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12歳、ルナと同じクラスになりました(後編)

剣術の授業でペアになって以来、ルナとは少しだけ仲良くなれた気がする。


剣術場など教室以外で授業を受ける際、前までは各々で移動するか、もしくは私がルナを誘い、一緒に移動していた。

お昼もそうだ。幼なじみ達の待つ庭園へ向かう時はいつも、 私からルナに声を掛けていた。


それが今では、ルナから声を掛けられる事はないにせよ、自主的に私を待っていてくれるようになった。


日常的なやり取りについても変わってきたと思う。


例えば、以前の私はルナの言葉を聞いただけで感情を読み取るなんて事はできなかった。


ところが、今の私は「そう」とだけ返されたとしても、喜んでる「そう」、興味ある「そう」など、ルナの持つさまざまな感情に気づけるようになった。

ルナの言う「そう」が会話を終わらす為の言葉じゃないって事も。


ちょっとした表情の変化から、ルナの気持ちが分かるようになってきたからかな?



ある日のこと、私は初めてルナから話し掛けられた。


「今週末、兄さまが帰って来て、剣術の稽古をつけてくれるって……」

「お兄さん帰ってくるんだ。それは楽しみだね!」


それで会話が終わるかと思いきや、ルナが私をじーっと見ている。……ん? 何か言いたそうだ。


「なんかあったの?」

「アリアは剣術どうかなって……」


ん? 剣術どうかな?? ……頑張ってはいるけど、ルナが求めてる返答とは違う気がする。

少し困ってるような、照れているような……あぁ! なるほど!


「私も今度ルナのお兄さんに稽古をつけてもらいたいな」


ルナが言いたい事、合ってるかな?

間違えてる可能性もあるから『今週末、私も参加していい?』という直球は避けてみたけど、どんな反応するかな?


「……よかったら、週末くる?」


よーしっ! 当たってた!!

ルナって誘ったりするのが苦手なのかな? それとも照れくさいのかな?

かなり遠回しな誘い方だっただけど、一生懸命誘ってくれたんだと思うと可愛らしいな。


「うん、行きたい! 私が一緒にいても邪魔にならない?」

「それは大丈夫」


実はルナの家にはまだ行った事がない。

親同士のお茶会は学校に入学した後も年に1、2回くらいのペースで開催されてるけど、1年目は課題に追われ、私は参加しなかった。


あっ、エレもか。

2年目はお父様の仕事が急に忙しくなってしまい、私たち家族全員で欠席した。


聞いた話によると、他の家も学校が始まった事で色々と忙しくなり、今では子供達の参加率が半分程度らしい。


そう考えると、誰かの家に行く事自体が久しぶりだ。

……何だか楽しみになってきた!


「ありがとう。それじゃあ、今週末はルナの家に行くね!」

「うん」



──そして、ついに週末がやってきた。


ルナの家に行くのは楽しみだけど、剣術の稽古だし、最初から動きやすい服装の方がいいよね。

いつも稽古の時に着ているひざ下パンツとロングブーツ姿で、ルナの家へと向かった。


ルナの家に着くと、すでにメイドさんが待機しており、私を庭の方へと案内してくれた。


あっ、ルナが見えてきた……って、笑ってる!


めったに笑わないルナが笑っているという事は……やっぱり。すぐ近くにお兄さんらしき人の姿が。

ルナと同じ黒髪で、モデル並みにすらっとしたスタイル。少しだけワイルドさを感じる顔立ちをした、超絶イケメン!!


紹介されなくても分かる。この人がルナの自慢のお兄さんで間違いない。

なんの気なしに2人を眺めていると、不意にルナのお兄さんと目が合ったので軽く会釈する。


「はじめまして。ルナの友人のアリアと申します。今日は剣術の稽古をつけてくるってルナから聞いてます。よろしくお願いします!」

「兄のリーセです。妹から話は聞いてるよ。ルナと仲良くしてくれてありがとう」


リーセさんがにっこりと微笑む。

ルナや、ルナのご両親とは違い社交的? なのかな??


「アリア、でいいかな?」

「はい。呼び捨てで構いません」

「偉いね! ちゃんと動きやすい格好できたんだね」

「はい?」


剣術の稽古って聞いたから動きやすい服装にしただけなんだけど、そこから褒めてくれるんだ。

リーセさんの対応に驚く私の側へ、ルナがやってくる。


「アリア、すぐに稽古できる?」

「うん、ルナとリーセさんが大丈夫なら。家で準備運動もしてきたしね!」


剣術の大会で優勝した経験を持つリーセさんに稽古をつけてもらえるという事もあり、前日から気合も十分!

私がストレッチがてら、手足をぶらぶらさせていると、リーセさんが優しくルナに声を掛けた。


「ルナ、いい子みたいだね」

「うん」


リーセさんは褒め上手なのかな? さっきからちょっとした事でも褒めてくれるような。

私の前に立ったリーセさんが軽く屈伸をした後で、「よし!」と気合を入れる。


「じゃあ、始めようか」

「よろしくお願いします!」


いざ稽古が始まってみると、リーセさんの凄さがよく分かる。

ずっと休まず、さらには動きながら色々と教えているにもかかわらず、息が1つも乱れていない。

既に稽古を開始してから、30分くらいは経過しているはず。


私なんてすでに疲れてきてるのに……。


それに実力があるからかな? ものすごく教え方が上手!!


学校で教えてくれる剣術の先生もすごいけど、1人1人をマンツーマンで指導する事は正直難しい。

その分、想像や思い込みだけで動いていた所があったけど、リーセさんから丁寧に指導される事で、自分のダメな部分や無駄な動きもはっきりと見えてくる。


ぶっ続けで1時間以上も稽古すると、さすがに足がふらふらしてきた。

一緒に練習していたルナの顔にも疲労の色がうかがえる。


私とルナを見たリーセさんが「休憩にしよう」と声を掛けてくれた。

庭にある大きな白い丸テーブルの椅子に、3人そろって腰を下ろす。


「今日は本当に来てよかったです。リーセさん、ありがとうございます。ルナもありがとね」

「いいんだよ。ルナも他の子がいた方が上達すると思うから」

「うん」


「うん」と答えたルナを見ると、リーセさんがいるからかな? 随分と嬉しそうだ。

そういえば、リーセさんは《知恵の魔法》で、ルナは《緑の魔法》が使える。


私の両親はどちらも《水の魔法》だけど、前に聞いた時、セレスのお父さんは《土の魔法》、お母さんは《風の魔法》が使えるって言ってたな。


カウイのところは、確かお母さんのホーラさんだけは魔法が使えないって言ってた。

まあ、私の中でホーラさんは、私が勝手に作った《色気の魔法》の達人って事になってるけど。


ミネルはお父さんが《知恵の魔法》、お母さんが《癒しの魔法》だって手紙に書いてた事があったけど……オーンやエウロ、マイヤの親は何の魔法が使えるんだろう?


「ルナって、オーン、エウロ、マイヤの親が何の魔法を使えるか知ってる?」

「うん、知ってる」

「へぇ、教えて」

「オーンのお父さんは知ってると思うけど《光の魔法》で、お母さんが私と同じ《緑の魔法》。エウロのお父さんは《風の魔法》で、お母さんが《火の魔法》。マイヤのお母さんは魔法が使えないはず」


なるほど。私がケガした時にお世話になったマイヤのお父さんは《癒しの魔法》だもんね。

こうやって聞くと、同じ魔法を使える者同士で結婚する事が多いのかな? って勝手に思ってたけど、そうでもないんだな。


カウイとマイヤのお母さんは魔法が使えないみたいだし……。


「教えてくれてありがとう。ルナって、ちゃんと人の話を聞いて覚えてるよねぇ」

「普通だと思うけど……」

「いやいや、私なんてセレスの話が長くて、途中で聞いてない時あるもん。セレスさ、そういうのに敏感でめちゃくちゃ怒られるんだよねぇ」

「話が長いって……」


セレスに怒られた時を思い出しながらしみじみと語る私に、ルナが少しだけ困ったような表情で応える。

そんな私とルナのやり取りを、リーセさんは何も言わずに、ただ温かい目で見守ってくれている。


「セレスにもよく『話が長いよ。今の話、私なら半分以下の時間で終わるから』って言うんだけど、話が短くなった事は一度もないなぁ」

「え!? ほ、本人に言ったの?」

「うん。そりゃ言うよ」


言ったところで、セレスが気にしないのは分かってるし。ちょっとは気にしてほしいんだけどなぁ。


「……そりゃ言うよって……あのセレスに」


うつむいたルナの体が小さく震えている。

ど、どうしたんだろう。なんか変な事、言ったっけ?


「あはっ、アリアって……」


肩を揺らしながら、ルナがくすくすと笑い出した。

何が面白かったのかは分からないけど、ルナが笑う姿を見て、私もつられて笑ってしまう。


それから15分ほど休憩した後、リーセさんが「もう少し頑張れる?」と聞いてきた。

剣を抱え、「もちろんです!」と元気よく答える。


「じゃあ、始める前にルナ。アリアに新しいタオルを持ってきてあげて。汗でかなり濡れてしまっただろうから」

「いや、大丈夫ですよ」

「気にしなくていいよ。多分、まだまだ汗をかくと思うから」


リーセさんに言われ、ルナが私のタオルを取りに向かう。

こんな事なら予備のタオルを持ってくればよかったな。


気を遣わせてしまった事を反省していると、不意にリーセさんが口を開いた。


「アリアはルナが言いたいと思っている事を、分かってくれてるみたいだね」

「はい。ちゃんと向き合うようになってからはまだ日が浅いですけど、ルナの顔を見てると何となくですが……分かります」

「そうか、ありがとう」

「何がですか?」


リーセさんが、さっきルナと話してた時と同じ、優しいお兄さんの顔になっている。

そっか、ルナの事が心配なんだな。ルナを大切にしているのがはっきりと伝わってくる。


「ルナがね、ある日『兄さまと同じ事を言う人がいた』って珍しく興奮気味に報告してきたんだ。それで私がアリアに興味を持ってね。剣術に興味があるって話をルナから聞いてたから、『今日誘ってごらん』って提案したんだ」


「そうだったんですね。……そっか、ルナが初めて誘ってくれたと思ってたんですけど、リーセさんが言ってくれたからだったんですね」


初めてルナの方から誘ってくれたと喜んでいたから、それがリーセさんの提案だったと分かって、ちょっと残念な気もする。

だけど、理由は何であれ、ルナから誘ってくれた事は変わらないから……喜んでいいのか!


私が一人で百面相をしていると、突然リーセさんが笑い出した。


「アリアは、何でも顔に出るんだね。話をしなくても、何を考えているのかすぐに分かったよ」

「あぁ、よく言われます……」


初対面の人にまで見抜かれるとは……。少し恥ずかしいな。


「提案して正解だったよ。ルナも楽しそうだ」

「私も楽しいです! あっ、確認する必要もない事だとは思うんですけど、聞いてもいいですか?」

「うん、大丈夫だよ」

「ルナが小さい頃、リーセさんが親代わりだったって聞いたんですけど、ルナの面倒を見るよりも友人と遊びたいなぁとか思ったりしましたか?」


以前、ルナが言っていた事。

気にしていたみたいだから、聞くとしたらルナがいない今しかない!


「ルナが気にしてたんだね」


……ごめん、ルナ。すぐにばれてしまったよ。


「あっ、いやぁ~何となくルナから話を聞いた時に思って…………いえ、すいません。はい、ルナが気にしてました」

「謝る事じゃないよ。ルナがいたから、友人と遊べなかったとか、何もできなかったって事はなかったよ。実際、父も母も休みの日はあったから、全く友人と遊べなかったわけでもないしね。それに、そんな事を思ってたら、こんなにしょっちゅう帰ってこないしね」

「そうですよね!」


やっぱりそうだった! よし、今度機会があったら、今のことをルナに教えてあげよう。


今日1日、2人を見てて思ったけど、お互いにお互いの事を思い合ってる、本当に仲のいい素敵な兄妹だな。

リーセさんはきっと、ルナ抜きで私と話がしたかったんだろうな。


ルナの友人として、私は合格できたかな?


ちょうど会話が終わったタイミングでルナが戻ってきたので、そのまま剣術の稽古を再開した。

時間にして1時間半。一切の休憩なし。


……リーセさん、もう少しって言ってたじゃん。

こ、これは……ルナが強くなるわけだわ……。


帰り際、ルナとリーセさんがふらふらの私を見送ってくれた。

2人とも元気だな。私も体力つけよう……。


「そうだ! 言ってなかったけど、私はアリアと初対面じゃないんだ」

「へっ!?」

「といっても、“記憶喪失”前のアリアにしか会った事がなかったから、言わなかっただけなんだけど、ね」

「ああ、そっか! お茶会ですね」


リーセさんが「正解!」と言ってうなずく。

そのやり取りを側で見ていたルナが、ふと呟いた。


「アリアなら、兄さまと結婚してもいいよ」

「えっ!!!!」

「ルナ、それはさすがに……」


ルナからの予想外の言葉に私は驚き、リーセさんは困惑している。

そりゃそうだ。12歳と17歳。リーセさんがロリコンになってしまう。


……ん? 待てよ。

ルナの様子をよくよく観察してみると、いつもとは比べものにならないほど分かりやすく笑っていた。


「なんだ、ビックリした。冗談かー」

「ルナ……さすがに私もビックリしたよ?」


ルナがそんな冗談を言うなんて。

新たな発見についつい笑ってしまう。


いつかの時のように、ルナがくしゃっと顔を綻ばせる。

やっぱりこの笑い方は、最強だね。怒れないよ。


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― 新着の感想 ―
[一言] アリアが魔法を覚ますのはもう諦めた方がいいねこれ~ 剣と武術で頑張るしかない~ 後ゲームクリアだな!
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