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賽は投げられた(後編)

みんなが一斉に話し出したので、誰が何を言ったのかほとんど聞き取れなかった。


急な事でカリーナ元王妃も少し困惑している。


「──知っている情報を教えて頂けますか?」


最後にエレが発した言葉だけ聞き取れたけど、教えて頂けますか?

……何を??


「伝わりましたか?」


リーセさんが苦笑しつつ、カリーナ元王妃に尋ねる。


「はい。全ては聞き取れませんでしたが、言いたい事は伝わりました」


初めてカリーナ元王妃が、静かに微笑んだ。


「アリアさんとジュリアの転生したタイミングを考えると私が関係していると思いますが、彼女が元の世界に戻る事はないと思います」

「その根拠は?」


即座にミネルが質問をする。

完全に敬語がとれてますよ、ミネルさん。


「私はループも含め、長い間この世界にいますが、一度も戻った事はありません。今まで幾度となく『戻りたい』と祈りましたが……その願いは叶っていません。原作者である私が望んだにもかかわらず実現できていないのですから、恐らく本の力とは別な力が働いているのだと思います」


そういえば、私は戻りたいと考えた事すらなかったな。

でも4回もループをしていたら、さすがに戻りたいと思ったかもしれない。


「それにアリアさんが考えているように“前世の記憶”があるだけなのかもしれません。──なぜなら、私は前の世界では病気で亡くなっていますから」


へっ! そうだったの!?

ん? つまり……私も亡くなってるという事?


ああ、そっか。前世の記憶があるという仮説が当たっているとしたら、私が亡くなっていてもおかしくないのか!

身に覚えは全くないけど……。



んー、そういう事なら──


「じゃあ、この話はこれで終わりという事で!」

「軽いわね」


私が話を締めくくると、セレスが素早くツッコんだ。


「悩んでも答えが見つからない事に頭を悩ませるのもね。悩んだところで状況は変わらないし……いい方に考えて終わろう!」

「……うーん。まぁ、そうね」


私の言葉にセレスが複雑そうな表情を見せるも、最後には納得して笑ってくれた。


結局、操られていた4人には協力してもらう必要がなくなった為、エウロとカウイが憲兵の元へ連れていく事になった。




──その日からの1週間は大忙しだった。


まずは、それぞれが自分の親に状況を説明する事から始まった。

驚かれたり、怒られたり……と反応は様々だったらしい。


例に漏れず、私とエレも両親と話をする時がやってきた。


そこで、色々と考えた結果、オーンも一緒に来てもらった。

オーンは「なぜ私も一緒に?」と、不思議そうな顔をしていたけど。


予想通り、いや、予想以上にガッツリ怒られました。

オーンも一緒にガッツリ怒られました。



……でも、良かった。

いや、良かったというのも変な話なんだけど。


オーンは立場上、自分の親にはまだ事情を話せない。

それならオーンも呼んで一緒に怒られよう!

1人で怒られるよりも、3人で怒られた方が怒りが分散されるはずだ!!


……と思い、オーンを巻き込んだんだけど、一緒に怒られた事がなぜか嬉しかった。


そもそも、王子であるオーンが叱られる姿というのはかなり珍しい。

見間違いでなければ、いつもより少しだけ子供っぽい顔をしていたような気もする。


そういえば、帰り際「ありがとう」と、オーンが少し照れた表情でお礼を言っていた。

……なんのお礼だろう??



ガッツリ怒られはしたものの、親には無事協力してもらえる事になった。



その後、ミネルの調査により、ノレイさんの家族が亡くなった理由にジメス上院議長が関わっている可能性が高い事が分かった。


いつも通り、自分の手は下していないので『可能性が高い事しか分からなかった』と話していた。


関与が確定したわけではないし、ノレイさんを味方に引き入れるのは難しそうだなぁと思っていたけど、ミネルは諦めていなかった。


ミネルの“徹底して調べる!”精神が功を奏し、思わぬところで新たな情報が手に入ったのだ!

本当に尊敬する!!



ノレイさんの家族は不幸な事故……なんでも“ヴェント”による事故で亡くなったらしい。

交通事故のようなものかな?


ノレイさん本人は事情があって、“ヴェント”には乗っていなかったそうだ。

その偶然もまた怪しく感じた。


「調査の段階で、何名か目撃者がいる事が分かった。彼らを探し出し、話を聞く事はできたんだが……全員が『父親と母親が亡くなっている姿を見た』と話していた」

「……ん? それが有力な情報??」


私が首を傾げる。


「“ナレッジ”の記録では、ノレイには両親の他に弟がいる。事故の際、目撃者達は揃って『弟の姿は見ていない』と言っていたが、死亡記録ではノレイ以外の家族全員が亡くなった事になっているんだ」


ふむふむ。

……と、いう事は??


「理由は不明だが、もしかするとノレイの弟は生きているのかもしれない」


な、なんと!!


「事故を起こした当事者たちにも話を聞きたいところだが、逃亡したのか、亡くなったのか……少なくとも話は聞けそうにない」


今の時点で分からない事だらけのはずなのに、ミネルが生き生きしている気がする。

よほど、いい情報が手に入ったんだ。


「そこで、だ。ノレイの家族や親族、友人だけでなく事故の関係者等も徹底的に調べ上げた」


なんでもエウロとカウイを強制的に巻き込み、3人で寝る間を惜しんで調べたらしい。

カウイはいつも通りだったけど……エウロの顔は明らかにやつれていた。


「調査の結果、事故があった年に養子を迎えた夫婦がいた。もしかしたら……と思い、エウロと会いに行ってきた」


人選が素晴らしい。

エウロなら警戒されにくいし、ついつい話してしまうかもしれない。


「最初はかなり言葉を濁していたけど、話してくれたんだ。ミネルの予想通り、ノレイさんの弟だった。さすがミネルだよな!」


こうやって自然に人を褒められるのもエウロの良さだな。


「その夫婦にノレイさんの弟を預けたのは、事故を起こした当事者の1人だったらしい。本当ならその事故で家族全員を殺す予定だったみたいなんだけど、弟の方は母親が体を張って守った事もあって無事だった。仕方なく弟を連れ去って始末をするつもりだったけど、どうしてもできなかった……と話してたってさ」


「今、エウロが話した内容こそが事故の真相だ。弟の件についてはノレイはもちろんの事、ジメス上院議長も知らない。“ナレッジ”にも死亡と記録されているからな」


話し終えたミネルが、軽く息を吐き出す。

チラリと私の表情をうかがうと、確認するように口を開いた。


「僕たちの役目はここまでだ。この話をノレイにどう伝えるか、判断はアリアに任せる。仮にノレイが『ジメス上院議長を裏切る』と言った場合、その言葉を信じるかどうかについても」

「な、なんで、そんな重大任務を私が!? 」


思わず、大きな声で叫ぶ。


「一番適任だと思ったからだ。僕は事実しか話せないからな。変に考えず、アリアが思ったままを伝えればいい」


うーん。私が適任だとは思えないけど……。

でも、ミネルがそう言うって事は、何か理由があるんだろうな。


よし! 頼まれたからには全力で!!




──それから二日後。


ノレイさんをカリーナ元王妃が住む家へと呼び出した。

カリーナ元王妃はノレイさんと頻繁に連絡を取っていたので、呼んでもらうのは簡単だった。


私とエレ、カリーナ元王妃の3人でノレイさんを待つ。

しばらくして現れたノレイさんが、私を見て明らかに怪訝な顔をした。


「……なぜアリア様が?」


異変に気づいたノレイさんが、急いで家を出ようとする。


「ドアの外には、エウロとカウイがいます。私の警護の方もいるので、逃げるのは無理だと思います」


逃げられない為の準備は万全だ。

私の言葉で全てを悟ったのか、半ば諦めたようにノレイさんが椅子へと腰を下ろした。


「私を捕らえるのですか? ジメス様には何のダメージもありませんよ」


焦った様子もなく、ノレイさんが淡々と告げる。


そうかなぁ? 過小評価な気がする。

ジメス上院議長にとってノレイさんは重要な役割を担っていると思うから。


長く拘束してはジメス上院議長に怪しまれると思い、さっそく、ノレイさんにミネルが調べた内容を伝える。

話を聞いている間、ノレイさんは眉一つ動かさなかった。


ただ弟が生きていると話した時だけ、わずかだけど動揺を見せた気がする。


「……今のお話は、本当ですか?」

「はい。もう見ているかもしれませんが、私のオーラを見てもらって構いません!」


ノレイさんが私をじっと見つめる。

それから少しだけ目を伏せると、独り言のように告げた。


「……別々な人生を歩んでいる以上、私には関係のない話です」

「うん、私もそう思う。じゃない、思います」


咄嗟に出た本音だった。

私がノレイさんの立場でも、きっと同じ事を思う。


「えっ?」

「事情はともかく、家族だから一緒にいないと……なんて事はないはずです。血の繋がりに関係なく、大切な人はいると思いますので」


私の中でエレがそうだから。

微かに眉をしかめたノレイさんが、静かな口調で尋ねてくる。


「私がアリア様に協力し、ジメス様に復讐する……とでも思ったのですか?」


む、難しい質問だ。

ミネル……本当に私が適任だった!?


「うーん……正直に言いますと、協力してくれたら嬉しいですが、難しいとは思っていました」

「…………」


無表情のまま、ノレイさんは黙っている。


「ジュリアと対決して私が勝った時も、ノレイさんは無表情でした。唯一感情をあらわにしたのは、ジメス上院議長が無礼な対応を受けた時だけです」


対応というか、無礼な口を利いたのは私だけど。


「……よく覚えていますね」

「はい。慕っている人がどんな人間であれ、そう思える相手がいる事を少しだけ嬉しく思ったので覚えていました」

「アリア様が嬉しく思う理由が分かりかねます」


うん、そうなんだよね。


「不思議ですよね。私もそう思います。でも自分の意思に反し、自然と思ってしまった事なので……どうしようもないんですよね」


「はは」と笑うと、ノレイさんが不可解そうに顔を歪めた。


「そう思われたのなら、私の協力を仰ぐ事は“無理”だと分かったはずです」

「確かにそう思ったのですが……やはり協力はしてほしいです!」

「…………」


さっきよりも不可解そうな顔をしている。


うん。言っている事はメチャクチャだという事は分かっている。


絶対に協力してくれないと分かったら、諦めるしかない。

それは分かっている。


でも、私にはそうは思えない!

よって、まだ諦めない!!


「……話は終わりですか?」

「いえ、まだあります。先ほどの話ですが、ジメス上院議長に伝えてもいいですか?」


先ほどの話というのは、もちろんノレイさんの弟の話だ。

私からの質問に、ノレイさんが何かを探るような表情を見せた。


「……脅し、ですか?」

「なんで脅しだと思ったんですか?」


続けざまに問うと、ノレイさんの眉がぴくっと動いた。


「もうお気づきだと思いますが、私の発言が“脅し”だと思った時点で、ノレイさんにとって“関係のない話”ではないと思いますよ」

「…………」


黙ってはいるけど、少しだけ戸惑っているようにも見える。

少しずつだけど、感情が表に出ている……?


「……そのようですね」


しかも認めた!

認めたという事は、弟の事を大切に思っていたという事だよね。


私がジメス上院議長に“弟の存在”を話すという事は(話さないけど)弟に危険が及ぶ可能性がある。

ノレイさんもそう思ったから、“脅し”という言葉を使ったんだ。


「ですが……アリア様は話さないと思います」


うっ。即座に切り返された! 痛いところを!!

だけど……。


「私を“そういう人物”だと思ってくれてるんですね」

「オーラを見れば分かりますので」


あっ、そうだった!

呆れた表情でノレイさんが私を見る。


すると、隣にいた別な人物が声を上げた。


「アリアが言えなくても僕が話しますよ。僕は言えます」


……エレ!?

私の代わりに、エレが悪役に徹してくれている。


いやいや、待って。

エレの気持ちは嬉しいけど……それはさすがにおかしい!


「エレが言うくらいなら、私が言う!」


エレを悪役にするくらいなら、私が覚悟を決めるしかない!!


「いや、アリア……」


私の想いと裏腹に、エレが戸惑っている。

……なぜだろう?


そして、ノレイさんは冷めた表情をしている。


でも気にしない!


「今度は本当です!! どうしますか!?」


テーブルの上に両手をつき、ノレイさんに詰め寄る。

私の必死な表情を見たノレイさんが、ふぅ、と息を吐いた。


「……自分でもこんな感情が残っていた事に驚きました」


口調こそ変わらないけれど、表情はどこか複雑そうだ。

その姿に、さっきまでの勢いがわずかに削がれる。


「ノレイさんって、感情を殺してというか……自分を騙し続けて生きてきたような気がしていたので、今の言葉を聞けて少しだけ嬉しいです」


ノレイさんのしてきた事を考えると、こう思うのは不謹慎かもしれない。

けれど、複雑そうな顔をしているのに眼は穏やかで、ノレイさんの本心が見えたような気がした。


「騙す……ですか?」

「はい。私も『もうダメかな』って思った時によく『大丈夫』と自分に言い聞かせて、本心をいつわる事があります。そうする事で自分を奮い立たせるんですけど、ノレイさんも同じなのかなって思いました。だから自分の気持ちにも気がつかなかったのかなって」


初めに弟の事を『関係ない』と言ったのも嘘ではなく、自分の気持ちに気がついてなかっただけなのかもしれない。


「騙す……」



突然、ノレイさんの片目から涙が一粒落ちた。


そっとハンカチを取り出し、ノレイさんの前に置く。

テーブルへと視線は落としたけれど、ノレイさんはハンカチを使わずに、涙を指で乱暴に拭った。


「身内がいない私の面倒見てくださったジメス様には、小さい頃から恩を感じておりました。けれど……年を重ねるにつれ、私の家族の死にジメス様が関わっているのではないかと疑うようになりました」


エレの予想通り、ノレイさんは何となく気がついていたんだ。


ジメス上院議長の傍にいれば、必然的に自分と似たような状況を見る事もあるだろうから、疑うのも無理はないか。


「違和感を覚えつつも、私には他に誰もいない……そう思うと、無意識に真実から目を背けてきたのかもしれません」


少しの間、沈黙が走る。


表情の変化こそ少ないけれど、迷いが感じられる。

数分後、再びノレイさんが私を見つめた。


「……協力する条件です。弟には私の存在を伝えないでください」


ノレイさんが、決定事項のように告げる。

その言葉に頷いたエレが、「分かり──」まで声に出したところで横から口を挟んだ。


「約束はできません」

「アリア!?」


エレが驚き、小声で私に話し掛けてくる。


「そこは嘘でもいいから……」

「嘘ついてもオーラで分かってしまうから」


ごめん、エレ!

でも、人の嫌な所ばかり見てきたノレイさんだからこそ、嘘はつけないというか……ついてはいけない気がする。


姿勢を正し、改めてノレイさんを見る。


「事故があった際、弟さんはまだ小さかったそうですが、お兄さんがいたという事は覚えているそうです。なので、弟さんの為にも伝えた方がいいと思ったら、話してしまうかもしれません」

「そう、ですか。……あの子は、私の事を覚えていたのですね」


やっぱり無表情のままなんだけど、嬉しそうに見えたのは私だけだろうか。


「……分かりました。別な条件にします」


別な条件?


「ところで、今、ジメス様が“忙しい”事にあなた方は関与していますか?」

「しています」


正直に答える。

そもそも、お父様達が税の件を調べている事をわざとジメス上院議長に気がつかせたのだから、隠す必要もない。


「そうですか。そこまで調べ上げてるのですね。最後にもう一点、私があなた方に協力した場合、ジメス様はどうなりますか?」


表情を崩さず、エレが答える。


「国への反逆罪は死罪に値すると思いますよ」

「そ、そうなの!?」

「なんでアリアが驚いてるの!?」


私の言葉にエレが焦っている。


「いや、ごめん。何となく」


想像以上に重い罪だったから、つい驚いてしまった。


動揺する私の姿を見たノレイさんが、静かに口角を上げた。

おお! うっすらだけど、初めて笑った顔を見た!


「『オーラを見て構わない』と堂々と言った人に初めて出会いました。そして、オーラを見る必要がないと思えた人に出会えたのも初めてです」


それは……私が単純という事??


「……こんなにも心地よいオーラを持った人がいたんですね」

「その気持ちは分かります」


エレが嬉しそうに微笑んだ。


ん? 心地よい??

“心地よいオーラ”なんてあるの!?


まぁ、言われて悪い気はしないな。

私の自慢リストの1つに入れておこう。


それまで一切口を挟まず座っていたカリーナ元王妃も、どこか優しげに微笑んでいる。

もっと緊迫した雰囲気になると思っていたけど……まぁ、何とかなって良かった。


その後、ノレイさんから提示された別な条件をのむことで(私が勝手に約束をした)、無事に協力を得られることになった。




そして、今──


ジメス上院議長は窮地に立たされている。


「ノレイ! こ、これは、どういう事だ!!」

「それは、私達が言うべき言葉です」


怒号を飛ばすジメス上院議長の前にお父様たちが現れた。

さすがにオーンの父親サール国王はいないけど、幼なじみ達の父親は全員揃っている。


「貴方の今までの所業について、カリーナ様が全て証言してくださいました」

「……何の事でしょうか?」


さっきまでの動揺が嘘みたいに冷静になった。


お父様たちが現れた事で頭が冷えたのか、もう落ち着きを取り戻している。

こういう所はさすがだ。


きっと私なら、感情を昂らせたまま話してしまう。


「お父様? これは何の騒ぎ!?」


空気を読まずにジュリアがやって来た。

ここでも自分の存在を隠すつもりがないのか、華やかな衣装のままだ。



……ノレイさんが呼んだのかな?


どちらにしても、これで役者は揃った!!



ジメス上院議長の顔を見据えつつ、お父様が話を続ける。


「誘拐事件に魔法更生院脱走の関与、国への反逆罪です。国への反逆罪については、街の方たちも証言してくださいました。それに……禁断の魔法も使いましたね?」


“人を操る魔法”と“魔力を奪う魔法”、“グモード王を生き返らせる魔法”を使った事もカリーナ元王妃は証言した。

“グモード王を生き返らせる魔法”については成功しなかったけれど、その魔法を使った事によって亡くなった人たちがいる事も……。


「操られていたカリーナ元王妃を、オーン王子が《光の魔法》で浄化した事も分かっています。そして、カリーナ元王妃を操る為、ジメス上院議長の命令でノレイさんが《闇の魔法》を使った事も、ノレイさんご本人が証言してくださいました」


最後の言葉に、ジメス上院議長の目をカッと見開いた。


「ノレイ……裏切ったのかっ!!」


先ほどまでの冷静さが一瞬で消えた。

ジメス上院議長の中で、いつの間にかノレイさんは絶対に裏切らない存在になっていたのかもしれない。


ずっと、誰も信じない人だと思っていたけど……。

ノレイさんは何も言わずに黙っている。


「ちょっと待って! お父様は国への反逆なんて考えていないわ!」


ジュリアがジメス上院議長の横に立ち、力強く叫んだ。


「だって、ここは私の国なんだもの! だから、お父様が国王を退けて、自分の物にするというのは自然の流れよ!! それを罪だという意味が分からないわ!!!」

「──ジュリア!!」


当然のように語るジュリアに向かって、今度はジメス上院議長が叫んでいる。


そして、この場にいる全員が思ったはずだ。

『こいつ馬鹿だ』と。


……国への反逆罪の証言者が思わぬところで1人増えた。

本当に成績トップクラスだったのかな??


「娘であるジュリア嬢も、こうして証言してくださいましたね」


お父様がジメス上院議長を見てクスッと微笑んだ。

よく見ると、ジメス上院議長の肩が微かに震えているような気がする。



……たぶん怒ってるんだろうなぁ。

上手くかわすつもりだったろうに、ジュリアのせいで台無しだもん。


「この、馬鹿娘がっ!!」



そう怒鳴ると同時に、ジメス上院議長が魔法を唱えだした。


お読みいただき、ありがとうございます。

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