14歳、人生で初めて告白されました
「えー、この度、ヤン爺さんの大切な土地を譲ってもらえる事になりました」
お昼休みの報告会。
幼なじみ達に状況を伝えると、途端にワッと盛り上がった。
どういった経緯で譲ってもらえる事になったかについても、こと細かに説明する。
「報告の仕方については気になる部分もあるが……よくやった」
真っ先にミネルが褒めてくれた! 珍しい!!
……と思ったけど、その理由はすぐに分かった。
「土地が無料なのは、かなりのコストカットだ。当初、想定していた予算より……6分の1、いや、へたすると5分の1はカットできたかもしれない」
そ、そうですか……。
ちゃんとヤン爺さんの大切な土地だって分かってくれてるのかなぁ?
「ミネル、土地──」
「おばあさんとの思い出の土地なんだろ!? ちゃんとありがたく、大切に使わせてもらうさ」
よかった! ちゃんと分かってくれてた!!
「まあ、荒れ放題で手入れすらされていない土地より、未来ある若者たちの学び舎として使われた方が、おばあさんも浮かばれるだろう」
……言い方!!
「それはそれとして、お前が土地の確保に奮闘していた間の、各々の進捗についても報告するぞ」
「うん、よろしく」
実は私がヤン爺さんの所に通っていた1ヶ月半の間、他の事はみんなに任せきりだったから、現在の状況については何も知らない。
……というのも、学業を疎かにしないという事で、始めた“学校を作ろう”計画。
ヤン爺さんに会う以外の全時間は課題や稽古などに費やしていたからだ。
改めて考えると、ホント、申し訳ない……。
集中するべく姿勢を正す私に、ミネルが淡々と説明を始める。
まず、エウロ。
すでに経営者候補は何名か見つけている。
予定さえ決まれば、すぐにでも紹介できるとのこと。
先生の方も順調に探していると言っていた。
今は調査に行ってしまったが、サウロさんも帰っている時は一緒に動いてくれたらしい。
サウロさん! ありがとうございます!!
次に、セレス。
自分の両親に学校を作る目的や完成に至るまでの過程をプレゼンし、見事認めてもらえたそうだ。
現在は、セレスのお父さんに手伝ってもらいつつ、学校運営に関わっている人たちを着々と仲間に引き込んでるとのこと。
もう少しで学校側も巻き込めそうだと、セレスが高笑いしていた。
ちなみに余談だけど、セレスの両親は“我が子の成長”を感じ、涙を流して喜んだらしい。
続いて、ルナ。
中等部はルナが中心となって動いており、高等部についてはリーセさんが働きかけてくれているとのこと。
ミネルの説明を聞く私に、オーンがコソッと耳打ちした。
「ルナが自分で『中等部は担当する』と言ったらしい。1クラスずつ説明に回って、直接、手伝いを頼んでるみたいだよ」
──あのルナが!?
セレスの両親じゃないけど、私も‟我が子の成長”を見ているようで、涙が出そう。
後でたくさん褒めて、たくさん頭を撫でてあげよう!!
ちなみにエレの学年だけは、エレが動いてるみたい。
「同学年は、ほぼ全員制圧しているから、任せておいて」
と、言っていたらしい。
人気者だとは知っていたけど制圧って……。
さらには、オーン。
なんと! すでにモハズさんの通っていた学校へ説明に行ってくれていたらしい。
もちろん、モハズさんも一緒に。
「学長や先生たちとは話がスムーズに進んだよ」
オーンは簡単に言ってたけど、 そんなスムーズに信用してもらえる内容じゃない。
きっと何度も通ってくれたんだと思う。
それに人を納得させる力があるオーンだからこそ、成功したのかも。
生徒たちについては、自分たちも通う事ができるかもしれない学校という事で、意欲的だとも話していた。
最後は、ミネル。
本来であれば私も行く予定だった出資者の元へ、私の代わりであるエレと一緒に行ってくれた。
その結果、なんと3名ほど出資してくれる人を見つけたらしい!
「1人は年齢に関係なく、ちゃんと僕の話を聞いてくれた人だ。『即戦力になるような若い人材が働いてくれるなら、投資は惜しくない』と言って、引き受けてくれた」
あとの2人は……と口にしたミネルが、少しだけ微妙な表情を見せた。
「1人は僕の家に恩を売ろうと思っている……ろくでもない奴だ。まあ、金を出すと言ってるから、出させるだけ出させようと思っている」
……だから、言い方!!
「最後の1人は……エレを気に入って、出資すると言ってくれた」
えっ! エレ!?
その人の目的って……ま、まさか! エレの《闇の魔法》なんじゃ!?
「そ、その人の……見返りは?」
ゴクリと唾をのみ、恐る恐るミネルに尋ねる。
「たまにでいいから『エレに会いたい』と言っていた……。エレは『パーティーなどの社交場で会った時に声を掛けてください』と交わして答えていたが、なぜかそれだけで出資者が喜んでいた。意味が分からなすぎて、3人目については、なぜお金を出してくれるのか考えることをやめた」
……ん!? んん!?
それは……別な意味で、危ない人なんじゃ……?
この件については、家に帰ったらエレとじっくり話し合おう。
話を聞く限り、まともそうな人は1名だけだけど……すでに3名も!!
ただ、ミネル自身は満足していないようだ。
「募金がどのくらい集まるかにもよるが、正直まだまだ足りない。もう少し出資者を見つけないとな。あとお前じゃなくて、エレを連れて行ったのは正解だったな」
へぇ~、そうですか……。
「出資してくれたお金をまずは土地に回そうと思っていたんだが……その必要がなくなったからな。建築の材料費に使おうと思っている」
ミネルの話を聞いたエウロが私に向かって笑い掛ける。
「アリアのお陰で、すぐ作業に取り掛かれそうだな!」
エウロ! そう言ってくれて、ありがとう!!
「さっそく、週末にでも作業に取り掛かるぞ!」
「えっ! も、もう!?」
ミネルの意欲的なセリフに驚いていると、セレスが「ふふふ」と豪快に笑い出した。
本日、2回目の高笑い。
「どうやら私の出番がきたようね!」
「うるさいな。……まあ、そうなるな。あと、ルナだな」
ミネルが面倒くさそうな表情で言うと、ルナも頷いている。
そっか。
2人の魔法を使えば、荒れ放題の土地も簡単に整備されていくんだ!
「あとは何人集まってくれるか……。さすがに2人だけだと、整備だけで何ヶ月掛かるか分からないからな。週末の集まり次第では、人を雇う事も考えるつもりだ」
ミネルは、極力雇う人数は少なくしたいと言っていた。
まぁ、なるべく予算を抑えたいし……当然だよね。
──そして、ついに週末。
作業を開始する日がやってきた!!
ボランティアの人たちには、事前に日にちと集合場所を伝えてるけど……何名くらい集まるかなぁ?
ドキドキしながら、学校が建つ場所へと向かう。
一緒に向かっているエレも「集まってくれてるといいね」と声を掛けてくれた。
幼なじみ達は、もちろん来るって言ってたし、ヤン爺さんも顔を出してくれるって言ってた。
不安になりながらも集合場所に辿り着くと……。
えーーーーーー!!
すごい人の数! 数!! 数!!!
ざっと500人? いや、それ以上にいるような……多すぎて、もう分からない!!
……けど、集まってくれただけでも、みんなの頑張りが通じたようで嬉しい!!!
「な、何ごと?」
到着したセレス達も驚いている。
「急に日程を決めたが、予想以上に集まったな」
ミネルが冷静に言っているように見えるけど、嬉しそうだ。
「アリアー」
──この声は! ヤン爺さん!!
「ヤン爺さん! 朝早くから来てくれたんですね!」
「ああ。わしは役に立てそうもないからな。若いのを連れてきた」
そういうと、ヤン爺さんの後ろには、ざっと50名以上の人たち!
さらに増えた!
ヤン爺さん、声を掛けてくれたんだ!!
「アリアです。皆さんありがとうございます!」
ヤン爺さんの知り合いの方たちにお礼を言うと、「この子がアリアちゃんか!」「ヤン爺さんにおどされてねぇ」と冗談交じりに盛り上がっている。
そんな中、セレスが私とヤン爺さんの元へとやってきた。
「あら? この方がアリアが大変お世話になったと言っていた“ヤン爺”様?」
セレスがヤン爺さんの前でニコッと微笑んだ。
「はじめまして。アリアの親友、セレスです」
ヤン爺さんに挨拶したタイミングで、今度はルナがやってきた。
「アリアの大親友、ルナです」
セレスがキッとルナを睨みつける。
「失礼しました。間違えましたわ。大、大、大親友のセレスです!」
「じゃあ、私は……」
ま、まさか、ここでも言い合い!?
悪化する前に、急いで止めに入る。
「ちょ、ちょっと2人ともストッープ!!」
「ほぉ~、アリアの友人は皆、美人さんだなー」
ヤン爺さんは、言い合いなんか気にしていないようで、のん気に笑っている。
……ヤン爺さん、鼻の下が伸びてるよ。
セレスとルナの気持ちは嬉しいんだけどさ~。
どっちも大好きだから、仲良くしてほしいんだけどな。
私が2人の言い合いを止めている間に、ミネルがこの場にいる人たち全員を集める。
そして、テキパキと指示を出し始めた。
「《土の魔法》が使える方たちは、こちらへ集まってください。……セレス何してんだ! ちゃんと指示しろ!」
セレスを叱りつけるように、ミネルが声を上げる。
「はっ! わ、分かったわ!」
その声に反応したセレスが、急いでミネルの元へ走っていった。
昨日の時点で、すでに各々の分担は決めてある。
集まった人たちに指示を出す為、優秀な幼なじみ達とエレは、建築に必要な知識についてもこの1ヶ月半の間に勉強してくれていた。
私も勉強はしたけど、みんなには負けてる気がするな……。
本当にみんなは凄いや。
セレスが担当する《土の魔法》チームは、メインとなる部分、学校が建つ部分の土地の整備から始めてもらう。
別な場所には《緑の魔法》の人たちが集まっている。
木や植物を生み出せる《緑の魔法》チームは、ルナの指示の元、学校を建てるのに必要な木を作り出す作業をしてもらう。
作り出してもらった木は、オーンの指示のもと、力がある大人たちが伐採、製材、加工する。
工程が別れている分、他のチームより人数が多いけど、オーンに任せているからきっと大丈夫なはず。
加工した木材は、土地が整備された後に使うので、現状は一ヶ所にまとめて置く事になる。
運ぶのはエウロを中心した《風の魔法》チーム!
その他にも《風の魔法》チームは、必要な資材の手配や運搬も行うと言っていた。
それと、もう1つ。
加工した木材は《知恵の魔法》チームにも渡る。
ミネルが中心となって、机や椅子、ドアなど学校に必要な備品を作る事になっている。
材料さえあれば、すぐに物を作れるって……本当に便利!
エレと私は、グラウンドや学校が建つ場所以外の整備を、魔法が使えない人たちと一緒に行う。
魔法だけに頼っていると、他の作業が進まなくなっちゃうからね。
進められるところは、進めておかないと!
何日? 何か月? 掛かるか分からないけど、ミネルは「思っていたより、早く建つかもしれない」と言っていた。
「平日に集まれる人たちの為にも、前もって指示を出しておかないとな」とも言っていた。
本当に無駄がない。尊敬するよ。
グラウンドが広いので、私とエレが二手に分かれて指示を出す。
現場を見ながら私自身も作業を進めていると、ヤン爺さんの知り合いという男性がこちらにやって来た。
「最近、ヤン爺の話によく出てくるアリアだっけ? 俺は、ムイ。よろしくな!」
「よろしくお願いします。今日は参加してくれて、ありがとうございます」
「同じ年みたいだから、敬語はいらないぜ?」
どうやら明るくて、人懐っこい青年みたいだ。
軽く世間話をした後、お互いに作業を続けた。
しばらくすると、お昼の時間となった為、みんなが一斉に休憩へと入っていく。
1人、用意していたおにぎりを頬張っていると、近くにいたムイが話し掛けてきた。
せっかくなので、会話をしつつ一緒にお昼を食べる。
話しているうちに、ふと視線を感じ、何気なく顔を上げてみた。
なぜか分からないけれど、ムイがじーっと私を見ている……?
ど、どうしたのかな?
私の顔に土でもついてる!?
「アリアってよく見たら結構、可愛い顔してるじゃん」
「……ん?」
「彼氏がいないなら、俺が付き合ってやってもいいぜ?」
えっ!? えーーーっ!!!
言い方はかなり偉そうだけど、じ、じ、人生で初めて告白された!?
さらに可愛いって! 学校では目立たぬ生徒だけど、町内では結構イケてるのかな!?
初めての告白? に戸惑っていると、背後から突然、複数の影が……。
「(私の)アリアは、(大切な友人なんだから)私が認めた人じゃないと絶対に許さないわ! そして、それは決して、絶対、死んでもアナタではないわ!!」
セレス!
それは、おかん通り越して、おとんのセリフ!!
「(兄様と結婚するから)アリアは絶対ダメ! 代わりにセレスで」
ルナ!
珍しく、目に見えて感情的。そして、セレスが怒ってるよー。
本当にこの2人は……。
「アリアは(なぜか分からないけど……)ダメだ。(なぜか分からないけど……)絶対ダメだ!」
な、なぜ、エウロまで!?
なんか深刻な顔をしてる??
「失礼ですが(僕も言いたいのをまだ我慢してるのに)まさか今日知り合ったばかりの貴方がそういう事を言うのは……。さらに『付き合ってやってもいい』? ダメに決まってるでしょう!? 髪の毛、全部剃りますよ?」
オーン??
笑顔で淡々と言ってるけど、途中から話してる内容おかしいから!
「お前がこいつを扱いきれるはずないだろう。諦めろ」
ミネル……。
それはどういう意味? 珍獣扱い!?
最後に現れたのはエレ。
「(僕の大切な)アリアは諦めてください。代わりに僕じゃダメですか!? …………今、僕にときめきましたね? 僕にときめいてるような人(そんな奴)にアリアをあげるわけないでしょう!?」
エレにときめかない人なんているのかな!?
そうなると、私は永遠に彼氏ができない事になるけど……。
幼なじみ達からの総攻撃? に、ムイの表情がみるみる青ざめていく。
「じょ、冗談だよ! 冗談! ははっ、休憩もしたし……俺、あっちで作業しよー」
独り言のように早口で話すと、ムイはそそくさと去って行ってしまった。
しまいにはヤン爺さんから「お前にはまだ早い! アリアに言う前にわしを通せ!!」と、お尻を叩かれている。
なんか……ごめんね、ムイ。
人生で初めて告白された?? のに、まさか返事もせずに終わるとは……。
これがこの世界での最初で最後のチャンスだったとしたら、どうするんだよ!!




