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セレスの小話 高等部編

皆様、ご機嫌よう。

随分とお待たせしてしまったわね、セレスよ。


私の登場を待ちわびていた事でしょう。



今日は久しぶりに誰の邪魔もされず(ここが重要よ!)、アリアの家でお茶会をする事になったのだけれど……。


『週末だけど、セレスちゃんの家に行ってもいいかなぁ? 行くね』


アリアの家に行く前に、なぜかマイヤが私の家に来る事になったのよね。


明らかに半強制だったわね。

婚約前ではあるけど、サウロさんと両想いになったから自慢でもするのかしら?


どちらにせよ、あの子が純粋に私の家に来たいと思うはずがない!

何か……裏があるわね。



気を引き締めなければいけないわ!!




「セレスちゃん、好きな人がいるでしょう?」



私の家に来て開口一番、マイヤが言った言葉。

思わず、口に含んだ紅茶を吐き出す所だったじゃない!!


「な、何を突然!? わ、私に見合う人は、まだ現れてなくてよ!!」

「…………」


何よ! その冷めたような目!!

『全て分かっているから』とでも言うような目で見つめて!!


「仮に、仮によ? 私に好きな方がいたとして、貴方はそれを伝える為だけに来たのかしら?」

「うーん。セレスちゃんの弱みを握れたら嬉しいけど、少し違うかな?」


顎に指を当て、マイヤが何か考えている。

マイヤは可愛い子ぶる動作が自然に身につきすぎね。


昔はそれが鼻についたけど、今となっては、なぜ鼻についたのかすらも分からないわ。

見慣れたのかしら??



……って、話がずれたわ。

私に弱みなんてないわ! そして、永遠に弱みを握らせないわ!!


「一番話したいアリアちゃんに話せなくて悶々としているなら、吐き出す場所がないんじゃないかな? って思って。セレスちゃんには借りもあるから」



……借り? 何かあったかしら??

私がこの世に存在している事に感謝でもしているのかしら??


「前に相談に乗ってもらった事があったから」


あぁ! そういえば、そんな事もあったわね。


……って、そんな事よりも!!


マイヤは私の気持ちに気がついている?

もしかして……他にも気がついている人がいるのかしら??


「安心して。他の人は気がついていないと思うよ(多分だけど)」


マイヤがにっこりと微笑み、紅茶を飲んでいる。


どうやら私の考えが読まれてしまっていたようね……。


何より……本当にマイヤは気がついてるのかしら?

言うべきかしら? 隠し通すべきかしら??


「アリアちゃんを庇ってエレくんが凍った時にね、セレスちゃんの顔が真っ青になっているのを見て思ったの。自分の親が凍った時も気丈な姿を見せていたセレスちゃんが動揺を隠せないほどの人なんだって」


私が尋ねる前に、マイヤがすらすらと話し続ける。

相手が誰かという事まで、お見通しというわけね……。


「正直、私は少しも良さが分からないけど……」


そう前置きしたマイヤが、ジッと私を見据えたまま核心をついてきた。


「小さい頃、よく3人で遊んでいたセレスちゃんはエレくんの事をよく分かっているんだと思う。だからこそ、エレくんを好きになったのかなって。……私は少しも良さが分からないけど」


マイヤ! 2回も分からないって言ったわね!!

そんなの……私自身が、一番分からないわよ!!


私だって、マイヤが話した出来事が起こるまでは、自分の気持ちに気づいていなかったのに。


まさか、“あの時の姿”をマイヤに見られていたなんて!


《癒しの魔法》を使う方たちは、どんな状況でも広い視野を持って一番の重傷者を見分ける訓練を行う。

だから、私の事も見えてたのかもしれないわね。



……話が逸れたわ。

とにかく、私としてはなぜこんな事になってしまったのか、自分でも分からないのよ!


それに、どーーーーしても認めたくなかった。

このパーフェクトレディである私が……エレに、“あのエレ”に好意を持ってしまったなんてーー!!!


最初に気づいた時は、悪夢かと思ったわ。

あまりにも認めたくなくて、アリアに心配されるほど悩んでしまったのよね。


複雑な気持ちを抱える私に対し、マイヤがクスッと意地悪く笑ってみせる。


「“今の所”、誰にも話す気はないから安心して」



……弱みを握られたようで、面白くないわね。


でも、マイヤが誰にも言わないだろうと言う事も分かっている。

イライラするのも本当だけれども。


どうやら覚悟を決めるしかないようね。

紅茶を勢いよく飲み干し、マイヤを凝視する。


「私の中ではアリアが一番よ! それは揺るがないし、本当のことよ!!」


エレについては断言も否定もせず、私の正直な気持ちを伝える。


「分かってるわ。必ずしも恋が友情に勝つとは限らないと思うもの。私の場合は恋も友情も同じくらい大切だし、両立できる器用さがあるけど、セレスちゃんは……不器用そうだものね。うふっ」


不器用? この私が!?

聞き捨てならないセリフだわ!


「『うふっ』じゃないわよ! 少し前まで『サウロさんが~』って、自信なさげだった貴方が……急に勝ち誇った顔をしてきたわね!!」


この子、本当に私の為にやって来たのかしら!? 信じられないわ!!


「だって、事実だもの。仕方がないじゃない。セレスちゃんは……(オーンくんの時といい)険しい恋が好きなのね」

「うるさいわね! どうにかなりたいと思っているわけではないから、別にいいのよ!!」



──あっ。

思いがけず自分の口からこぼれた言葉にハッとなる。


……そうよ、私は何を悩んでいたのかしら。

マイヤに話した言葉が答えなら、悩む必要なんてなかったわ。


どう考えたって、エレの一番はアリア。

そして、私の一番もアリア。

決して、相容れないわ。……あら? ある意味、気は合うのかしら??


それはさておき、ケンカばかりのエレと上手くいくはずがないもの。


私の顔を見て満足そうに笑ったマイヤは、その後、30分ほど居座ってから帰って行った。

悔しいけど、ここ数日のモヤモヤとした気持ちが軽くなったわ。




羽のように軽い気持ちを得た私は、そのまま無二の友人の元へと向かった。


「いらっしゃーい」


笑顔で迎え入れると、アリアは私を庭にあるテラスへと案内してくれた。

紅茶とお菓子の並んだテーブルを挟み、向かい合わせで椅子へと腰を下ろす。


ふふ。私がいつも通りに戻った事を驚いてるようね。

アリアの様子を愉しみつつも、何事もなかったかのように話を続ける。


「──ああ、そういえば、アリアに似ている方を見かけたわよ」

「セレスも!?」


驚くかと思ったら『セレスも』とはどういう事かしら?


「マイヤも『私にそっくりな人』を見たって話してた!」

「あら、そうだったの。その方は私の前を歩いていたのだけれど、後ろ姿がよく似ていたわ。気品のある歩き方をしていたから、アリアじゃないとすぐに分かったけれど」

「…………」


大親友だからこそ、気がついたのよ!

ふふんと、得意気な表情を見せたのに……アリアは複雑そうな表情をしているわね。



「──アリア」



テラスの入口から、誰かが声を掛けてくる。

この声は──!!


「ああ、エレ。どうしたの?」

「……と、セレス。久しぶりだね」


やっぱり、エレ!

楽しいひと時を邪魔しに来たわね!!


「お母様がアリアを探していたよ。『仕立て屋の方がいらっしゃったから、アリアの服も見てもらいたい』って」

「うーん……セレスが来ているから、私の分は断ってもらっていい?」



ふふ、アリアったら……って、ちょっと待って!


以前、アリアの服を見せてもらった事があるけど、私の半分、いえ! 四分の一にも満たないくらいの数だったわよね?

……絶対の絶対に作ってもらった方がいいわ!!


「今日は遅くまでいる事ができるから、行ってきても構わないわよ。いえ、むしろ行ってきなさい!」

「えっ! 今日は予定ないの?」


嬉しそうな顔で、アリアが私を見ている。

ふふふ、悪い気はしないわね。


「ええ」

「それなら、泊まっていきなよ!」


喜んでいるアリアと、嫌そうなエレの顔。

何度、この光景を見てきた事かしら。


エレに向かって、勝ち誇った笑いを見せる。


「お言葉に甘えて、泊まらせていただこうかしら。だから、行ってきなさい」

「うん! エレ、私がいない間──」


アリアが言い終わる前にエレが口を開く。


「僕が(仕方がないから)セレスの相手をするよ」

「ありがとう! 急いで行ってくるね!!」


急ぎ足でアリアが去って行く。


昔のアリアなら確実に走っていたわ。

少しずつ……本当に少しずつだけど、女性らしくはなっているようね。


今まで注意してきたかいがあったわ。




先ほどまでアリアが座っていた椅子の隣、ちょうど私の斜め前にエレが腰を下ろした。


既に自分自身の気持ちには整理がついている。

とはいえ、気持ちを自覚してから会うのは初めてじゃないかしら?


この私が少し……本当に少しだけよ? 緊張をしている。


「……? 今日は静かだけど、どうしたの?」


“今日は”ですって!? また失礼な事を!!


今にして思えば、悩んでいた理由の1つに、エレの“こういう性格”も含まれているのよね。

本当、エレのどこに惹かれたのかしら?


エレが誰よりもアリアを好きで大切だと思っている姿を私は小さい頃から見てきた。

その分、アリアに気持ちを伝えない事に苛立ち? ……いえ、もどかしさを感じた。


偏屈な一途さを近くでずっと見てきたからこそ、気になって惹かれたのかしら?

……だとしたら、私は男の趣味がかなり悪いようね。



なんという事かしら。

ここに来て、私の唯一の短所を見つけてしまったわ。


自分の趣味に軽くショックを受けつつ、ふと思い浮かんだ事をエレにぶつけてみる。


「──昔、アリアに気持ちは伝えないと話していたわよね? その考えは変わらないの?」


それは自分の気持ちを自覚するよりも前から、心の中で引っ掛かっていた事だった。

エレはこの先ずっと、アリアに気持ちを告げずに過ごしていくのかしら? と。


すぐに返事がくると思っていたのに、エレは何も言わず、ただ静かに私を見つめてくる。



な、何よ!?

どんな答えが返ってきたとしても、悩みを乗り越えた私はちょっとやそっとじゃ揺るがないわ!


「……それで静かだったの?」

「そういうわけじゃないわ!」

「ふーん……まぁ、いいや。アリアに気持ちね……伝えようと迷った時期もあったけど──止めた」


や、止めた? なぜ!?


「“弟”という特権があるからこそ見せてくれるアリアの表情や仕草、何より僕の我儘を聞いてくれる所が可愛くて……それを失うのが嫌だから」


……はぁっ!?


「何を言ってるの? アリアならエレを振っても変わらず接してくれるわよ! そういう子よ!!」

「……振られる前提なのが、気に食わないんだけど……」


事実を言ったまでよ!

そうキッパリと断言すれば、エレが小さく息を吐き出した。


「アリアは僕の事を弟だって思ってる。つまり、弟の僕は誰よりもアリアの一番近くにいる事ができる。“今回の出来事”でそれがよく分かったし……それで十分だ」


エレがにやっと笑ってみせる。

このふざけたような言い方……本当にエレらしい。


明言してはいないけれど、恐らくはアリアを庇った時の事を話しているのでしょうね。

あの時のアリアは今まで見た事がないくらいに取り乱していたから。


「アリアに好きな人ができたら、ずーっと邪魔はできないわよ?」

「邪魔はするけど?」


ニヤニヤしながらも、エレが即答する。

ふざけだしたわね!!


……ふぅっ、しょうがないわね。

これは私の心が広く優しいから、致し方なくよ??


「このまま私に見合う人が現れなかったら……お茶飲み相手くらいにはしてあげてもいいわよ!? 可哀想だから」


ふふっ、と余裕の笑みを見せる。


「いや、間に合ってるよ」

「なんですって!?」

「それにセレスに見合う人……手に負える人は未来永劫、現れないんじゃない?」

「し、失礼ね!!」


ここで誓うわ!

もう二度と、エレに救いの手を差し伸べる事はないでしょう!!


憤慨する私に向かって、エレがからかうようにクスッと笑った。


「手に負える人が現れないのは事実だけど、まぁ、寂しくなったら話し相手になってあげるよ」


私に負けじと、エレが余裕の笑みを浮かべる。


「あっ、でもセレスはうるさいからな。やっぱり無しで」

「先ほどから、失礼すぎるわ! 私はうるさくないわ! 話が長いだけよ!」

「ははっ。それは、もう認めたんだ」


認めたというか、アリアが何度も言うから……!



納得できずに眉をしかめていると、こちらへと歩いてくるアリアの姿が見えてきた。

会話する私たちの様子を見ていたのか、アリアの顔が明らかに笑っている。


……? 何か楽しい事でもあったのかしら??


お読み頂き、ありがとうございます。

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