オーン主催の男子会
オーン視点の話です。
話は入学式に戻ります。
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あっという間の入学式だった。
寮に戻り、自分の部屋へ向かうと、警護の2人が僕の元へ近づいてきた。
他の生徒とは違い、僕には執事だけでなく、警護の人間もついている。
そうでもしないと、立場上、寮生活の許可をもらう事が出来なかったからだ。
とはいえ、警護の人間が側にいると周囲が落ち着かないという事もあり、普段はみんなが気にならない程度に離れた位置から警護してもらう。
ただし、僕が部屋にいる時だけは、近く(部屋の前)で警護をするという事に決まった。
その為、僕の部屋は一般の生徒が通らない一番端の部屋になった。
──こういう時、しょうがないと思いつつも自分の立場が煩わしくなる。
入学式が始まる前、何気なく幼なじみ達の前で警護がいる事を伝えると、アリアの顔がぱあっと明るくなった。
「それは私達もありがたいね。他の生徒たちに危険があった場合でも優秀な警護の人が助けてくれるんでしょ!? 心強いねー!」
『なるほど。アリアはそういう考え方をするのか』とおかしくなった。
ミネルに「よく考えろ。高等部がどのくらい広いと思ってるんだ。全員の危険を察知できるはずないだろう」と突っ込まれていたけど……。
ふと、その時のアリアの表情を思い出し、笑いがこみ上げてきた。
声には出さずとも『そこまで考えてなかった』と、顔で訴えていた。
……可愛かったな。
どこか的外れであったとしても、アリアの前向きな考え方には、いつも救われる。
ああ、ついつい浸ってしまった。
いずれにせよ、ようやく……ようやくだ。
やっとアリアに気持ちを伝えられる。
待ちに待った高等部への進学。
中等部最後の1年間は忙しない日々ではあったけど、僕にとっては長く感じる1年でもあった。
実は今日の夜、ミネルとカウイ、エウロを僕の部屋に招待している。
「4人で食事しよう」と僕から声を掛けたからだ。
エウロは「4人で食事するのは初めてだな」と楽しみにしてくれているようだ。
……そう言われると、エウロには少し申し訳ない気持ちになる。
きっと楽しいだけの食事会で終わるのは難しいだろうから。
とりあえず……夕食の時間までは予習でもするかな。
その方が気分も紛れる。
──夕方
約束していた時間にミネルとカウイ、エウロが僕の部屋へとやって来た。
席に座り、こちらで用意した夕食を一緒に食べ始める。
カウイの留学話やそれぞれが高等部でやりたい事、将来についての話など、4人でこんなにたくさん話をするのは初めてかもしれない。
そもそも幼なじみとはいえ、親たちが集まるお茶会以外で会うような仲ではなかった。
だからこそ、中等部での5年間、一緒にお昼を食べるのが当たり前になっていた事も……今振り返ると不思議な出来事だ。
それに中等部最後の年は、学校創設関連でプライベートでも会ったりしていた。
いつの間にか、友人と呼べる仲になっていた事を考えると、これから話そうと思っている事が少しだけ躊躇われる。
──それでも……これが最後の集まりになったとしても、きちんと自分の言葉で伝えたい。
食事も終盤に差し掛かり、本題へと話を切り出した。
「私が去年セレスと婚約を解消した事は……カウイも知ってるよね?」
カウイがこくりと頷く。
「父から聞いた」
「そうか」
アリアの性格からして、彼女からカウイには伝えないだろうと思っていた。
きっと婚約解消の話は、自分が言うべき事じゃないと思って伝えなかったのだろう。
予想通りといえば、予想通りか。
「今もカウイとアリアが婚約しているのは知っているよ。それも踏まえて、近いうちにアリアに自分の気持ちを伝えようと思っているんだ」
「……ん? 気持ち??」
僕の言葉にカウイではなく、エウロが反応した。
「うん。アリアには今もこれからもずっと私の横にいてほしい……将来、王妃になってほしいと思ってるんだ」
僕がにっこりと微笑みながら伝えると、エウロは「えっ!」と声を上げ、呆然とした表情を浮かべている。
カウイとミネルは……というと、黙って僕の話を聞いている。
黙ってはいるけど、雰囲気的に機嫌は良くなさそうだ。
自分が発端とはいえ、一気に場の空気が悪くなってしまったな。
「王妃……ね。それ以前にアリアはオーンに恋愛感情があるとは思えないが?」
ここでもカウイではなく、ミネルが反応した。
「そうだね。それは十分承知しているよ。ただ自分の気持ちを伝えないと先へは進めないと思ってるから。それと──」
ミネルに返答した後、カウイの方へと視線を移動する。
「小さい頃に決めた“恋愛感情のない仮の婚約者”とはいえ、アリアに婚約者がいるってだけで、私としては面白くないんだ」
どうやら僕は独占欲が強いみたいだからね。
「自分の気持ちを伝えて、まずはカウイと婚約解消をしてもらう事が目的だから」
あくまで笑顔は崩さずに伝えると、ようやくカウイが重い口を開いた。
「久しぶりに会った時、オーンの雰囲気が変わったとは思っていたんだ。そうか……そういう事だったんだね」
答え合わせでもしているかのように、穏やかに、ゆっくりと話し続ける。
「昔のオーンは何をしていても、心から楽しんでる感じがしなかったから、変われてよかったとは思うけど──」
カウイが静かに僕の目を見た。
「一歩も引く気はないから」
表情や口調は優しいけど、言葉からは強い想いを感じる。
宣戦布告をして、受けて立った……という事かな?
「えっと、待てよ」
呆然としていたエウロが我に返り、僕たちに聞いてきた。
「その、オーンとカウイはアリアの事が……す、好きなのか?」
「まだ本人に気持ちを伝えてないから、明確な言葉は避けさせてもらうけど……そうだよ」
口元に笑みを浮かべたまま、エウロの質問に答える。
カウイも言葉にこそしなかったが、肯定するように首を縦に振ってみせた。
「そうか……そうなのか」
エウロは明らかに動揺しているな。
表情から察するに、なぜ動揺しているか自分で気がついていないだろう。
僕、いや、僕らはエウロが動揺している理由を知っている。
当の本人だけが気づいてないなんて……エウロは恋愛には鈍感らしい。
なんかアリアっぽいな(笑)
不機嫌そうなミネルが僕に向かって言った。
「なるほど。今日の食事会は、この事を伝える為に開いたんだな」
「まあ、それが一番の理由だけど、僕の唯一の幼なじみであり、友人でもある3人と食事をしてみたいと思ったのも本当だよ」
僕が答えると、ミネルがふっと笑った。
「カウイには宣戦布告、僕とエウロには牽制の意味で、あえて3人の前で話をしたんだろう? 本来、カウイに伝えるだけで十分なはずだ」
ミネルは僕の真意に気がついてるようだ。
「オーンは、なかなかいい性格をしているな。ただ残念ながら、僕への牽制にはならない。アリアの事に関しては、有利、不利を考えずに動くと決めている」
「……そうか。それは残念だ」
僕の答えに、ミネルは腕を組み、少し呆れた表情をしている。
「えっ! ミ、ミネル!?」
「……なんだ? エウロ?」
「ミネルもア、アリアを!?」
エウロが驚愕したようにミネルを見る。
先ほどよりも明らかに動揺しているようだ。
僕がエウロの立場でも、同じように驚くだろう。
他にも幼なじみの女性いるにもかかわらず、3人とも同じ人──アリアに好意を持っているのだから。
カウイとミネルの気持ちは、以前から何となく気がついていた。
明らかにカウイは心身ともに強くなったし、ミネルは口調からは分かりづらいかもしれないけど、以前よりも優しくなった。
少なくとも『有利、不利を考えずに動く』なんて言わない人間だった。
2人の変化は、確実にアリアの影響だろう。
アリアは自分の影響で変わっただなんて、少しも考えてないと思うけど……。
そして、僕自身もアリアの影響で変わったと自覚している。
エウロの問いに、 ミネルが 躊躇せずに答えた。
「本来なら答える義理はないが──その通りだ」
カウイが今までのやり取りについて少しも驚いていないところを見ると、留学から帰ってきた短期間の内に気がついていたのだろう。
昔から人の気持ちに敏感なカウイらしいな。
頭の整理が追いついてきたのか、エウロが少し戸惑いつつも僕たちに尋ねてくる。
「多分……俺だけ知らなくて、みんなはお互いの気持ちに気がついてたんだな?」
「……お互いに何となくそうじゃないかな? って思ってた程度だよ」
僕が答えると、エウロが「ふぅ~」と大きく息を吐き出した。
「そうかぁ。俺って、鈍いのかな? 全然気がつかなかった」
「そうだな。エウロは恋愛に関しては鈍いと思うぞ」
臆す事なく、エウロにはっきり、キッパリと答えるところが ミネルらしい。
「そっかぁ……んー、俺としては、みんなの気持ちは分かったけど、誰を応援するとかはしたくないな。というか、なぜか応援はしたくないんだよなぁ」
応援はしたくない……だろうね。
それでも気がつかないのがエウロらしいな。
エウロが少し残念そうな表情をしている。
「俺としては、今までと変わらず仲良くしたいけど……それは難しいのか? もう俺たちがこんな風に集まる事はないのか?」
そう言ってくれるのは、僕としては嬉しいな。
もしかすると、エウロが一番幼なじみ達を大切に想ってくれてるのかもしれない。
そんな彼が自分の気持ちに気がついた時に悩まなければいいが……。
「私は今までと変わらず、付き合っていきたいと思っているよ。そして良ければ、こうやってまた集まりたいとも思ってる」
僕の気持ちを素直にみんなへと伝える。
「そうだな。今のところは構わない」
『今のところ』とつける辺りが、正直者のミネルらしい(笑)
カウイは何も言わずに頷いた。
口数が少ないところは変わってないみたいだ。
僕たち3人の返事を聞いたエウロが安堵の表情を見せる。
「そうか。良かった……であってるか? まあ、とりあえずは良かったよ」
「そうだね。みんな同じ考えでいてくれて良かった」
僕もエウロの言葉に同意した。
自分が言い出した事だけど、すぐに壊れる友情じゃなかったという事が分かって嬉しさもある。
僕は知らず知らずのうちに信頼できる人間を作っていたようだ。
食事も終わり、そのまま解散する事になった。
みんなが部屋を出ようとした時、ふいにミネルが振り返った。
「そうだ。1つだけ教えておいてやる。ルナも人数にカウントしておけ」
「……ルナ?」
「ああ。オーンの事を知ったら、邪魔してくるぞ」
ルナが!? それは予定外だ。
「将来、アリアとリーセさんを結婚させるらしい」
リーセさん……ルナのお兄さん?
ルナのお兄さんがアリアを好きだというのは、さすがに知らなかった。
ミネルが話を続ける。
「そんなのを絶対に許すはずもないが……ルナは将来、アリアとリーセさんと3人で暮らす計画を立てている」
なるほど。
リーセさんがアリアを好きなのではなく、ルナがリーセさんとアリアを好きなのか。
結婚させて一緒に暮らすという、ルナの願望……?
参った。アリアなら、結婚以前に『そんな暮らしも楽しそうだね』とか言い出しそうだ。
……ある意味、予定外の強力なライバルだ。
それに、避けては通れないアリアの弟である“エレ”。
困った事に、アリアはエレに弱い。
……強敵ばかりだな。
どうせなら、もう少し楽なライバル達にしてほしかった。
──けれど、負ける気はないし、譲る気もないけど、ね。
お読みいただき、ありがとうございます。
次話、10/26(月)更新になります。




