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想いを伝える為のちょっとずれた?努力

──こ、これだ!!!



“エンタ・ヴェリーノ学校祭”まで、残り1週間!

やるなら、このタイミングしかない!!


私が申し込んだ魔法コンテスト。

見せる魔法はすでに決めてあったんだけど……急遽、変えよう!!!!



カウイ、待っててね!

今まで待たせてしまった分、喜んでもらうような魔法を見せるから!!




「──ずれてるのよ。アリアちゃんは……」


私がコンテストで披露する魔法を練習する横で、マイヤが呆れたようにぶつぶつと独り言を言っている。


「独り言じゃないわよ! アリアちゃんに話し掛けてるのよ!!」


す、すごい! またしても私の心の中を……!?


「マイヤ、うるさい。アリアの邪魔しないで」


壁にもたれて座りながら、ルナがお気に入りのクッキーをもぐもぐと食べている。


「ルナちゃんもじゅーぶん邪魔してるわよ。口にクッキーついてるし」


言いながら、マイヤがルナの口元についているクッキーをハンカチで拭っている。

怒っているのか、呆れているのか、面倒見がいいのか……忙しいな、マイヤ。



「──黙りなさい! 所詮“幼なじみ”の2人!!」


ビシッと指を差し、セレスが座る2人を見下ろすように立っている。


「魔法のアドバイスは“大親友”である私に全て任せて、所詮“幼なじみ”の貴方達は黙って見てなさい!」

「…………」



幼なじみたちの姿を無言で眺めつつ、1時間ほど前の出来事について振り返る。


ここ最近、放課後になると私は魔法研究室で魔法コンテストの準備を1人で進めていた。


今日はたまたま、ルナが『見てていい?』と聞いてきたので、『いいよ』と答えて一緒にいたんだけど……。

突如、研究室に現れたマイヤが、痺れを切らしたように質問を浴びせてきた。



『アリアちゃん! 私に何か言う事はない!? 恋愛限定で!!』



恋愛限定って……。

やはり、マイヤは私の様子が違う事に気づいていたらしい。


マイヤの気迫に負けた私は、2人にもカウイが好きな事を伝えた。


なんか……恥ずかしかったな。

本当はカウイに気持ちを伝えてから、報告しようと思ってたんだけどなぁ。


当の本人(カウイ)に最後に伝える事になるとは。


2人とも特に驚いた様子はなかったけど、ルナは少し不満そうだった。


『カウイより兄様の方が格好いいし、社交的なのに……』

『ルナちゃんは、カウイくん以上に社交性の“し”の字もないわよ』


拗ねたように頬を膨らませるルナの横で、マイヤが冷静にツッコんではいたけど、珍しく純粋な笑みを浮かべていた。


……まぁ、その後すぐに悪い笑みへと変わったけど。



数分後、そこにセレスが加わり、3人が揃ってからは──ずっとこんなやり取りが続いている。

悪気はないんだろうけど……気が散るな。


「ごめん。邪魔……練習に集中したいから、1人にしてもらってもいい?」


3人に尋ねると、突然、セレスが怒りだした。

怒りの沸点早っ!!


「アリア! 恩人に向かって“邪魔”って言ったわね!!」


……聞こえてたか。


どうやってセレスをなだめようか考えていると、マイヤが、ふぅ、と小さく息を吐いた。


「アリアちゃん、魔法コンテストの時はこの何倍もの人の前で披露するのよ? 3人が見てるだけで気が散るようじゃ、失敗しちゃうわよ?」


はっ! 確かに!!

マイヤの言う通りだ!!


「で、カウイくんには会ったの?」

「…………」


マイヤがニヤニヤしながら、話し掛けてくる。


えーっと……今の流れはおかしくない??

それに観客は……観客は……話し掛けてこなーい!!


私の事を気に掛けてくれている事は分かるけど……このままじゃダメだ!

ルナは静かだけど、ごめん!!!


心を決めると同時に、3人を魔法研究室から半ば強制的に追い出す。

渋々去っていく姿を見送ったところで、再び練習を始めた。



──カウイ、か。


実は、校内でカウイを見かけた事があった。

ところが、いざ話し掛けに行こうとすると、力み過ぎて足が硬直してしまった。


自覚してからというもの、緊張? 照れ? 恥ずかしさが……尋常じゃない!!

自分の身体なのに自分の身体じゃないような動きをしてしまう。


でも、カウイに『魔法コンテストを見に来てほしい』って伝えないと!!

見に来てくれないかもしれないし。


※注)カウイは言われなくても見に来ます。



とにかく、今は魔法コンテストに集中しないと!

間に合わない方が一大事だ!!


そう思い、無心で練習してたら……あれ? もう夜になってる!!

まずい! サラが心配しちゃう!!


慌てて帰る支度をし、魔法研究室を飛び出す。

寮に帰ろうと足早に歩いていると……“お約束”が待っていた。


距離は少し離れているけど、目の前をカウイが歩いている。


いつも見ている姿と同じはずなのに、なぜか全身が光り輝いて見える。

こんなにも変わるのかと一人悶えていると、見知らぬ女性がカウイの元へと駆け寄って行った。



しまった!

悶えていたせいで、先を越されてしまった!!


それにしても、誰だろう? カウイの友人かな?

何を話しているのかは聞こえないけど、割って入って邪魔するのもよくないよね?



……でもなぁ。

少しだけでもいいから話したいな。


カウイの近くまで行って、話し掛けられそうな雰囲気なら話し掛けようかな。

無理そうなら……気配を消して、さっと帰る!



よし! 決まった!!

さっそく、カウイの近くまで歩みを進めると、2人の会話が聞こえてきた。


「──最近、夜になると見知らぬ男性が女子寮の前に立っているという噂を聞いて……私、怖いんです」

「……そうなんですか?」


少し怯えた表情で頷いている女性に、カウイが真剣な表情で尋ねている。



へぇ、そうなんだ。

知らなかったなぁ……って、ん? これは話し掛けていい雰囲気なのかな??


「はい。何かあったらと思うと怖くて……よろしければ、寮まで送ってくださいませんか?」

「……分かりました」

「あ、ありがとうございます」


女性が喜びながら、カウイの腕へ手を回した。



な、なぬ!!!

予想外の展開に私が驚いていると、カウイがすぐさま女性が組んだ腕を離した。


「送りますね」

「あっ、ごめんなさい……私、怖くて。代わりに裾を掴んでもいいですか?」



な、な、なぬ!!!


「いえ。このまま送りますね」


伸ばされた手を軽くかわし、カウイがすたすたと歩き出す。

数歩ほど前に進んだところで、くるっと女性の方を振り返った。


「行きましょうか」


声を掛けつつ、カウイの視線がわずかに女性から外れる。

その瞬間、ぱちっと目が合った。


……どうしよう。

なんとも言えないタイミングで気づかれてしまった。



「──アリア?」


私に気づいたカウイの表情が、真剣なものから穏やかな笑みへと変わる。


「今から帰るの?」

「う、うん。魔法コンテストの練習に没頭していたら、いつの間にかこんな時間になってて……」


自分でも分かる。

動揺で声が上擦っている。


「アリアらしいね。俺も今帰りだけど、ちょうどアリアの事を考えていたから、目の前にいて驚いたよ」


微笑みを浮かべたまま、私の前まで歩いてくる。


えっ! もう私の気持ちに気がついたとか!?

さすがに早すぎない!!?


焦りつつも、真意を探る為にカウイへ問い掛ける。


「……何かあった?」

「女子寮の近くで不審者が出ると聞いて、心配になったんだ」

「そっちかぁ」


セーフ!

バレてない!!


「そっち?」

「ううううん。え、っと……カウイは? 学校で何かあったの?」

「学校祭の準備と先生の手伝いがあって、遅くなったんだ」


よ、よーし! 自然に話題を変える事に成功!!

私自身の口で、気持ちを伝えるまでは隠しきる!!!


それにしても……カウイといい、エウロといい、幼なじみ達は頼られやすいのかな?


みんな優秀だからなぁ、などとのんきに考えていると、カウイがうかがうように首を傾けた。


「不審者の事もあるから、寮まで送らせて?」

「ありがとう、カウイ」


カウイの厚意に甘え、素直にお礼を伝える。


……って、思わず返事しちゃったけど、他にも人がいたんだった。

私がカウイの斜め後ろへと目を向けたタイミングで、女性が口を開いた。


「あのー」


その声に応えるようにカウイが振り向き、声を掛ける。


「アリアと一緒に送りますね」

「……はい」



……ん?

気のせいじゃなければ、明らかに女性のテンションが下がっている?


うーん……あ、一緒に帰るなら、まずは挨拶しないと!

見る限り、初めて会う女性のようだし。


「アリアと申します。突然申し訳ありませんが、私もご一緒させてください」


言い終えると同時に、カウイの後ろにいる女性へ一礼をする。


「先ほど、お二人の会話が聞こえてきて。私は知らなかったんですが……女子寮の近くに不審者が出るんですね?」

「…………はい」


私は遭遇した事がなかったけど、もしかして毎日いるのかな?

見かけたら、速攻で捕まえるのに!!



カウイを真ん中に、3人で歩き始める。


気のせいかと思っていたけど……やっぱり、女性のテンションが低い気がする。


もしかして……カウイに好意があるとか?



なーんて、ね。

自分がそうだからって考え過ぎだよね。



カウイや女性に話し掛けながら、女子寮を目指す。

夜とはいえ、街灯が整備されているので周囲は明るいけど、人通りはほとんどない。


でもこの学校自体、警備というか、見回りの人がいるよね?

それでも現れるんだなぁ。


それに……女子寮が近づくにつれ、女性の口数が減っていってる。

怖いのかな?


念の為、周りを見渡す。

うん。怪しい人はいない。


その後も何事もなく、無事に寮へとたどり着いた。

軽く息を吐き、女性に話し掛ける。


「今日は誰もいなかったみたいですね」

「……ええ」


声が暗い。

怯えているのかと思いきや、女性が突然、勢いよくカウイの方へと顔を向けた。


「カウイさん! 送ってくださり、本当にありがとうございました」

「いえ」


キラキラとした女性の表情に、考え過ぎだと思っていた事が再び頭に浮かぶ。


「今度、お礼をさせてください」

「いえ」

「そんな! このままというのは申し訳ないので……。私がお願いした事ですし、ぜひ」

「いえ」



──やっぱり!

この女性、カウイに好意があるんだ!!



以前ならともかく、今の私は恋愛スイッチがオンの状態!!

さすがに気がついちゃうよ?



……ん? あれ?

だとしたら、私は女性の邪魔をしちゃったんだ!!


いや、でも……私はカウイが好きなんだから、お邪魔しちゃった方がいいんじゃない??


んん? ……うーん。

よく分からなくなってきたけど……まずは、カウイにお礼を伝えよう。


「送ってくれてありがとう、カウイ」

「ううん。それより、帰りが遅くなりそうな日は教えてね。いつでも送るから」


カウイが心配そうな目で私を見つめる。


思えば、思考が色々な所にいっていたお陰で平穏を保ってたけど……。

見つめられた事で、またカウイを意識し出してしまった。


「カウイ、う、うん。カウイ、ありがとう、カウイ」


もはや、まともに話せているかどうかすらも怪しい。

長居していると気持ちがバレそうなので、動揺しつつもカウイに別れを告げ、寮へと足を踏み入れる。



っ、あーーー!!

そうだ! カウイに伝える事があったんだ!!!


急いで振り向くと、さっき別れた所で立っているカウイが目に入った。

私たちが寮に入るまで見届けてくれてたんだ。


カウイの優しさに胸がキューッと痛くなる。


「カウイー! 学校祭で行う魔法コンテスト……カウイに……カウイに絶対見に来てほしいの!!」


私からのお願いに、カウイが嬉しそうに笑った。


「初めから、何を差し置いても行くつもりだったよ」


そう言って、カウイが私に小さく手を振る。

私も手を思い切り振り返すと、満足感に満ち溢れたまま寮へと入った。



『見に来てくれる』って!

カウイが『見に来てくれる』って、言ってくれた!!


やったー!

また、明日から頑張ろうーー!!



小躍りしたい気持ちでいると、いつの間にか、先ほどの女性が私の前に立っていた。


「普段のカウイさんはあまり話さないのに……。幼なじみというだけで……いいですね」

「私もそう思います! ついてますよね!!」


カウイだけじゃない。

きっと幼なじみじゃなかったら、オーンやセレス達と話すチャンスすらなかったかもしれない。


そう考えると、私はとても運がいい!!


「それでは、私は部屋へ戻りますので失礼します」


浮かれた声で女性に一礼し、部屋へ向かって歩き出す。


そういえば……嬉しくてあまり気にしてなかったけど、あの女性、私の言った事に驚いていたような?


まぁ、いっか。

それより……さっきの女性、カウイの事が好きなのかなぁ?


……気にならないわけじゃない。

キレイな人だったし。


けど、聞いたところで私の気持ちは変わらないよね?

うん。変わらない!



そんな事より!

もっと重大な事に気がついてしまった!!


今まで気にしてなかったけど、カウイはモテるんだった。


こんな当たり前の事を、今の今まで忘れているなんて!!

恋愛スイッチがオンだからって、浮かれすぎてる場合じゃなかった。



カウイがずっと私を好きだとは限らない!

両想いだと浮かれる前に、ずっと好きでいてもらう為の努力をしないと!!


その為にも!

まずは、魔法コンテストを成功させる!!


その後の事は……うん。

どんな努力をするかは、うん。


……後で考えよう。




──という事で、“エンタ・ヴェリーノ学校祭”始まります!!


お読みいただき、ありがとうございます。


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