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エウロへの返事

「ようやく……落ち着いてきたみたいね」

「うん。ありがとね、セレス」


落ち着くまでずっと傍にいてくれた事にお礼を伝える。

すると、セレスがどこか楽しそうに微笑んでみせた。


「これで心置きなく、カウイに返事できるわね」

「……ううん」


予想外の言葉にセレスが目を見開いている。


「なぜ!? オーンやミネルに申し訳ないからって、カウイに自分の気持ちを伝えないつもり!!?」

「いや、そうじゃなくて。エウロに……まだ返事をしていないんだ」


セレスが「ああ」と、今思い出したかのような表情をしている。


「エウロ……エウロ、ねぇ。エウロは、まぁ、いいんじゃないかしら?」


さっきとは打って変わって、セレスが気の抜けた表情で応える。


「えっ! よくないよ!」

「そう? エウロはアリアが結婚するまで気づかないわよ?」



け、結婚!?

……って、今は“そこ”じゃない!!


勢いよく何度も頷く。

私の反応に対し、セレスはどこか不思議そうに首を傾げている。


「ただね、エウロは今、大会のトレーニングをしてて忙しそうなんだよね」

「? ……ああ、“エンタ・ヴェリーノ学校祭”の後にある武術の大会に出場するって話してたわね」


そうなんだよね。

優勝したら、プロポーズをすると言ってくれてたんだけど……。


さすがに、そうなる前に返事はしなきゃいけないよね。

問題はいつ伝えるべきか……うーん。


「どうかして? まさか、エウロに大会で優勝したら、気持ちを伝えるとか言われていたのかしら?」


──!!

どうしてセレスがその事を!?


「エ、エウロから聞いたの!?」

「聞いてないわよ。ただ、いつになくエウロが気合を入れていたでしょう? エウロは分かりやすいのよ。誰でも“何かある!”と思うわ」


……誰でも思うんだ。

何とも言えない気持ちでいると、セレスが私の顔をじっと見つめてきた。


「そして、私の天才的な予想は当たっていたようね」


うっ。

私とエウロは分かりやすいコンビだった。


「大会前に伝えるの?」

「うん。エウロには申し訳ないけど……その方がいいと思ってる。それが原因で、試合に悪い影響が出ちゃうような人でもないと思うし」


セレスが頷き、同意する。


「そうね。もし、それで優勝が出来なかったら、その程度の男だったという事よ」


そんな……身も蓋もない。

言いながら、セレスが「ふふ」と笑っている。


「なんて、ね。そこまで情けない男じゃないわよ、エウロは」


情けない男……と思った事はないけど。


そうだよね。

私もエウロは、私の事に関係なく優勝できる人だと思う!


「今日は……ありがとう。セレスがいてくれて、本当に良かった!」

「そうでしょう、そうでしょうとも」


得意げな顔で、セレスが高笑いをしている。

この控えめじゃない性格ですら、愛おしく思える。


「セレスに何かあったら、私もセレスを助けるからね!」

「…………」


私の言葉に、セレスが何かを考えている。


「そうね。仮に……私が振られるような事があれば、アリアに慰めてもらおうかしら」


振られる?

もしかして、セレスに好きな人ができたって事??


「まぁ、私に限って、そんな事は永遠に訪れないでしょうけど!」


いつも通りの強気な表情で、セレスが笑ってみせる。


うーん……どっちなんだろう?



それから、少しだけセレスと会話した後、別れる事になった。

家に帰る為、待たせてあった“ヴェント”へと乗り込む。


すると、何かを思い出したようにセレスが近づいてきたので、再び“ヴェント”の扉を開けた。


「セレ──」

「アリア! 最後に言っておくわ!!」


……? どうしたのかな?


「“カウイ優先”になるのは、許されないわよ!!」


両手を腰に当て、セレスが真剣な表情で仁王立ちをしている。

その姿に、思わず笑みがこぼれる。


「うん、大丈夫! セレスも同じくらい大好きだから!!」

「それなら、良かった……では、何も良くないわ! カウイより上じゃなければ!!」


同じで納得してくれないとは……。

さすがセレス。超負けず嫌い。


「……じゃ、じゃあ、帰るね!」


セレスの圧に押されつつ別れを告げると、返事を濁したまま“ヴェント”を走らせた……。




──エンタ・ヴェリーノ学校祭 1週間前


オーンとミネルは以前と変わらず、何もなかったかのように話し掛けてくれる。


あれ? 私、伝えたよね??


と思うくらい、いつも通り過ぎる。

こちらが戸惑ってしまうレベルだけど……2人が気を遣わせないようにしてくれてるのかも。


ルナは読めないけど、マイヤは……気がついてそう。

たまに私を見て、ニヤニヤと笑っている。


ルナとマイヤには、まだ私の口からは何も話していない。

カウイに気持ちを伝えたら、2人にも報告しようと思っている。



……と、その前に! エウロだ!!


エウロはかなり忙しいらしく、あの日以降、伝えるタイミングが見つからないままだ。

それもあって、カウイにも返事ができずにいる。


もしかしたら“エンタ・ヴェリーノ学校祭”まで会えないのかなぁ。

……などと諦めていたら、思いがけずエウロと出会う事になった。



「ア、アリア!?」

「エ、エウロ!?」


校内とはいえ、滅多に人の来ない魔法研究室で会うなんて!!


魔法研究室は、主に魔法を使った実験をする為の部屋だ。

“研究室”という名前ではあるけれど、生徒なら誰でもこの部屋を使う事ができる。


ただ、その事実があまり広まっていないのか、先生しか使用できないと勘違いされているらしく生徒は滅多に来ない。


私は今回出場する魔法コンテストの準備で、頻繁に魔法研究室を使用している。

専用の備品が色々とそろっている為、自分でわざわざ用意する必要がなく、非常に効率がいい。



……はっ! これはチャンスかもしれない!!

急いで、きょろきょろと周りを見渡す。


しかも……今、ちょうど2人きりだ!!


「アリア……ごめん。ゆっくり話したいんだけど……今先生に頼まれて、“ポポモ”を探しているんだ」

「エウロ、話したい事が……えっ!? ああ、うん」


うっ。タイミング!!!

まさかの話かぶりとは……。


……ん? んん??

それよりも……希少生物の“ポポモ”を探してるって言った?


“ポポモ”は、ハムスターより少し大きい生き物だ。

色は栗色で、まりものように丸みを帯びていてふわふわしている。


可愛い見た目とは裏腹に、怒ったり怯えている時に口から小さく火を吹くらしい。

警戒心が強く、他の生物の前に現れる事はほとんどない為、一般的に“希少生物”として分類されている。


私自身、本で読んだ事はあったけど、実物に会った事はない。


エウロが部屋の隅々まで丁寧に確認しながら、“ポポモ”を探している。

研究室は意外と広いし、物も多いから大変そうだ。


「私も手伝おうか?」


困っているエウロを放っておけず、思わず声が出てしまった。


「──! 助かる!!」


エウロが笑顔で答える。


そうと決まれば……と、さっそく“ポポモ”の捜索に加わる事にした。

あちこち移動しつつ、エウロと言葉を交わす。


「どうして、 “ポポモ”がこの学校にいるの?」

「なんでも……調査チームの方達が戻ってきた際、偶然にも“ポポモ”が荷物の中に紛れていたらしいんだ」


エウロのお兄さんであるサウロさんも所属している調査チーム!!

恐らく、今回のチームメンバーの中にはいないだろうけど……。


「元の場所へ帰す前に『学校で生態について調べてから戻したい』と一時的に先生が預かったらしい」


ふむふむ。


「先生の話では、この部屋──“魔法研究室”で調べていたらしいんだけど、お昼を食べに席を外して戻ったらいなくなっていた、と。『ケージに入れ忘れたかもしれない』とも言ってた」


何て……ずさんな管理!!


「で、先生が必死に探している所に偶然俺がやって来て『自分の受け持つ授業が始まるから、その間だけでも探してくれないか』と泣きつかれてしまって……」


困った人を見過ごせないエウロは、ここで懸命に“ポポモ”を探していたと。

そして、偶然にも私が魔法研究室に入ってきたと……。


「先生の話では『“ポポモ”は怖がりだから、別な部屋に移動はしていないんじゃないか』って」


なるほど。

そういう事なら──


「1人より2人!! 一緒に探そう!!」

「ありがとう、助かる!」


嬉しそうにエウロが笑う。

やらかしたのは先生だし、エウロがお礼をいう事ではないような。


そこもエウロの良い所だけど、ね。


魔法研究室は“研究室”とだけあって様々な備品が置いてあるから、ある意味“ポポモ”は隠れやすい。

“普通”に探すのは、困難を極めそう。


うーん。何か簡単に探せる方法はないかなぁ?



──そうだ!!


「ご飯で釣る!」


先生が置いて行った“ポポモ”の餌を部屋の中央に置き、エウロと机の陰に隠れる。

お腹を空かせた“ポポモ”が出てくるまでの間、2人で待つ事にした。


「……出てこないな」

「そうだね」



──はい! 次!!


「大声で騒いでみる? 驚いて出てくるかも!」

「よし! やってみよう!!」


部屋の中を歩き回りながら、2人で「ああー! たいへーん!!」、「出てこーい!!」と大声で叫ぶ。

傍から見れば、頭がおかしくなったように見えなくもない。


「……出てこないな」

「そうだね」



──よし! 次!!


「死んだふりをしてみるか。部屋が静かになれば、“ポポモ”が安心して出てくるかもしれない。きっと、出てきた“ポポモ”が倒れている俺たちに近寄ってくるはずだ!」


斬新なアイディア!!


「うん! やってみよう!」


すぐに2人並んでその場に倒れこむ。

なるべく呼吸もせず、動かず、死んだふりを続ける。


「……出てこないな」

「そうだね」



声を潜め、ボソボソと会話をする。


「……ねぇ、エウロ」

「なんだ?」


私は気がついてしまった。


「死んだふりじゃなくても、ただ静かにしてるだけで良かったんじゃない?」

「はっ!」


『部屋が静かになれば、“ポポモ”が安心して出てくる』だけで、“ポポモ”を捕まえられたんじゃ……。

さらに“ポポモ”は出てきてないし。



──さぁ! 次!!


「そうだ! 《風の魔法》を使って、魔法研究室に風を起こしてみたらどうかな? “ポポモ”が驚いて出てくるかも」

「それだ!!」


私の案に、エウロが笑顔で応える。

4度目の正直! お願いだから成功して!!


エウロが《風の魔法》を使い、部屋の中で風を起こす。

想像よりも風が強く、私まで驚いてしまった。


と、驚いている暇はなかった!

エウロが魔法を使っている間、“ポポモ”が出てきていないか入念に辺りを見渡す。


「──ああ!」


見つけたっ!!


「いたー!!!」


急いで“ポポモ”の元まで走り、ダイビングキャッチする。

私の叫ぶ声を聞いたエウロが魔法を止め、すぐさま駆け寄ってきた。


「エウロ! やったよ!!」

「やったな! アリア!!」


2人で喜びながら、“ポポモ”を無事にゲージへと入れる。


「俺のせいだけど、部屋……散らかっちゃったな」

「うん。……先生に片付けてもらおう」


先生も怒らずにやってくれる事でしょう。

しれっと私が言うと、エウロが笑いだした。


「あはは、そうだな。それがいい!」


2人で笑い合いながら、もう見る事ができないかもしれない希少生物“ポポモ”を2人で眺める。

すると、隣にいたエウロがふいに口を開いた。


「最近は学校祭の準備や武術大会の練習で忙しいから、アリアとあまり話せていなかったよな」

「そうだね」


エウロの言う通り、2人でゆっくり話すのは久しぶりかも。


「俺、武術大会の練習……その、頑張ってるから!」


照れたような表情を浮かべつつ、エウロが胸を張る。

その姿に、急に胸が痛みだす。



──だけど、伝えなきゃいけない。


「その事なんだけど……ご、ごめん、エウロ! 私、自分の本当の気持ちに……自分が誰を好きなのか気づいてしまって」

「ん? そうかぁ、好きな人に気がついたのかぁ」


いつも通りの表情で、エウロが笑っている。


……あ、あれ? 私に気を遣ってくれている??

それとも、オーンやミネルのように気がついてたとか!?


反応に困っていると、その数秒後、エウロの顔から突然笑みが消えた。


「えっ!? えーーーーっ!!!!」


エウロの大声に、私もついつい驚いてしまう。


「好きな人ができたって、言ったのか!!?」

「う、うん」


もしかして、私の言った事をちゃんと理解できていなかっただけ……なのかな?

私の返事を聞いたエウロが、どこか悩ましげな表情を浮かべている。


「ごめん……という事は、俺ではない……よな?」

「う、うん」


少しだけ気まずい空気の中、返事をする。


「そっか……」


独り言のようにエウロが呟く。

エウロがどういう心境なのか、全く読み取れない。


「……こういうのって、聞いていいのか?」

「何を?」


エウロが言いづらそうに私を見る。


「その、アリアの好きな人って誰なのか……いや、でもなぁ。聞きたいような、聞きたくないような」


言いながら、エウロが……床の上でのたうち回っている。

これは伝えた方がいいのかな? 伝えない方がいいのかな?


──ううん。

きちんと伝えるべきだよね。


「やっぱり、教えてくれ!!」

「私、カウイが好きなんだ」


うっ。本日2度目の話かぶりが、このタイミングとは!!


「カ、カウイ!?」


かぶってはしまったけれど、私の声はしっかりとエウロに届いてたらしい。

驚いたように目をパチパチと瞬かせた後、エウロが考えるように自分の手を顎の下へと持っていく。


「そっか、カウイかぁ。カウイなら……いや、幼なじみの誰かなら納得だ! 安心してアリアを任せられる!!」


晴れ晴れとした顔で、エウロが笑う。

嘘が一つも感じられない温かな言葉に、胸がギュッと締めつけられる。


「……カウイに気持ちは伝えたのか?」

「ううん……まだ」


私の言葉に、エウロが怪訝そうな表情を見せる。


「俺に遠慮して言えてない、言わないとかじゃないよな?」

「あっ、うん。きちんと気持ちは伝えるつもり」


素直に答えると、ばつが悪そうにエウロが笑いだした。


「ごめん。早とちりした上に俺はなんて自惚れた発言を……」

「いや、なんか……私もごめん」


お互いに謝りつつ、気まずそうに笑い合う。


「……残念な気持ちがないわけではないし」


ふと、エウロがぽつりと話し始めた。


「もしかしたら……あとで実感が湧いてきて、落ち込むのかもしれない」


何かを探すように、エウロが視線を上へと向ける。

それから、まるで自分自身を納得させるかのように、こくりと頷いた。


「だけど……アリアを好きになってからの日々は、アリアの事を考えるだけでドキドキして楽しかった! 何より幸せだった!!」


私もエウロといる時はいつだって楽しいと思ってたし、今も思ってるよ。

今は、少しつらい気持ちもあるけど。


「ありがとな、アリア」

「私も……エウロの気持ち嬉しかった。ありがとう」


明るい声で感謝を告げるエウロに、私も精一杯の『ありがとう』を伝える。

しばらく沈黙した後、エウロが言いづらそうに口を開いた。


「その、アリアが嫌じゃなければ……大会には来て応援してほしい。……もちろん、カウイと一緒に!」


無理して笑ってくれているようにも見える。


「俺、アリアの事も好きだけど、カウイの事も好きだからさ! このまま2人と気まずくなって、話せなくなるのだけは絶対に嫌だから!!」

「……ありがとう。行かせてもらうね」


エウロは……どんな時でもエウロだ。


「うん。俺、絶対に優勝するから!!」


自分自身を鼓舞するかのようにエウロが話している。

やっぱりエウロは優しいなぁ。


次の授業までの間、2人で色々な話をしていると、エウロがふいに尋ねてくる。


「──それで、カウイにはいつ伝えるんだ?」

「そうなんだよね。早く伝えるべきだとは思ってるんだけど……」


……ん? 待てよ。

聞かれたから話しているけど、エウロの前で普通に話していい内容なのかな?


「ん? ああ、俺の事は気にしなくていいぞ。今はまだなんていうか、頭がついていってないというか、夢の中にいるような状態だから」


それは……どういう状態??

さっきエウロも言ってたけど、実感が湧いていないという事かな?



カウイに気持ちかぁ、うーん。

エウロに返事をしてから……と思っていたから、いつ伝えるとかは考えてなかったんだよね。



とはいえ、いつでも伝えられる状況になったわけだけど……逆に困った。


せっかくならカウイを喜ばせるような伝え方をしたい! という欲がふつふつと湧いてきてしまった。

返事をするだけでも喜んでくれそうだけど、それだけというのもなぁ。


時期については……学校祭が近い事もあって、「エンタ・ヴェリーノ ナンバーワンコンテスト」に出るみんなは準備で忙しそうだからなぁ。

出場するカウイも然りだし。


私も魔法コンテストの準備が終盤に差し掛かってるし、って……。



──こ、これだ!!!


お読みいただき、ありがとうございます。

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