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14歳、土地、トンチ、ヤン爺(前編)

皆様のお陰でブックマーク登録数が300件を超えました。

本当にありがとうございます!!


ご感想もいつも励みになっています! ありがとうございます!!

「あのー、会わせろと言うのは……?」


私が恐る恐る質問すると、ヤン爺さんがキッと私を睨みつけた。


「妻だ」


えーと……。

うん、まずは自分の中で整理しよう。


私が予想していた通り、おばあさんは奥さんの事だった。

でも、ヤン爺さんは一人暮らし。


……という事は?

ローさんの言った通り、奥さんは亡くなっている??


パニックになった私は救いを求め、ローさんを見つめる。

すると、私の聞きたい事が分かったのか、肯定するように小さく頷いた。



──あぁ、詰んだ。


亡くなった人に会わせろという事はつまり、遠回しに譲らないと言われたのかぁ。

はぁ~、どうしよう……と悩んでいたら、追い打ちをかけるようにヤン爺さんが私の方を見た。


「お前さん、さっき『分かった』と言ったな?」


うっ……ヤン爺さん、よく覚えておりますね。

はい、確かに私が言いました。


「……はい」

「さっきの威勢はどうした? ……まあ、いい。『分かった』と言ったからには、お前1人の力でばあさんを連れてこい。そうしたら考えてやる」


……なんだろう。

頑固というか、段々とヤン爺さんが意地悪じいさんに見えてきたよ。


私が遠い目をしていると、オーンがヤン爺さんに交渉を持ち掛けた。


「失礼ですが……奥様は亡くなられてるんですよね? それだと連れてくるのは不可能です。他の条件にしていただけませんか?」


ヤン爺さんが「ふん」と言って、今度はオーンを睨む。


「オーノ? お前の話は聞かん。ウソつきは問題外だ」


……えっ!?

ヤン爺さんの言葉に驚き 、その場にいる全員が目を見開いた。

オーンが、ヤン爺さんの様子をうかがいつつ理由を尋ねる。


「……僕のどこがウソつきだと?」

「オーノという知り合いがおる。わしと近い年齢だが、まだ生きとるぞ。何が言いたいか分かるな?」


私も含め、ローさん以外の人たちが黙り込んだ。


この国は《知恵の魔法》の”ナレッジ”で全国民の名前が管理されていて、すでに使われている名前は使えないというルールがある。


ヤン爺さんは、オーノという名前がウソだと知ってるんだ。

変装したらバレないだろうと軽率に言ってしまった──私のミスだ。


「私が……」ヤン爺さんに謝ろうとする私をオーンが手で制し、ゆっくりとウィッグを外した。


「ご指摘の通り、僕……いえ、私はオーノではありません」


オーンが頭を下げ、謝罪する。


「私はオーン……この国の王、サール国王の息子です。今度は嘘ではありません。王子という立場から、身分を隠しておりました。大変、失礼な事をしました。申し訳ございません」


そういうと、オーンは再び深々と頭を下げた。


「えっ! 王……子!?」


オーンのカミングアウトにヤン爺さんではなく、ローさんが驚いている。

ローさんも本当にごめんなさい!!


「ふん、それも本当かどうか分かったもんじゃないな。……だが、さすがにすぐバレるような嘘はつかんか」


ヤン爺さんは、オーンが“王子”だと言っても特に驚いていないようだ。


「だが、最初に嘘をついた事は変わらんからな。王子だろうがなんだろうが、もうお前さんの話は聞かん」


隣にいるエレが、ボソッと「譲ってもらうの難しいんじゃない? 別な土地を探そう」と私にだけ聞こえる声で話し掛けてくる。


確かに……現段階で譲ってもらえる確率はかなり低い。

気持ちを切り替えて、別な土地を探すのも手かもしれない。


ただ、気になる。

おばあさんに会わせてくれたら……と言ったヤン爺さんは、本当に意地悪だけで言ったのかな?


それに何もしていないに簡単に諦めるのもイヤだ。


「分かりました」


気づけば、自然と言葉に出していた。


「ア、アリア!?」


エレ達は私の回答にビックリしている。


「ほぅ、言ったな? 他の人に手伝ってもらうのは禁止だ。手伝ってもらった事が分かった時点でこの話は一切なしだ。分かったな?」


ヤン爺さんがニヤッと笑う。

こ、このタイミングで初めて笑うとは……なかなかの性格!


「分かりました。1人でやります。ただ、私は奥様の事を知りません。奥様の情報を人に聞いたり、調べたりする事は許してください」

「……まあ、それはよかろう」

「ありがとうございます」



──結局、その日はヤン爺さんと無謀な約束だけをして帰る事になった。


帰りの“ヴェント”の中、私たちはローさんに嘘をついていた事を謝罪した。

ローさんは怒るどころか、むしろ理解を示してくれた。


「驚きはしたけど、オーン殿下の立場を考えると怒りとかはないよ」

「ありがとうございます」

「……それよりもアリアさん、大丈夫?」

「そうだよ、アリア! あんな約束して大丈夫なの!?」


隣に座っているモハズさんも心配そうに見つめてくる。


「正直……分かりません」


分からないけど……あの土地しかない! って思ってしまった以上、やるしかない!!

私と向かい合わせで座っているオーンとエレにも、改めてお願いする。


「ヤン爺さん……土地については、私1人に任せてもらえないかなぁ? 2人には申し訳ないんだけど、先に土地を買う為に必要な資金を集めておいてほしいんだ」


私の言葉に、エレやオーンではなくモハズさんが反応する。


「本当に1人でやるの!?」

「はい。ヤン爺さんと約束しましたから……」

「でもさ──」

「分かったよ、アリア。ミネルさん、オーンさんと一緒に資金集めを進めるよ」


モハズさんの言葉を遮り、エレが“私のお願い”に答えてくれた。

そして、オーンも……。


「資金集めの方は心配しなくていいよ。アリアは土地……いや、ヤン爺さんの事だけに集中して」

「えっ! オーン!! 本当にアリア一人にやらせるの?」


信じられない! とばかりに、モハズさんがオーンを問い詰める。


「はい。アリアがやると言ってるので」

「言ったからって……エレも!?」

「僕はアリアの好きなようにさせてあげたいだけです」


責めるような口振りにも動じず、オーンもエレも‟私のお願い”を尊重してくれる。

黙って話を聞いていたローさんも、私たちを後押しするように、そっと口を開いた。


「モハズが何を言っても無理そうだ。あとはアリアさんに任せよう」


ローさんに優しく諭された事で、モハズさんは渋々ながらも納得してくれた。


「皆さん、ワガママを聞いてくださって、ありがとうございます。何かあれば、すぐに報告します」



……こうして、土地については私個人で動く事になった。


帰宅後、私はまず最初に、ヤン爺さんの言った事について考えてみた。

“亡くなった人に会わせろー”なんて……まるでトンチのようだな。


この世界に写真があれば、写真の中でおばあさんに会えますよ、とか言えるんだけどなぁ。


んー、おばあさんの特徴を聞いて、似顔絵を書く、とか……?

“おばあさんとの思ひ出物語”を書いて、おばあさんとはこの本の中で会えます、とか??


……いや、どれもピンとこないな。



ふぅ~。

それにしてもおばあさんについての情報が少なすぎる。

ヤン爺さんとは5年以上の付き合いになるローさんも、おばあさんが8年前に亡くなったとしか知らないみたいだし……。


でも、ヤン爺さんは、おばあさんの情報を“人に聞いていい”と言った。


ふふふ……明日から“ヤン爺さん”におばあさんの事を聞きに行くぞー!!

まさかヤン爺さんも自分が聞かれる対象だとは思うまい。


ヤン爺さんに聞くことで、何か手がかりになるヒントが見つかるかもしれないしね!



──そして、次の日。


幼なじみ達には事情を説明し、私は“土地のみ”に集中させてもらう事になった。


誰も「やめろ」とは言わずに応援してくれた。

頼もしい幼なじみ達で本当に良かったぁ。安心して、他の事を任せられる。


まぁ、ミネルには「お前が関わると大体、大ごとになるな」とは言われたけど……。



学校帰り、まっすぐヤン爺さんの家へと向かう。

玄関をノックすると、私が来るとは思っていなかったのか、普通にヤン爺さんが出てきた。


あっ、尋常ではないくらい嫌そうな顔をしてる。

私も顔に出るタイプだけど、ヤン爺さんも大概だな。


「おばあさんの事は“人に聞いていい”と言ってたので、直接聞きに来ました」

「なっ! それは、わし以外に、だ!」

「ヤ……えーと……“わし以外”とは言ってませんでした」


……名前を言えないって不便だなぁ。

なんとか呼ばせてもらう許可も貰わないとな。


「ヘリクツだな。帰れ!」


挫けず交渉したけど、取り付く島なし。

明日も学校だし、そろそろ帰らないと……。


んー、平日は少しの時間しか粘れないなぁ。

それでも毎日通おう。

いずれ話してくれるかもしれないし。



それからというもの、毎日ヤン爺さんの所に通った。


大抵、すぐに「帰れ」と言われ、時には居留守を使われたりもした。

そんな日々が1ヶ月以上も続いた。


私が苦戦している間も、幼なじみ達は自分達の役割を着々とこなしている。


さすがだ。言い出しっぺの私が一番何もしていない。

役立たず過ぎて、へこむなぁ。


でも……そんな何の進展もない私に、幼なじみ達は一言も「諦めたら?」とは言わないし、責めもしない。

一番言いそうなミネルも何も言わない。


『私もやるわ!』と言い出しそうなセレスすらも見守ってくれてる。


みんなの気遣いに涙が出そう。

……いや! へこんでる暇なんかない!!


今日は週末だし、さっそくヤン爺さんの所へ行こう!!


朝食の後、エレにヤン爺さんの所へと出掛ける事を告げた。

どうやらエレも今日は午前中から、ミネルと一緒に投資してくれそうな人に会いに行くらしい。


「必ず、落として来るから」


そう言って、自信満々に笑ってみせる。


落とす……交渉の事だよね?

エレが言うと、違う意味に聞こえてくる。


そういえば、ヤン爺さんに効かなかったエンジェルスマイル。

気にしてたのか、あれ以来、エレの笑顔に磨きが掛かったような……?


さて……私は、と。

そうだ! お昼を作って、ヤン爺さんと一緒に食べよう!!


サンドイッチを大量に作り、ヤン爺さんの元へと向かう。

到着してすぐに玄関をノックするが……出てこない。


もう一度ノックすると「うわぁあ!」と叫ぶ声が、家の裏側から聞こえてきた。


な、何が起きたの!?

急いで声のした方へと走ると、裏庭でヤン爺さんが倒れてる!!


「だ、大丈夫ですか!?」


近くへと駆け寄り、声を掛ける。

すると、ヤン爺さんが「うるさい」と返事をした。

意識はあった。よかったぁ。


差し出した私の手を払うと、「つまずいただけだ」と言い張り、1人で立ち上がろうとする。

次の瞬間、「うっ」と唸ったヤン爺さんが、再びその場へと座り込んでしまった。


「足……痛いんですか?」

「ふん! 大丈夫だ。帰れ」


口では強がりを言ってるけど、相当痛いのか、いまだに立ち上がれずにいる。


「私の肩に手を掛けて、立って下さい」

「うるさい。そんな事を言っても何も教えん。帰れ」


んー! 頑固!!

でも、今はそんな事を言ってる場合じゃない!


「こんな事で、絶対に恩に着せたりしませんから! いいから! 言うことを聞いてください!!!」


あまりの迫力に圧倒されたのか、ヤン爺さんが無言のまま私の肩に手を回す。


「とりあえず、家に入りましょう。その後、お医者さんを連れてきますから」


足を引きずるヤン爺さんに肩を貸しながら、玄関のドアを開ける。

家に入り、ヤン爺さんを椅子へと座らせた。


「お医者さんを呼ぶ前に、まずはスリ傷を洗いましょう。ヤン爺さん、タオルはどこですか?」

「……あの棚の1番上の引き出しだ」


タオルを取り出し、近くにあった桶も借りて水を溜める。

ヤン爺さんの傷口を濡れタオルで洗いながら、ふと我に返った。


一大事とはいえ、勝手にお家に上がったし、名前まで呼んでしまった。

けど、怒られてないから……セーフ!?


その後、お医者さんに来てもらい“捻挫”という診断を受けた。


「2週間ぐらいで治るかな? 腫れが引くまで安静にね」

「ありがとうございました」


お礼を言い、玄関先までお医者さんを見送る。


てっきり魔法で治すのかと思ったけど……違った。

《癒しの魔法》は1日に使える魔力が決まってるから、余程の事がない限りは自然治癒なのかな?


「そうだ。お腹すきません? サンドイッチを作ってきたんです。一緒に食べませんか?」


……さっきから、怖いくらいにヤン爺さんは黙ったままだ。


とりあえず、カゴに入れていたサンドイッチを取り出し、テーブルの上に並べた。

図々しいかな? とも思ったけど、何も言わないし、私も椅子に座らせてもらおう。


それにしても、本当に一言も発しないな……。 

ヤン爺さんはそのままサンドイッチを手に取り、一口食べた。


そして──


「んっ!? トマトが入ってるのか!!」

「は、はい! ダメでした?」

「トマトは嫌いだ」

「そうなんですね。体にはいいんですけどねー」


あれ? 今、普通に会話したな?

ヤン爺さんの様子をうかがうと、嫌いだとは言いつつも食べてくれている。


「ばあさんもよくサンドイッチを作ってくれた。いつも2つ作るんだが、『体にいいから……』という理由で、1つには必ずトマトを入れておった」

「へぇ~、ヤ……体の事を考えてくれてたんですねぇ」

「それはどうかの? ばあさんがトマト大好きだったからな」

「あはは。それでも1つにはトマト入れていないのは、奥様の優しさですよ~」


その後も他愛のない話をしつつ、一緒にお昼を食べた。

しばらくして食事も終わり、片付けながらヤン爺さんに声を掛ける。


「その足では買い物も大変だと思うので、必要なものがあれば何か買ってきますよ?」

「……いらん」

「そうですか……じゃあ、作りすぎたのでサンドイッチ置いて帰りますね。よければ、夕飯にしてください」


ヤン爺さんが僅かに眉を動かす。


「……帰るのか?」

「はい。ケガもされてるので、今日は帰ります。明日、様子を見にまた来ますね」

「ふん。もう来なくいていい」


心配ではあったけれど、その日は挨拶をして家へと帰った。


明日も学校はお休みだし、また何か作って持って行こう。

足が完治するまでの間は……なんか卑怯な気もするし、おばあさんの事を聞くのはやめようかな。


偶然だけど、おばあさんはトマト大好きという情報は手に入ったなぁ。



次の日は朝からヤン爺さんの家へと向かった。

玄関をノックはしたものの、すぐに思い直し、自分でドアを開ける。


「人の家を勝手に開けるな!」

「足を怪我されてるので、こちらに来れないかなぁ? と思い、勝手に開けちゃいました。入っていいですか?」

「……勝手にしろ」

「お邪魔します」


家に入り、椅子に座るヤン爺さんに声を掛ける。


「朝ご飯は食べましたか?」

「まだだ」

「よかった。作ってきてたので用意しますね。まあ、またサンドイッチですけど……」


昨日と同じようにテーブルの上へサンドイッチを並べる。

何も言わず、サンドイッチを口に含んだヤン爺さんが「またトマトが入っとる」と言った。


「あっ、はい。でも、もう1つには入れてませんよ」

「ふん」


黙々とサンドイッチを食べながら、ヤン爺さんが独り言のように口を開く。


「お前さんに借りはつくらん。……ばあさんの事を教えればいいか?」


えっ!? それは嬉しい!!

……だけど。


「それなら‟ヤン爺さん”の名前を呼ぶ許可をください」

「……ん?」

「だって、初めて名前を呼んだ時に『名前を呼ぶことを許可した覚えはない』って。でも名前を呼べないのって不便だなって」

「お前さん……気にしとったのか」


だって、呼ぶなって言われたし……。


「お前さんは正真正銘のバカじゃな」

「…………」

「まっすぐ過ぎる。非常に損をした、不器用な……不幸な生き方だ」

「確かに不器用な生き方かもしれませんが、損してると思った事も不幸だと思った事もありません」


あっ! でも、幼なじみ達とのスペックが違い過ぎて、不公平だと思った事はあるか……。


ヤン爺さんが「ふっ」と笑った。

最初にニヤッと笑った時の意地悪な笑い方とは違う、自然な笑顔だ。


「勝手に呼べ」

「ありがとうございます!」

「……ばあさんもまっすぐ過ぎる人だった」


想い馳せるように、ヤン爺さんがそっと目をふせる。


「ばあさんについて、聞きたい事があれば聞け」

「い、いいんですか!?」

「ああ。ただし、足が完治するまでの間だ」

「十分です! ありがとうございます。お礼に足が完治するまでの間はご飯を作ってきますね!」


私のセリフにヤン爺さんが微妙な顔をした。

あれ? なんか変な事言った!?


「なんでお前さんがお礼をするんだ。それが損しとるんだ」


えっ! まさかの返し!!


相変わらず口は悪いんだけど、どこか私を気遣うような言葉に、なんだか嬉しくなってくる。


「ふふっ、あはは。ヤン爺さん、そこは『ご飯が食べられる!ラッキー!!』ぐらいでいいんですよ。ヤン爺さん風にいうなら、損してますよ?」


「うるさい!」


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