セレスとルナは仲良くなれるのか!?
皆様、ごきげんよう。またまたセレスよ。
まず最初に、結論からお伝えするわ!
私とルナは全っ然仲良くならなかったわ!!
──以上の事を踏まえつつ、私の華麗なる試合の始まりよ。
アリアが戻ってきた時、私とした事が緊張の糸が途切れたのかしら?
久しぶりに取り乱して泣いてしまったわ。
最後に泣いたのは、いつだったかしら?
……って思い出したら、カウイの従兄弟にアリアが怪我をさせられた時じゃないの!
アリアってば、私に心配を掛け過ぎよ!!
それにしても、アリアが戻ってきた事に気がついた時のジュリアさんの表情。
遠くからでも分かるくらいすごい形相だったわね。ふん、いい気味よ!
アリアを助けたのがソフィーさんというのも驚きね。
それとなく別館側の様子を観察してみたけど……試合中だから?
ソフィーさんがアリアを逃がした事は、まだバレていなさそうな雰囲気ね。
……なぜ助けてくれたのかしら?
アリアも『分からない。でも理由の1つに、自分の矜持を守りたかったというのがあるんじゃないかな』って言ってた。
何が言いたいのか、さっぱり分からなかったわ。
準備運動を始めながら、チラッとルナに目を向ける。
ルナが泣くなんて……意外だったわ。
人間としての感情がまだ残っていたのね。
それに、アリアが戻る前に試合が終わってしまったエウロ達は、きっと悔しかったに違いないわ。
……いえ。もしかすると、悔しいよりも不安かしら?
ジュリアさんの機嫌を損ねないようにという気持ちの方が強かったのかもしれないわね。
私の次に優しい性格をしているエウロは、アリアじゃなくてもきっと同じ事をしていたでしょうね。
ただ、ミネルまで一切の迷いなく、負けを選んだのは驚いたわ。
アリアの無事が確認できた今、黙って終わるタイプではないと思うけど。
マイヤは、まだ完全に信用したわけではないけど……いえ、本当は分かってる。
認めたくないけど、もうアリアを傷つけたり、裏切ったりしないという事を。
悔しいから、まだ信用していないと言わせてもらいますけど。
アリアはジュリアさんに勝つ気満々だったけど……あの子、自分が魔法を使えない事を忘れているんじゃないかしら?
いつも感情が先走るところがあるのよねぇ。
本当に困ったものだわ。
常に冷静沈着な私が注意をして見てあげないとダメなんだから。
そういえば、試合を見ていて思ったのだけれど、別館の人たちは年齢の割に魔力も強いし、剣術や武術もそこそこできるみたいね。
けれど……私に比べるとまだまだね!
私くらいセンスがあると、何もしなくても強いのは当たり前。
さらには、ハイスペックな私がカウイの従兄弟をきっかけに、アリア(、おまけでカウイ)を守る為に人の何倍、何十倍、何百倍も努力をしてきたのよ!
今回の対決を挑まれる前から、努力し続けてきた私がそもそも負けるはずないじゃない!!
……まぁ、私ほどではないにせよ、きっとみんなもそうなんじゃないかしら。
そう思うと、先に試合をした3人も本来なら勝てていた気がするわ。
一切無駄のないストレッチをしていると、試合関係者の方が私とルナに声を掛けてきた。
「そろそろ第5試合が始まります。試合の舞台に上がっていただけますか?」
「承知致しました。行くわよ、ルナ」
ルナが静かに頷く。
2人で試合の舞台に向かうべく歩き出すと、アリアが駆け足でやって来た。
ふふっ。激励の言葉ね。
「2人とも仲良くね!!」
……今の言葉は激励かしら?
アリアの言葉に悩んでいると、ルナが口を開いた。
「アリア、勝ったら……」
アリアがルナの顔をジーっと見つめている。
「うん! 勝ったら嬉しいし、たくさん褒めるからね!!」
???
「でも無茶はしないでね」
アリアに言われて、私でも分かるくらいルナが嬉しそうに頷いている。
な、なんですってー!?
今のだけで会話が成立したの!!?
くっ、悔しいわ!!
「……アリア!!」
不思議そうな表情でアリアが私を見た。
眼で一生懸命、念を送る。
私の考えてる事は、ちゃんと分かるかしら??
「どうしたの? セレス??」
な、なんですってー!!
ルナの考えている事は分かるのに、私の考えている事は分からないのー!!?
「なんか、久しぶりの情緒不安定……じゃない、感情の豊かさが爆発してるけど」
「私の考えている事が分からないなんて……」
「ん? 何か考えてたの??」
アリアの質問を聞き、一瞬沈黙する。
悔しさからアリアを見つめてたけど、その時に私は何か考えてたかしら??
……と、いう事は“私が何も考えていない”という事をアリアは分かったのね!
さすが、心の友よ!!
不思議そうな表情をしているアリアに「勝ってくるわ」と告げる。
そして、ルナと一緒に試合の舞台まで歩き出した。
対戦相手のイリさんとリイさんがすでに試合の舞台に上がっている。
2人の区別がつかないよう同じ服を着ているわね。
これじゃあ、どちらが《土の魔法》を使用して、どちらが《緑の魔法》を使用するのか分からないじゃなーーい!!
……と、言うとでも思ったのかしら!?
ふふふ。そんな事は、最初から予測していたわ!
「ルナ、いいわね? 最初が肝心よ。作戦名“りんご”よ」
ルナがコクリと頷いた。
2人で決めた、この何とも言えない合言葉。
本当はもっと素晴らしい名前……“セレス ベリースペシャル”や“エレガント セレス”という合言葉を夜な夜な考え、提案したら──
「覚えられないし(覚えたくないし)、言いたくない」
と、ルナには速攻で断られ、アリアには──
「セレスって、オールマイティだと思ってたけど、名前のセンスはなかったんだね」
と、悪びれのない顔で言われてしまった。
「じ、じゃあ、どんな言葉なら覚えられるのよ!?」
「アリアが好きなものだったら、覚えてるし、覚えられる」
ルナがそう言うから、ものすごーくかっこ悪くて不本意だったけど……アリアの好きな食べ物が作戦名になってしまったのよね。
『言いたくない』ってルナは言っていたけど、今にして思えば、いつも私が作戦名を言ってルナは頷いてるだけ。
……あの子、そもそも言ってないじゃない!
それなら“プレシャス セレス スマイル”でも良かったじゃない!!
そんな中、メロウさんのテンション高めの声が聞こえてきた。
「第5試合、唯一のペア対決です! ワクワクしますねー!!」
審判員が私、ルナと対戦相手イリさん、リイさんの間に立ち「準備はいいですか?」と確認する。
私とルナは審判員に向かって無言で頷いた。
ツインズは「いいよー」と元気に答えている。
審判員がメロウさんの方を見て、ゆっくりと合図を送った。
「それでは……“セレス”、“ルナ”VS “イリ”、“リイ”の試合スタートです!!」
──始まったわ!!
今回、ルナが使う《緑の魔法》は、元々危険な要素が少ない魔法の為、制限はほぼなかった。
唯一あったのは、猛毒などになり得る植物の使用禁止。
それ以外は、植物(つる、木の枝など)での攻撃、拘束、緑の壁などの防御魔法など、ほぼすべての魔法が認められた。
一方、私が使う《土の魔法》は、飛礫での攻撃、砂嵐を作るなどの軽度の攻撃魔法は認められた。
砂、岩の壁も防御魔法として認められたけど、魔力の消費が激しい。
……出来れば、使いたくないわね。
そう! だから、この作戦名“りんご”は、ルナの魔法に掛かっている!
即座に私の向かい側にいたイリさん(リイさんかもしれないけど)に飛礫の攻撃を仕掛ける。
私同様、ルナも魔法を唱えながら、リイさん(イリさんかもしれないけど)に蹴りなどの攻撃を仕掛けている。
攻撃を仕掛けつつ、ルナが《緑の魔法》で大きな緑の壁を作った。
緑の壁はカウイが作った炎の壁と違い、一度作ってしまえば、それ以降の魔力の消費はない。
よって、リイさんが植物を枯らす魔法を唱えない限り消える事はない!
これで、2人が離れたわ!!
いきなり引き離されたツインズは驚きの声を上げている。
「えっ! えー! ずるい、ずるい」
「勝負にズルいなんてないわ!」
試合スタートと同時に2人を引き離す事に成功したわ。
作戦通り!!
「こうなったら壁を枯らす!」
あら? 《緑の魔法》って事は、こちらがリイさんなのね。
「唱えさせないわ!」
急いで、魔法を唱え、飛礫で休むことなく攻撃をする。隙は与えさせないわよ!
「僕の邪魔をするなー」
僕……とは言ってるけど、リイさんは確か女性だったわよね。
双子だから、色々な事で混乱しそうになるわ。
「試合なんだから、邪魔をするに決まってるわよ!」
リイさんが飛礫を受けながらも魔法を唱えている。
緑の壁が徐々に枯れ始めてきた。
私の攻撃は……当たってはいるけど、少し上着の色が変わったくらいね。
完全に枯れるまでは、時間の問題。
即座に剣を抜き、リイさんに向かって走り出す。
攻撃しやすいよう、まずは飛礫で左側を攻撃する。
よし、予想通り右側に避けたわね。
体勢が乱れているところを狙い、リイさんに向かって剣を振り下ろす。
ところが、攻撃に気づいたリイさんにギリギリのところで躱されてしまった。
「わぁー、危なかった」
残念。でも……。
「残念だったねー、壁も枯れちゃったよー」
喜んでいるツインズを横目にルナと視線を合わせる。
ルナが察したように頷いた。
イリさんの右袖は……破けているわね。
それに対し、リイさんは左側の袖が破けている。
私もルナも、最初から衣服を狙って攻撃していた。
まぁ、運よくダメージを与える事ができていたら、それはそれで喜ばしい事ではあったけれど。
壁が枯らされるのは想定内。
最初から私たちの目的は、ツインズの見分けができるようにする事だもの!!
だからこそ、右袖、左袖と別々な箇所を破いた。
もちろん、それだけで勝利が確定したわけではないわ。
相も変わらず、ツインズは息の合った連携プレーを見せているし。
お互いが上手く交互に魔法を唱えていて、休まず攻撃をしかけてくる。
私とルナではこんな連携……絶っ対にできないわ!
訓練中、ルナと『異なる魔法を使う相手の方が、戦いづらいのではないか』という話になり、私は《緑の魔法》を使うリイさんを担当する事になった。
作戦通りにイリさんの事はルナに任せ、リイさんだけに集中して攻撃を仕掛ける。
試合までの1か月間。
ずっとルナと試合をし続けたのだから……《緑の魔法》の攻撃方法は見慣れたわ!
試合を続けながら、ふと、ずっと疑問に思っていた事を2人に尋ねた。
「貴方たち、なんで性別とは反対の服装をしているの?」
私の目の前にいたリイさんが答える。
「たまたましたい服装が逆だっただけの話」
「なんだ、そうなの。単純な理由だったのね」
相手を混乱させる為……とか、別に難しい事を考えているわけじゃなかったのね。
私の返答にツインズの動きが少し鈍くなった。
「……それだけ?」
「何? 似合ってるとでも言ってほしいの? アリアをバカにした貴方たちを褒める事なんて一生ないわ!」
「変だって言わないから……」
「おかしいって言わないから……」
そう言われると……そうなのかしら?
外見とか性格とか、細かい事を一切気にしないアリアと一緒にいる時間が長すぎて、もはや何が正解なのか分からなくなってるわ。
「一緒にいるジュリアさんこそ、言いそうなタイプだと思うけど?」
私の言葉にツインズが顔を見合わせた。
「ジュリアも最初は不快そうにしてたけど、その内『今はまだそのままでいいわ』って言って認めてくれたから」
「ジュリアが認めた事で、他の人たちも何も言わなくなったから」
……このツインズは、バカなのかしら!?
“今はまだ”ってことは、全然認めてないわよ!!
「他の方たちは何も言わなくなったわけではないわ。ジュリアさんの権力を前に言えなくなっただけよ。ジュリアさんが考えを覆したら、また言われるようになるわよ」
まぁ、私の知った事ではないけども。
「それでもそんなこと言ってくれた人はいなかったから」
「いなかったから」
今だけでもいいってことね。
私の横にいたルナが口を開いた。
「アリアは『2人とも違和感ないくらい似合ってた』って言ってたよ」
ルナの言葉にツインズの目が見開いた。
「うっそだぁ」
た、確かに言ってたわ!
自分がバカにされた相手の事を褒めるなんて……って思ったもの。
アリアの場合、思った事をつい口に出てしまう所があるから、何も考えずに言ってしまったのだとは思うけど。
……ルナって、アリアの話だけは覚えているのね。
私の話は明らかに受け流しているのに!!
「別に信じなくてもいいわ。だけど本当の事よ」
会話をしているせいか、お互いへの攻撃が魔法から物理的なものへと変わっている。
当然、私は気づいているけれど、ツインズはほぼ無意識みたいね。
私の言葉に、2人が少し戸惑いつつも耳を傾けている。
どうせなら、別な質問でもしてみようかしら?
「……貴方たち、髪が短い女性をどう思う?」
2人が再び、顔を見合わせる。
「別にどうも思わないけど……」
「ねっ!髪が短い人なんて普通にいるし」
……普通ね。
「そう、今はね。もうそれが当たり前だから何も思っていないかもしれないけど、少なくとも5年前はいなかったわ」
アリアが髪を短くしてから、徐々に周りも『髪が長くなくてもドレスは似合う』、『髪が短くてもアレンジできる』と思うようになった。
最初は校内だけだったけれど、学校の子たちが社交場に出る事でどんどん広まり、今では当たり前のように髪の短い女性も増えている。
「変な注目を集めても、白い目で見られても、“自分のしたい”事なんだから。堂々としていれば、いずれは周りも何も言わなくなるんじゃないかしら? ……いえ、自分自身が気にならなくなるんじゃないかしら?」
あら。ついついアリアを思い出して、敵にアドバイスを送ってしまったわ。
それと同時に、ある事に気がつく。
ああ、なるほど。ツインズが話し方を変えてるのは……。
「貴方たちが服装だけじゃなく、話し方も変えてるのは、万が一指摘された時にお互いになりすますためじゃなくって?」
2人の表情を見るに図星のようね。
本当ならば話を聞いてあげる所なんでしょうけど、今は勝つ事が優先。
悪いけど、戸惑いがある今のうちに……。
すばやく魔法を唱え、舞台を破壊しない程度の砂嵐を起こす。
「わざわざ話し方を変えるくらい、貴方たちとっては大切な事なんでしょう? それならもっと堂々としたらいいのよ」
砂嵐を移動させ、ツインズにぶつける。
必死に払い除けようとする2人に対し、ルナが邪魔するように緑のつるを作り出した。
やるじゃない、ルナ!
足が絡まって動けない2人を、容赦なく砂嵐が巻き込んでいく。
砂嵐にまぎれて、メロウさんの声がうっすらと聞こえてくる。
「おおーっと! 最後は、セレス選手の砂嵐の攻撃で……」
ふふ、上着の色が変わったわね。
「き、決まったー!!」
審判員も上着の色に気がつき「やめっ!」と声を掛ける。
「勝者、セレス、ルナペアー!!!」
……当然だけど、勝ったわ。アリア、敵は打ったわよ。
試合が終わり、ルナと2人で一礼する。
ツインズは、放心状態でぽかんと口を開けている。
痛みは特になさそうだけど……何とも言えない表情ね。
私の言葉に戸惑っている? それともジュリアさんに怒られると思っている? 両方?
……まぁ、私には関係ない事だわ。
「さて、戻るわよ」
心広き私がルナへと声を掛ける。
すると、ルナが私を見つめ、スッと手を差し出した。
ふふ、何? 握手? ルナもなかなか素直になったじゃない。
ルナの手を握ろうとすると、途端に手をしまわれた。
「はっ!? 握手じゃないの?」
「握手?」
無表情のルナが私に向かって首をかしげる。
「手を差し出したじゃない!!」
「ん? ……いや、手を伸ばしただけ」
何よっ! それは!!
「やっぱりルナとは分かり合えなかったわ!」
「そうだね。でも私、セレスは嫌いじゃない。……多分、好き」
な、なんですって?
いや、その前に……。
「“多分”は余計よ!」
「かもしれない」
「“かもしれない”も余計よ!!」
いつもは冷静な私もついついルナには声を荒げてしまうのよね。
「でも、友人かと聞かれると……違う」
なんて失礼なの!
でも……そうかもしれないわ。
「確かにそうね。友人とは、少し違うわね」
「うん。負けたくないって思ってるから、ライバルかな」
そう言ってルナが珍しく笑った。
ライバル……そうね。その方が友人より、しっくりくるわね。
ずーっと一緒にいる“ライバル”がいてもいいんじゃないかしら?
お読みいただき、ありがとうございます。
2/6(土)更新になります。




