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これって“乙女ゲーム”のイベントですか!??

夏季休暇が終わってからというもの、平穏な日々が続いていた。



あれからマイヤは、学校が休みの日は自分の家に帰るようになった。


「最近、家で勉強をしていると『少し休んだら?』とお母様が気遣ってくれるようになったの。夏季休暇中、お互いの気持ちを手紙で言い合えたのが良かったんだと思う。少しずつだけど、分かりあえてる気がするの」


嬉しそうに話すマイヤの姿が印象的だったなぁ。本当に良かった。

そういえば、私の家を出る最後の日に──


「……アリアちゃんのお陰よ、ありがとう」


少し目線をそらし、照れながらお礼を言っていた。

マイヤは、きっともう大丈夫。




そんな夏から秋にさしかかる時期──とある事件が起きた。



朝、いつものように登校していると、本館の入口に人だかりができている。


なんの集まりだろう?

にぎわっている場所を遠くから眺めていると、幼なじみ達が横一列にずらっと並んでいる姿が見えてきた。


朝からみんなが揃ってるなんて珍しい……何かあったのかな?

せっかくだから、みんなに声を掛けてからクラスに入ろう~っと。


のん気に近くまで歩いて行くと、他にも誰かがいるのが分かった。

幼なじみ達と向かい合い、挑むようにして立つ8人の男女。


うわぁ! みんなに引けを取らないくらいの美男美女!!

こんな人たちが学校にいたんだ!!!


……セレス達の知り合い? 知り合いと話してるなら、邪魔するのも悪いよね??

一旦話しかけるのを止め、人混みに紛れながら様子をうかがう事にした。



「《土の魔法》を使うセレスは誰?」

「《緑の魔法》を使うルナは誰?」


セレスとルナの名前を呼んだ2人……顔がそっくり!!

あっ! 性別は違うけど、双子なのか!! どちらも可愛いらしい顔をしている。

名前を呼ばれたセレスはというと、2人に向かって髪をバサッとかきあげた。


「私がセレスよ。そして隣にいるのがルナ。失礼ですけど、アナタ方はどなたかしら?」


眉間にしわを寄せつつ、怪訝けげんな顔で質問に答えている。

返答に満足したのか、ツインズは顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。


「私は《土の魔法》を使うイリ。どちらが優秀か勝負!」

「僕は《緑の魔法》を使うリイ。どちらが強いか勝負!」


……ん? もしかして、知り合い……じゃないのかな!?

さらに“勝負”って……まさか、セレスとルナに勝負を挑んだのーー!?


幼なじみに勝負を挑む人達なんて、今までいなかったのに! (私は置いといて)

もはや、いろんな意味ですごい!!!


勝負を挑まれたルナは、特に驚いた様子もなく無表情だ。

セレスは、まんざらでもない顔をしている。


「私に勝負を挑むなんて……。勇気だけは買いましょう。ただごめんなさいね。多忙なので、そんな暇はないのよ」


セレス……少しドヤ顔になってるよ。

不満げな表情を浮かべるツインズに代わり、今度は別な人間が口を開いた。


「ふふっ、振られてるじゃない。わたくしはソフィーと申します。わたくしと同じ《知恵の魔法》を使うミネル様はどなたです?」


長身のスラっとしたうるわしげな女性が、きょろきょろと周りを見渡しミネルを探している。


「…………」


ご指名のあったミネルを見てみると、心底冷めた目をしている。

関わり合いたくないのか、返事すらしていない。

ミネルといえば、ミネルらしい。


ソフィーと名乗った女性の横で、男性が「ミネルさんは、まだ来てないんじゃないか?」と声を掛けている。

スタイリッシュな男性だな。周りからの好感度が高そう。


「お初にお目にかかります。俺は《風の魔法》ライリーと申します。俺の相手であるエウロさんは?」


おお、なんか話し方も紳士的!!

ミネルとは違い、エウロが反射的に返事をする。


「エウロは俺だけど……? ちなみに俺の横にいるのがミネルだ」


ミネルが“余計なことを言うな”という目でエウロをにらんでいる。

ライリーと名乗った男性が自信ありげな表情で、エウロに向かって手を差し出した。


「貴方がエウロさんかぁ。どうぞ、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


差し出された手を握り返し、エウロが笑顔で挨拶をする。


「用件だけ手短に。……ぜひ、俺と魔法で手合わせ願いたい」


ライリーさんからの突拍子もないお願いに、エウロが困惑したような表情を見せた。


「えっ! ん~、手合わせする理由がないからなぁ~」


苦笑しつつ、エウロがあごをポリポリとかいている。


そんな2人のやり取りを気にもせず、ソフィーさんが「貴方でしたか」と、ミネルの方に向かって歩き出した。

目の前で立ち止まると、探るようにジーっとミネルを見つめている。


「貴方がミネル様。顔はいいですが……肉体美としては物足りないですわね」

「……そうか。物足りなくて結構だ」


極力関わり合いたくないのか、ミネルが素っ気ない返事をしている。


「ふふっ。怒っちゃいました?」


ソフィーさんが嬉しそうに笑っている。

あからさまに嫌がっているミネルに対し、普通に話し掛けるソフィーさんって鉄の心臓!

または、ものすごーい鈍感!!


ソフィーさんの横にはもう1人、別な女性が立っていた。

他の人達と同じように笑顔を浮かべながら、マイヤに向かって挨拶している。


「貴方がマイヤさんでしょうかぁ? 私は《癒しの魔法》を使うネヴェサですぅ。《癒しの魔法》を使う方って雰囲気が似てますよねぇ」


はかなげな美しさを持った女性だ。

すっごい美女である事に間違いはないんだけど、ちゃんと寝てますか? お肉食べてますか!? と心配してしまうくらいに、か弱い雰囲気がある。


「おっしゃる通り、私がマイヤです。……失礼ですが、どこかでお会いしました?」


マイヤが可愛らしく、口元に指を当て首を傾けている。


「いえ~、お会いした事はございません。けれど私達、“本館のマイヤ”、“別館のネヴェサ”と呼ばれていまして、以前から興味があったのですぅ」


……別館!?

そっか! こんなに目立つ顔をしてるのに見たことないなぁと思ってたけど、別館の人たちなんだ!!


それにしても“別館のネヴェサ”って、魔女みたいな異名だなぁ。

しみじみと頷く私を余所よそに、ネヴェサさんが少しうつむきつつ話を続ける。


「“別館”って呼ばれるだけで負けている気がして……ずっとずっと不本意な日々を過ごしておりましたぁ」


あれ? 言い方、表情は穏やかだけど……。


「マイヤさんと対決し、私の方が優れていて、美しい事を証明したいのですぅ」


表情と言ってる内容が全く合っていない! これは心中穏やかじゃなさそうだ。

当のマイヤは特に気にした様子もなく、可愛らしく微笑んでいる。


「ネヴェサさんに比べると私なんて……。優れてもいないし、一番可愛くもないです。それに対決なんて……なんか怖い、な」


『一番可愛い』とは言ってなかった気が……。

不思議だ。今もマイヤが可愛い事には変わりない。だけど、素直にそう思えないのはなぜだろう?


ネヴェサさんが目を細め、黙ってマイヤを見つめている。

何か言いたそうな表情だ。

ネヴェサさんが話し出そうとした瞬間、近くにいた男性が彼女の肩をポンと叩いた。


「ネヴェサ、残念だったな! ……という事は、こちらがオーン殿下で、君がカウイくんか」


野性味あふれる男らしいイケメンが、オーンとカウイを交互に見ている。

かなり鍛えているのか、体つきがたくましい。強そうだ。


「私はカウイくんと同じ《火の魔法》を使うヌワだ。どちらが強いか勝負をさせてくれ!!」

「……いえ、大丈夫です」


カウイがヌワさんからの誘いを丁重に断っている。

口調はカウイとは全くの真逆。熱血系だぁ~。


「──みんな、断られているね」


長髪のキレイな顔をした男性が、優雅な仕草でフッと笑った。


一瞬、背後を花びらが舞ったように見えたけど……気のせいか。

あまりに花が似合いすぎる風貌ふうぼうだったから、幻覚を見てしまったらしい。


「はじめまして、オーン殿下。私は《雷の魔法》を使うユーテルと申します」


ユーテルさんがオーンに頭を下げている。

《雷の魔法》!? この国ではほとんどいない魔法だな。

確か……他国の魔法だ!!


「はじめまして、オーンと申します。《雷の魔法》を使う方がこの学校に入学をした話は聞いてました。ユーテルさんの事だったんですね」


オーンが笑顔で挨拶する。


「オーン殿下。いきなりで失礼かもしれませんが、才色兼備な幼なじみは私達だけで十分だと思っています。君達もそう思うだろう?」


外野の人達に向かって、ユーテルさんが片目をパチンと閉じてみせる。


な、なんだろう……この人……。

ユーテルさんのウィンクに周りはキャーキャー騒いでいるけど、すいません。ちょっとついていけません。


「本館で有名なあなた方に、別館で有名な上、美しい私たちと対決していただきたい」


……ユーテルさんって、身振り手振りが大きい人だな。

彼の話に少しだけ困ったような表情を浮かべながら、オーンが笑っている。


「すいません。みんなの返答を聞いてもらったように、私たちは対決をする気はありません」


オーンがやんわりと断っている。


ちょっとみんなの対決を見るのも面白そうだなぁ~とか思っちゃったけど。

みんな興味なさそうな顔をしてるし、難しいかな?

ミネルに至っては、すぐにでも立ち去りたそうな雰囲気だし。


「ねぇ、そんな事よりも最後の幼なじみはどこ? 私と同じ《水の魔法》を使うアリアはどこよ?」


──突然、苛立った顔をした女性が私の名前を呼んだ。

今“アリア”って言ったよね!?


最近学んできましたよ、はい。

こういう呼ばれ方をした時は、嫌な予感しかない。

……だけど、名前を呼ばれたからなぁ。


「私がアリアですけど?」


仕方なく名前を呼んだ女性の前まで行き、軽く会釈をする。

女性は私の頭からつま先まで観察するようにジーッと見つめた後、大きなため息をついた。


「はぁ~、私と話したいからって冗談はいいわ。《水の魔法》を使うアリアは誰よ?」


いやいや、冗談じゃないから!


「《水の魔法》を使えないアリアなら、ここにいますけど」


もう一度、私がアリアだと女性に伝える。


「……本当に貴方なの!?」

「はい」


だからそう言ってるじゃん。


「さらに魔法を使えないって言った?」

「はい」


だからそう言ったって! 全然話を聞いてないなぁ、この人。


「はっ、私の相手が貴方……」


女性が鼻で笑った。

……なんだろう。久しぶりに聞くこの不快な物言いと態度は。


「本当にこの人たちと幼なじみなの? 他に幼なじみはいないの?」

「はい」


私が返事をすると、女性が豪快にあざ笑った。


「他の7人と比べるとどう見ても劣ってるじゃない。見た目も中、まぁ、よくて平凡ね」


よくて平凡……そんなの自分が一番よく知ってますけど!!?

女性がまた、ジロジロと品定めをするかのように私を見てくる。


「その上、魔法も使えないなんて。対戦相手として華がなさすぎるわ」


対戦って……そっちが勝手に言いだしたのにすごい言われよう。

こちらの気持ちなどお構いなしに、女性が心底バカにした言い方で話を続ける。


「まぁ、いいわ。私はジュリアよ。私が貴方のような貧相な人間と勝負してあげる事を感謝するといいわ!」


何もよくないし、感謝なんてしないし。

言いたい事は山ほどあるけど、まずはこの訳が分からない状況を何とかしたい!


「あの~、対戦ってなんのことか……」

「貴方に断る権利なんてないわ!」


ジュリアと名乗った女性が言葉をさえぎり、私の顔に向かってまっすぐ指を差した。


「ただでさえ、貴方のせいで盛り上がりに欠けているっていうのに。まぁ、少し可哀想だから、私も魔法を使わないで対戦してあげてもいいわよ?」


“超”上から目線で、腕を組んでいる。

先ほどのツインズ達も「イメージと違ったね」「笑ったら悪いよ」と言いながら笑っている。



……初対面の人に、いきなり笑われるような生き方はしていないつもりですけど!!?



このまま黙っていられるかと、ジュリアとかいう女性に言い返そうとした瞬間──

さっきまで興味なさそうに聞いていた幼なじみ達の空気がガラリと変わった。


「貴方! 何がおかしいのかしら!? 全くもって笑えないわ!!」


怒りMAXのセレスがジュリアに声を荒げている。


「……初対面の人をこんなにも不愉快に思ったのは初めてだ」


いつも笑っているエウロも怒りをにじませている。


「アリアへの侮辱は許さない。そんなに倒されたいなら、今すぐにでも倒そう」


ルナがサッと剣を抜き、戦闘態勢に入っている。


「きゃっ、怖~い。私にはこんな下品な笑い方はできないな。うふ、皆さん民度が低すぎるのかしら??」


マイヤが口元に当て、怖がる素振りを見せている。けど、言ってる内容はなかなかの毒舌だ。


「自信満々の中、負けるのは恥ずかしいだろうと思って気を遣ったつもりだったのですが……全く伝わらなかったようで残念です」


オーンから笑みは完全に消え、代わりに冷ややかな表情を浮かべている。


「初対面で対決しろと言ってくるような奴らだ。その意図を汲み取れるほどの知能は持ち合わせていないだろう」


ミネルがバカにしたような表情であざ笑う。


「どれだけ凄い人たちなのかは知りませんが、あなた方がアリアより勝っているところなんて、きっと1つもありませんよ」


カウイが冷酷、冷淡な目で相手を見すえる。



……し、しまった!!

完全に言い返すタイミングを逃してしまった!!!


それにしても、この8人……幼なじみって言ってたよね?

男性4人、女性4人で幼なじみ。

さらには顔が整っていて、オーン以外はみんなと同じ魔法。(私は置いといて)


……こんな偶然ってある??

“乙女ゲーム”のイベントか何か? としか思えない。



険悪な雰囲気が漂う中、動作の大きいユーテルさんが私とジュリアの間に割って入った。


「君たち、アリア嬢に失礼だよ。他の7人と違い、見た目は劣っていたとしてもすごい子かもしれない」


……いや、あなたも大概ですよ。


「アリア嬢! 私の幼なじみ達が失礼なことを言いました」


ユーテルさんが軽くかがんで、私の手を取る。そして、手の甲にそっと口づけをした。


「これで許してくださいますね?」


ユーテルさんが私の手を持ったまま、ニコッと頬を緩ませた。



…………へっ!???


あまりにも予想外の出来事過ぎて、思わず固まってしまった!!

……なぜこの人は、手のキスで許されると思った!?

やばいの? バカなの!??


──いや、違う。自分大好きナルシストだ!!

やっぱり、ついていけない!!!


手を振り払おうとした瞬間、オーンがユーテルさんの肩をポンと叩いた。

振り返ったユーテルさんが手の力を緩めたと同時に、エウロが私とユーテルさんを引き離す。

すぐさまカウイが私の手を取ると、キスされたところをハンカチでゴシゴシと拭き出した。


「余計な芽を早めに摘み取る意味でも、勝負したいと言うならしてやる」


ミネルがユーテルさんを睨みつけるように私の前に立ち、勝負を受ける旨を伝える。

よく見ると、セレス達もすっかりやる気のようだ。


「そうね! 圧勝して、私の大親友を貧相、劣ってる、頼りないなどとバカにした罪を償っていただきますわ!!」


……ん? そんなに言われたっけ? なんか1個多くない??


完膚かんぷなきまでに倒す」

「ルナちゃん、(倒すしか言ってないじゃない)落ち着いてね。……ゆ、友人の為に私も微力ながら頑張るね」


ルナは今すぐにでも倒しそうな勢いだ。

マイヤはなぜか他の人にバレない程度のツンデレが発動している。



というか……えっ! 対決するの!?

それに、またしても言い返すタイミングを逃してしまったんだけど!??


幼なじみ達の返事に、ユーテルさんがふっと前髪をかきあげた。


「男の嫉妬は醜いよ? レディ達も落ち着いて、ね? 私みたいに常に心に美しい余裕を持たないと」


……ついていけないだけじゃなく、だんだんイラっとしてきた。

ジュリアがニヤッと笑い、ユーテルさんに声を掛ける。


「勝負してくれる事になったわね。ユーテル、お手柄じゃない」


ツインズも「勝負、勝負!」と、ハイタッチをして喜んでいる。


うーん……なんか向こうが望む展開になってしまったような?

さらに対決って、魔法で対決だよね??



ど、どうなっちゃうの!!?


お読みいただき、ありがとうございます!

次話、12/30(水)更新になります。


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