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悩みも積もれば何とやら

「そうだよ。アリアだけはきちんと覚えておいてね?」


穏やかに微笑みながらも、カウイが真剣な目で私を見る。

その迫力に、思わず「ご、ごめん」と謝った。


私の予想に反し、カウイはマイヤに恋愛感情を持っていなかったらしい。

なんか昨日に引き続き、私の“マイヤヒロイン説”が早くも崩れてきてる気がするなぁ。

恋愛モードは高等部に入ってからだから、これから始まるだけなのかなぁ?


「アリア、そろそろ行こうか。マライオくんから聞いた話の事もあるし、このまま女子寮まで送らせて?」


考え込んでいる私にカウイが優しく声を掛けてくれる。


「あ、ありがとう。大丈夫……と言いたいところだけどお願いします!」

「よろこんで」


庭園を出ると、カウイと2人で女子寮に向かって歩き始めた。


今回はカウイの優しさに甘えちゃったな。

『私もカウイを守るからね!』とか偉そうな事を言ったけど、そもそも私は魔法が使えなかった。

魔法が使えない私は魔法が使える人に襲われたら、どう反撃すればいいんだろう?


てか、18歳を過ぎても魔法が使えなかったら魔法が使えない体質って事になっちゃうんだよね??

私……もう15歳だよ? 後3年の猶予しかないじゃん!!


小さい頃から両親ともに《水の魔法》が使えるから、魔法が使える確率は極めて高いって言われてきた。

その言葉に安心して『まあ、いずれは使えるようになるよねぇ~』って思ってたけど、なんだか怪しくなってきたな。


オリュンがいつ襲ってくるか分からないし、あるのか分からないけど“魔法から身を守る方法”を調べてみよう。

はぁ~、なんか考える事が増えてしまったなぁ……。



『考える事が増えてしまったなぁ』と頭を悩ませていた私は、カウイに送ってもらった後、死んだように眠った。

前日にほとんど寝れなかったのと、2日連続でキャパオーバーの悩み事ができ、疲れが限界だったらしい。




そして、次の日。


あれほど悩んでいたというのに、何も考えずに爆寝してしまった!!

ついつい睡魔が勝っちゃったんだよねぇ。

……私って昔から、こういう所あるよなぁ。


後悔しつつも、いつも通り学校へ行き、授業を受けた。

クラスメイトとの仲も、昨日と変わらず好調だ。

少しだけ気が紛れた事に喜んでいると、午後に入ったタイミングで担任のコーサ先生に呼び出された。


「アリアさんの両親が来てます。これから授業が始まるけど、緊急なのですぐにこちらの会議室へ行ってください」


えっ! お父様とお母様が来てる??

な、なんだろう?


急いで指定された会議室に行くと、後ろからカウイもやって来た。

会議室には、私の両親の他にカウイの両親もいる。

お父様とお母様に会うの3日振りだけど、色んな事がありすぎて随分と久しぶりに感じるな。


お父様が申し訳なさそうな表情で私とカウイを見た。


「アリア、カウイくん。授業が始まるのにごめんね」

「いえ、それより緊急だって聞きました。何かあったんですか?」


椅子に腰掛けながら、お父様に質問をする。

カウイも来たって事はオリュンが関係してそうな気もするけど。



私の予想は当たっていた。

テウスさん(カウイの父)が「実は……」と説明を始める。


「昨日、カウイからオリュンくんの事を聞きました。私の方ではオリュンくんが“魔法更生院”を出たという話は聞いていなかったので、急いで確認を取りました」


テウスさんが少しだけ言いづらそうに顔をしかめた。

気遣わしげに私やカウイへと視線を向けると、意を決したように口を開く。


「まだ広まっていない情報なので、公表は控えてください。1週間ほど前、“魔法更生院”にいる人たちが脱走したそうです。まだ人数の把握ができていないのですが、結構な人数が脱走したと聞きました」


──脱走!!?


「まだ犯人が分かっていませんが、どなたかが手引きをしたようです。……その中にオリュンくんもいたようです」


なるほど! だからオリュンはマライオの前に現れる事ができたんだ。

脱走という事は……今はどこかに逃亡中!?

そういえば──


「オリュンの親はどうしてるんですか?」


私の質問にテウスさんの表情が曇った。

いつも明るいホーラさん(カウイの母)も少しうつむいている。


テウスさんの代わりに、お父様が躊躇ためらいながらも教えてくれた。


「言うべきかどうか迷ったけど、15歳は一人前の大人だからね。落ち着いて聞いてほしい」


お父様が一息ついた。親たちの緊張が伝わってくる。


「オリュンくんのお父さんは亡くなっていたよ。お母さんは重体で治療中だ」


亡くなった!?


「それって……」

「目撃した人の話によると、オリュンくんに殺されたらしい」

「な、なんで……」


あまりにも信じられない出来事に自分の声が震えているのが分かる。

事件を起こした時さえ、唯一味方をしていたのが親だよ? その親を殺めた?


「なぜ自分を“魔法更生院”に入れたのか──と言っていたらしい。自分の意志でやったのか、操られていたのかまでは正直分かっていない」


テウスさんが改めて、今日ここに来た経緯を説明する。


「カウイからの話もあったので、今後2人にはオリュンくんが捕まるまでの間、警護が必要なのではないかと思ってます。警護をつける前に事情をお話した方がいいと思い、来ていただきました」

「そうだったんですか……お気遣いありがとうございます」


お父様。

ずっと申し訳なさそうな、心配しているような複雑な表情をしている。


「ごめんね、ショックが強い話だったね」

「いえ。一人前の大人と認め、事実を話してくれてありがとうございます。話してくれたお陰で、油断できない──殺される危険があるという事が痛いほどに分かりました」


もちろん私もカウイも警護を承諾し、そのまま授業へ戻る事になった。

私の両親とカウイの両親は、これから学校側にも事情を説明して“警護をつける許可”を貰いに行ってくれるらしい。

お父様は「オーンくんと同じような警護になるだろう」と言っていた。


別れ際、気を利かせてくれたのか、お父様がそっと声を掛けてくる。


「さっき公表は控えるように言ったけど、セレスちゃん達には話したいだろう? 立場上、近い内に耳に入ってくると思うから、アリアとカウイくんから話してもいいよ」


さすが、お父様。よく分かってる!


「ありがとうございます!」


じゃないと、セレスは怒るし、ルナは拗ねる……という事を最近になってやっと学習した。

それに逆の立場だったら、相談してほしいって思うしね。


「アリアも成長したのね~」


お母様が先ほどのやり取りについて、感慨深そうに話している。

……初日に反省文を書いたのは内緒にしておこう。



教室へ戻る途中、カウイに尋ねてみた。


「みんなにいつ話そうか?」

「そうだね。学校が終わってからの方がいいかもね」


確かに……もう午後だし、その方がいいか。


「そうだね! じゃあ、セレスとルナには私から話しておくね」

「エウロ達は俺から話しておくよ」

「ありがとう」


昨日に引き続き、カウイと放課後に会う約束をすると、その場は別れた。


それにしても、私達が男子寮に入る事はできないし、カウイ達が女子寮に入る事もできない。

でも、他の人に聞かれるとまずい話だしなぁ。どこで話そう??



……などという、私の心配は杞憂に終わった。


「他では話せない内容なんだ」


という私の言葉を聞き、仕事の早いセレスが先生に頼んで場所を借りてくれたからだ。

さすが、セレス!!




──放課後、セレスが借りてくれた会議室にみんなが集まる。


……そういえば、オーンと会うのは一昨日(告白)以来かぁ。

う~ん、こんなにも早く会うとは思わなかったな。

普通に、普通に、普通に……。

そう思いつつも……ついつい目が泳いでしまう。


チラッとオーンの様子をうかがう。

気のせいかな? なんか笑っているような??


「で! アリア!! 何があったの!?」


待ちきれなかったのかセレスから話を切り出した。

そうだった。まずは本題を話さないと。


「ええとね──」


私がマライオから聞いた話や両親が説明してくれた話をみんなに順を追って説明する。

話している途中で、すでにセレスが怒りで冷静さをなくしているのが伝わってきた。

エウロは心配そうな表情を浮かべながら聞いてくれている。


話し終えたところで、改めてみんなの顔を見た。

最後に、私がみんなに話そうと思った経緯について伝える。


「みんなとは一緒にいる機会が多いから巻き込んでしまう可能性があるなと思って。だから早めに話しておきたかったんだ。警護の人がついてくれるようになるから、大丈夫だとは思うんだけど……なんかごめんね」


これから起こるかもしれない危険な事にみんなを巻き込んでしまうかもしれない。

謝罪をすると、セレスが勢いよく椅子から立ち上がった。


「謝る必要なんて微塵もなくってよ? それにアリアにしては珍しく正解よ! よく話してくれたわ!!」


セレスが嬉しいのか怒っているのか分からない不思議なテンションで語っている。

……そう言ってくれるなら話して良かったな。


「復讐のつもりなんでしょうけど、逆恨みもいいとこだわ!! 」


あっ。感情が怒りオンリーになった。

怒鳴っただけでは怒りが収まらなかったのか、セレスはまだぶつぶつと文句を言っている。


その横でルナが私の手を握り、真剣な眼差しで言った。


「アリアは私が守る」


ルナ、カッコいいよ。発言と行動がイケメンだよ。

そして、ルナの発言に黙っていないのが──やっぱりセレスだった。


「わ、た、しがアリアを守るから大丈夫よ。ルナはいつも通りボーッとしてなさい」

「ボーっとしてないし。セレスなんていつも怒ってるし」


セレスが「なんですってー!」と怒っている。


「……いや、うん。2人ともありがとうね」


もはや2人の言い合いは定番といっても過言じゃないな。

最近はこれはこれで仲がいいのかな? とも思い、少しの間、放置する事にした。


言い争う2人とは対照的に、マイヤが心配そうに眉を下げている。


「アリアちゃん、カウイくん気をつけてね」

「ありがとう、マイヤ」

「……なんか私も怖くなってきちゃった」


マイヤは心配と同時に恐怖もわいてきたみたい。

そうだよね。実際に殺された人もいるし、怖くもなるよね。


オーンが私とカウイに助言をしてくれた。


「セレスが言った通り、アリアとカウイが悪いなんて思う必要はないよ。警護がつくまでの間は1人での行動は避けて。ひとけが少ない場所とかも避けるよう気をつけて。警護がついても……2人は手引きした人が判明するまでの間、軽率な行動は避けた方がいい」


経験上、慣れてるのかな? 的確なアドバイス!

オーンの言葉に私が返事をするより先にカウイが答えた。


「そ……」

「そうだね、気をつけるよ」


どうしたのかな?

カウイがいつもより積極的というか、なんというか……??

いつもとちょっと違う感じ。


返事をするタイミングをなくした私を余所に、エウロがオーンに同調する。


「そうだな。むしろアリアとカウイは被害者だよ。だから俺たちの事で気を病む必要はない。それに2人にとっては『いつ来るんだ?』って考えたら不安だよな」


エウロはいつも相手の立場になって考えてくれるな。

こういう所、尊敬するし見習いたいな。


ミネルは……というと、顎に手をあてて考え込んでいる。


「ミネルどうしたの?」

「いや、いつ来るか分からない奴を気にして生活するのは向こうに先手を取られた気分で面白くない」


なんか発言がミネルらしいな。


「後手に回るのは苦手だからな。情報を集めて必ず探し出す。それしかないだろ」

「探し出す……大丈夫? 危険じゃない?」


私が不安をそのまま口にすると、ミネルが余裕の笑みを浮かべる。


「まずは調べるだけで行動には移さない。それなら大丈夫だろう」

「そ、そうだよね。私も調べてみる!」


怯えて待つだけは私の性に合わない!!

ミネルの意見に賛同すると、誰が何を話したのか分からないくらい同時に否定された。


「お前はやめとけ」

「アリアはやめといた方がいいわ!!」

「アドバイス聞いてた? やめておこうね」

「アリアは絶対ダメ」

「危ないよ。アリアちゃん」

「アリアの望みは極力叶えてあげたいけど、今回ばかりは……」

「今はやめておいた方がいいんじゃないか?」


さすがに全員に否定されるとは……。


「わ、分かったよ」


渋々、承諾するしかなかった。




帰り際、エウロが私の元にやって来た。


「少しでも不安に思ったら、溜め込まずに言うんだぞ。一人でいたくない時は、遠慮せずに声を掛けろよ? その方が俺は嬉しいから」

「ありがとう、エウロ」


笑顔でお礼を伝える。

エウロの気遣いはものすごく嬉しい……けど、あれ? 固まってる??


「俺は嬉しい……から?」


ん? また同じセリフを言った?

さらになんで疑問形??

首をかしげていると、突然、エウロが「ああー」と唸りながらその場にしゃがみ込んだ。


えっ! なに?

頭を抱え込んでるけど、何があったの??


「俺って…………本当に鈍かったんだなあ」


ん? 急にどうしたんだろう?

どちらかというと思いやりがあるエウロは敏感な方だと思うけど、な。


「大丈夫? エウロ??」


心配で声を掛けると、エウロがゆっくりと立ち上がった。

複雑そうな表情で「はぁぁ~」と大きなため息をついている。


「……いや、なんでもない。なんでもないんだ」

「なら、いいけど?」


んー、なんでもないようには見えないけど。

考えている間に、エウロは「じゃあな」と言って私の頭に手をポンと置き、そのままオーンたちと一緒に男子寮へ帰って行った。


本当に大丈夫かな? エウロ。

若干、心配は残りつつも、女子寮へと戻る事にした。


道すがら、さっき落ち着いたはずのセレスとルナが、再び言い合いを始めている。

さすがにそろそろ止めようかな?

声を掛けようとした瞬間、横にいたマイヤがビックリするような質問を投げかけてきた。


「エウロくんって、アリアちゃんの事が好きなのかな?」


へっ!!?

マイヤのビックリ発言に、思わず笑ってしまう。


「あはは。それはないよー」

「そうかな? エウロくん、アリアちゃんの前では少し普段と違うように見えるけど?」

「ああ、それは……以前“私だけはなぜか緊張しない”って言ってたから、女性扱いしていないんだと思うよ」

「そうなんだ……。それならいいんだ」


そう呟くと、マイヤは屈託のない笑顔を見せた。



え……? 今の発言ってもしや──マイヤがエウロを意識してる!?


お読みいただき、ありがとうございます。

次話、11/7(土)更新予定になります。

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