まずは敵情視察から
幼なじみ達とわりと理不尽な約束をしてしまった私は、急いで教室へと向かっていた。
朝から話し過ぎてしまった!
ホームルームが始まるギリギリで、教室へ駆け込む。
自分の席に座ったと同時にホームルームが始まった。
よかったぁ、間に合った!!
それにしても……さっきは焦ってて気がつかなかったけど、クラス中がそわそわと浮足立っているような??
……なるほど。もうみんな朝の出来事を知ってるのね。
あれだけ人が集まってたもん。そりゃあ、知れ渡るのも早いよね。
ホームルーム後、予想通りクラスメイト達が私の元へ集まり、質問攻めになったのは言うまでもない。
ただ、質問攻めだけではなかった!!
「本館側……アリアの応援するから」
「別館に友人がいるから、情報を集めておくね!」
「俺《水の魔法》使えるから、訓練するなら付き合うよ」
などなど、クラスメイト達がみんな協力的だった。
……嬉しいな。
幼なじみ達も気合が入ってたし、やるからには絶っ対に勝ちたい!!
ミネルなんて別れ際「昼休みに集まるぞ」って言ってたし。
だけどなぁ。1ヶ月後にある魔法祭。
参加する側になってしまったから、楽しむ暇はなさそう。
それだけが悔やまれる!!
昼休みに入り、幼なじみ達と待ち合わせしているレストランへと向かう。
休み時間の内にやって来たセレスが「レストランの個室を押さえたわ!」と鼻高々に叫んでいた姿が思い出される。
これから行くレストランに個室があるとは知らなかった。
……普段生徒が使わないVIPルームとかかな?
レストランの入り口で待っていたセレスが「こっちよ」と手招いている。
「アリア、遅いわよ! もうみんな揃ってるわよ!!」
「えっ! 早くない??」
早足で歩いているセレスに必死でついて行く。
すると、レストランの奥に細い通路が見えてきた。
「この通路の奥に個室があるのよ」
セレスが言った通り、通路の奥、突き当たった先に個室が見えてきた。
こんな場所に個室があったんだ!
うん、これは今まで気がつかなかったのもうなずける。
個室へ入ると、すでに全員が椅子に座って私が到着するのを待っていた。
席へ座るやいなや、“おかん”セレスが口を開く。
「アリアの事だから選ぶのに時間がかかるだろうと思って、私が代わりに注文しておいたわ! 」
えー!! 選ぶの楽しみにしてたのにぃ~。
そんな私を余所に、時間が惜しいのか無駄なく会話が進んでいく。
テーブルの上でオーンが手を組んだ。
「料理が運ばれてくる間に、これからの事について話そうと思う」
ミネルが頷き、みんなに紙を配っている。
……なんだろう?
「対戦相手の資料だ。執事のヤハラに頼んで、午前中の内に調べられる範囲で調べておいた」
い、いつの間に!? そんな暇あった!!??
他のみんなはミネルの言葉に驚きもせず、黙々と資料に目を通している。
なんで? こんなにビックリしてるのって私だけ??
資料には、対戦相手の名前、身長、性格、特技などの詳しい情報が記載されている。
オーンが目を通しながら、ゆっくりと話し始める。
「別館の方々──というか、全校生徒の名前や特徴、魔法などは、入学前に一度目を通していたから知ってはいたんだ」
「えっ! オーンって、生徒全員の名前を覚えてるの??」
私が声を上げると、オーンが微笑んだ。
「いちおう、ね。ただ顔までは把握していなかったから……」
「それにしてもすごいよ!!」
王子だからかな? ……いや、きっとみんなを平等に扱いたいと思うオーンだからだよね。
オーンのこういう姿勢。尊敬するなぁ。
私とオーンが話していると、ミネルが咳ばらいをし「話を続けるぞ」とオーンを見た。
「……ああ、そうだね。私の対戦相手“ユーテル”さんについて説明すると《雷の魔法》が使えると話していたよね。彼は他国とのハーフなんだ」
へぇ~、てっきり留学生かな? と思っていたけど、ハーフだったんだ。
なるほど! だから、他国の魔法が使えるんだ。
「他国の魔法だから、他の魔法に比べるとあまり情報がないというか……そこまで詳しくないからね。魔法祭までに“ユーテル”さんのこと──《雷の魔法》について調べておかなくてはならないと思ってるよ」
うん、うん。そうだよね。
《雷の魔法》については、きっとみんなも最低限の知識くらいしかないもんね。
「(アリアの手にキスをした“ユーテル”さんには)個人的にも必ず勝ちたい相手だからね」
「そうだな。もうこちら(アリア)には寄ってこれないくらい叩き潰せ」
おお~! これは貴重!!
オーンとミネルから、凄まじいヤル気を感じる!!
「模擬戦はどうする? 《雷の魔法》を使える人を探すのは大変じゃないか?」
エウロがオーンに問い掛ける。
「そこなんだよね……」
オーンの立場的に探そうと思えば探せるんだろうけど、そうなると“自分の力”なのか、“王子としての力”か微妙な所になっちゃうもんね。
オーンの性格上、“王子としての力”は望んでいない気がするし。
かといって、私の周りでも《雷の魔法》を使える人はいないしなぁ。
いつもはすぐに解決策を見つけるミネルも考え込んでいる。
「……“ユーテル”の事は後で考えよう。今は時間が惜しい。話を進めよう」
「そうね! 続いて、私の相手“イリ”という人よ!!」
ミネルの言葉にセレスが勢いよく席を立った。
よくよく考えたら、セレスも“ユーテル”さん同様、身振り手振りが大きかったな。
でもなぜか“ユーテル”さんは、見ていてイラっとしてしまったんだよねぇ。
……って、違った。今はセレスの対戦相手の事だよね!
“イリ”……ああ、あの可愛らしい双子の女の子!!
「ミネルのまとめた情報を見ると……あら? ミネル間違えてるわよ」
セレスがミネルに向かって、見ていた資料を指差す。
「僕もヤハラに確認したが、それについては間違いじゃない」
「…………あの子、男性なの!? スカートをはいてたわよね??」
ミネルが頷いている。
「もっと言えば、ルナの対戦相手“リイ”が女性だ。なぜか、あの双子……性別とは逆の服装、話し方をしている」
「私も気になっていたんだ。性別を間違えて覚えてたのかと思ってたけど、合っていたんだね」
さすがのオーンも少し驚いているようだ。
へぇ~、この国では珍しい。
「2人とも違和感ないくらい似合ってたよねぇ」
「アリア! 何をのん気なことを言ってるの!? 大、大、大親友の対戦相手なのよ!? もうちょっと危機感を持ちなさい!!」
おかん……じゃなかった。セレスに怒られてしまった。
この国では珍しい2人だけど、みんな否定的な言い方をしないのがいいね!
……って、単に興味がないだけかもしれないけど。
「ペア対決だからな。正直、こちらが不利だろう。あちらは産まれた時から一緒。こちらは……」
ミネルがルナとセレスをチラッと見た。
「な、なによ!?」
「はぁ~、どうみても息が合わない2人だ。1敗は覚悟しよう」
セレスが「なんですってー!!?」とミネルに怒っている。
そうかな? さっきも思ったけど、私は息ピッタリだと思うけど??
セレスとルナを見たマイヤが、にっこりと含みのある顔で笑った。
「セレスちゃんとルナちゃんは、学校終わりや週末……常に一緒にトレーニングすればいいんじゃないかな?」
マイヤの提案にエウロも「うんうん」と頷いている。
「そうだな。一緒にいれば、連携プレーとかも考えやすいよな」
「(その間、私はアリアちゃんと一緒に訓練するけど)うん、そうしたら勝てると思うな!」
エウロは純粋な意見として言ってるのが伝わってくる。
マイヤは……的確なアドバイスではあるんだけど、何かそれだけではないような??
当の本人であるセレスは……若干、いや、かなりの葛藤があるみたい。
しばらく沈黙した後、諦めたように口を開いた。
「……仕方がないわね。マイヤの助言というのが気に食わないけど、勝てない方が耐えられないもの。いいわね? ルナ?」
「……分かった」
おおー! これを機に仲良くなるんじゃない??
そうだとしたら、この対決も悪い事ばかりじゃないかも!!
興奮している私の横でマイヤが、小さい声でつぶやいた。
「甘いわよ、アリアちゃん。そう簡単にはいかないわよ」
……へっ!! マイヤって、私の心の中が読めるの!!?
マイヤの方を見ると『そうよ』と肯定でもするように微笑んでいる。
そんな中、話はどんどん進んでいく。
ミネルが険しい顔でカウイに説明をしている。
「カウイの相手“ヌワ”。この人物が……かなりのくせ者だ」
そうなの? 確か……熱血系の人だったよね!?
カウイも資料を見ている。
「試合になると人格が変わる……」
「そうみたいだ。普段は暑苦しそうな人物だが、試合になると……手加減をしない性格のようだ」
手加減しないって……試合なら普通じゃないの??
「試合になると歯止めがかからないようで、ケガ人も出た事があるらしい」
えっ! そういう意味!?
それって、危険人物なんじゃない??
カウイを見ると、驚くことも怯えることもなく、ただ静かにぽつりと言った。
「……よかった。その方がより鮮明にシミュレートできる」
いやいや、全然よくないよー!!
魔法祭のイベントだし、大きなケガとかはしないようメロウさん達が考えてくれるとは思う。
だけど、そんなことを聞いたら不安しかないよー!!
“ヌワ”さんの話で一気に空気が重くなる中、ミネルがマイヤを見る。
「マイヤの相手“ネヴェサ”だが……性格は穏やか。学校など公の場で武術や剣術の試合などはした事がないらしい」
そ、そうなの!?
じゃあ、なんで勝負を挑んだの?
「本当かどうかは分からないけどな」
マイヤが顎に指を当て、ミネルにお礼を伝える。
「ありがとう、ミネルくん。“ネヴェサ”さんは、きっと勝算があるから挑んだと思うの。私の方でも調べてみるね」
んー、“ネヴェサ”さん? 確かに口調は穏やかだった。
だけど、話してる内容は、穏やかには見えなかったけど、な。
……そもそも《癒しの魔法》の場合、魔法対決ってどうするの??
んー、謎だらけだ。
1人考え込んでいると…………なんか視線を感じる。
視線の先を見てみると、じーっとミネルが私を見ていた。
「次はアリアの対戦相手だ」
私が考え込んでたから、話すのを待ってくれてたのね。
ごめん、ミネル!!
「“ジュリア”は、魔法、剣術などの試合すべてに負けたことがないらしい」
おおっと。予想より、凄すぎ、強すぎ。
そりゃあ、あんな大口たたくわけだよ。
「アリアは……」
アリアは? 前のめりに話を聞く体制をとる。
「何かあれば、逃げろ。以上だ」
他のみんなも頷いている。
……以上? 『この部分を頑張って特訓しろ』的なアドバイスはないの!!?
私の顔を見たオーンが、すかさずフォローを入れる。
「アリアが負けると決めつけてるわけではなく、“ジュリア”さんは少し危険な雰囲気が見受けられた。だから、みんなもミネルの提案に賛成してるんだと思う」
危険な雰囲気?? 私は全く気がつかなかったけど……。
みんなは魔法が使えるから、何か気づくところがあったのかな??
ミネルが「次は……」と話を続ける。
「僕の相手“ソフィー”については、資料を読んでおいてくれ」
ん? なになに??
『別館では2番目の成績』『鍛えられた男性の身体が好き』
…………なるほど。
後半部分は置いといて、1番は??
資料の中には“ジュリア”の名前が書いてある。
別館で一番成績が良いのは“ジュリア”なんだ!!!
試合で負けたことがない上に成績も1番。
こ、これは、かなり気を引き締めてかからないとまずいかも。
改めて気合を入れ直し、最後の対戦相手の資料に目を通す。
さて、最後はっと。
……エウロか!!
みんな何も言わずにエウロへと目を向けた。
ミネルがゆっくりと説明し始める。
「エウロの相手は“ライリー”」
ああ! あの、ジェントルマン!!
「短時間だから見つからなかっただけなのかもしれないが、あまり参考になる情報がなかった」
そ、そうなんだ。
情報がないからかな? 一番、話が通じる人なんじゃないかと思ってきた。
「そ、そうか……としか言いようがないな」
エウロも返答に困っている。そりゃそうなるよね……。
いつの間にか昼休みも終わりへと近づき、ミネルが話をまとめる。
「まぁ、午前中しか時間がなかったから、情報としてはこんなものだろう」
いえいえ、十分すぎます。
なんせ資料には、まだまだ情報が記載されてるし。
特に私の対戦相手“ジュリア”は文武両道で、色々な賞を受賞しているすごい人のようだ。
賞の数だけで、資料が3枚にも渡っている。
「引き続き、情報を収集するのはもちろんのこと、向こうも僕たちの情報を調べてくるはずだ。勝率を上げる為には、情報にはない新しいスキルを身につける必要があるな」
新しいことかぁ。んー、そうだよねぇ。
みんなは新しい魔法を習得するとかになるのかな?
……私は??
『“催眠療法”を習得する』とか、かなり変わったスキルを学ばない事には割に合わない気がする。
いや、さすがにそれは違うか。
動揺のあまり、思わず一人ボケツッコミをしてしまったよ。
エウロもミネルに同意している。
「そうだな。各自で調べた情報は共有し合おう!」
昼休みが終わり、みんなに別れを告げて教室へと戻る。
今週末は、(身分違いの恋をしている)スレイさん、ナツラさんと会う約束をしている。
近況報告を聞くのもそうだけど、スレイさんが《光の魔法》を使えるからだ。
以前、オーンに試してもらった《光の魔法》。
弾かれた理由は、──未だに分かっていない。
そこで、別な人がやったら上手くいくのでは? と思い、ダメ元で相談してみたところ快諾してくれた。
これで弾かれたら……きっと誰がやっても弾かれる可能性が高いって事だよね?
その時は、潔くオーンが調べている結果を待つ事にしよう。
──そして週末、私は”ジュリア”について、新たな事実を知ることになる。
お読みいただき、ありがとうございます。
今年もよろしくお願いします!
次話、1/7(木)更新になります。




