無邪気なオーン
翌日、私はマイヤとサウロさんのプレゼントを探す為、オーンとカウイ、2人と約束した待ち合わせ場所へと向かった。
待ち合わせ場所は、以前ミネルと出掛けた街“ヴェッツノ”。
プレゼントを選ぶには最適な街だ。
……と、思ったら、待ち合わせ場所にいるのは、オーンただ1人!!
まだカウイは来ていないのかな?
周りをキョロキョロと見渡していると、オーンが小さく手を挙げた。
普段はあまり見る事のない、嬉しそうな表情を浮かべている。
手を振り返し、オーンの元へ歩いて行く。
カウイが来るまでの間、2人きりだと思うと少し緊張するなぁ。
「まだカウイは来ていないみたいだね?」
「うん、来ないよ。だから、プレゼントを選びに行こうか」
言うと同時にオーンが私の手を握り、スタスタと歩き出した。
うん? ……今、来ないって言った!?
予定外の状況に動揺する私に対し、オーンは笑顔で応えている。
「えっ? こ、来ないの?」
「午前中はね」
……午前中??
「僕がね……どうしても午後に外せない予定があって、1日時間を使う事ができないんだ。ごめんね」
「ううん、それは構わないけど……」
昨日、急に決まった事だし。
むしろ、多忙なオーンがよく時間を作る事ができたなぁ、とすら思う。
「それでね。ウィズからは“3人”でプレゼントを選ぶよう言われてたけど……」
うん、そうだよね!!
「カウイに相談して、午前と午後で分ける事にしたんだ。午前中に僕とプレゼントの目星をつけようか。午後はカウイと一緒に、目星をつけた物の中から実際のプレゼントを決める……というのはどうかな?」
へっ!?
なんかもう、提案というより決定事項のようになってない??
「えーと……どうして、そうなったのでしょう?」
急に2人きりと言われて、少し緊張しているからかな?
ついつい敬語で聞いてしまった。
「それはアリアと2人だけで、出掛けたかったからだよ」
オーンが足を止め、ジッと私を見つめてくる。
「アリア」
「う、うん?」
「僕はアリアに気持ちを伝えてから、2人だけで出掛けた事がないんだ。不公平だと思わない?」
目線を合わせるように少しだけ屈むと、オーンが私の顔を覗き込んできた。
ち、近いって!!
それにしても、不公平って……。
うーん。不公平なの……かな??
「この機会にアリアと2人だけで出掛けたいと思ってカウイに提案したら、了承してくれたんだ。カウイとアリアが2人きりになってしまう事については僕の本意ではないんだけど、そこは大人として目をつぶる事にしたよ」
オーンがにっこりと微笑んでみせる。
大人……なのかな?
「もちろん、サウロさんとマイヤのプレゼントは真面目に選ぶよ。2人には喜んでほしいからね」
当然のように頷きながらも、すぐにまた頬を緩めている。
「ただ……昨日の夜から、今日が楽しみで仕方がなかったんだ」
どうやら、本当に楽しみにしていたらしい。
いつもは見せない無邪気な表情につられて、私も段々と嬉しい気持ちになってくる。
「時間もないから、選びに行こうか」
「う、うん」
「アリアは何をプレゼントしたい?」
オーンが早速、私に尋ねてくる。
そうそう! 昨日の夜にいくつかプレゼント候補を考えてきたんだよね。
……って、いつの間にかオーンと手を繋いでる!?
「あの……手……」
「手? ……ああ、ごめん」
私の言葉に、オーンがすぐさま手を離す。
ホッと安心したのも束の間、オーンが再び私の手を握ってきた。
今度は手のひらを合わるような形で、指と指をからめた恋人つなぎだ。
「さっきの繋ぎ方だと握手のようだよね」
いや、違う、違う! 言いたかったのは“それ”じゃない!
こっちの方が緊張しちゃう!!
「はは、アリアが照れてる」
そりゃ、照れるよ!!
なんでオーンは平然としているの!?
「オーン……ご機嫌だね」
「それは、そうだね。好きな人に触れているんだから。自然と顔は笑ってしまうよね」
うぅ、困った。
オーンの嬉しそうな顔を見ると、手を離す事ができない。
……私、オーンの普段他の人には見せないような表情に弱いんだよなぁ。
なんでだろう?
結局はどうにもできず、手を繋いだまま2人で街中を歩く。
「オーンは、腕を組むタイプかと思ってた」
ハッ! ふいに思った事を口に出してしまった!!
聞きようによっては、私がいつもそういう事を妄想していると思われかねないのでは……?
何か弁解をしないと!!
「これは……」
「そうだね。公の場とか、将来的には腕を組む事が多くなるだろうから、今の内に手を繋いでおきたいと思ってね」
私の何気ない発言など気にする様子もなく、オーンが話を続ける。
「でもアリアが手を繋ぐ方が好きなら、そちらを尊重するよ? 僕はアリアに触れていられるなら、どんな形でも嬉しいから」
またまたさらっと、そういう事を言う……。
何か私だけが照れているみたい。
このままじゃ心臓が持たない。
話題を変えよう!
「──そうそう。それで、アリアは何をプレゼントしたい?」
私が口を開くよりも先に、オーンが話を元に戻す。
やっぱり……私だけが焦っている。
「まず、花束は渡したいと思って」
「いいね。マイヤが喜びそうだ。花は決定していいんじゃないかな?」
「そうだよね!!」
オーンの賛成も得られたので、事前に調べてあった花屋へ当日に渡す花束を予約しに行く。
その途中、終始笑顔のオーンが私に質問してきた。
「アリアは“まず”と言っていたけど、いくつ渡すつもりなの?」
「えっと、2人お揃いの物を渡したいし、お酒もプレゼントしたいなぁと思ってて」
リーセさんの話だと、半年以上も会えないわけじゃない?
マイヤが少しでも寂しさを紛らわせるよう、サウロさんとお揃いの物を渡したい。
それにエウロからの情報だと、サウロさんはお酒が好きみたいだから。
「なるほど。花束はマイヤに、お酒はサウロさんに……か。2人とも喜びそうだね」
オーンが頷いている。良かった!
「それなら、お揃いの物はカウイと一緒に選んでもらうとして。花束の予約とサウロさんへのお酒は僕と一緒に選ぼうか」
「うん!」
そっか。午後にはカウイと2人で出掛けるんだ。
……今日一日、緊張しっぱなしになりそう。
無事に花束とお酒を選び、残った時間はオーンが選んだお店でランチをする事になった。
意外にもあまり格式が高そうなお店じゃない。
私が落ち着いて食事ができるお店を選んでくれたのかな?
このお店に入るまでは、ずっと手を繋いだままだった。
案内されたテーブルの前に来たら自然と手が離れるかと思ったんだけど……オーンは変わらず、私の手をぎゅっと握ったままだ。
「……手を離さないと座れないよ?」
「ああ、そうか」
様子をうかがいつつ尋ねると、オーンがゆっくりと手を離した。
「好きな人には、ずっと触れていたいものだね?」
オーンが私の向かい側に腰を掛けながら、同意を求めてくる。
これは……私が困ってしまうのを分かって言ってる!!
しばらくして、お互いに注文した料理が運ばれてきた。
私はキッシュのようなパイ生地で作られた料理を頼んだ。
熱いうちにと思い、ナイフで切り分けると、すぐに口へと運ぶ。
「っ! 美味しーい!」
……思わず声に出しちゃった。
その姿を見て、オーンがクスッと笑う。
「アリアが食べている物にすれば良かったかな? 本当に美味しそうに見える」
それなら……と思い、フォークにのせたキッシュをオーンの口元まで持っていく。
「はい、あーん」
「……えっ?」
……ん? んん??
あーーー!!
普通は、こういう事はしないんだった!!!
「ごめん! 昔ね、エレとしていた癖が……」
慌ててオーンの顔を見ると、少し戸惑った表情を見せている。
……分かりにくいけど、照れてる?
滅多に照れたりなんかしないのに!
オーンの照れるポイントが、全くと言っていいほど分からない!!
けど、……初めてオーンが可愛く見える。
今日は私だけが焦って、ドキドキして、困って……の繰り返しで終わる思ってたから、オーンのこんな一面が見れるとは思わなかった。
って、違う違う!
そんな事より、オーンも急に他人が食べていた物を差し出されたって困るよね。
「ごめんね。マナーが悪かったよね」
手を引こうとすると、オーンが突然私の手首を掴み、キッシュを口に入れた。
「……うん、本当に美味しい」
さっきまでの照れていたような表情とは打って変わって、オーンが穏やかに目元を緩める。
やっぱり、そうだ。
私はオーンのこういう表情を見るのが好きなんだ。
でも、この気持ちって……友人として? それとも??
お読みいただき、ありがとうございます。




