13歳、準優勝の権利はどうしよう!?
テスタコーポ大会が終わり、私はといえば……すっかり燃え尽きていた。
燃え尽きすぎて、何もやる気が起きない。
そんな無気力な私にある日、やる気を起こさせる話が舞い込んできた。
「エウロー、アリアー。ちょっとこっちに来てくれるか?」
朝のホームルームが終わった後、担任の先生が私たち2人を呼び出した。
エウロと先生の元へ行き、「どうしたんですか?」と尋ねてみる。
「テスタコーポ大会、2人は準優勝だっただろ? そこで、“特別図書館を使用する”か、“調査チームへ参加する”、“高等部で勉強を学ぶ”の3つから1つを選べるんだが……どの権利にするか、日程の調整などもあるから1週間以内に考えといてもらえるか?」
大会に優勝したいという気持ちが強すぎて、すっかり忘れてた!
そっか、準優勝でも1つ選べるんだ!!
んー、どうしよう。どれも魅力的すぎて選べない……。後でエウロと相談して決めよう。
私の考えを察してくれたのか、先生が教室を出る前に一言付け加えた。
「そうだ。ペアだからといって、一緒の権利を選ぶ必要はないからな」
「えっ! そうなんですか?」
「ああ、それぞれ希望が違うかもしれないからな。それじゃあ、決まったら教えてくれ」
先生はそのまま「授業の準備があるから……」と教室を出て行った。
隣を見ると、エウロが少し悩んだような表情をしている。
「アリアはどれにするか、もう決まってるのか?」
「全然。どれも魅力的で選べない」
「はは、アリアらしいな。俺もまだ決められなくてさ。お昼にオーンとセレスにも相談してみるか」
「そうだね」
お昼になり、幼なじみ達といつもの場所に集合する。
大会が終わってからは、またみんなで一緒にお昼を過ごすようになった。
ちょうど食べ終わったタイミングで、早速オーンとセレスに聞いてみる。
「オーンとセレスはテスタコーポ大会で優勝したから、3つの中から2つ権利を選べると思うんだけど、何にするか決めた?」
「私は決めたわよ。“特別図書館の使用”と“高等部での勉強”にしたわ」
さすが! セレスは決断が早い!!
「僕も“特別図書館の使用権利”は決めたけど、もう1つはどちらにするか決めてないんだ」
「そっかぁ」
「アリアは何に決めたの? 優柔不断のアナタの事だから、まだ決めきれてないんじゃなくって?」
「そうなの!! よく分かったね、セレス」
セレスが「ふふん」とちょっと得意げに私を見て、1つ提案してくれた。
「特別図書館は1週間使用できるから、アリアの興味がある分野を教えてくれれば、私が代わりに読んでおくわ。内容をまとめておいてあげるから、アナタは“特別図書館の使用権利”以外を選べばいいわ」
「セ、セレスー! ありがとうー! 大好きぃー!!」
「ふふふ、そうでしょう、そうでしょう」
上機嫌にセレスが髪をバサッとかきあげた。
セレスならきっと完璧にメモして教えてくれるだろうから、安心して“特別図書館”以外を選べるー!!
「じゃあ、僕のも頼む」
「じゃあ、俺のも」
「私も」
私とセレスのやり取りを見て、すかさずミネルとエウロ、ルナがセレスに頼んだ。
「そんなに見れるわけないでしょう!?」
「じゃあ、僕がミネルとエウロの興味ある分野を見ておくよ。セレスはルナの分も頼めるかな?」
「……分かりましたわ」
すぐに打開策を見つけ、さらっと提案できるオーンはすごいな。
それに、さすがのセレスもオーンの頼みは断れなかったらしい。
渋々と言った感じではあるけど、ちゃんと了承してるし。
「よし、決めた! 俺は“高等部で勉強を学べる権利”にするかな」
「私もセレスのお陰で決めたよ。“調査チームに参加”させてもらう!」
結論を出したタイミングがエウロと同じだったらしく、見事に声がハモった。
やっぱりエウロとは気が合うな。
調査チームに参加する事を決めた私に、エウロが心配そうに声を掛けてくる。
「アリアは調査チームの方にするんだな……女性だと大変だし、危険じゃないか?」
調査チームの話は、以前にお父様からも聞いていた。
誰も立ち入らないような見知らぬ土地を探索する事になる為、見た事もない凶暴な生物に遭遇したり、危険な土地に辿りつく事もあるかもしれないと。
エウロもその事を知っていて心配してくれたんだろうな。
ただ、今回の場合は少し状況が違う。
「さっき調査チームの事について、先生に話を聞きに言ったんだよね。そしたら、生徒が参加する場合には、1度行った事のある場所へ行くんだって。同じ場所をさらに詳しく探索するだけらしいから、危険性はほぼないって」
「……そっか。それでも何があるか分からないからな。俺も調査チームにしようか?」
「ありがとう、エウロ。でも、危ない事はないって話だし、エウロも自分が希望した権利を選んで!」
「……ああ、分かった。気をつけろよ」
エウロが心配そうに私の頭をぽんと触った。
なんかエウロが前より過保護になったような……。まあ、心配して言ってくれたんだよね。
気がつくと、私とエウロのやり取りをセレスがじーっと眺めていた。
「ど、どうかした? セレス??」
「いえ、まあ……なんでもないわ」
セレスにしては珍しく歯切れが悪いな。本当にどうしたんだろ?
疑問を感じながらも会話を続けていると、何かを思い出したのか、ルナがふいに尋ねてくる。
「そういえば、アリアはミネルに何をしてもらうの?」
「えっ?」
「負けた方が勝った方の言うことを1つ聞くって言ってたから」
……そうだった! すっかり忘れていたけど、そんな約束をしてたんだった!
「フフフ」とにやける私とは対照的に、ミネルはキッとルナを睨んでいる。
「余計なことを……!」
「いやいや、全然余計な事じゃないよ! ありがとう、ルナ。さて、何をお願いしようかなぁー」
私が鼻歌交じりに顔を向けると、観念したのか、ミネルは大きなため息を一つ吐き出した。
「分かった。早く言え」
「うーん……それが残念な事にすぐには思いつかないんだよねぇ。決まったらお願いするね!」
「……永遠に思いつかなくていいぞ」
「いや、そんなもったいない事はしないよ!」
ミネルはイヤそうな顔をしているけど、絶対に何かお願いしよう。ミネルに言うことを聞いてもらえる機会なんて滅多にないだろうし。
しばらくして、ミネルとオーンは「移動があるから」と先に教室へと戻って行った。
「エウロ、私たちも戻ろうか」
「そうだな」
席を立ち、一緒に移動しようとした瞬間、腕組みをしたセレスが少し厳しめの口調でエウロに話し掛けた。
「エウロって、マイヤとの婚約は解消していないわよね?」
「えっ? 急にどうした? ああ、してないよ。特に解消する理由もないからな」
「そう……。一応、忠告しておくわ。はたから見れば、アナタはマイヤと婚約しているんだから、誤解されるような行動は慎みなさいよ」
「ご、誤解??」
セレス、急にどうしたんだろう?
エウロも何の事を言われているのか分かっていないらしく、心底不思議そうな顔をしている。
「当の本人がまだ気がついていないようだから詳しくは言わないわ。だけど、もし行動に移す時があれば、きちんと順序を踏んでからになさいよ。じゃないと、アナタのせいで悪く言われるかもしれない人がいるから」
「…………」
「とりあえず、今は私の言葉さえ覚えておいてくれれば、それでいいわ」
「……ああ、分かった」
いつになく真剣な表情のセレスに、たじろぎながらもエウロが返事をする。
もしかすると、セレスは私の事を思って言ってくれたのかもな。
大会を通じて私とエウロが以前よりも仲良くなったのは事実だし、それを見て面白くないと思う女子はたくさんいるだろう。
セレスはその事を心配してくれたのかもしれない……。
その日の放課後。
私は早速、担任の先生のところへ行き、“調査チームへ参加する権利”を選んだ事を告げた。
「調査チームは、場所はもちろん、日程や人数構成、持ち物など、事前の準備に時間が掛かる。さまざまな危険性なども考慮し、緻密な計画を立ててから出発する事になるから、すぐには参加できないかもしれないがいいのか?」
「はい! 大丈夫です」
「分かった。じゃあ、調査チームの参加希望者は2名と伝えておくか」
2名? それって、私の他にもう1名いるって事だよね?
セレスとエウロは違う権利を選んでたって事は──
「2名って、もう1人はオーンですか?」
「そうだ、よく知ってるな。ついさっき希望を出しにきたぞ。まさかオーン殿下が調査チームを希望するとは思わなかったな」
お昼の時はまだ決めてないって言ってたけど、オーンも調査チームへの参加を希望してたんだ……。
先生に挨拶し、帰ろうと校舎を出たところで、オーンがすぐ目の前を歩いていた。
「オーン!」
「ああ、アリア」
「オーンも調査チームへの参加を希望だしたんだね」
「そうなんだ。“高等部での勉強”は2年後に実現できるけど、“調査チームへの参加”はこの先できないからね。最初で最後の経験をしておきたかったんだ」
……最初で最後の経験!?
「そうなの? 参加してみて興味があったら、将来また希望すればいいんじゃない?」
「……そうだね」
フッと、オーンがまぶたを伏せる。
少しだけ、ほんの少しだけ寂しく微笑んだような気がしたけど、気のせいかな?
そこからは何も言わず、ただ静かに校門までの道のりを2人並んで歩いた。
後日、ついに調査チームへの参加日程が発表された。
調整が上手くいかず、延びに延びた結果、まさか来年になるとは夢にも思わなかったけど、気持ちに変わりはない。
私は来年、調査チームへ参加する事を決めた。




