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カリーナの回顧録(前編)

「恐らく長い期間《闇の魔法》で操られていたと思いますが……自分のお名前は、分かりますか?」


1人の男性が膝をつき、私に話し掛けている。

どこかグモード王の面影がある男性。


「……名前?」


長い……とても長い眠りから、目覚めたような感覚。

頭がボーっとしていて、すぐに自分の名前を思い出す事ができない。


「わ、たし……私の名前はカリーナです」




──そう、私の名前はカリーナ。

名前を発した瞬間、今までの出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。



……ああ、そうだ。


今回が‟4回目のループ”だった。

そして、きっとこれが私にとって最後のループ。



私は前の世界──転生前の世界では小説家だった。


人気作家ではなかったけれど、自分の想像や願望を文字にする仕事が大好きだった。


自分が主人公だったら?

どんな世界に住みたい??


いつも思い描いていたのは、魔法が使えるファンタジーの世界。

そこで、私は王子様と恋に落ちる。


王子様に群がる女性たちや私に好意を持つ男性たち。

様々な紆余曲折を経て、2人が迎えるのは結婚という名のハッピーエンド!!


そんな事を考えながら、執筆した本。

自分にとって理想の本を書き終えた頃、私は病気で亡くなった。



これで、私の人生は終わりを告げた……はずだった。




──転生、始まり


ふと気がついたら、見知らぬ世界……いえ、私の執筆した世界に転生していた。


私に与えられていたのは上流階級の子女、カリーナという名前。

そして、私の婚約者はグモード。この国の第一王子。



私は、本当に転生したんだ!!


転生した事への驚きよりも、未来への期待に胸が膨らんだ。

これから私はどんな恋愛をして、グモード王子と結婚するのだろう?


転生してから、私の胸はずっと高鳴っていた。


それからしばらくして、私はグモード王子に会う事ができた。

彼は想像以上に完璧な人だった。


誰に対しても平等に優しく、どんな時も笑顔を絶やさない穏やかな性格。

まさに理想の王子様!!


口数は少なかったけれど、私の話をいつも笑顔で聞いてくれた。


本に記した通り、様々な紆余曲折こそあったものの、グモード王子と無事に結婚。

望んでいたハッピーエンドという結末!!



数年後、グモード王子は王となり、私は王妃の座についた。

民に愛される完璧な王と、願った事は何でも叶う王妃。


綺麗なドレスや高価な宝石、豪勢な食事がいとも容易く手に入る。

子供にも恵まれ、まさに贅沢で幸せな日々!


そんな生活が……ずっと続くと思っていた。



十数年後、王となったグモード王は何者かに暗殺された。

しかも、私が王の暗殺に関わったという根も葉もない噂を立てられてしまい、この国を追われる身となった。




──1回目、最初のループ


ハッと目が覚める。


夢……? さっきのは夢だったの!?

……はぁ、なんてリアルな悪夢を見たのだろう。


グモード王が暗殺され、私が国を追われる夢。

あぁ、本当に夢で良かった。


そう安堵したのも束の間、自分の年齢が分からなくなる。


あれ? 私は、“今”何歳??

記憶があやふやで、自分が何歳なのかも分からない。


えっと……ああ、そうだ。

私はまだ転生したばかりで、今の年齢は15歳だった。


自分の年齢も忘れてしまうなんて、変な話ね。


待って。私は本当に転生したばかり……?

その割には、この世界の事を詳しく知りすぎてないかしら??


……さすがに気のせい、よね?

私が書いた本の世界なのだから、知ってて当然よね。


それに、明日は転生して初めてグモード王子に会う日。

早めに寝て、明日に備えないと。


お会いしたグモード王子は完璧な人だった。


誰に対しても平等に優しく、どんな時も笑顔を絶やさない穏やかな性格。

まさに理想の王子様!!


口数は少なかったけれど、私の話をいつも笑顔で聞いてくれた。


幸せなのに、どこか違和感を覚える。

グモード王子と会う度、以前も同じような会話をした感覚に見舞われる。


……どこで同じような会話をしたのかしら??

思い出せない。


違和感は他にもある。

これから起こる事が、なぜか手に取るように分かる。


そのお陰でトラブルや困難を回避し、順調にグモード王子と結婚。

望んでいたハッピーエンドという結末!!


しばらくして王妃になった私は、願った事が何でも叶う幸せな生活を手に入れた。

……なのに、小さな不安が拭えない。


いえ、気のせいね。

私の望んだ世界だもの。気にする事は何もないはず。



十数年後、王となったグモード王は何者かに暗殺された。

しかも、私が王の暗殺に関わったという根も葉もない噂を立てられてしまい、この国を追われる身となった。




──2回目のループ


ハッと目が覚める。


夢……? さっきのは夢だったの!?

……はぁ、なんてリアルな悪夢を見たのだろう。


グモード王が暗殺され、私が国を追われる夢。

あぁ、本当に夢で良かった。


……本当に? 本当に夢だったのかしら?

何かがおかしい。


そう、違うわ!

私は“以前も同じことを思った”事がある!!



これは、夢じゃない!!!


なぜ? いつから!?

もしかして、私はこの世界をループしているの!!?


どうしてこんな事になったの……?

私が“前の世界”で書いた本にヒントがあるのかしら?


“前の世界”で書いた本の内容について考える。

けれど、記憶が薄れていて、すぐに思い出す事ができない。


悩みながらも、必死に覚えている事を紙に書き出す。

そこでふと、『ずっとこの素敵な世界が続けばいい』と本に書いた事を思い出した。



『素敵な世界が続けばいい』



本当に? これが理由でループしているの??


だとしたら、素敵な世界は続いていない。

グモード王は殺害され、私も国を追われる事になるんだもの!!



──ああ!

もしかすると、幸せな結末を迎える為にループしているのかもしれないわ!


だって、私は未来を知っている!

グモード王が殺害されないように私が未来を変えればいいのよ!!


そう決意してから数年後、未来を知っている私は順調にグモード王子と結婚した。


ここからが本番!

王妃になった私が願った事は、何でも叶うのだから!!


以前よりも警護を増やし、警備体制も万全。

毎日24時間、グモード王に大勢の警護をつけ、監視をさせる。


極力、外へ出る業務も他の者へ任せるように手配した。


「カリーナ! 私の許可なく、勝手な事をしないでくれ!」


いつも優しいグモード王が珍しく声を荒げ、私を怒った。


「いいえ! 私に任せておけば大丈夫よ!! 今は分からなくても……いずれ、私に感謝する日が来るわ!!」


グモード王を想っているからこそ頑張っているのに……王は何も分かっていない!


私が王の為に何かすればするほど、グモード王の心が離れている気がする。

誰に対しても平等に優しく、どんな時も笑顔を絶やさない穏やかな性格の王だったはずなのに。


最近では、私に笑顔を向けてくれる事もなくなった。

グモード王と私のすれ違いの日々が続いていく。



十数年後、警護の一人に裏切られ、グモード王は暗殺された。

暗殺者は私がつけた警護だった。


王暗殺を企てた首謀者と濡れ衣を着せられ、私は極刑になった。




──3回目のループ


ハッと目が覚める。


今回はループしている事に気がついたのに助けられなかった。


何が悪かったのかしら?

どこで間違えたのかしら!?


私が書いた本は、王子と結婚して終わっている。

もしかして、続編を書けば不幸なループは終わるのではないかしら??


早速、藁にもすがる思いで結婚後の続編を執筆する。

まだグモード王子とは結婚していない。


結婚するまでに続編を完成させておけば、きっと大丈夫。

なんでこんな単純な事に気がつかなかったのだろう。


執筆の合間にグモード王子とお会いし、楽しく会話をする。

彼と過ごす3回目の日々の中、ふいに1つの疑問が頭に浮かぶ。


誰に対しても平等に優しく、どんな時も笑顔を絶やさない穏やかな性格。

……理想のグモード王子に会えた事で満足していたけど、何かが物足りない。


もちろん、婚約者という事で定期的には会ってくれる。

私が話せば、笑顔で返してくれる。


ただ思い返すと、当たり障りのない挨拶。

当たり障りのない会話。


私と婚約はしているけれど、グモード王子は……もしかして私の事が好きでは……ない?


しばらくして、私はグモード王子と結婚した。


多少気になる事はあるけれど、今度こそは大丈夫。

幸せな日々を送れるよう、本の続編だって完成している。

もう不安になる事は何一つない。



……と、思っていたのに。


十数年後、王となったグモード王は暗殺された。

今までは分からなかったが、今回のループでは上院の策略により暗殺された事が判明した。


そしてまた、私は王の暗殺に関わったという根も葉もない噂を立てられてしまい、この国を追われる身となった。




──4回目のループ


ハッと目が覚める。


現実を認識すると同時に、どんどんと気持ちが沈んでいく。

続編を書いたのに……未来は何も変わらなかった。


すでに転生しているから?

転生してから、続編を書いても効力がないのかもしれない。



……このまま、未来は変わらない?


私には何が正解か分からなくなっていた。


4回目のループ後、初めてグモード王子にお会いする日。

前のように胸が高鳴らない。


私はもうグモード王子の事が好きではないのかしら?

……そもそも、私はグモード王子のどこを好きだったのかしら??


そんな事を考えていたら、グモード王子がふいに尋ねてきた。


「カリーナ? どうしました?」


心配そうな表情で、グモード王子が私の顔を覗き込む。


「……申し訳ございません。少し考え事をしておりました」

「考え事?」


グモード王子と言葉を交わしつつ、ある考えが頭をよぎる。


もし、私が思い切ってすべてを話したとしたら、彼はどのような反応をするのかしら?


「──実は私、違う国の生まれなのです。本を執筆し書き終えた後、気づいたらこの国に来ていたのです」


グモード王子が不思議そうな顔で私を見つめている。


当たり前ね。

信じるはずもない。


「……申し訳ございません。冗談ですわ」


冗談で終わらせようとした私に、グモード王子が今まで見た事のないような笑顔を浮かべた。


「いや、冗談でも面白い話だ。続きを話してくれないか?」


長い間──4回もループして、その度にグモード王子を見てきたからこそ分かる。

初めて、グモード王子が私に興味を持ってくれた。


私はせきを切ったように“この国ではない記憶”、前の世界の話をグモード王子に話した。

グモード王子は私の話を興味深く、楽しそうに聞いてくれた。


その日以降、自然とグモード王子とお会いする回数が増えていった。

今まで話した事のない、お互いの話もたくさんした。


これまでのループでは有り得ないほどに、親密な関係を築く事ができた。


私は初めて、“グモード王子”に恋をしたのかもしれない。

もちろん、今までも彼の優しさに惹かれたりはしたけれど、それはあくまで“理想の王子様”に対してだった。


私は好きという気持ちを錯覚していたのかもしれない。

何より、グモード王子に愛されていると実感できたのも初めてだった。


間もなくして、私とグモード王子は間違いなく恋愛結婚をした。



──今度こそ、未来を変える!!


前回のループで、犯人は上院の誰かだという事は分かっている。

上院によって殺されてしまうなら、そうなる前に上院を変えよう!


だからといって、小さな変化では不十分な可能性がある。

どうせなら、もっと大きな変化を目指そう!


そう考え、グモード王に“格差をなくす改革”を提案する。

格差をなくして国を変えれば、良い方向に運命は変わるはず!!


グモード王は私の提案に賛同してくれた。


「今まで頭の片隅で考えた事はあったが、行動に移すまでには至らなかった。カリーナの後押しに勇気をもらった」


この日からグモード王と共に、国の改革へと乗り出した。

2年という月日を掛け、懸念点を取り除き、綿密に計画を練った。


「この国の未来をより良きものにする為ならば、独裁者と呼ばれる覚悟はできている」


心の底から、素晴らしい王だと思った。

私も愛するグモード王にどこまでもついて行こうと心に決めた。


国の改革は順調に進んだ。

だが、グモード王が死ぬ可能性がなくなったわけではない。


毎日が幸せであると同時に、不安な日々だった。


「今度は大丈夫。今度は大丈夫」


つい口癖のように呟いてしまう。

今思うと、私がその言葉を口にする度にグモード王は心配そうな表情を浮かべていた。


それから数年後、グモード王は改革に不満を持った人間に殺害された。



33歳の時だった。

初めてグモード王と想いが通じ合えたのに。


私の発した“国の改革”がきっかけで、最愛の人が殺されてしまった。


一体どうすればいいのだろう。

また、ループが発生するのを待つ……?


いいえ!

仮にループ出来たしても、“同じグモード王”に会えるとは限らない!!


それなら──禁断の魔法でグモード王を生き返らせればいい!!!


思えばこの時から、私の心は壊れていたのかもしれない。


けれど、その前に……やらなければならない事があるわ。

グモード王を殺した相手を探し出し、極刑に追い込まなければ!!


復讐を誓った矢先、1人の男が私に声を掛けてきた。



「王妃様の心中、お察し致します。私もグモード王に忠誠を誓った身。王を殺害した人物を絶対に許す事ができません!」



それが“ジーノ”──ジメスの父親だった。


お読みいただき、ありがとうございます。

次話、7/8(木)更新予定です。

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