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アリアの告白

ついに、“エンタ・ヴェリーノ学校祭”が始まった!!



今日の私は一味も二味も……もっと言うなら、三味も違う!

なぜなら、全身にやる気が漲っているから!!


私が出場する魔法コンテストは午後からなので、焦って準備する必要はない。

また、コンテストで使用する道具も、すでに提出済みなので問題はない。


とはいえ、私がコンテストの為に用意した物といえば、せいぜい”モッファ”くらいだ。


“モッファ”というのは筒のような金属で作られている入れ物の事で、“ヴェント”のように魔力を蓄積しておける。


蓄積しておきたい魔力の量によって大きさも様々だが、よほどの事がない限りは一般的に片手でも持ち運べるくらいの形状だ。

あらかじめ、その中に自分の使いたい魔法を溜めておけば、詠唱しなくても魔法を使う事が出来る。


コンテストのルール上、魔法以外に何か必要な物がある場合には、遅くても前日までに審査関係者へ提出しなくてはならない。

そこで、私は事前にコンテストで披露する《水の魔法》を“モッファ”に貯め、審査関係者へ渡しておいた。


もちろん魔法コンテストなので、他人が貯めた魔力は使ってはいけない。


『これは自分の魔法ですよー。ズルはしてませんよー』という事を証明する為には、いくつか段階を踏む必要がある。



まずは事前申請!

『私、アリアは当日の魔法だけでなく、貯めた魔法も使います! よろしく!!』


続いて、蓄積した魔法を渡す日を決める。

『私、アリアは◯日に準備できます! よろしく!!』


それから、申請した日に魔法コンテストの関係者の方達の前で、魔法を蓄積するところを見せる。

『私、アリアは不正なんてしていません! よろしく!!』


最後に、そのまま“モッファ”を関係者の方達に渡し、魔法コンテストまで保管してもらう。


と、いう手順で本来は完了なんだけど……。

コンテストの1週間前に内容を変えた私は、コンテストの前日──要は昨日、関係者の方達に集まってもらった。


関係者の皆様、本当にご迷惑をお掛けしました!!



何はともあれ、あとは午後を待つだけ……じゃない!

重要な事を忘れてた!!


私には、最後に1つだけやっておく事があった。


魔法コンテストが成功するかどうか──

カギをにぎっている人物の元へと足を走らせた。




午後になり、魔法コンテストの会場であるグラウンドへと移動する。

待機用のテントの中から外の様子を見ると、思っていた以上に人が集まって来ているのが分かった。


……みんなは見に来てくれてるかな?

少しだけ期待しつつ、グラウンドに作られた特設ステージの前にある観客エリアへと目を向ける。


大勢の人の中から探すのは難しいなと思っていたけど……もう見つけてしまった。

グラウンドの中央を歩く幼なじみ達を、他の生徒たちが“モーゼの海割り”のように避けていく。


あっ! 『絶対に見に行く』と言ってくれたエレもいる!!

手を振ろうとした瞬間、声が掛かった。


「魔法コンテスト出場者は集まってください」

「……っ、はい!」


急いで関係者の元へ行き、魔法コンテストの説明を受ける。

ルールは事前に聞いていたけど、再度確認という事かな。


持ち時間は、1人あたり最大10分。

早いような短いような絶妙な時間だ。



「“他の人の魔法”の使用は禁止です。きちんと“自分の魔法”という事を見せてください」



はい! もちろんです!!


説明を受けながら、そっと周りを見渡す。

出場者は私を含めて18名か……意外に少ない?


でも18名という事は、最大3時間か。

……長いな。


観客も全員がずっといるわけではない。

きっと、最初と最後の結果だけ見る人が多いんだろうな。


時間に間に合いさえすれば、出場者もずっと会場にいなくていいらしいけど、折角なら他の人の魔法も見たいな。



「──では、順番を発表します」


見に来た観客の人達に出場者の名前と順番が発表されている。


ランダムに決めたという順番。

私の順番は……12番目か。


なんという微妙な順。

でも、他の出場者の魔法を見てたら、あっという間かな?


「それでは、これより魔法コンテストを始めます!」


ついに始まった!


ドキドキしながら、他の出場者の魔法を見る。

使える魔法が違うと、できる事も全然違うから見ていて面白い!


今は《土の魔法》の出場者が魔法を見せている。

ステージ上には細部にまでこだわった小さな街が次々と形成されており、まるで模型みたいだ。

しかも時間が経つごとに少しずつ形が変わっていってる。


チラッと観客の方へと視線を移す。

予想通り、セレスが興味深げに眺めつつも、ミネルやエレに何か話し掛けている。


『あの発想は面白いわね。でも私なら、もっとすごい事ができるわ!』


……とかかな?


あっ! セレスが怒り出した。

雰囲気的に、ミネルが怒らせる事を言ったのかもしれない。


魔法と幼なじみの反応を楽しみながら、自分の順番を待つ。


最初の30分は観客が多かったけど、やっぱり少し減ったかな?

私が出場する頃にはもっと減ってるかもなぁ。


まぁ、その方がいっか!

少ない方が緊張しなくていいかも!


……と、油断していたのが大間違いだった。

10番目の出場者くらいから、徐々に観客が増えてきている。



そして──

私の順番が回ってきた時には観客エリアは人であふれ返っていた。


「──次は高等学校3年のアリアさんです」


進行役の生徒に名前を呼ばれ、ステージの上まで足を進める。


えっ? えっ??

なんでこんなに人が増えたの!?


戸惑いながらも観客エリアを見渡すと、幼なじみたちやエレはもちろんの事、中等部や高等部で友人になった人たちなど見知った顔が目に入ってきた。


……どうしよう。

あまりの人の多さに緊張してきた。


リラックスする為、首や手足をゆっくりまわす。

すると、観客エリアからセレスの大きな声が聞こえてきた。


「アリア! 武術や剣術の大会とは違うのよ!!」


セレスのツッコミに、観客たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


「セレスちゃん……恥ずかしいから、静かにね」

「アリア―! いつも通りやれば大丈夫だぞー!!」

「……エウロくん」


マイヤが半ば諦めた表情で、セレスとエウロを見つめている。


少し恥ずかしいけど、幼なじみたちのいつもと変わらないやり取りや表情を見たからかな?

自然と緊張が解けてきた!


ふうっと息を吐き、《水の魔法》で小さな男の子と女の子の人型を作る。

紙芝居ならぬ水芝居のスタートだ!!




──物語の内容はこうだ。


小さい頃から一緒だった男の子と女の子。

最初はぎこちない2人だったけど、一緒に遊ぶ内に仲良くなっていく。


男の子の事をずっと仲の良い友人だと思っていた女の子。

けれど成長するにつれ、女の子が男の子の事を好きだと気がつくまでのストーリーだ。


物語を観客に話しながら、《水の魔法》で人の動きや物を表現していく。

この後の事を考えると、水芝居に使える時間は5分間だけ。

だから、出来る限り簡潔な内容にまとめた。


単純な内容だけど、物語が進むにつれて、使用する魔法も高等な魔法へと変化させていく。


水で人や物を作るだけではなく、女の子の感情も《水の魔法》で細かく表現する。

悲しい時は洪水を見せ、楽しい時はシャボン玉のように丸い水をたくさん作って降らす。


自分で考えた事だけど、次々に違う魔法を使うから頭が混乱しそうになる。



そして──物語もいよいよ佳境に入る。

女の子の感情を表す為、大きな氷柱を作り稲妻が走ったように見せる。



「ずっと傍にいてくれたからこそ、女の子は自分の気持ちに気づくまで時間が掛かってしまいました。だけど……ついに気持ちを伝える決意をします!」



言い終えると同時に、魔法を蓄積していた“モッファ”を7つ手にする。



──ここからは速さの勝負だ!!


観客が“モッファ”に注目しないよう、大きな氷柱を空中で割った。

ただ割るわけじゃなく、六角形の氷結晶にして空から降らせる。


この氷柱を結晶へと変える流れだけは変更前と同じで、実は当初、クライマックスで見せる予定だった。

色々あって変えちゃったけど、めちゃくちゃ練習していた甲斐もあって、無事に成功!!



よし! みんなも降ってくる氷結晶にしか目に入ってない。

その間に“モッファ”を素早く準備する。


中には私の魔力と一緒に、色をつけた水を貯めておいた。

その7つ全てを割り、魔力と共に解放すれば、空へ届きそうなほどに大きな水の虹が現れる。



途端に、観客エリアから「わぁーっ!!」と、大きな歓声が上がった。


もちろん、これで終わりではない。

虹を作ると同時に、私の左右に周りの人が見えないくらい高い水の塀を作る。

そう……これこそ“モーゼの海割り”だ。


私の背後には、大きな水の虹。

私の左右には、高い水の塀。


良かった! 無事に成功した!!

これでステージの周りにいる人たちには何も見えない。


ステージから観客エリアまでは、安全面から元々距離が離れてるし、大きな水の音が邪魔をして会話も聴こえないはず。

観客たちも、自在に形を変える虹に夢中になっているはずだ。


念の為、ステージと観客エリアの間にも水の塀をつくったけど、演出の一つだと思ってくれるはず!



そして、今回の主役は──カウイ!


私から2メートルほど離れたステージ上──そう、 カウイは今、私と同じ場所、水の塀の中に立っている。


何が起きたのか分からない、と言わんばかりに困惑した表情を浮かべている。


さっきまで観客エリアにいたカウイを……ルナが連れて来てくれた。


私の気持ちを女性の幼なじみたちに伝えた時、セレスとマイヤは私の気持ちを聞いて祝福してくれた。

けれど、ルナだけは微妙な反応をしていて、その事がずっと気になっていた。


きっとルナなりに思うところがあったんだと思う。

なんとなく理由は分かるけど……。


でも……できれば2人と同じように、大切なルナにも祝福してほしいと思った。

だから、事前に『カウイを連れてきてほしい』とルナに頼んでたんだけど……。


ありがとう、ルナ!

カウイを連れて来てくれて!!


覚悟を決め、ゆっくりとカウイの元まで歩き始める。


すると、ステージ全体を包むように花びらが舞っているのが目に入った。

カウイも花びらに気がつき、2人揃って空を見上げる。


空の上から花びらが、次々と雪のように降ってきた。



これは……ルナの《緑の魔法》だ!

もしかすると、この花びらはルナなりの応援であり、祝福なのかもしれない。



「私は……カウイが大好きです!」



カウイの前に立ち、迷う事なく想いを告げる。


ルナからの後押しもあったからかな?

自分で思っていたよりも、すんなりと声にする事が出来た。



「ずっと返事を待ってくれてありがとう。ずっと傍にいてくれてありがとう。ずっと私に安心を与えてくれてありがとう」



この前、カウイに好意を持っている女性と出会った時に思ったんだ。


カウイはすごくモテる。

だけど、私を不安にさせるような事は絶対にしないんだろうなって。



「お互いに年を取ってしわくちゃになっても、ずっと、ずっーと私の隣にはカウイにいてほしいし、カウイの隣には私がいたい!」



感情のまま、思った事を口にしようと決めていたから、言葉が上手くまとまらない。

それでも自分の気持ちだけは余す事なく伝えようと、カウイに向かって勢いよく飛びつく。



「私の婚約者になってください! 必ず、幸せにしますっ!!」



い、言えた!

カウイの胸に飛び込み、自分の想いをきちんと伝える事が出来た!!



想いを伝えられた事に安堵しつつ、達成感に満たされるも……あれ? 返答がない。


この何とも言えない状況に、私の頭がフル回転で動く。


私はずっと『カウイも私の事が好き』だと思っていた。

だから、告白してもフラれる事はないだろうと自惚れてたけど……あれ?


もしかして……もう私の事を好きじゃない可能性もあった??



どうしよう!? その考えはなかったぁ!!!

さらには調子に乗って、私、カウイに抱きついちゃってるよ!!!


……気まずい。

咄嗟に離れようとした瞬間、カウイが優しく包み込むように私を抱き締めた。


「ごめん、少し驚いただけなんだ。……こんなにも幸せな事があるんだと思って」


わずかに声を詰まらせながら話すカウイが気になって、少しだけ身体を離し、表情をうかがう。


カウイが少しだけ泣きそうな表情を浮かべている。

その顔を見ていると、小さい頃のカウイを思い出しちゃった。


普段かっこいいカウイが可愛く見えて、胸がキューっとなる。


「俺が断るはずがないよ」


微かに震えているように感じるのは気のせいかな?


「まさかアリアからプロポーズされるとは思わなかったけど」


そう言って、抱き締めたままカウイが私を見た。


硬かったカウイの表情が、ようやく満面の笑みへと変わる。

くしゃっと嬉しそうにカウイが笑うだけで、私も幸せな気持ちになる。



「俺はアリアと一緒にいられるだけで幸せだから、もう充分に叶えてもらってるよ。俺の方こそ、アリアを大切に……幸せにするね」



私を幸せに? カウイが??


「えっと、カウイが“私を幸せにしない”なんて心配は少しもしていないよ?」

「……え?」

「今でも……ううん、今までもたくさん大切にしてもらってるから」


だから『幸せになろう』や『幸せにしてね』ではなく、『幸せにします』って言ったんだし。

……今さらだけど、カウイが言ってた通り、確かにプロポーズみたいなセリフだったかも。


当たり前のように答えると、カウイがわずかに目を見開いた。

驚いたようにジッと私の顔を見つめていたかと思うと、ふいに妖艶な笑みを浮かべてみせる。



「……強く抱きしめてもいい?」



カウイの表情にドキドキしながらも、静かにこくんと頷く。

返事と同時にカウイが先ほどよりも強い力でギュッと私を抱き締めた。



「アリア、ずっと好きだよ」



カウイが耳元でそっと囁く。

その言葉に胸を打たれながら、私もカウイをギュッと強く抱きしめ返す。


無言のまま、カウイの温もりに身を任せる。

そっと息を吐いたところで、ふと、どちらからともなく視線が重なった。


こ、これはもしかして……キスする雰囲気じゃない!?


内心ドキドキしつつ、お互いに顔を近づけていく。

私の頬に優しく手を添えると、カウイが柔らかな声で囁いた。


「嬉しいサプライズをありがとう」

「ううん。色々悩んだけど、魔法コンテストに間に合って──」


良かった、という言葉を瞬時にのみ込む。


魔法コンテスト……? って、魔法コンテスト!!

そうだ! 今は魔法コンテストの最中だった!!


近づいていた顔をぱっと離し、カウイに向かって早口で話す。


「カウイ、ごめん! すっかり忘れてた! 時間がっ!!」

「……時間?」


みんなに披露した水芝居で5分使った。

残り5分でカウイに気持ちを伝える! と思ってたけど、その後の事は一切考えていなかったぁ!!!



しかも──ああっ!

キスする雰囲気だったのに! 私がぶち壊してしまった!!


抱き締め合っていたカウイの目の前で、へなへなと崩れ落ちる。


「ああぁぁぁ、せっかくの雰囲気が台無しでごめーん!」


焦りに焦った表情で、必死にカウイに謝る。


「《水の魔法》を解くから、カウイはそっと観客エリアに戻ってくれる?」

「……そうか。魔法コンテストの最中だったね」


状況を察したカウイが、穏やかな表情で頷く。

私に向かって「後でね」と告げると、すぐに水の塀の一部を通って観客エリアへと戻っていった。


カウイが戻ったのを確認し、急いで《水の魔法》を解く。


慌てながらも観客エリアの方へと視線を向けると、『これで終わりです』と伝える代わりに「ありがとうございました」と一礼し、そそくさとステージを降りた。



『幸せにします』と言っておきながら、さっそく守れていないような扱いをしてしまった。

自分の詰めの甘さに、心底呆れてしまう。


……あとで猛烈に反省しよう。





──結局、魔法コンテストは失格になった。


最大10分という制約があったにもかかわらず、私が使った時間は20分。

制限時間を大幅に越えていたらしい。


さらに!

ルナが《緑の魔法》で出してくれた花びらが、“他の人の魔法”とみなされてしまった。


さらにさらに!

水の塀が高すぎて観客や審査員からは中が見えなかった為、姿を隠す事で“自分の魔法”を使用していない可能性があるとも判断されてしまった。


いっそ清々しいくらいに、禁止と言われた事を全てやってしまった。

『はい! もちろんです!!』と思いながら、気合十分に返事をしていた数時間前が懐かしい。


ただ、審査員や関係者の方々からは『観客を一番、笑顔にしていたのはアリアさんでした』とも言ってもらえた。


反省点は多いけれど……うん、それだけで十分だ。

私の目標は途中から『魔法コンテストの優勝』ではなく『カウイに気持ちを伝えて喜んでもらう』に変わっていたから。


その目標は無事に達成できたわけだし。

失格も、私らしいと言えば私らしい……かな。




こうして、“エンタ・ヴェリーノ学校祭”は幕を閉じた。

お読みいただき、ありがとうございます。


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