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「信じてもらえるか分からないけど……私とジュリア……それにカリーナ元王妃は別な世界から来た転生者なんだ」



セレスが『変な事を言い出したわね』という表情をしている(気がする)。

あのミネルでさえ、理解が追いついていない顔をしている(と思う)。


私もみんなと同じ立場だったら……エウロのようにポカンとした顔をしているに違いない。


何とも言えないような雰囲気の中、まずはカリーナ元王妃が書いた本や、転生について話し始める。


想像していた通り、みんなが不思議そうな表情を浮かべている。

だけど、話の腰を折る事なく、黙って聞いてくれている。


「カリーナ元王妃は『ジメス上院議長に立ち向かう事の出来る《聖の魔法》転生者が現れてほしい』と願い、ちょうどその年に転生したのが私みたい」

「……アリアが“記憶喪失”になった年齢だね」


エレがボソッと呟く。

その言葉に少しドキッとしたけど、何も言わず静かに頷いた。


「その3年後、カリーナ元王妃は『1人だけではジメス上院議長に勝てないかもしれないから、もう1人転生者が現れてほしい』と願い、今度はジュリアが転生したみたい」



──これで、カリーナ元王妃から聞いた話は全て話し終えた。


長引かないよう、要点だけをまとめて話したけど、恐らくみんなには伝わっただろう。


「ふぅー」と息を吐き、席を立つ。

まっすぐ前を向くと同時に周りを見渡し、みんなの顔を見た。


「この世界について知らない事ばかりだったし、変に疑われたくなかったから“記憶喪失”という事にしてた。でも、結果的にみんなを騙……」


……騙そうとしたわけではない。


けれど、今まで本当の幼なじみや姉弟として接してくれたみんなに対し、申し訳ないと思う気持ちはある。


「こんな大切な事をみんなに隠していて、本当に……ごめんなさい!」


深々と頭を下げ、謝罪する。


上手く伝わったかな?

みんなの反応が不安で、心臓がバクバクしている。


誰も何も言わず、部屋の中には沈黙が続いている。

ずっと同じ体勢でいるわけにもいかず、少し震えながらもゆっくりと頭を上げた。


みんなの反応が気になって、恐る恐る表情をうかがう。

すると、首を横に傾けているセレスと目が合った。



「──色々確認したい事はあるけど、まずは一番重要な事を聞くわ」

「う、うん」


緊張しながら、セレスに返事をする。


「アリアは別な世界から来たかもしれない、という事なのよね?」


私が黙ったまま、頷く。


「それは……いずれ元の世界に戻るという事なのかしら?」

「やだ」


……ん? 『やだ』??

今、返事をしたのは私じゃないよ??


声がした方へ目を向けると、ルナがブンブンと首を勢いよく横に振っている。



それにしても、『いずれは元の世界に戻る』なんて考えた事がなかった!!


言われてみればその可能性もある……のかな……?

でも戻るって、どのタイミングで!?


「うーん。別な世界の人間だったら、その可能性もあるのかなぁ? でも、前の世界の記憶があるだけだったら……戻りようがないような?」


私の曖昧な返事に、セレスとミネルが険しい表情をしている。


「参ったわね」

「考える事が増えたな」


な、何が!?


「私の妃がいなくなるかもしれないという緊急事態が発生してしまった。……どうにかしないとね」


オーンが顎に手を当て、考え込んでいる。


「お前のではないが、その通りだ」

「そんな事は永遠にやってきませんが、そうですね」


オーンの言葉を一蹴しつつ、ミネルとエレが頭を悩ませている。


……あれ?

なんか、私が想像していた反応と違う??


みんなの反応に戸惑っている中、ルナがすくっと立ち上がった。


「わかった。今、寝ている人を起こして聞いてみよう」


寝ている人?


……ああ、カリーナ元王妃の事か。

なるほど! 確かに聞いた方が早い!!


…………ん? 待って。

今『起こす』って言った??


「ル、ルナ! 疲れていると思うから、起きた時に聞いてみよう?」


部屋に向かってスタスタ歩いていくルナを急いで引き留める。

心底不満げな顔をしてはいたけど、無事に諦めてくれた。


エウロはといえば、「うーん」と唸りながら必死に考え込んでいる。


……と思ったら、何かふっ切れたような表情で私を見た。


「話としては分かったような、分かっていないような……。まぁ、アリアがこれからも元気で一緒に過ごせるなら俺はいいよ!」


爽やかな笑顔のエウロにミネルが呆れた表情を見せる。


「エウロ……実は頭が悪いだろう? 馬鹿みたいな回答だぞ」

「それがミネルくんにはない、エウロくんの良さなのよ!(勉学の以外の頭の良さをエウロくんに求めてはだめなのよ)」

「そんな良さなら要らない」


懸命にエウロをフォローするマイヤと、きっぱり否定するミネル。


……あれれ?

やっぱり反応が……私としては深刻な話をしたつもりなんだけど。


そんな2人の近くにいるカウイが、この世の終わりのような目で私を見つめている。


「アリアがいなくなるかもしれないなんて……考えられない」


うっ。

そんな憂いを帯びた目をされましても……私にも分からないのです。


……って、あれれれ?

もしかして……疑いもなく、みんな信じてくれている??


「みんな、今の話を信じてくれるの?」


探るように問い掛けると、セレスが私の目の前まで歩いてきた。


「この私でも完璧には理解できていない部分もあるし、少々……困惑もしているわ。でも、アリアが嘘をつかないという事は、この私が“誰よりも”知っているわ!!」


キッパリと断言しつつ、得意げな表情で仁王立ちをしている。


「セレスの事は信じられないけど、アリアを疑う事はないよ」


ルナがセレスを見て、小さく口角を上げた。

挑発しているようにも見える。


……うん。間違いなく、セレスが怒っている。


横にいたエレがニコッと天使の笑顔で、私の手をギュッと握った。


「僕にとっては、今(転生)の話は些細な事だよ。アリアに出会えたこと自体が奇跡なんだから」


もう何回、いや! 何万回思っただろう。

なんて、素晴らしい弟……!!


「俺は、アリアがいてくれるだけでいいよ」


カウイが静かにドキッとする顔で微笑んだ。


「アリアちゃんが気にしているようだから言うけど、みんな……少なくとも私は、これでアリアちゃんとの関係が変わる事はないわ」


マイヤの方へ目を向けると、可愛らしく「こほん」と咳払いをした。


「今の所はね。……今の所だからね?」


マイヤ、少し照れてる?


「それに……多分、みんな(エウロくん以外)思ってる事だと思うけど、話を聞いて妙に納得する部分もあったし」

「そうだね」


オーンが優しい表情で、マイヤに同意している。


「何よりアリアちゃんの事だから、隠していたというより、生活に馴染み過ぎて言うのを忘れていたんじゃないのかな? って思ってる」


さすがにそんな事は!

……いや、否定できない所はあるけど……。


マイヤの指摘に軽く動揺していると、ふいにリーセさんが口を開いた。


「今の話を聞いて、アリアのお父さん──リオーンさんが話していた事を思い出したよ」

「……お父様ですか?」

「うん。以前、仕事の関係でお会いした時に、2人だけで話をする機会があってね」



『──アリアに頼まれてジュリア嬢の事を調べた事があったんだ。その中に10歳の頃、ジュリア嬢が突然「ジュリアになった」と言い出し、今までとは別人のような性格になったという話があってね……なぜかアリアの事を思い出したんだよ。実はアリアがお医者様に“記憶喪失”と診断された時、あの子は「私はアリアじゃない」と言っていたんだ』



……私が転生したときの事かな?

重要な場面だったとは思うけど、パニック状態だったから、あまり……全く覚えていないなぁ。



『子どもの頃の話だから何とも言えない部分はあるが……引っ込み思案な性格から、随分と活発な性格になったなぁと思ってね』


確かに、他の人たちからも似たような事を言われたなぁ。

ふと、リーセさんが楽しそうに頬を緩めた。


「そこでつい、『その話を思い出したという事は、アリアとジュリア嬢──2人が全くの別人になったと思っているのですか? 例えば、誰かが憑依したとか』と、冗談半分で尋ねたんだ」


……冗談とはいえ、わりと核心に迫った話をしている。



『どうだろう? ジュリア嬢の事は分からないけど、私も妻もアリアが別人になったとは思っていないよ。性格は変わったかもしれないけど、根本の部分は何も変わっていないから。元々、思いやりのある優しい子だからね。んー、そうだなぁ……“憑依”というより、“融合”の方が言い方としては合っているのかもしれない』



「リオーンさんが『どちらにせよ、私の大切な娘なのは変わらない』と笑って話していたよ」


お父様が気がついていたのかどうかは分からない。

だけど……そんな風に話してくれていた事に涙が溢れ出そうだ。


「もしかすると、私がアリアに惹かれた理由の1つに今の話が含まれているのかもしれないね」


リーセさんが冗談なのか本気なのか分からない笑顔を浮かべている。


「最後の一言は余計ですが……アリアは『信じてくれるの?』と言っていたけど、逆に嘘をつく理由がないと思っているよ」

「その通りだ」


にっこりと微笑むオーンの近くで、ミネルがまとめに入るように話を切り出す。


「そもそも、アリアは顔に出るから嘘をつき通せない。速攻で気づかれる、という事も伝えてやるべきだ」


ミネルの言葉で涙が一気に引っ込んだ。


ああ、なるほど。

みんなが私の話を信じてくれたのは、そういう事ね。


「さて、それを踏まえてだが……」


複雑な気持ちを抱える私をよそに、ミネルがみんなの顔を見る。


そうだよね。

今は先に考えないといけない事が──


「今、考えるべき事は、アリアが元の場所へは戻らない……“ここに残る”という確証だ!」


えっ! ジメス上院議長の方は!!?


驚きのあまり目を見開けば、みんなが‟当然”とばかりに頷き合っている。

今までにないくらい、意気投合しているような……。


「あの……ジメス上院議長の方は?」

「ああ、そうだったわね」


私の質問に、セレスが思い出したように口に出した。

そうだったわね……って、え??


「……ああ、そうか。そちらの話もしないといけないね」


えーと、オーンさん?

ジメス上院議長が“おまけ”みたいな扱いになってない??


「カリーナ様が寝ている間に、速……手短に話せばいいんじゃないかな?」

「ささっとね」


マイヤ、ルナ……ささっと手短に話せる内容じゃないよ?


「そうするか」


ミネルがあっさりとマイヤの提案を受け入れる。


そんな簡単でいいの!?

私の事をみんなが変わらずに受け入れてくれたのは嬉しいけど……本当にこれでいいのかなぁ?


うーん……でも、みんながいいって言ってるし……重く考えすぎるのもね。

よし! まぁ、いいか!!


気持ちを切り替え、ジメス上院議長の話へと戻る。

ミネルがゆっくりと口を開いた。


「──色々と考えたんだが、カリーナ元王妃と今別室にいる4人には、まだこの街に残ってもらおうと思っている」


ミネルの提案を聞き、セレスが本日二度目の得意げな表情を見せる。


「ふふふ。自分の頭の良さがたまに怖くなるわ。操られたふりをしてもらうのね!」

「素直に同意したくないが……そうだ。協力してくれる気があれば、だが」


ミネル……不満げな表情をしている。

セレスとは真逆だな。


セレスに言い当てられたのが、そんなに嫌だったんだろうか……。


「ただ……ヤツに気づかれる可能性が高い。本当に実行すべきかどうかについては……正直迷っている」


ミネルの気持ちは分かる。


相手はあのジメス上院議長だ。策略に長けているし、勘も鋭い。

洗脳が解けている以上、ずっと騙し続けるのは難しいよね。


ん? そういえば──


「他の行方不明者の人たちって、どこにいるんだろう?」

「何名かは見つかったという話は、兄様から聞いてるぞ」


私の質問にエウロが答える。


「ただ、ここにいる4名のようにまだ見つかっていない人達も大勢いると思う」


みんな、どこへ行ったのかな?

カリーナ元王妃が、起きたら聞いてみよう。


「今回の出来事を機に全員見つかるかもしれないね」


私の考えている事が分かったのか、リーセさんも頷いている。


「それと……恐らく、税の件はすぐに調べられると思う。問題は、増税が本当だった場合、ジメス上院議長が裏で手引きしているという証拠を掴めるかどうか、かな」

「今までのようにジメス上院議長が直接関わっていない場合、そのまま言い逃れされてしまうのが落ちですね」


ミネルがリーセさんを見ながら話す。


……そう。

結局は、その問題に行きついてしまうんだよね。


どうすればジメス上院議長の関与を証明できるのか……。

上院のトップだから権力は使い放題だし、保守派は全員、ジメス上院議長の言いなりだし。



さて、どうしよう?


みんなと一緒に頭を悩ませていると、ふいにある考えが閃いた。

成功するかどうかは分からないけど……この方法が一番単純で、手っ取り早いかもしれない。


その為には──カリーナ元王妃に、‟王妃”としての仕事をしてもらおう。


「よし! こうなったら、街の人たちに協力してもらおう!!」


お読みいただき、ありがとうございます。

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