「攻略対象の4人は私を好きになり、変わっていくの。ユーテルはナルシストがなくなり、複数の女性と付き合う事もなくなる」


好きな人ができるから複数の女性とも付き合う事がなくなるのは……うん、分かる気がする。


「私が幼なじみ達を“まともな人間”に戻してあげるのよ」

「…………」


私が黙っている間にも、ジュリアはとめどなく話し続ける。


「ソフィーたち女性陣は、ライバルとして必要だから今まで一緒にいてあげたの。でも……もう一緒にいる必要もないわ」


「ふふっ」とジュリアが笑った。


「“1”も恋愛が始まるのは高等部から。そして、“1”のイベントも覚えてる。あとは、私がそのままイベントを起こせばいいだけ。癖がある攻略対象よりも、王子がいる“1”のメンバーと恋愛した方がずっといいわ。……ただ」


急にジュリアの表情が険しくなった。


「調べてみたら、どうもおかしいのよ」


不思議そうにジュリアが首を傾けている。


「“1”はライバル同士である幼なじみの女性たちは仲が悪いの。それなのに、なぜか仲良くなっている」


何かを確認するようなジュリアの声。

考える事に意識が向いているのか、攻撃してくる剣の力も弱い。


「婚約解消だって、恋愛がスタートする高等部からのはずなのに……もう全員が婚約を解消している。貴方の弟だって」


私の弟……エレの事?


「中等部で人気者……そんな筈はないのよ。控えめな“アリア”と弟は仲良くなる事もなく、根暗で誰とも打ち解ける事もない弟は、高等部で《闇の魔法》を使って問題を起こすイベントがある筈だもの」


──!!!


「さらに私の知らないキャラ──幼なじみの兄弟であるリーセやサウロ、ウィズとも“アリア”は接点がある」


うわっ! そんな所まで調べたんだ。


「私の知ってるストーリーと……何もかもが全然違うのよ。なぜ? 何が起きてるの!?」


口調に合わせてジュリアの剣が荒くなってきた。

感情によって剣の使い方が変わるタイプなんだな。うん、分かる気がする。


「……話は終わった? 今度は私から言わせてもらうけど」


ずっと攻撃を受けていただけだったけど、今度は私からも積極的に攻撃を仕掛け始める。


「確かに別館の人たちは失礼だと思うけど、それ以上に『“まともな人間”に戻してあげる』という上目線の考え方が気に入らない! 私からすれば、ただ‟個性が強い人”というだけ。貴方の言葉を借りて言うなら、貴方の方が“まともな人間”になった方がいい!」


私の言葉に、ジュリアが驚くように目を見開く。

でも、私の言いたい事はまだまだこんなものじゃない!


「“転生者”とか“ヒロイン”だからって、貴方の自由にしていい世界ではないし、貴方の考えが常識になる世界でもない!そういう固定概念は捨てて、貴方は広い世界を見つめた方がいい!!」



──あっ、そっか。


私は“childhood friends”の内容を知らなかった。

婚約者を決めるイベント以外知らなかったから、自由に暮らせたんだ。

私はイベントではなく、もう自分で切り開いた道をきちんと歩んでいたんだ。


最初は気に掛かった事もあったけど、今なら思う。知らなくて、本当に良かった。

もし知っていたら、ジュリアと同じ考えになっていたかもしれない。



……いや、それは言い過ぎか。

知ってたとしても、さすがに『私の世界よ』という性格になんてなってないわ。


同時に気がついた。

固定概念を持っていたのは私も同じかもしれない。


“アリア”だから、好きになっても振られるって思い込んでいた。

“アリア”だから、好きになってもらえるはずがないと思ってた。


だから私は、人からの好意に気づけなかったのか。

原因は臆病なんかじゃなかったんだ。


「……何もかも違っていても、イベントさえ起こせばいい。私にはイベントを起こす力がある」


独り言のようにジュリアが低い声で呟く。

いつの間にか、私から随分と離れた位置にジュリアが立っている。



剣を鞘に収めると、ジュリアが魔法を唱え始めた。

お読みいただき、ありがとうございます。

次話、2/14(日)18時 更新になります。

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