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10歳、死んでませんよ、生きてます

──誰かが泣いてる……?


悲しげな声に目を覚ますと、すぐ側にエレがいた。

ベッドの端に顔を伏せ、肩を小さく揺らしながら静かに泣いている。

エレが涙を流すなんて……何か悲しい事でもあったのかな?

頭をなでようとエレの方へ手を伸ばした瞬間、味わった事のないような激痛が走る。


「痛っっ!!!」

「っ、アリア!? アリアが目を覚ました!」


普段落ち着いているエレが叫ぶように声を上げ、忙しなく周りを見渡す。

その声を聞いたお父様とお母様が、足早に私の元へやってきた。


「アリア、目を覚ましたんだね」

「よかった、本当によかった……」


お父様は今まで見た事がないくらい心配そうな顔で私を見ている。お母様は……泣いたのかな? 少し目が腫れている。


「アリア!」


2人の背後から現れたのはセレスだ。キレイな顔が涙でぐちゃぐちゃになってる。

どうしたの? みんなのこんな顔、一度も見た事がない。


思えば、私はなんでベッドの上にいるんだろう? さらにはうつ伏せなんていう、寝づらい格好で。


今いる場所が自分の部屋ではない事だけは分かるけど、ここで眠っていた理由については分からない。

疑問に思いつつも、体を起こそうと手に力を入れると、またしても体中に言いようのない痛みが駆け巡る。


「うっ!!」

「起き上がらない方がいい。《癒しの魔法》で多少傷を回復してもらったけど、まだかなり痛いはずだよ」


起き上がろうとする私を、お父様が優しく制する。

傷の回復? ……あぁ、そっか。オリュンに魔法で攻撃されて意識を失ったんだった。


そうだ、……カウイは? 無事??


「カ、カウイは? 大丈夫?」

「う、うん。アリアちゃんが守ってくれたから」


焦る私の元へ、カウイが泣きながらやってくる。

よかった、無事だったんだ。それにいつものカウイに戻ってる。


「無事でよかったぁ」

「うぅっ、アリアちゃん、僕のせいでごめんね」

「よかったぁ、じゃないわよ! 何もよくないわ。 アナタはね、人の心配ができるような状態じゃないんだから! 場合によっては死ぬところだったんだからぁぁ……」


ハンカチで涙をぬぐっていたセレスの瞳から、再び涙がこぼれ始める。


みんなには随分と心配を掛けてしまったらしい。

どう接すればいいのか困っていると、お父様が優しく語り掛けてきた。


「横になりながらなら、話を聞けそうかい? ただ、今は寝ている状態でもつらいと思うから、後日でも大丈夫だよ」

「いえ。確かに体は痛いけど、私が意識を失った後に何があったのか知りたいです」


私の答えにゆっくりうなずくと、お父様が詳しく説明し始めた。


「アリアが倒れた後、カウイくんが助けを呼びに行ってくれてね。アリアを今いる医務室まで運んだんだ。背中の火傷が……今もだけど、ひどい状態でね。医務室にいたお医者様が《癒しの魔法》をかけてくれたんだけど、症状がひどく、1度の魔法では治らなかったらしい。この後、パンナ(マイヤの父)も治療に来てくれる事になっているが、完治には時間が掛かるかもしれない」


そっか、この痛みは火傷からくる痛みなんだ。

《癒しの魔法》はケガを治す事ができるけど、ケガの度合いによって使う魔力の量が全然違うから、1日で治る場合もあれば、数か月掛かる場合もあるって習った事があったな。

治療に時間が掛かるって事は、私の火傷はかなりひどい状態なんだな。


「それに背中の火傷を重点的に治療した分、額や他のケガまでは治せてないんだ。アリアは女の子なのにごめんね」


お父様が謝る事じゃないのに……。話す声が随分とつらそうだ。

額や他のケガ? いつの間に、そんなにケガしたんだろ?


……あっ、突き飛ばされた時のケガか。そういえば、頭をぶつけて血が出てた。


「アリアの治療中に先生方から私のところへ連絡をもらってね。エレも連れて学校にきたんだ。事情はカウイくんから全て聞いたよ。 ……アリアはカウイくんを助けようとしたんだね。偉かったね 」

「本当に偉かったわ。私たちの娘として誇りに思うけれど、もうこんな無茶な事はしないでね」


お母様は今にも泣き出しそうな顔をしながらも、私に向かって真剣に訴えかけている。心配、かけちゃったな。

私だって、こんな事になるとは思いもしなかったけど、あの従兄弟と子分たちが──


「……あれ? そういえば、カウイの従兄弟たちは?」

「今、親も来て先生たちと一緒に話しているよ。カウイくん側の事情だけでなく、きちんと双方の事情を聞いてから判断するそうだ。だから、アリアもいずれ先生方と話す事になると思うよ。まぁ、仮に事情を聞いたとしても、魔法で攻撃をした事には変わらないからね。彼らには何らかの処分が下ると思うよ」


そうなんだ。今回の事を反省して、もうカウイをいじめないといいけど。

反省……しそうにないなぁ。


「学校側が処分を下さなくても、私が責任を持って息の根を止めてやりますわ!!」

「初めて気が合ったね、セレス。僕も殺ろうと思っていたところだよ」


途端に、さっきまで泣いていたはずのセレスとエレの表情が一変した。…………怖い。


「2人とも落ち着いて。 アリアの意識も戻った事だし、これから私とメルア(アリアの母)は先生方のところへ行って話をしてくるからね。一旦、席を離れるよ。アリアは私たちが戻るまで安静に寝ている事。いいね?」

「は、はい」

「アリアのお父様! アリアがこんなひどい目にあったというのに、お怒りにはならないの!?」


セレスが詰め寄るようにお父様へ問い掛ける。

その瞬間、お父様だけでなく、お母様の空気までガラリと変わった。


「……セレスちゃん。私も妻もカウイくんの従兄弟とはいえ、微塵も許す気はないよ」

「ええ、当然です」

「そ、それならよかったですわ」


淡々と語る声が、氷のように冷たく響く。初めて見るお父様とお母様の表情に、セレスも完全に圧倒されている。

お母様に関しては表情だけなら笑っているように見えるけど……目が怖い。


「それじゃあ、行ってくるね」と言い残し、お父様とお母様が医務室のドアを開ける。


すぐに居なくなるかと思いきや、ドア付近で誰かと話している声が聞こえてきた。

お父様の「入っても大丈夫だよ」という声が、私の耳にも微かに届く。


しばらくすると、心配そうな表情をしたマイヤが医務室の中へと入ってきた。


「アリアちゃん、大丈夫?」


マイヤだ! どこかで聞きつけて来てくれたのかな?


「先生たちが妙にざわついててさ。その後すぐに授業が自習になったから、何かあったんだとは思っていたけど……大丈夫か?」


エウロ!


「ごめんね。本来であれば、アリアの状態を考えると来るべきじゃなかったんだろうけど……無事な事だけでも確認したくて。ひとまず、意識が戻ってよかったよ」


オーンまで! 2人も心配して来てくれたんだ。

その斜め後ろにはルナもいる。言葉こそ発していないけど、ルナも気にしてくれたのかな?

少し離れた場所にはミネルも立っている。みんな、わざわざ来てくれたんだ。


「僕らは様子を見に来ただけだから、すぐに帰るよ」

「ああ。どうやら無事みたいだしな。よし、帰るか」


……なんだろう?

オーンの「すぐに帰るよ」とミネルの「よし、帰るか」は、同じ“帰る”でも意味合いが違うように感じるんだけど……気のせいだろうか?


でも、医務室に入って来たミネルが私の顔を見た時、安心したように表情を緩めてた。きっと、ミネルもミネルなりに心配してくれたんだろうな。

本当素直じゃないなぁ、ミネルは。


会った当初は、仲良くなれるかな? って思ってた幼なじみ達だったけど、こうやって会いに来てくれた。その気持ちが何よりも嬉しい。

体中が痛くてひどい状況だけど、私ができる精一杯の笑顔でみんなにお礼を伝える。


「みんな来てくれてありがとう」


オーンが「すぐに帰るよ」と言っていた通り、みんなは長居する事もなく「お大事に」の言葉とともに帰って行った。


父親が来るまで待とうか悩んでいたマイヤも、結局は「私がいても治療の邪魔になっちゃうし、アリアちゃんが気を遣っちゃうといけないから帰るね」と言って、オーン達について行った。


セレスだけは最後まで名残惜しそうにしていたけど、セレスもセレスなりに気を遣ってくれたんだと思う。


涙の跡が残る顔を私に向けながら「今日のところは帰るわ。アリアのケガが落ち着いたら、会いに行くから」と言ってくれた。


医務室にはカウイとエレ、治療をしてくれたお医者さんの3人だけが残った。

カウイも私と同じく、ご両親が学校に呼び出されたようで、今は先生方と話しをしている最中らしい。


暫くすると、マイヤの父であるパンナさんが来てくれた。

すぐに治療を始めるのかと思いきや、まずはカウイとエレに声を掛けている。


「これから治療を始めるから、悪いけどカウイとエレは外に出ていてくれるかな?」

「分かりました。よろしくお願いします」

「は、はい!」


パンナさんに深々とお辞儀をすると、2人は医務室から出て行った。


「さて、治療を開始するかな。アリア、女の子なのに申し訳ないけど、治療の為に傷口を見せてもらうよ」

「はい、お願いします」


私に負担を掛けないよう注意しつつ、パンナさんが背中の傷口を確認する。


「アリアにケガをさせた子は、魔法を使う事はできるけど、まだ自分では制御しきれていないみたいだね。まあ、年齢的に魔法を完璧に使える子なんて、ごく僅かだから当たり前か」


「パンナさんの診断を学校側にもご報告致します」


「そうだね、お願いします。自分が思った通りに魔法を使える子だったら、言い方は悪いけど殺そうと思わない限り、こんな威力で魔法を使ったりはしないだろうからね。自分で魔法を制御をできない子が攻撃魔法を使うのは、本来であれば大問題だからね」


パンナさんとお医者さんは私の傷口を診ながら、色々とやり取りしている。

オリュンは自分の事を優秀だとか言って偉そうにしてたけど、魔法を使いこなせていたわけじゃないんだ。


「アリアごめんね。すぐにでも治療をしてあげたいんだけど、診察が終わるまでもう少し待っててね」

「だ、大丈夫です」

「ありがとう、いい子だね」


それから5分ほど診察した後、パンナさんは《癒しの魔法》で治療を始めてくれた。

背中だからどんな風に魔法を使っているのか見えなくて残念だけど、これが《癒しの魔法》なんだ!

さっきより、背中の痛みが引いていくのが分かる。


実はずっと気になっている事があるんだけど、今は治療中だし、終わってからパンナさんに確認しよう。


治療自体は10分ほどで終わった。

パンナさんが疲れ切ったような口調で私に話し掛けてくる。


「ふう、ごめんね。今日はここまでしか治せないよ」

「いえ、先ほどよりも痛みがなくなりました。ありがとうございます」


うつ伏せのまま、パンナさんにお礼を伝える。


「多少痛みが引いたからといって、痛い事には変わりないと思うから無理しないようにね。そうだ、カウイとエレにもう入ってきてもいいよって伝えてくれるかな?」

「分かりました」


お医者さんが、医務室の外にいるカウイとエレを呼びに行く。

戻って来るのを待っている間、私はパンナさんに気になっていた事を尋ねた。


「あの、パンナさんに聞いていい事か分からないんですが、お聞きしたいことがあるんです」

「どうしたの?」


「さっき、魔法を制御できない人が攻撃魔法を使うことは問題だって言ってましたけど……カウイは大丈夫ですか? 問題になりませんか? もちろん攻撃はしていないですけど、多分、攻撃魔法を出したと思うんです。 でも、カウイの場合は初めて使った魔法だし、様子もいつもと違ってたし……何より私を守ろうとして魔法が出てしまっただけなんです。カウイの従兄弟とは理由が全然違うんです!」


うっ! せ、背中が痛い。

話している内にどんどん力が入ってしまい、また背中が痛くなってきた。


「……アリアは本当にお父さん、お母さんに似ているね。優しいところがそっくりだ。私が判断できる事ではないけれど、カウイが相手を傷つけたりはしていないのなら、そんなに問題にはならないと思うよ。アリアのケガが落ち着いたら、今のお話を先生方にしてごらん。きっとカウイは大丈夫だから」


私の不安を掻き消すかのように、パンナさんがハンカチで顔の汗を拭きながらにっこりと微笑む。


どうなるかは分からないけど、言われた通り、先生方にもちゃんと伝えよう。カウイは悪くないって。


パンナさんとの話が終わったタイミングで、エレとカウイが医務室へと戻って来る。

さっきよりも背中の痛みが引いた事を伝えると、2人揃って安堵の表情を浮かべた。


「さて、私はそろそろ帰るかな。明日以降は、別な《癒しの魔法》を使える人が治療してくれるからね。アリア、くれぐれもお大事にね」

「パンナさん、ありがとうございました」

「本当にありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」


私がパンナさんにお礼を言うと、エレとカウイもならうようにして頭を下げた。

笑顔のまま軽く手を振り、パンナさんが帰って行く。

暫くすると、私の両親とカウイの両親が医務室に入ってきた。


「遅くなってごめんね。今回の経緯について先生方と話した後、アリアの治療期間についても相談してきたよ。2〜3週間は学校を休む事になるかな。 アリアにとっては残念かもしれないけど、まずは治療に専念しよう」


入学してからまだ1週間しか経っていないのに、そんなに休まないといけないのか……。


「……はい、お父様。2、3週間かぁ。勉強ついていけるかなぁ」


魔法の勉強するの、楽しみにしてたんだけどなぁ。


「それとカウイくんの従兄弟と友人の子たちは、処分が決まるまでの間は休学という扱いになったよ。カウイくんは普通に登校していいって」


お父様がカウイに今後の説明をしている。


「あ、ありがとうございます。アリアちゃん、休んだ分の勉強は僕が教えるから。今はゆっくり休んで、早く良くなってね」

「ありがとう、カウイ」


処分が決まる間は休学か……これからどうなるか分からないけど、まずは一安心。

お父様とカウイが言う通り、私は治療に専念する事にしよう。


ケガが治らない限り、カウイがずっとケガの事を気にしちゃうしね。


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