カウイの衝動
答えが出ないままランチを食べ終え、オーンと別れた。
オーンが『ここで待っていたら、カウイが来るから』と言っていたので、動かずに到着を待つ。
それから、5分も経たない内にカウイがやって来た。
「待たせてごめん」
「ううん、全然待ってないよ」
……って、カップルみたいな会話だなぁ、などとのんきな事を考えつつ、カウイと歩き出す。
道すがら、午前中にオーンと一緒に買った物を伝える。
「──あとは、マイヤとサウロさんにお揃いの物をプレゼントしたくて」
「お揃いの物……ね」
私の話を聞いたカウイが、真剣に悩んでいる。
悩んでいる顔もキレイだなぁ……とか、見惚れてる場合じゃなかった。
私たちには時間がないんだった!
「マイヤちゃんは、常にお互いが身につけれる物だと嬉しいよね?」
「……うん! そう思う!!」
カウイは、マイヤの気持ちを汲み取ってくれている!!
お互いが身に付けられる物は色々あるけど……さすがに指輪をプレゼントするというわけにはいかない。
……となると、ネックレスとかペンダント? ブレスレット?
うーん、マイヤはイメージできるけど、サウロさんが身に付けるイメージが湧かない。
カウイも同じ事を思ったのか「どうしようね?」と困った表情を見せる。
2人で悩んでいると、突然、私にある考えが浮かんできた。
ハッ! 私、閃きました!!
「時計は? それなら、ポケットに入れて、いつも持ち歩けるよね?」
私の提案にカウイが静かに微笑む。
「そうしよう。それなら時計の裏に名前を彫ってもらうおうか?」
「うん!」
マイヤの喜ぶ姿が目に浮かび、顔がニヤケてくる。
我ながら良いアイディア! 渡すのが楽しみになってきたなぁ。
さっそく時計店へと移動し、2人に合いそうな時計を選び始める。
「この時計、デザインは可愛いけど、サウロさんが持つイメージはないよね」
「そうだね」
「これだとマイヤには渋すぎるしなぁ」
「他のを探した方が良さそうだね」
──結局、2時間以上も悩んでしまった。
でも、2人で悩み抜いたかいもあって、納得のいく時計を選ぶ事ができた。
「2人の名前を1つの時計に入れてもらう?」
「それも素敵だね」
私が尋ねると、微笑みながらカウイが同意を示す。
カウイって……いつも私が言う事を肯定してくれる。
でも適当に返事をしている感じは一切ないんだよね。
すると、少しだけ考えるような素振りを見せた後、カウイがそっと口を開いた。
「マイヤちゃんに渡す時計は、マイヤちゃんの名前だけ彫ってもらって渡すのはどうかな? プレゼント後にお互いに時計を交換する……とか」
つまり、マイヤの名前を彫った時計をサウロさんが持って、サウロさんの名前を彫った時計をマイヤが持つ……。
うん! きっとその方がマイヤは喜ぶ!!
サウロさんは、恥ずかしがるかもしれなけど……。
まぁ、何をしたって恥ずかしがりそうだし。
「カウイ……なんて、名案! そうしよう!!」
興奮気味にカウイの両手をガシッと握る。
「良かった。アリアが嬉しいと、俺も嬉しい」
「あ、ありが……とう」
頬を緩めるカウイを見て、ドキッとしてしまう。
その後、時計の注文を無事に済ませると、カウイと一緒にお店を出た。
これでプレゼントは全て買い終わった!
何とか来週に間に合いそうで良かったぁ。
さて、これからどうすれば……。
私が悩んでいると、カウイが隣から声を掛けてくる。
「プレゼントも買い終わった事だし、アリアを家まで送るね」
「えっ! も、もう帰るの!?」
「えっ?」
私の言葉に、カウイが驚いた表情を見せた。
……そうだよね。
目的は果たしたから、帰るのは変な事ではないよね。
でも、カウイと一緒にいると居心地がいいというか、安心するんだよね。
緊張もするけど。
……だからかな?
離れがたいというか、もう少し一緒にいたいという気持ちになってしまった。
「変な事、言ってごめん!」
慌てて謝ると、カウイが柔らかく微笑みかけてきた。
「全然、変な事ではないよ。そう思ってくれて嬉しい。……それにアリアの時間が許すなら、俺は一緒にいたいけど」
……自分から言った事だけど、そう返されると照れてしまう。
私が返事に困っていると、カウイが尋ねるように提案してきた。
「何か、甘い物でも食べる?」
私が気まずくならないよう、話題を変えてくれたのかな?
「う、うん。食べたい。ありがとう」
マイヤが『サウロさん以外は、少しもドキドキしないわ』と、当たり前のように話していた事がある。
いつもドキドキしてしまう私って……実は気が多いのかな?
そのまま近くにあったお店へ向かうと、テラス席へと案内された。
注文したデザートを食べながら、ずっと気になっていた事をカウイに聞いてみる。
「カウイは、その、すぐにでも、その、(告白の)返事をほしいよね? 待ってもらってごめんね」
カウイに限らずだけど、待たせすぎだよね。
申し訳ない気持ちで告げると、カウイがきょとんとした目で私を見つめてきた。
「うーん。難しいな」
難しい……? そういうものなの!?
戸惑いつつ悩む私に、カウイが話を続ける。
「アリアの事なら、いつまででも待てるから」
穏やかな口調で、そんな事を言われると余計にドキッとしてしまう。
「それに“俺に悪いから”という思いで、焦って返事はしてほしくないかな。前に話した通り、アリアのペースで考えてもらえればいいんだ」
カウイはいつも優しい言葉をくれる。
私はそんなカウイの優しさに甘えている……いや、甘え過ぎちゃってるな。
「……ありがとう」
「アリアを悩ませたいわけでも困らせたいわけでもないけど、俺の事を考えてくれているのは嬉しいな」
そう言いながら、おもむろにカウイが目を細めた。
「自分で話していて思ったけど、矛盾してるよね」
「ううん。優しいカウイらしい」
お互いにクスッと笑い合う。
カウイとは、それから1時間ほど会話を楽しんだ。
他のお店を見てみたい気持ちもあったけど、夕方にはお互いに学校の寮へと戻らないといけない為、そのまま自宅へ帰る事になった。
カウイが当たり前のように私を家まで送ってくれた。
「送ってくれて、ありがとう」
「ううん。来週……婚約パーティーで」
「そうだね! それじゃあ──」
カウイに手を振ろうと腕を上げる。
その瞬間、カウイが私に近づき、おでこにキスをした。
急な事に思わず固まってしまう。
「アリアの気持ちが俺に向くまでは、こういう事をしないつもりだったんだけど……アリアの顔を見ていたら、我慢できなくなった」
カウイが申し訳なさそうに「ごめん」と小さな声で謝っている。
「……あっ、うん。大丈夫!」
……と、混乱のあまり訳のわからない返事をしてしまった。
何が大丈夫なんだ? 私……。
「それなら、安心した。アリアに嫌われたり、嫌がられたりするのは辛いから」
私の意味不明の返しにも、カウイはきちんと応えてくれる。
その後、一言、二言会話をし、カウイは"ヴェント”に乗り帰って行った。
カウイを見送った後、おでこにそっと手を当てる。
……私、嫌じゃなかった。
カウイだったから、嫌じゃなかったのかな?
もし他の人から同じ事をされても、嫌じゃないと思うのかな??
う……ん。なんでだろう?
自分の事なのに自分の事が分からないや。
お読みいただき、ありがとうございます。




