セレスの話~そして、試合が始まる~
ご無沙汰していたわね。セレスよ。
試合のルール説明も聞き終えたことだし、そろそろアリアと合流しようかしら?
きっとアリアは『セレスがいないとつまらない』って思ってるはずね。
ふふっ。本っ当にしょうがないわね、アリアは。
「ルナ、私はこれからアリアの所に行くけど?」
一緒に説明を受けていたルナに声を掛ける。
返ってくる答えは大体想像がつくけど、念のため聞いてあげる心優しき私。
まいったわ。私くらいのレベルになると、こういう所にも気が利いちゃうのよねぇ。
「私もアリアの所に行くつもりだった」
……予想通り。この後もルナと行動を共にする事になるのね。
ルナと約1ヶ月間行動を共にして分かった事があるわ。
──そう! !!
ルナは例え1年一緒にいても、100年一緒にいても何を考えてるのか分からない!
……という事が分かった1ヶ月だったわ。
連携プレーについても色々と話し合った結果、“この言葉”を発したら“この動き”をする……といった感じで、ほぼ丸暗記だし。
だから2人で決めた事以外は、全く連携がとれる自信がないわ。
……この私が一生の内で『自信がない』などという言葉を思い浮かべてしまうなんてっ!!
もう二度とルナとペアは組まないわっ!!!
ふぅ、ついつい熱がこもってしまったわね。
……と、ルナがふいに口を開いた。
「でも、もしかするとアリアは説明を聞きに行ってるかもしれない」
……はっ! 私としたことが、盲点だったわ!!
なんてケアレスミスを!!
それからすぐにマイヤ達とは合流できたけど、ルナが言ってた通り、アリアは説明を聞きに行っていて、その場にはいなかった。
……アリアが説明を聞くのは最後……よね。
試合が始まる1時間前には会えるかしら?
色々と時間をつぶしながら迎えた、試合開始1時間前。
試合会場には来たけど、さすがにまだ観客は入れていないのね。
今いるのは、試合に参加する私たちと試合を準備してくれている方たちのみ。
なかなか、広い会場じゃない。
観客席も……って、ここは“テスタコーポ”大会のゴールで使われていたグラウンドね。
確かにグラウンドの周りには観客席もあるから、絶好の場所といえば、場所。
グラウンドの中央にも立派な試合用の舞台。
この日の為にわざわざ作ってくださったのね。
つまり……それだけ、私が注目されているという事!!
皆様、今日は私の華麗に勝つ姿を見せて差し上げますわ!
ほぉっーほっほ!!
……と、徐々に試合会場へとみんなが集まってきたけど──その中にアリアの姿がない。
私同様、オーンやルナ達も明らかに気にしている様子。
アリアったら、どこにいるのかしら??
本っっ当に私に心配を掛けるのが得意なんだから!!
──あら?
あそこに立っているのは、先ほど私とルナにルール説明をしてくださったメロウさん。
ちょっと聞きに行ってみようかしら。
「メロウさん、作業中失礼します」
「おっと、これはこれはセレスさん。どうされましたー?」
この方って、常に陽気よね。悩み事とかあるのかしら?
「お聞きしたい事がありまして……アリアへのルール説明は終わっていますよね?」
「はいー、アリアへの説明は終わってるはずですよー」
終わってる、はず?
「実は試合会場の準備で急に呼ばれまして……アリアへの説明は他のメンバーにまかせたのです!」
ああ、なるほど。そういう事だったのね。
「ありがとうございます。失礼しますわ」
そうなると……アリアはどこに行ったのかしら?
「アリアちゃん、来ないね」
マイヤも周りを見渡しつつ、アリアを探している様子。
エウロも落ち着かないのか、同じ場所を行ったり来たりしている。
「まだ時間もある。探しに行くか?」
「探しに行くのなら、後半に試合がある俺たちの方がいいと思うよ」
カウイが珍しく積極的に話している。
確かにその通りね! ここは大、大、大親友と呼ばれた私が探しに行かなくてはいけないわ!!
張り切って探しに行くわよー!!
……と、意気込んでいたら、私の天敵が、こちらに向かってつかつかと歩いてくるじゃない。
──ジュリア……さん!!
くっ!
本当は、“傲慢ジュリア”くらい思いたいのだけれど、私の品の良さがそれをさせてくれないこのもどかしさ。
「皆さん、揃ってるようね」
ジュリアさんが不気味な笑顔で、こちらに話し掛けてきた。
ここはみんなを代表して、私が前に出るしかないわね。
ジュリアさんの前まで優雅に歩いていく。
「貴方の目は節穴? アリアはまだ来ていないわよ!」
アリアという自分の対戦相手を忘れるなんて、頭がよくないのかしら!?
私の言葉に、さっきよりも薄気味悪くジュリアさんが笑った。
「いえ、これで全員揃ってるわ」
「……どういう意味かしら??」
ジュリアさんが「ふふっ」と、さらに気味悪く笑った。
「今から言う事を黙って聞いてくださる? もし反論を唱える人がいたら、その時点でアリアさんは二度と戻ってこないと考えてくださっても構わないわ」
なっ!!! ……にを言ってるの?
「ど、どういう事かしら?」
ギュッと締めつけられるような胸騒ぎがしてきたわ。
「ジュリアさん、今の話を具体的に教えてくださいますか?」
私の横へとやって来たオーンも険しい表情をしている。
どこか動揺を隠すような話し方をしているようにも感じられる。
「アリアさんが今いないのは私が関係しているという事よ」
……それって、アリアはジュリアさんに捕らえられているという事?
はっ、そんな筈ないわ。アリアには警護の人がついてるもの。
私がジュリアさんに言い返そうと口を開けた瞬間、普段、穏やかなカウイが焦るように声を上げた。
「さっき、緊急招集があるとかで30分ほど警護の人がいなくなったんだ。多分、アリアの警護の人も……」
な、なんですって!?
ジュリアさんが「ふふっ」と微笑んだ。
「そういう事よ。アリアさんが戻ってくるか、こないかは貴方たちの試合次第よ、という事を伝えに来たの」
回りくどい言い方をしているけれど、要は私たちに負けろって言ってるの!?
「あと、ここにいる誰かがアリアさんを探しに行くような素振りを見せた場合も、アリアさんは戻ってこない」
おかしいわね。自分の意思とは反して、手が……手が震えてきたわ。
「もちろん、試合を棄権する、わざとらしい負け方をする、アリアさんがいない事を不審に思わせる……といった、他人に気づかせるような行動をとった場合も同じよ」
みんなの顔が、今までに見た事がないほど狼狽えているのが分かる。
きっと私も同じ顔をしているわね。
「頭のいい貴方たちなら、私が何を言いたいのか分かるわよね?」
完全に脅しともいえる発言。
私たちが予想していた通り、ジュリアさんは“危険人物”だった!!
気がついたら、ミネルが私の横にいた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「質問だ。アリアは無事なのか?」
ミネル……。
「無事よ、今はね」
ジュリアさんが嫌味ったらしく笑った。
「いやだ」
私でも分かるくらい青ざめた顔のルナが一言つぶやいた。
「いや? それは反論とみなすわよ?」
ジュリアさんがルナに向かって強気の姿勢で言い放った。
すぐにオーンがルナの前に立ち、ジュリアさんに伝える。
「今のは反論ではありません。アリアがいない事を嫌だと言っただけです。そうだよね? ルナ?」
オーンが振り返り、ルナに必死な表情で訴えている。
ルナもオーンの言葉を肯定するかのように何度も何度も泣きそうな表情で頷いている。
言い返したい! 文句を言いたい!! けど、言えない。
気に食わないけど、ジュリアさんの機嫌を損ねることは、最悪アリアの命にかかわるって事だもの。
自分の無力さが、これほどまでに悔しいと思った事はないわ。
きっとみんなも私と同じ気持ちのはず。
だからこそ、怒り、動揺、悔しさを必死に抑えて黙っている。
「まぁ、私は心が広いから、今のは見逃してあげるわ。試合は通常通り行いたいもの。これから来る観客を落胆させないためにもね」
……悔しいけど、これだけは確認しなくてはいけない。
「貴方の言った事を守れば、アリアは必ず無事に戻ってくるのね?」
「ええ、守ればね。最後の──私との試合の時には戻すと約束するわ。それでは、いい試合にしましょう」
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次話、明後日(1/21 木)更新になります。
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