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14歳、波乱の幕開け(前編)

──20分が経過した。



モハズさんは戻ってこなかった。

サウロさんがヤイネさんやビアンさんと顔を見合わせ、スッと立ち上がる。


「よし、行くぞ! リーセ、後は頼んだ」

「分かりました」


サウロさん達が向かったのを見届け、私たちも元来た道へと歩き始めた次の瞬間、後ろから大きな声が聞こえてきた。


「ちょっと待ってくれ! モハズが戻ってきた!!」



──えっ! !

振り返ると、サウロさん達と一緒にモハズさんが立っている。

よかったぁ~。モハズさん、無事だったんだ!!


「例の道を歩いてたら、1分も立たない内にモハズが見つかったんだ」

「そうだったんですね。モハズさんが無事で何よりです。怪我はないですか?」

「ありがとう、リーセ。大丈夫。心配掛けちゃったみたいでごめん」


無事が確認できて安心したのか、サウロさんが今度は少し厳しめの口調でモハズさんを叱り出す。


「命令も聞かずに勝手な行動をするな! 1人の勝手な行動で、みんなが命を落とす可能性だってあるんだぞ! それくらいお前だって分かってるだろ?」

「ご、ごめんなさい。来た事もあるルートだったから……大丈夫だろうと思って」

「はぁ~、説教は追い追いするとして……大丈夫だったのか?」

「うん。結構遠くまで見に行ったんだけど、特に何もない普通の道だった。人や生物も見かけなかったよ」


サウロさんに叱られたという事もあり、モハズさんの声にはあまり元気がない。

返事を聞いたサウロさんはというと、腕を組みながらこれから先の行動を考えているようだ。


「そうか……。無事でよかったが……この道はたぶん《土の魔法》と《緑の魔法》を使い、人工的に作られている。誰が何の目的で作ったのか分からない以上、この先のルートが安全という保証はなくなった。オーンとアリアには悪いが今回の旅はここまでだ。リーセが記録を取り終えたら、引き返そう」


「分かりました、賢明な判断だと思います」

「はい、分かりました」


オーンが返事をした後、私も頷きながらサウロさんに同意した。


体験で来ただけのオーンと私に万が一の事があってはいけない、無茶はできないというのがサウロさんの出した結論なんだろうな。

……残念だけど、こればかりはしょうがない。


「本当に迷惑を掛けてごめんなさい!!」


モハズさんが深々とみんなに謝罪をした。

頭を下げ続けるモハズさんの横にきたサウロさんが肩をポンと叩く。


「みんな、今回の件は許してやってくれ。二度とこんな事をしようと思わないくらい、 俺が責任もってモハズを叱っておくから。それで、だ。今から昨日泊まった場所まで戻り、そこで1泊しようと思う。そして、次の日“ルリラッサ”の町まで戻る。いいな?」

「分かりました」


サウロさんの指示にみんなが返事をし、再び、昨日泊まった場所に向かって歩き始めた。


何か起きたら……っていう不安もあったけど、何のトラブルも起きなくてよかった。

到着後、すぐにサウロさんが指示を出す。


「昨日と同じ分担にしよう。早速、準備に取り掛かってくれ。アリア! 食料だけど、多めに使っていいぞ」

「分かりました。豪勢な料理を作ります!」

「おっ、いいな。それは楽しみだ」


元気のないモハズさんに美味しい料理を作ろう!

最後の夜だもん。せっかくなら楽しく終わりたい。


料理を作り終わった後は、みんなで集まり、一緒に食べ始める。


昨日に引き続き、夕飯は大好評!!

みんなと楽しく会話をしていく内にモハズさんも段々と元気になり、食べ終わる頃にはいつもの明るさを取り戻していた。

……というか、むしろ元気過ぎるくらいだけど……本当によかったぁ。


明日もまた、初日に経験したあの険しい道のりを1日中歩く事になる。

早めに就寝するようサウロさんから言われ、モハズさんと2人でテントに入った。


寝袋に入りながら、モハズさんがお礼の言葉を口にする。


「短い期間だったけど、楽しかったよ。ありがとう」

「私もモハズさんが居てくれたお陰で楽しかったです。ありがとうございます」

「あはは、照れるなぁ。……おやすみ」

「おやすみなさい」



──深夜、小さな物音に意識が浮上する。


なんか目の前に人の気配を感じるような……。

寝ぼけながら目を開けようとした瞬間、何者かに思い切り首を絞められた。


「うっ! うぅ……っ」


苦しい……声が出せないっ!

目を開ける事はできたものの、暗闇で誰なのかも分からない。


何かあった時に身動きできるようにと、寝袋でも手を出して寝ていたのが幸いした。

まずは、絞めている手を外さなきゃ!!


相手の手首を掴み、外そうと必死にもがいたけれど、力の差があるからか全く外れない。


よく聞くと、呟くように「アリア死ね、アリア死ね……」と何度も繰り返している。



──この声はモハズさんだ!!


目が慣れてきたのか、相手の顔も徐々にはっきりとしてくる。

そこには予想通り、恐ろしい形相をしたモハズさんの姿があった。


モハズさんの目はカッと開き、血走っている。それに焦点も合っていない。

首を絞める力は先ほどよりも強まっていて、呼吸する隙間すらない。


モハズさんは私を本気で殺そうとしている。

……な、なんで? 急にどうして!?


混乱しながらも懸命にふりほどこうとするけれど、手に力が入らなくなってきた。

時間の経過と共に、どんどんと頭がボーッとしてくる。

諦めちゃダメだ……早く手を外さないと……。


…………そうだ。

ぼんやりとした頭を奮い立たせ、横に置いておいた剣に必死で手を伸ばす。

お願い! 届いて……!!


ふと、指先に剣の鞘が触れる。

届いた!! ……よし、チャンスは一度だけ。手加減したら、失敗するかもしれない。

モハズさん! ごめんなさい!!


鞘を掴み、剣の柄頭で思い切りモハズさんの頭を殴る。

その反動で首を絞めていた手が外れ、モハズさんが横に倒れた。


「っ! ……はっ、かはっ」


呼吸がつらい。酸欠状態になっている所為で、頭もふらつく。

助けを呼びたいのに、むせて咳込む事しかできない。


けれど、ここにいるのは危険だ。何とか逃げ出さないと!

なりふり構わず、這うようにしてテントから出ようとした瞬間、倒れていたはずのモハズさんが信じられないほどの力で私の足を引っ張った。


痛いっ! ……まずい! このままじゃ……!

引き戻されないよう、テントの入り口に死に物狂いでしがみつく。


「かはっ、……た、たすけ、っ」


ダメだ、うまく声が出せない。

願いもむなしく、ものすごい力でテントへと引きずり込まれる。

がむしゃらに暴れてみるが、とんでもない力を前に為す術もない。

再び、モハズさんが馬乗りになり、私の首へと手を掛けた。


「──っ、アリア!!」


テントの入り口から誰かが飛び込んでくる。


この声は……オーンだ!!

オーンがモハズさんの手を掴み、私の首から力ずくで引き剥がした。


邪魔が入った事に腹を立てたのか、モハズさんが「邪魔、邪魔、邪魔」と低い声で叫びながら、次はオーンへと飛び掛かる。


攻撃をかわすと、オーンは素早い動きでモハズさんの喉の下あたりに掌底を入れた。

モハズさんが仰け反り、バランスを崩したところを狙って、今度は首に“トン”と手刀を入れる。


オーンの反撃によってモハズさんは気絶したらしく、私の横に倒れたまま動かなくなった。

気を失っている事を確認すると、オーンは半分崩れ掛けたテントを縛っていた紐をほどき、その紐でモハズさんの手足を縛りつけた。


「これで目を覚ましても大丈夫、と。……アリア! 大丈夫!?」


呆然としていた私はオーンの言葉で、ハッと意識を取り戻した。


途端に、“助かった”という安心感と“死んでいたかもしれない”という恐怖で、自然と涙が溢れ出し、体がガクガクと震え始める。

自分の意思に反して、全く震えが止まらない。


それを見たオーンが私をギュッと抱き寄せ「もう大丈夫だから。大丈夫だから」と繰り返し頭をなでた。


オーンが叫んだ事で他のメンバーも起きたらしく、遅れて私たちのところへとやってきた。

テントは完全に崩れてしまい、モハズさんは気絶した状態で縛られている。

その惨状を見たサウロさんが声を張り上げた。


「な、何が起きたんだ!!?」


オーンが私を抱き寄せたまま、サウロさんの質問に答える。


「経緯は分かりませんが、僕が駆けつけた時、モハズさんがアリアを襲い……殺そうとしてました」

「なんだって! モ、モハズが!? アリア! 何があったんだ?」

「サウロさん、すいません。アリアが落ち着くまで待ってくれませんか? 首を……首を絞められて混乱していると思うんです」


オーンが私を驚かせないようにと、静かな声で説明をしてくれている。


ずっと「大丈夫」と頭をなで続けてくれたからか、本当に少しずつではあるけれど落ち着いてきた。

サウロさんが驚愕しつつも、冷静にオーンと会話を続けている。


「なんでこんな事に……」

「これはあくまで予測なんですが……僕は“嫌な気配”を感じて目が覚めたんです。気になってテントの外に出たら、その“嫌な気配”はどんどんと強くなっていきました。より強い気配を感じる方へと目を向けた時、一瞬でしたが、倒れ込んで苦しそうな顔をしたアリアが見えたんです」


私が必死にテントから出ようとした時だ。

オーンはあの瞬間を見逃す事なく、助けに来てくれてたんだ。


「ただ事じゃないと思い、急いでアリアのテントに入ったらモハズさんがアリアを襲っていたんです」

「そうだったのか……」

「はい。そこで考えたんですが、なぜ僕だけが“嫌な気配”に気がついたか……」


説明しようとするオーンの服の袖を軽く引っ張る。

できれば私もちゃんと話を聞きたい。


「オーン……ありがとう。もう大丈夫。私にも聞かせて」

「……分かったけど、無理はしないで」


私はこくんと頷き、オーンの横に腰を下ろした。


「改めて、なぜ僕だけが“嫌な気配”に気がついたか……ここからは僕の推測になります。僕は皆さんご存知の通り《光の魔法》が使えます。《光の魔法》は《闇の魔法》にかけられた人を浄化する事もできるので、僕だけが《闇の魔法》に気づく事ができたのではないか? と思っています」

「なるほどな」


サウロさんや他のメンバーも、頷きながらオーンの説明に耳を傾けている。


「ただ《闇の魔法》を使って人を操る行為は、《禁断の魔法》になります。禁断という事もあり、僕は今まで《闇の魔法》で操られている人を見た事がありません。なので、この考えはあくまで推測に過ぎないのです」

「今回の調査チームは若いメンバーが集まっている。その為、この中で《闇の魔法》に直接ふれた経験のある人間が1人もいない。推測を立証しようにも、確認するすべがないんだ……」


どうすればいいか、 サウロさんは色々と考えているようだ。

そんな中、オーンが1つの提案を持ちかけた。


「《闇の魔法》を浄化させる魔法、使った事はないですが、試してみてもいいですか?」

「モハズやお前に危険は?」

「危険はありません。……ただ使った事がないので、仮にモハズさんが《闇の魔法》に操られていたとしても、僕の魔法で全て浄化する事ができたのかどうか分からないんです」


つまり、魔法が成功したとしても、今のモハズさんとそのまま旅をするのは危険って事か……。


「そうか。それでも試してもらえるか?」

「分かりました」


オーンとサウロさんがモハズさんの縛られている方へと近づいていく。

他のみんなと少し離れた場所で見守っていると、ちょうど目を覚ましたモハズさんが縛られながらも暴れ始めた。


サウロさんがすぐに「ビアン!」と叫ぶ。

ビアンさんが急いでモハズさんの元へと走り、サウロさんと一緒に押さえつけた。


「今の内にやってくれ」

「は、はい!」


オーンがモハズさんに向かって両手をかざす。

すると、手のひらがパァッと輝き出し、その光がモハズさんの体を包み込んだ。


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[一言] これはこれは、闇の魔法使いがいるとは....面白くなるな~ 絶対に戦いまで行くのだろう アリアのカッコイイ所を見るのは楽しみ~
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