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14歳、1年越しの頼みごと

“セレスとオーンの婚約破棄”は、瞬く間に学校中へと広まった。


何で広まったんだろう?? と不思議に思っていたら、セレスが「ふふっ」と不敵な笑みを浮かべながら教えてくれた。


「この前、同級生から『オーンさんと婚約しているのは知っていますが、気持ちだけでもお伝えしたくて……』と告白されたのよ」

「えっ! 告白!?」


私が驚いていると、「まぁ、私くらいになると多いのよ」と自慢げに返された。


「その際に『お気持ちはありがたく頂戴します。ただ、アナタのお気持ちには答えられませんわ。それと、オーンとはもう婚約を解消してますのよ』とお伝えしたの。それが広まったのね」


なるほど。

まさかのセレス自身が噂を広める原因を作っていたのか……。


セレスから婚約解消の話を聞いた時、前もってなんの相談もなかったから心配だったけど……元気そうで良かった。

それに、オーンとも何事もなかったかのように普通に話してたな。


フリーになった事で、セレスは声を掛けられる機会が増えたらしい。

前よりも“セレスらしさ”がパワーアップしたような気がする。


「断るのも大変なのよねぇ。そうそう、この前も呼び出されてね……」


……さっきから、ずっと告白された時の話をしている。


話が長い所為で、休み時間が終わっちゃうなぁ。

でもまあ、セレスが楽しそうだから、よしとしよう。


「おい! 何をダラダラと話してる。次は移動だぞ」


この口調は──やっぱりミネルだ!

のん気に話している私が授業に遅れないよう、わざわざ声を掛けてくれたみたい。


……って、そうだった! 急がなきゃ!!


「ミネル、教えてくれてありがとう。 ごめん、セレスもう行くね!」

「あら? もうそんな時間なの? 分かったわ」


セレスに手を振り、慌ててミネルの後を追う。


「ミネルー、待ってー!」

「うるさい」

「あはは。ごめん、ごめん。そういえば私ね、ミネルに相談したい事があるんだよね」


あっ、あからさまにイヤな顔した。

でも、気にせずに言っちゃうけどね。


「学校を作りたいんだよね」

「…………」

「ここ数日、色々と考えてたんだけど煮詰まっちゃって……。それで、ミネルにも協力してもらいたいな、と思ったんだよね」


……あれ? さっきから、ずっと黙ったままだな。

聞こえてなかったのかな?


どうしたんだろう……と首をかしげる私を、ミネルが訝しげに見つめている。


「……お前、ついに頭がおかしくなったのか?」

「へっ?」

「何を言ってるのか分からない」


んん? ……あっ、そうか!

なんで学校を作りたいのか、肝心の経緯を伝えてなかった!


移動先の教室に入り、ミネルの向かいの席に腰を掛ける。

すぐさま事情を説明しようとしたところ、ちょうど先生が来てしまった。


しょうがない、授業が終わってから話そう。


「前回、皆さんに提出してもらった課題ですが、合格者がほとんどいませんでした。そこで先生も見て回るので、もう一度同じ課題をやってもらいます」

「えー!」


先生の話に、クラスメイトから不満の声が上がる。

確かにこの前だされた課題は、いつもより難しかったな。


「静かに! すでに合格している人は、別な課題を解いてください。課題が終わった人は自習で」


そう言うと、先生は合格している私とミネルに別な課題を配った。



──自習!

ミネルならすぐに課題なんて解いちゃうだろうから、私さえ早く終わらせる事ができれば、話すチャンスがある!!


やる気になった私は、猛スピードで課題を終わらせた。

人間やればできるもんだな。


「ミネル、課題終わった?」

「ああ。だが、話は聞かないぞ」


くっ!!

ミネルの方が一枚も二枚も上手だったか。


「本当に、全然、まったく興味ない?」

「…………」


ふふふ、黙った。

ミネルは興味に満ち溢れた人間だから、全く興味がないはずがない!


観念したのか「はぁ~」と分かりやすいくらいのため息をついた。


「分かった。話せ。話だけは聞いてやる」

「ありがとう~」


まずは、ミネルに“学校を作ろう”と思った経緯を説明した。


モハズさんから話を聞いて、学びたいと思っても学ぶ事が出来ない人がいること。

その所為で、将来の選択肢が狭まってしまっていること。


「それでね、平等に学ぶ事ができる場所を作りたいと思ってたら、モハズさんのような家庭の人でも通える“学校を作ろう”という考えに至ったんだよね」

「……安易な気もするが、経緯は分かった。……で?」

「学校を作るにあたって『資金はどうしよう?』とか『先生はどうしよう?』 とか、考えることが山積みで……私1人だけだと気が遠くなる話だなぁと思って」

「それで、僕の力を借りたいと?」


そうなんです、そうなんです! と言わんばかりに私は大きく頷いた。


「無理だな」

「え~、なんで?」

「現実的な話じゃない。やっても無駄な事に時間を使いたくない」

「まだ無理と決まったわけじゃないよ!」



……あれ?

このセリフ、前にもどこかで言ったような……?


あぁーっ!!


ミネルと“テスタコーポ大会”で優勝できるかどうか話した時に言ったセリフだ!!

すっかり忘れてたけど、あの時、ミネルと賭けをしたんだった!!


「ふふふ、ミネルくん」

「なんだ? ……気持ち悪いな」

「あんまり女の子に気持ち悪いって言わない方がいいよ……って、まぁ、それは置いといて、去年の“テスタコーポ大会”で『負けた方が勝った方の言うことを1つ聞く』っていう賭けをしたよね?」


あっ! また、あからさまにイヤな顔をした。


「……去年の事だから時効だ」

「時効はなーい! あの賭けってミネルから提案したよね? 自分で言った事を守らないの??」


私はニヤッと笑いながら、ミネルを問い詰めた。

なかば脅しに近いけど、ミネルには絶対に協力してもらいたい!!


うーん、ものすごーく不本意そうな顔をしているなぁ。


「こんなにも自分で言った事を後悔した日はないな。……分かった」

「やったー!!」


しまった! ミネルが協力してくれる事があまりにも嬉しくて、ついつい大声を出してしまったけど、授業中だった。

案の定、先生に「アリアさん。お静かに」と怒られてしまった……けど、嬉しい!!


「学校にこだわらず、ボランティアを募って、勉強を教えるとかじゃ駄目なのか?」


さすがミネル。

さっそく考えてくれてる。


「実はそれも考えたんだ。ただ、長い目で見た時にボランティアだと、授業ができる日とできない日があると思うし、ずっと続けられるっていう保証もないから」

「なるほどな。学校を作るにしても先生を探すにしても、まずは資金集めだな。学生である僕たちが資金を集めるのは、相当難しいぞ」

「そう、そこなんだよね」


寄付してもらう、出資者を集める、借金するなど……借金はしたくないな。


資金を集める方法を考えてはみたけど、ミネルの言う通り、学生である私たちの話をちゃんと聞いてもらうのは相当ハードルが高い。

まずはそこをクリアしないと、な。


「どんな学校を作りたいのか、その為に必要な資金はどのくらいかなど具体化するぞ。そうしないと、出資者を募るにしても本気にしてもらえないからな」

「うん、そうだね」


その後もお互いに案を出し合ったけど、全然時間が足りなくて、週末にミネルの家にお邪魔する事になった。


やっぱり、ミネルとの会話は可能性が広がってきて楽しいなぁ。




──そして、週末。


ミネルの家にお邪魔し部屋に入ると、テーブルの上には資料の山!!

週末までの間にこんなに調べておいてくれたんだ。


「通ってる学校がどういう経緯でできたのかなど、調べてみた。で、これが調べた事をまとめたものだ」


私が部屋に入るなり、ミネルがものすごい勢いで話し始める。

……最初イヤがってたけど、なんだか楽しそう??


「なんだ? ニヤニヤして?」

「いや、なんでもない。ごめん、話を続けようか」


危ない、危ない。

『楽しそうだね』なんて言ってしまったら、ミネルの機嫌を損ねるところだったかもしれない。


「ボーッとしている時間はないぞ。資金集めにはまず、出資者へのメリットを考えなければいけない」

「そうだね。出資してくれた人が経営者だった場合、将来優秀な人たちを雇う事ができるっていうメリットはあるけど……」


メリットがざっくりし過ぎてるよなぁ~と悩んでいると、ミネルがそっと口を開いた。


「……お前は将来の可能性を広げたくて学校を作りたいんだよな?」

「うん!」

「それなら全員が同じことを学ぶ学校ではなく、専門職を学べる学校にするのはどうだ?」



──専門学校か!


「確かにそれなら、一から仕事を教えてなくても卒業後すぐに即戦力として働けるね!」

「ああ」

「ただ自分に合った職種がすぐに見つけられるとは思えないから……1年目は同じ事を学んで、2年目から自分に合った学科を専攻するとかにしたいな」


あれ? ミネルが黙ってる。

イマイチな提案だったのかな?


「いいんじゃないか? 今までにないな。面白い」

「良かった!」

「それなら学校を通う生徒には、無料で仕事を手伝ってもらうっていうのはどうだ?」

「無料?」


私がミネルに質問をすると、ミネルの気分が乗ってきたのか、いきいきと話し始めた。


「ああ。出資者は先行投資という形で、無料で仕事を手伝ってもらえる。ただし、学生の本分である学業を疎かにしないレベルでの手伝いだ。この辺はちゃんとした契約書や取り決めが必要だな。仕事を手伝う生徒については、学費の免除、または、減額するなどのメリットをつける」


なるほど。

出資者も労働者に払うお金だと思えば損はないし、生徒も学費が安くなる、または免除なら、それが労働の賃金になる。


つまりは、お互いにWin-Winウィンウィンの関係という事だ。


「いいね! まずはそれで提案をしてみよう!!」

「僕の方は、出資してくれそうな所のピックアップと、提案資料を作る。お前は寄付を集める方法を考えろ」

「分かったよ!」

「資金集めもそうだが、並行して、学校を建てるのになるべく費用を安く抑える方法も考えないとな」


それについては、すでに考えていた事がある。

私は自分の案をミネルに伝えた。


「学校を建てられそうな場所については、色んな土地を回ってる調査チームに相談に乗ってもらおうって思ってるんだよね」

「知り合いもいるみたいだし、いいんじゃないか? 建築費はどうする?」


そう。それについても考えていた事があったので、相談してみる。


「実際、学校に入りたい人とかに手伝ってもらえないかな? って思ってるんだ」

「……なるほどな。だが、“金持ちの道楽で作る学校”としか考えてもらえないかもしれないぞ」

「うん。そこも調査チームのモハズさんに協力してもらおうかなって」


モハズさんにはまだ伝えてないけど、この前『当分調査に行けないし、雑用で暇だから近々会おうよ~』って連絡がきた。


一般家庭の人たちとのパイプラインがない私としては、モハズさんに頼んで協力してもらうしかない!!


「あとは私たちが通ってる学校を巻き込めないかな? って。例えば授業の一環として、学校の建築を手伝うとかなら、費用も安くすませられるんじゃないかなぁって思ってるんだよね」


ミネルは何も言わず、私の話に耳を傾けている。

多分ミネルのことだから、聞きながらも色々な事を考えてくれてるんだろうな。


「《土の魔法》や《緑の魔法》を使うって事か。生徒に手伝ってもらう事はできそうだが、学校自体を巻き込むのは、なかなか大変だぞ」

「そうだよねぇ……」

「セレスやルナには相談したのか?」

「いや、まだ話してない」


多分、2人に相談したら手伝うって言ってくれると思う。

ミネルは強制的に仲間に引き込んじゃったけど、なるべくなら無理やりとかじゃなく、自発的にやりたいって思ってほしくて、声を掛けられないでいる。


2人に話していない理由をミネルに説明すると……予想通りの反応が返ってきた。


「お前! 僕の事は無理やり巻き込んだだろう!?」


やっぱり、怒った。


「まぁ、まぁ」


私がミネルをなだめると「はぁ~」と大きなため息をつかれた。


「お前は変なところで遠慮するんだな。どうせなら、もっと違うところで遠慮した方がいいぞ。あの2人なら多分、相談してくれない、頼ってくれない方が寂しいんじゃないか?」

「そうかな?」

「ああ。セレスの場合は、寂しいじゃないな。きっと怒るぞ」

「それはイヤだな……」


ミネルって、意外にも幼なじみの事をちゃんと見てるんだな。

話してみて良かったかも。みんなにも相談してみよう。


そう決意した私に、ふと、ミネルが尋ねてきた。


「そういえば、親に協力は仰がないのか?」

「うん。親を頼る事は出来るけど、頼るのが当たり前になると自分でちゃんと考えて行動するっていう事を怠けてしまいそうで……。結果として協力してもらう事になるかもしれないけど、まずはやれるとこまでやってみようと思ってる」


「……その考え方はキライじゃない」


おぉ! ミネルが珍しく褒めてくれた!?

普段褒めない人に褒められると嬉しいかも。


「それと最後にもう一つ、学校の経営者となってくれる人を探さないといけないな」

「そうなんだよねぇ。協力してくれる大人を探さないとね」


やっぱりミネルも気がついていたか。

私たちは学生だし、年齢的にも責任能力がない。


だからこそ、私たちの考えに賛同して、学校の経営者となってくれる人を探さないと!


その後も延々と話が盛り上がり、すっかり遅い時間になってしまった。


「それじゃあ、今日はそろそろ帰るね」

「ああ。ちゃんと寄付について、考えておけよ」

「もちろん! 今日はありがとう」


帰り際、ミネルのお母さんであるメーテさんが挨拶に来てくれた。

それと……妹のウィズちゃん!!


「あーちゃん」


私の名前を呼んで駆け寄って来てくれた。


いつ見てもかわいいー!!

こんなに可愛い子がミネルの妹だなんて、本当に信じられない!!


私はウィズちゃんを抱っこし、メーテさんに挨拶をする。

そんな中、私の横にいるミネルが質問をしてきた。


「そういえば、弟には協力してもらわないのか?」

「エレ? エレには話したよ。協力したいって。本当は今日も一緒に来るはずだったんだけど……ミネルも知ってるよね? 最近、魔法を使える人が行方不明になっている事件……」

「……ああ、知ってる」


そう、最近この国では、魔法を使える人が行方不明になるという事件が増えている。

《禁断の魔法》を使う集団と関係があるのかはまだ分かっていないけど……どちらにせよ、イヤな事件だ。


「それもあるから、お父様がエレを心配して、防犯になりそうな武器とかを一緒に買いに行ってるの」

「そうか……」

「ミネルも気をつけてね。メーテさん達も気をつけてくださいね」


私の言葉にミネルとメーテさんが返事をする。


「ああ」

「ありがとう。アリアちゃんも気をつけてね」

「お母様、こいつは大丈夫です。魔法を使えないから」


……確かにそうだけど、さ。

ミネルのセリフに、メーテさんが微笑みながらも「そういう事を言ってはダメよ」と注意している。


ウィズちゃんをメーテさんに渡すと、そのまま別れを告げ、ミネルの家を後にした。



事件もそうだけど、学校については“気がかりな事”もある。

まずはできる事から……“寄付を集める”方法を考えよう。


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[一言] アリアは先生になるのか....実に似合いね~
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