14歳、調査チームで起こった事を話しました
“ヴェント”に乗って我が家に到着すると、お母様やメイドたちは驚いていた。
10日は帰ってこないと思われていた私が、何の前触れもなく5日で帰ってくれば、そりゃ驚くよね。
お母様には、お父様とエレが帰ってきたら事情を話すと伝え、心身ともに疲れ切っていた私は、まずはゆっくり休ませてもらった。
調査チームでの最後の2日間は、目を閉じるだけでも恐怖を感じてしまい、ほとんど眠れなかった。
だからこそ、安心できる我が家に着いた途端、緊張の糸が解けたのか、メイドのサラが不安になるほどの爆睡っぷりだったらしい。
──その夜、両親とエレに調査チームで起こった出来事を、包み隠さず説明した。
正直なところ、《闇の魔法》を使えるエレに今回の騒動を話すべきかどうか、迷いもあった。
実際、《闇の魔法》によって殺されかけた事を伝えた時は、何とも言えない複雑な表情をしていた。
「エレ、間違えた魔法の使い方をすると、一歩間違えれば殺される可能性もあるし、モハズさんのような罪のない人たちの人生を奪ってしまう事もある。仮に私が命を落としていたら、モハズさんは一生罪の意識に苛まれるし、自惚れじゃなければ、エレのように悲しみで立ち直れない人だって出てきてしまう。そういう先々の事を考えて、エレには正しく魔法を使ってほしい……そう思って話したんだ」
エレは私の言いたい事をちゃんと理解してくれたらしく、真剣な表情でうなずいてくれた。
「うん、分かったよ。僕はアリアを悲しませるような事は絶対しないって、改めて、この場で誓うよ」
「ありがとう」
精神的に危うい所もあるけれど、エレならきっと大丈夫だろう。
一通り私の話を聞き終えたお母様は「はぁ~」と深いため息をついた。
「どうして、アリアはいつもトラブルに巻き込まれてしまうのかしら。結果として無事だったから良かったけど……心配だわ」
ホントだよね。お母様、いつも心配掛けてすいません。
お父様は紅茶を一口飲み、お母様をなだめつつ、口を開いた。
「本当に大変だったね、アリア。実は今日、《禁断の魔法》が使われた事は私の耳にも入ってきたんだ。明日以降、具体的な話をする事になると思う。私の方でも、モハズさんの事は気に掛けておくよ」
「そうですね、あなた。よろしくお願い致しますね」
「ありがとうございます! お父様! お母様!」
娘が殺されかけたという事実だけで裁定せず、きちんと経緯を聞いた上で判断してくれるなんて、本当に理解ある両親だなぁ。
改めて、この家の子供に生まれ……転生して良かった。
ふと、私の言葉に笑顔を見せていたお父様の顔が一変した。
何か気になる事でもあったのか、少し険しい表情を浮かべている。
「処罰についてもそうだけど、もし相手がモハズさんに顔を見られたと思っていたとしたら……。彼女に危険が及ぶかもしれないね」
確かにお父様の言う通りだ。
急にモハズさんが心配になってきたな……。
不安そうな私を見たお父様が、安心させるように声を掛けてくれる。
「変に心配させてしまったけれど、モハズさんはすでに安全な所にいると思うよ」
「本当ですか? よかった、安心しました。……そういえば、今回の件で“お願い”と“心配事”があるんです」
「なんだい?」
「《禁断の魔法》を使う人がいる事は広まってもいいのですが、私自身に起きた事はなるべく知られたくないんです」
モハズさんが私を殺し掛けたっていう噂まで広まってしまうと、たとえ原因が《禁断の魔法》であったとしても嫌な目で見られるかもしれない。
それだけは、何としても避けたい!!
すぐに事情を察したお父様とお母様が、そっと微笑んだ。
「……アリアはモハズさんの事が好きなんだね」
「はい、今回の旅で知り合って大好きになりました」
「分かったよ。その辺もちゃんと配慮するよう伝えておこう。で、心配事は?」
チラッとエレの方を見る。
「今回の件で、今まで頑張ってきたエレが嫌な思いをしないか心配で……」
私のセリフに表情を緩めると、エレはいつもと変わらぬ天使の笑顔を見せてくれた。
「その心配は不要だよ。アリアも知っての通り、僕は人気者だからね。そんな事で揺らぐような学校生活は送っていないよ」
そ、そうだよね!
そんな気はしていたけど、エレが今まで積上げてきたものが崩れたら……って思うと、言わずにはいられなかった。
「いつも僕の事を想ってくれてありがとう」
満面の笑みを浮かべたエレは、どこか嬉しそうだった。
次の日、まだ疲れが残っていた私は両親の勧めもあり、学校を休む事にした。
明後日から行こうと思っていたら、今回の経緯について憲兵チームと話をする為、さらに2日間も学校を休まなくてはならなくなった。
調査チームの人がすでに経緯を話してくれてたけど、実際に関わったオーンと私の話も聞きたかったらしい。
事情聴取みたいなものかな?
なんだかんだで3日間も休む事になったけど、ある意味よかったのかも。
早めに登校したら変に怪しまれるしね。
この間に判明した事などについては、サウロさんが教えてくれた。
正しくはサウロさんがお父様に状況を説明し、私はお父様経由で話を聞いたんだけどね。
モハズさんは辞めずにすんだこと。
《闇の魔法》の効力はオーンが使った《光の魔法》で全て浄化されていたこと。
当面はモハズさんに危険が及ぶかもしれないから、調査チームとして旅には出ず、雑用として働くこと。
……あと、勝手な行動をした罰則として、モハズさんは再び調査チームの基本から学び直す事になったらしい。
その話を聞いた時、モハズさんの「面倒くさい~」と言いながらもやってる姿を想像して、ちょっと笑ってしまった。
……笑ってごめんなさい、モハズさん。
結局、“あの道”については謎のままらしい。
あの後すぐに調査チームと憲兵チームが確認に向かったそうだが、道自体が跡形もなく消えていたとの事だった。
今回の件から、この国に《禁断の魔法》を使う人がいること。
操られている人間がいる可能性はあるが、少なくとも仲間が3~4人はいること。
その中に《土の魔法》、《緑の魔法》を使う人がいること。
もっと仲間を増やすつもりなのかもしれないし、もうこの国から脱出しているのかもしれない。
今の段階では見当もつかない為、より情報を得るべく、当面の間は調査チームと憲兵チームがタッグを組んで調査を続けるらしい。
「──最後に『また何かあれば、伝える』という伝言をサウロくんから頼まれたよ。そういえば、サウロくん以外の調査チームの人たちにも会ったよ。『アリアの父親です』って言ったら、偉く歓迎されたんだけど……いいメンバーだったみたいだね」
「はい。期間は短かったんですけど、皆さんいい人達でした」
「それなら良かった。嫌な経験で終わってほしくなかったからね」
お父様や調査チームの人たち……私は本当に人に恵まれてるな。
---------------------------------------
そして、そして、ついに学校ふっかーーつ!!
久しぶりの登校に浮かれていると、セレスとルナ、エウロが校門の前に立っていた。
相変わらず、目立ってるなぁ。どうしたんだろ??
挨拶しようとした瞬間、セレスが勢いよく私を問い詰めた。
「聞いたわよ!!!」
「お、おはよう、セレス。朝から元気なようで……」
朝から随分と興奮してるなぁ。
面倒な気配を察知したのか、エレは先に校舎へと去って行ってしまった。
「それで、何を?」
「アナタが殺され──」
セレスの発言に驚き、言い終わる前に慌てて口を塞ぐ。
えっ! えっ!! なんで知ってるの!?
私は急いで3人をひとけのない場所まで連れて行った。
……よし、ここまで連れてくれば大丈夫かな。
ん? なんか「ふがふが」聞こえる。
あっ! セレスの口を塞いだままだった!!
「ごめん、セレス」
「……死ぬかと思ったわ」
急な事で力加減を間違ったらしい。本当にごめん。
「ところで……」と私は小声でセレスに話を切り出した。
「何で知ってるの??」
「私たちを誰だと思ってるの!?」
声がでかい! !
そうか……幼なじみ達の家柄から考えると、今回の一連の出来事が耳に入ってきたとしてもおかしくないのか。
それにエウロとルナのお兄さんは一緒にいた訳だから、直接話を聞いてる可能性もあるよね。
これは……まずいな。
「だ、誰かに話したりした?」
「話したりしてないわよ」
確認の為にエウロとルナの方にも顔を向けたけど、2人も「話してない」と言った。
よかった。とりあえず、一安心。
「お昼に詳しく事情を話すから、この事は誰にも言わないで! お願い!!」
「わ、分かったわ」
私の必死さが伝わったのか、3人は誰にも言わないと約束してくれた。
そんな中、ルナが少し心配そうに声を掛けてくる。
「今は元気なの?」
「ありがとう、ルナ。《癒しの魔法》で治してもらったからね。元気だよ!」
ルナが安堵の表情を浮かべる。
エウロも安心したように息を吐くと、私の頭の上にポンと手を乗せた。
「やっぱり、心配した通りだった」
「……結果的にそうなっちゃったね。心配掛けてごめんね、エウロ」
みんな心配してくれてたんだな。
朝からビックリしたけど、こうやって気に掛けてくれた事は本当にありがたいな。
──お昼休み。
オーンと2人で事の一部始終を説明した。
「……という訳で、他の人には言わないでほしいんだ」
私がみんなにお願いをすると、セレスが神妙な面持ちで話し出した。
「事情は分かったわ。でも、その集団? が捕まらない限り、また何かあるかもしれないわね」
「うん、そうなんだよね」
「とりあえず、2人が無事で良かったわ」
みんなもセレスの言葉にうなずく。
「ありがとう。……でも結局、調査チームとしての目的は果たせてないから、仕事に関する話はできないんだよね」
残念そうに話す私に、オーンが頷く。
すると、何かを思い出したのか、オーンが「あっ」と 声を上げた。
「アリアと満天の星空を見たんだけど、あんなキレイな夜空を見た事はなかったな。あれだけでも、僕には忘れられない1日になったよ」
オーンが楽しそうに話している。確かに、あの星空はキレイだったなぁ。
私もオーンの話に同調していると……あれ?
近くに座っているセレスが、なんだか浮かない顔をしているような……?
ジッと見つめていると、こちらに気づいたセレスと目が合う。
特に気まずそうな素振りもなく、セレスはまたいつも通りの口調で話に参加し始めた。
何かあったのかな? 杞憂で終わればいいんだけど……。




